2010年3月12日金曜日

太平洋での潜水艦軍備競争:米国の海中での優位に対する中国の挑戦(2)




昨日の続きです。

海軍も「海中の脅威の再出現」に直面して、そのASW能力の有効性が減退して
いる点を認めており、将来、より先進的なセンサーや対潜兵器を開発するとい
う目標を決定している。また、米国太平洋艦隊は、すでに伝えられるところで
は対潜訓練を増やしている。これらは、主にして潜水艦と長距離海上哨戒機か
らなる対潜プラットホームの調達という目標と共に、持続していかねればなら
ない重要な努力である。

中国

冷戦の終了以降、中華人民共和国の人民解放軍海軍(PLAN)は、海軍、とり分け
その潜水艦隊の勢力を劇的に増強し、能力を格段に向上した。その潜水艦隊は
「今では、人民解放軍海軍で、最も力強い戦力と考えられている。」
米国国防総省によれば、中国は、アジアで最大の海軍力を保有しているが、攻
撃型潜水艦も60隻(原子力推進6隻、ディーゼル推進54隻)保有している。
デーゼル推進潜水艦の半分以上は、最新型のキロ級、宋級、元級である。ある
専門家は、中国は今やロシアよりも多くの潜水艦を保有しており、その建造速
度は、素晴らしいと述べている。

潜水艦隊の増強

中国は、その沿岸を超えて戦力を投射できる信頼性の高い大洋海軍を建設する
という目標を実現する為に着実に前進している。中国が潜水艦戦に真剣に取り
組んでいる事を把握するには、2002年から2004年に、中国海軍が13隻の潜水艦
を国内で進水させると同時に、前例のない規模でロシアに潜水艦を発注した事
を考えれば充分であろう。実際、中国は、1995年から2005年に31隻の新しい潜
水艦を就役させた。この急速な進化を受けて、近海用に有力で強力なディーゼ
ル潜水艦の配備する事に対する評価も当初の懐疑から尊敬に変わった。
複雑な技術開発に対する中国の可能性について、海外でも、深刻に受取られる
様になった。

中国の攻撃型潜水艦隊の将来規模の予測は、58隻から88隻と幅広く
別れている。この予測の違いは、中国がどれだけ早く老朽潜水艦を
退役させるか、また、どの位、高価な原子力潜水艦を配備するか、
更に、外国製の潜水艦をどの程度購入するかに関して意見が異なっ
ている事による。近年、中国は、国内で設計、建造された四種類の
潜水艦を導入した。それらは、晋級(Type094)SSBN、商級(Type093)
SSN、元級(Type041/039A)SSP、宋級(Type039/039G)SSKである。
商級の後継艦が開発中と伝えられている。この規模の潜水艦の開発
と建造への投資が継続されている事から見て、70隻という予測レン
ジの上の方の数字が、来るべき将来の中国潜水艦隊の構成と考える
べきだろう。

パトロールの増加

中国の攻撃型潜水艦隊は、パトロール率を2006年の2回から2007年には6回に、
更に、2008年には12回に増加させている。これは、訓練の新しい目標が定めら
れ、それは、関係諸国、とり分け米国に対し、中国が太平洋における海軍大国
である事を誇示したいという願望がある事を示している。最近の二つの事件が、
その傾向を強調している。2006年10月26日、宋級潜水艦が沖縄近海で行動中の
空母キティホークの5海里以内に浮上したが、これはエスコート陣形の内側で
あった。また、2009年6月11日、中国の潜水艦が、フィリッピン近海で曳航式
ソナーを展開していたイージス艦ジョン・S・マケインと衝突した。これらの
事実が米国海軍のASW能力の限界と中国潜水艦の能力を示しているかどうかは
別にして、最も有益な情報として分類されるべきものは、これらの事件は、中
国の潜水艦の活動範囲が過去のそれと比べ、明らかに広範囲に配備されており、
また、より攻撃的に運用されている事を示しているという事である。

目的

いくつかの考慮要素と目的を考えると、中国の急速な攻撃型潜水艦隊の増強を
理解しやすくなる。基礎的な中国の防衛ニーズは、中国-台湾関係に「干渉す
る」米国の能力を制限し、太平洋で米国の優位に挑戦し、中国の戦略ミサイル
原潜による核抑止力を保護して、より大きな国際的な威信を得ることである。

