2008年11月28日金曜日

遅々として進む、北朝鮮の核無能力化


※燃料プール内の使用済み燃料棒 写真はAPより転載

北の核無能力化で燃料棒の65%抜き取り 米のIAEA担当大使

27日に開会した国際原子力機関(IAEA)理事会で、米国のシュルテ
IAEA担当大使は北朝鮮の核施設無能力化に絡み、寧辺の黒鉛減速炉でこれ
までに5300本以上の使用済み燃料棒が抜き出されたことを明らかにした。
計8000本のうちの約65%に相当する。同大使はまた、無能力化に関する
十一の作業のうち、八つをすでに終了したと述べた。(共同)
(産経新聞 2008/11/28)

核燃料棒の6割抜き取り、北朝鮮が作業加速と米報道官

米国務省のマコーマック報道官は17日の記者会見で、北朝鮮が寧辺の実験用
黒鉛減速炉(5000キロワット)からの核燃料棒抜き取り作業を加速させて
おり、炉内に装填(そうてん)された8000本近い燃料棒のうち「すでに6
割が抜き取られた」と述べた。

報道官によると、黒鉛減速炉の封印や監視装置は元に戻され、無能力化の作業
段階は中断前より進んだ。他方、再処理や核燃料加工施設は中断前の状態に戻
っておらず、「なお回復作業が必要」という。

近く開催予定の6カ国協議の首席代表会合には、具体的日程への言及を避けな
がら、「特定の日取りが関係国の間で協議されている」と述べ、最終調整に入
っていることを示唆した。(共同)
(産経新聞 2008/10/18)

北朝鮮、14日から核施設の無能力化作業を再開
10/14 09:41更新
【ベルリン=黒沢潤】北朝鮮は14日、寧辺の核施設で無能力化作業を再開す
る。北朝鮮から作業再開の報告を受け、国際原子力機関(IAEA)が13日、
声明で明らかにした。

北朝鮮は8月、米国がテロ支援国家指定を解除しないことに反発し、無能力化
作業を中断していた。9月には、寧辺の再処理施設、また今月9日には、寧辺
の他の核施設へのIAEA要員の立ち入りも禁じていた。ただ、要員が引き続
き、寧辺付近に滞在することは許可していた。

外交筋によると、IAEA要員は13日、寧辺の再処理施設を含むすべての核
施設に立ち入ることが可能となったという。

無能力化作業の再開や、IAEA要員の立ち入り許可は、米国が11日に北朝
鮮のテロ支援国家指定を解除したことに伴う措置。

(産経新聞 2008/10/14)

北朝常套手段でさらに強硬姿勢に北朝鮮 核施設・封印解除

鮮による核燃料再処理施設の封印解除や監視カメラ撤去は、米国にテロ国
家指定解除の実現を迫る常套(じようとう)的な手法だが、北朝鮮が今後さら
に強硬な態度に出る可能性は極めて高い。

北朝鮮は段階を踏んで高姿勢になっている。8月26日に「10・3合意(無
能力化と核計画申告の見返りにテロ支援国家指定解除を約束)違反」を理由に
無能力化中断を宣言。9月上旬からは核施設に機材の搬入を開始。19日には
外務省報道官が「わが方はテロ支援国リストからの削除を望みもせず、期待せ
ずわが方なりに進む」と対米交渉中断を示唆している。

今後は、寧辺の再処理施設から追放された監視要員ら国際原子力機関(IAE
A)職員の国外追放や再処理施設の再稼働が予想される。

北朝鮮が「1週間以内に開始する」とIAEAに通告した「再処理施設での
核物質を使った作業」は、無能力化で現在、貯蔵プールに保管されている
約4000本の使用済み燃料棒の再利用の可能性が高い。北朝鮮は1986年
から2007年までに4回、原子炉を稼働させた。米朝枠組み合意(94年)
の時点で確認された未使用燃料棒1万6000本は03~07年の2回の原子
炉稼働で使用されており、未使用燃料棒は残っていない。

しかし、「94年以後、寧辺の燃料棒工場が赤サビだらけで、北朝鮮国内では
新しく生産できないことは米国の専門家などが確認済み」(恵谷治・早稲田大
学アジア研究所客員教授)で、実際の再稼働までには数カ月はかかるとみられ
る。(久保田るり子)

(産経新聞 2008/9/25)

一番上の記事を見ると、北朝鮮の核無力化が如何にも順調に進んで
いる様に見えます。しかしながら、これを一ヶ月前の記事と比べる
と、実は、進捗は遅々としたものに留まっている事が判ります。
抜き出した燃料棒は一ヶ月で僅か500本、一割の増加に過ぎないの
です。

下の記事から類推すると、8月末の核無力化停止時点で、4000本の
燃料棒が貯蔵プールに保管されていたとありますから、抜き取られ
た燃料棒は4000本以上になっていた筈です。北朝鮮は、核無力化停
止中に再装填を行うと宣言していましたが、どうも実際には再装填
は行っていなかった様に思われます。燃料棒工場は赤錆だらけ、貯
蔵プールには藻がわいているという状態では、再装填のしようもな
かったと思われます。

その様な事実を踏まえると、10/14に核無力作業の再開から10/17ま
でに6割(4800本)の抜き取りが完了したという記事の解釈は異なっ
てきます。四日間に4800本の抜き取りを行ったのではなく、実際に
は、作業再開後、精々、400本程度の僅かな本数を追加的に抜き取っ
たと考えるのが論理的であると考えられるのです。

この様に見ていくと、北朝鮮の核無力化作業は米国のIAEA担当
大使の発言に見るような着実な前進ではなく、作業が停止していな
い事だけを示す程度の僅かな進捗しかしていないと考えるべきだと
思われます。

では、何故、米国のIAEA担当大使が、まるで大きな前進をして
いるかの様な発言をしているのでしょうか。

その第一は、北朝鮮が如何にも進捗している様な報告を米国にして
いると考えられます。その理由は、北朝鮮の核無力化の前進を退任
の花道としたと考えているブッシュ政権の思惑に乗る事で、更なる
経済支援を得たいと考えていると思われます。
第二に北朝鮮は、来るべきオバマ政権に対し善意のアピールを行っ
ているとも言えます。ブッシュでもここまで出来たのだから、オバ
マとはもっと関係改善ができる、核無力化を完成できると言うメッ
セージですね。
第三は、開城工業団地へのアクセスを制限する等、緊張の度を加え
ている韓国や、追加経済制裁で関係が悪化している日本との関係で
外交上の優位に立つ為に、米国との関係を改善させている側面があ
ると言えます。

ただ、冒頭に示した通り、北朝鮮の書く無力化の推進状態は、冷静
に見れば、大きな前進とはとても言えない程度でしかありません。
時間がたてば、誰の目にも大した前進がない事が判る様になる筈で
す。
その意味で、北朝鮮は、小さな利益を交渉相手に与える事で自国の
利益を最大限に確保しようとする従来のサラミ外交を継続している
と思えるのです。

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