まず最初に、中国の富と人口は、その東海岸に集中しており、中国が、その海
岸に沿って強力な海軍抑止力を展開する説得力のある理由を与えている。

それとは異なり、多くの安全保障の専門家は、「中国が潜水艦隊を増強する主
たる目標は、米国が台湾の代りに介入する事を遅延、または阻止する事である」
と主張している。中国は、台湾の「反逆した行政区」によって、苦しめられて
おり、1949年以降、(中国の観点からは)両岸関係に干渉している米国によって
苦しめられている。

台湾海峡を挟む関係が特に緊張した1996年には、米国は台湾に対する中国の攻
撃を阻止するために、二つの空母戦闘団を派遣した。中国がそれ以来、将来に
おける台湾海峡をめぐる紛争において、米国の軍事介入を躊躇させたり、遅延
あるいは妨害する海洋利用拒否能力の開発に高い優先順位を与えた事は驚くに
当たらない。米国防総省は、「キロ級、商級、宋級、元級潜水艦の購入と開発
は、中国人民解放軍の海中戦と通じた海洋利用拒否を重視する姿勢を描き出し
ている」と結論づけている。

人民解放軍海軍は、かってのソ連海軍の戦略、それは、攻撃的能力を保有する
大洋を航行する原子力潜水艦を用いて、急速に(ソ連にとって)好ましからざる
地政学的状況を克服するという戦略を模倣しているとも言える。類似の戦略は、
中国本土を取り囲む列島線による封鎖を打ち破ろうとする人民解放軍海軍の目
的に合致している。

海南島の新しい海軍基地は、人民解放軍海軍に、死活的な国際シーレーンへの
直接的なアクセスを与え、南シナ海の深海に潜水艦を密かに展開する事を可能
にする事で、新たな検討ポイントを付け加える事になる。

核抑止力の一環として、中国は、最大5隻の晋級戦略ミサイル原潜(SSBN)を建
造するものと予想されており、おのおの、中国近海から発射して米国に到達可
能な潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)12基を装備していると見られている。
これにより、信頼のおける海洋配備の核抑止力が構成される。中国は、戦略ミ
サイル原潜の核抑止パトロールの護衛を攻撃型原潜に期待しているものと思わ
れる。

最後に、中国がグローバルな大国になる意図がある事は明白であり、原子力潜
水艦は、中国が大国の地位にある事の確認を世界に要求している事を示す顕著
な表れである事は、中国の常識と言える。また、強力な攻撃型潜水艦隊は、世
界をめぐる中国商船団を保護する上でも有用である。1993年のイン・ヒー事件
で、米国が化学兵器の原料をイランへ輸送していると疑われた中国の貨物船を
臨検すると譲らなかった時、中国の指導者に「いくら激怒しても、頼るものが
なければ無力だ」という事を再認識させた。

オーストラリア

オーストラリアは6隻のディーゼル電気推進潜水艦を保有しており、より広範
囲な海軍近代化計画の一環として、12隻の巡航ミサイルを装備した最新型通常
動力潜水艦に置き換える事を公表している。オーストラリア政府は、この増強
を中国の海軍力の増強と世界とりわけアジア太平洋地域で安定化の役割を担っ
ている米国の海軍力の優位の減退に対応したものと明白に表明している。

インド

地理的には、太平洋国家ではないものの、インドは、東南アジアと西太平洋に
影響範囲を拡大する事を試みている。インドは16隻のディーゼル推進の攻撃型
潜水艦を保有しており、最近、最初の攻撃型原潜を進水させたが、それは、ロ
シアのアクラ級を元にしたものである。インドは2隻目のアクラ級潜水艦をロ
シアからリースする予定があり、6隻のスコルピオ級ディーゼル潜水艦を建造
中である。インドの潜水艦戦力の増強と更新は、10年で、100隻の戦闘艦を増
強するというより大きな計画の一部である。インド国防省は、この計画につい
て、国家防衛の為の「戦略的必要性」と説明しているが、その多くは中国の海
軍建設に対抗したものと言える。「中国は素晴らしい勢いで海軍戦力を増強し
ている。そのインド洋に対する野心は明白である。」インド自身も大国になる
ことを切望している。そして、潜水艦は、列強の艦隊の肝要な部分とみなされ
ている。

ロシア

ロシアの潜水艦隊は、ソ連邦の崩壊以降、三分の二に縮小している。近年、ロ
シア海軍は、ソビエト後の危機から脱却したが、冷戦時代から残された数十隻
もの原潜を退役させる必要がある。2009年には、ロシアは17隻の攻撃型原潜と
20隻のディーゼル潜水艦を保有していたが、この内、5隻の攻撃型原潜と9隻の
ディーゼル潜水艦が太平洋艦隊に配備されていた。近年の国防予算の大規模な
拡大にも関わらず、「ロシア海軍は、資金不足に取りつかれており、作戦可能
な潜水艦を定期的にオーバホールする事とそれらを戦闘可能状態にするのがや
っとといった状況にある。」

日本

日本は、新しいそうりゅう型AIP潜水艦1隻を含む、最低16隻の最新の潜水艦隊
を維持している。日本は、歴史的に、潜水艦を16年の現役期間で更新してきた
が、それは、他国が潜水艦を退役させるペースに比べ非常に早いものだった。

韓国

韓国は12隻の攻撃型潜水艦を保有しており、2020年までに、潜水艦隊を27隻に
増強する計画がある。

北朝鮮

北朝鮮は、22隻の古い通常動力型潜水艦(この内、何隻が現役かは不明。) と
多くの小型潜水艦を保有している。これらの潜水艦は、理論的には、商船や、
洗練されていない水上艦艇に脅威を与える事できるが、北朝鮮の潜水艦は、海
域管制上、深刻な競争相手とは見なされていない。

台湾

台湾は2隻の攻撃型潜水艦を運用しており、潜水艦隊を増強し、更新する、国
内建造を含む様々な方法を探っている。2001年には、米国は台湾に、8隻の通
常動力潜水艦を含む武器パッケージ輸出を提案したが、米国は、最新の通常動
力潜水艦の設計に関する何らの権利を保有していない事から、この提案は、効
力を失ったものと見なされている。

東南アジア

中国とインドが原子力推進潜水艦を配備した文脈から、東南アジアの殆どの国
が、既存の潜水艦隊の増強の能力向上を図っている。インドネシアは、2隻の
潜水艦を保有しており、2024年までに12隻を建造する計画を発表している。
ベトナムは、6隻のキロ級潜水艦をロシアに発注している。シンガポールは最
近、2隻のアーチャー級AIP潜水艦で既存の4隻の潜水艦の内2隻を置き換えた。
2007年10月に、マレーシアは、フランス建造のスコルピオ級潜水艦1隻の引渡
しを受けた。2隻目は2010年に引渡される事になっている。タイは、現在、潜
水艦を保有していないが、何隻かを調達する事に関心を深めている。


次回は、中国の挑戦に対する米国の対応に関する提言と結論です。


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2010年3月11日木曜日

太平洋での潜水艦軍備競争:米国の海中での優位に対する中国の挑戦(1)


2月12日の以下のエントリー

潜水艦建艦競争が激化するアジア。惰眠を貪る日本?(2010/02/12)
http://ysaki777.iza.ne.jp/blog/entry/1457002/

で取り上げたヘリテージ財団のレポートですが、中国海軍に対する
米国海軍の動きについても、良く書かれているので抄訳する事にし
ました。原文は以下のURLで参照できます。
http://www.heritage.org/Research/NationalSecurity/bg2367.cfm

第一回は、総論と米国の動きについてで、次回は中国や他の諸国の
動きになります。

太平洋での潜水艦軍備競争:米国の海中での優位に対する中国の挑戦
by Mackenzie Eaglen and Jon Rodeback
The Heritage Foundation, February 2, 2010


要約

冷戦の終了以来、中国はその海軍、とりわけ潜水艦隊の拡張を図っており、
1995年以降、数十隻の攻撃型潜水艦を増勢した。同じ期間に、米国の攻撃型潜
水艦隊は、53隻に縮小し、2028年には、41隻に減勢するものと予想されている。
米国の艦隊は、既に、現在行われている作戦の需要で、余裕がなくなってきて
おり、オーストラリア、インド、その他太平洋諸国も、このバランスの移動を
認識して、自らの海軍の拡張、特に潜水艦隊の拡張に入っている。米国が艦隊
の減勢に終止符を打ち、反転させない限り、米国の太平洋における軍事的優位
は、弱まり続け、米国の利益と友好国や同盟国を支援する合衆国海軍のこの地
域での作戦実行能力は、非常に制約を受ける事になるだろう。

2009年4月、オーストラリアは、地域的な安全保障環境の変化、とり分け、太
平洋における米国の覇権の凋落と中国海軍の急速な発展に対応して、「第二次
大戦以降最大の軍備増強」を行う旨発表した。長い間、米国に最も忠実な同盟
国であり、友人であった国の一般向けの声明は、米国議会と米国の上級防衛担
当者に対し、目覚ましのベルと言えるものとなった。

中華人民共和国(PRC)は、地域的な海軍大国から世界的な大国へと急速に発展
してきており、「米国と中国、また、中国と日本の間で東アジアにおける安全
保障上の厳しい競争が生起する見通しが強まっている。」この地域の他の太平
洋諸国も、潜水艦の取得予定で明白に示されている様に、この安全保障環境の
変化に留意している。

オーストラリアの軍備増強は、潜水艦隊を現在の6隻から、より大型で、能力
の高い12隻へと増強するものであり、それに加え、「インド、マレーシア、
パキスタン、インドネシア、シンガポール、バングラデシュ、韓国も近代的な
通常動力潜水艦の取得を計画中」である。オーストラリアとインドは、その海
軍増強の少なくとも一部が中国の海軍建設に対する対抗処置である事をはっき
りと述べている。

これとは対照的に、米国の潜水艦隊は2028年まで縮小し続けると予測されてお
りこれによって、太平洋での事件に対する米国の影響力と形成力がさらに制限
される事になる。

米国の攻撃型潜水艦は海洋の支配と覇権の確立に重要な要素であり、他の軍事
資産と交換できるものではない。

その独特の能力は、軍事力に乗数効果をもたらすものであり、「体重を上回る
パンチ力」を可能とする。そして、東アジアと太平洋における米国の利益を保
護し、米国の盟邦を支え、安心させるために、米国は、太平洋で軍事バランス
を維持するより広範な政策の重要な構成要素として潜水艦隊の減勢を中止し増
強へと反転させなければならない。

水中のかくれんぼ

強力な武器システムとステルス能力の結合により、潜水艦には戦略的な抑止、
海洋管制と海洋利用拒否、戦場準備、監視と情報収集、特殊部隊上陸や陸上攻
撃を含む地上作戦に対する支援といった広範囲にわたる任務を成し遂げる特別
の適性がある。

ステルス能力は、効果的な水中活動の主要な成分である。それは、潜水艦が予
想外の方向から、突然の、破壊的な攻撃を行う事を可能とし、幽霊のように作
戦地域に出入する事を可能にしている。また、潜水艦は、発見された場合、攻
撃には脆弱である事から、ステルス能力は潜水艦の主要な防御能力でもある。

潜水艦は四種類に大きく分類される。これらは、ディーゼル電気推進攻撃型潜
水艦(SSとSSK)、原子力推進攻撃型潜水艦(SSN)、原子力推進巡航ミサイル潜水
艦(SSGN)と原子力推進弾道ミサイル潜水艦(SSBN)であり、主要な武装と推進シ
ステムによって区別される。

武装

攻撃型潜水艦の第一の任務は敵国の水上艦艇や潜水艦を発見し、撃沈する事で
海洋の支配力を確立する事である。最新の攻撃型潜水艦は、巡航ミサイルを発
射する事ができるが、これにより陸上攻撃能力が与えられた事になる。

SSGNは、海上覇権を確立する為の水上攻撃目標任務と陸上目標を攻撃する任務
の双方を行う事ができる巡航ミサイルを装備する。SSBNは、SLBM(潜水艦発射
弾道ミサイル)を発射する能力を持ち、米国とロシア、そして遠からず中国の
核抑止力を担っている。

推進機関

どの様な推進機関を保有するかで、航続距離、潜水維持能力、速度、敏捷性、
そして、危険な状況に探知されずに出入する静粛性と言った潜水艦の能力が大
まかに決定される。

多くの国は、ディーゼル電気推進潜水艦を配備している。このタイプの潜水艦
は水上ではディーゼルエンジンで推進され、水中では、電気バッテリーで航走
する。潜水中は、非常に静粛である。ロシアのキロ級潜水艦は、探知を避ける
能力の高さから「ブラックホール」と渾名された。しかしながら、この印象的
なステルス能力も航続距離と速度の制約と数日毎に潜望鏡深度あるいは水上で
バッテリーに充電する必要があるという犠牲によって齎(もたら)されたもので
ある。

いくつかの国は、非核、非大気依存(AIP)推進潜水艦(SSP)を実戦配備している。
その潜水艦は、ステルス性と速力は伝統的なディーゼル電気推進潜水艦と同様
ながら、一時に数週間潜水できる能力を持つ。この長期間潜水する能力は、明
白に、探知機会を減少させ、脆弱性を低下させる事になる。

原子力潜水艦の大きな長所は、そのほとんど無制限とも言える推進力である。
その推進力は、より高速の作戦速度と実質的に無制限の航続距離、及び数ヶ月
に及ぶ潜航能力を実現する。そしてその潜航能力は乗員用の糧食と貯蔵品、乗
員の持久力によってのみ決定される。
原子力潜水艦の大きな欠点は、原子炉がバッテリーパワーで動いている電気モ
ーターより本質的に騒音が高いということである。しかし、これは潜水艦の音
響特性を減少させる材料と設計によって軽減する事が出来る。
原子力潜水艦は、国際的な威信の源にもなっている。実際、国連安保理の常任
理事国五ヶ国以外には僅かな国を除き原子力潜水艦を保有していない。

対潜水艦戦

対潜水艦戦(ASW)とは、艦艇や航空機、潜水艦他を使用して敵国の潜水艦を探知、
追跡し、撃沈する戦闘である。潜水艦は、目標と同じ環境で運用される能力、
及び同程度の戦力と脆弱性を持つ事から、恐らく最高の対潜水艦戦用のプラッ
トフォームである。しかしながら、対潜ヘリコプターと哨戒機は、航続距離と
速度、及び獲物となる潜水艦からの脅威に対して、脆弱でないという有利さを
持つ。水上艦艇は、非常に能力の高い対潜プラットホームではあるが、潜水艦
からの攻撃に対してより影響されやすいと言える。

敵の潜水艦を破壊するか、少なくとも戦場から退場させる為には、まず、探知
する事が必要であり、通常はソナーによって行われる。アクティブソナーは、
第二次大戦時の映画で一般に良く描かれている様に、ピンによって探知目標
(通常は潜水艦)の正確な位置を知る事が出来る。しかし、同時に、それによっ
て、ソナー発振器の位置を露呈し、敵潜水艦に誰かが何かを探している事を警
告する事になってしまう。パッシブソナーは、潜水艦や他の艦艇の特徴的な音
響を音波や超音波を通じて「聞く」事に依存している。
最近のパッシブソナーは、艦艇に曳航されたソナーやソノブイ、その他水中セ
ンサーから得られた音響をフィルターに通したり、翻訳したりするのにコンピ
ュータを使用している。理想的には、パッシブセンサーは、ソナー探知により、
方位と位置とタイプを識別する事ができる。

航空機と衛星は、水面下すぐの処にいる潜水艦を探知する事ができる。また、
衛星は、水中の潜水艦を、水中航走時に水面上の発生する波のパターンによっ
て探知する事ができるが、これは他の要因、通常は荒れた海にによる「雑音」
によって制約を受ける。最新の対潜水艦戦は、高いスキルの専門家と広範囲の
訓練と先進の機器を要する挑戦的で高価な、非常な努力の賜物と言える。

太平洋の潜水艦隊

潜水艦隊とその配備は、冷戦の集結から劇的に変化した。1990年代を通じ、ロ
シアは、その潜水艦隊の殆どを実戦配備から退役させた。そして、米国も潜水
艦隊を着実に減勢した。米国の潜水艦が継続的に減勢している間に、中国は急
速に潜水艦隊を拡張し、更新した。軍事バランスの変化に対応して、他の太平
洋諸国も潜水艦隊を拡張し、近代化している。

米国

米国の攻撃型潜水艦は、1987年の102隻から2009年の53隻へと減少した。この
減少は、レーガン政権時代の600隻海軍(100隻原潜)計画以降、繰り返された海
軍構造改革計画の改訂によって齎された。ジョージ・H・W・ブッシュが唱え
た1991年計画では80隻となり、統合参謀本部1992年兵力研究では、目標を55隻
とされ、1997年の四ヵ年防衛レビュー(QDR)では、バーが更に下げられ、50隻
とされた。2001年のQDRでは、攻撃型原潜数は55隻に戻された。2006年のQDRで
は、2012年まで一年に建造する原潜の数を2隻に引き上げ、潜水艦隊の60%を
太平洋に配備する事で、この地域での米国の利益を保護する事としている。
海軍は、48隻の攻撃型原潜を含む313隻の艦隊を提案しているが、情報に通じ
た専門家は、この数値が米国のニーズに合致したものか疑問に感じている。

1999年の統合参謀本部(JCS)潜水艦戦力構造研究では、最適の攻撃型原潜数と
して、全ての軍事ニーズと情報収集ニーズを合わせると2015年で68隻、2025年
で76隻が必要と結論づけている。2015年で55隻、2025年で62隻の戦力では、安
全保障上、モデレートなリスクがあるとみなされた。しかしながら、現在の53
隻の攻撃型原潜は、2001年9月11日以前に所要とされたモデレートなリスクが
あるとみなされた水準すら下回っている。艦隊は、既に、過剰に展開されてお
り、海軍の長期的な調達計画ですら、攻撃型原潜の数は、2022年から2033年に
は、48隻以下となり、2028年から2029年には、41隻の底を打つこととなっている。

この予想される「潜水艦ギャップ」を軽減するため、海軍はヴァージニア級潜
水艦の建造時間を60ヵ月に短縮し、また、一部のロサンゼルス級潜水艦の耐用
年数を最高で2年間延長し、同様に配備日数を6ヵ月から7ヵ月延ばすことを検
討している。この計画の全てが上手くいけば、潜水艦隊の減勢は44隻~45隻で
底を打つ事となる。但し、この努力は、911以前に計画された、モデレートな
リスクシナリオに対応したものでしかない事には留意する必要がある。

怠られた対潜水艦戦能力整備

攻撃型原潜勢力の縮小は、効果的に水中の抑止力を維持する海軍の能力に挑戦
を強いると同時に、他のASWプラットホームの減少に示される海軍の対潜水艦
戦への努力にも陰を落としている。海軍は、173機の老朽化したP-3C哨戒機を
保有しているが、後継となるP-8Aは、2013年にならないと実戦配備される事は
ない。海軍は同様に、S-3Bバイキングを退役させているが、この機種は、空母
搭載の長距離対潜機としては唯一のものであり、更新は計画されていない。

これに加えて、「海軍はSOSUS-1950年代にソ連の潜水艦を探知する事を目標
に開発された戦域ベースの音響探知システム-の近代的な同等物を欠いている」
という指摘があるが、これは、ASW能力面での広範な弱点の象徴と言える。
冷戦中に配備された多くのシステムは、今日直面している脅威に対しては、限
られた有効性しか持っていない。例えば、冷戦期に設置された固定センサーは、
今世紀に紛争が発生しそうな場所には、設置されていない。さらにまた、より
多くの国が、米国の空母を脅かす事のできる先進の潜水艦を配備しており、米
国が介入する上でのコストをより高いものとしている。

海軍の戦力構造は、この進化する水中の脅威環境に適応したものでなければな
らない。2008年7月、劇的に変化した最近の脅威評価と海軍の戦闘能力に関連
する優先順位付けについて海軍高官が議会で証言した。バリー・マカルー中将
は、脅威環境に対する海軍の新しい認識を解説した。

急速に進化している伝統的あるいは、非対称的脅威は、戦闘指揮官
を増加する挑戦に晒している。国家レベルあるいは以前は限られた
脅威しか持たなかった非国家レベルの対象が、自身の沿岸域を超え
公海での潜水艦任務や、進歩した対艦巡航ミサイルや弾道ミサイル
を使用する能力を獲得しつつある。いくつかの歴史的に、地域的な
軍事的能力を備えているだけだった国が、海軍力を拡張し、グロー
バルな市場で競争する為、実行範囲と影響範囲を拡大している。
我々の海軍は、彼らが拡張する以上のペースで大洋での活動や能力
を拡張する必要がある。これには、海洋利用拒否戦略に対して公海
上での対潜水艦戦及び対弾道ミサイル戦能力の改善を継続する事を
必要とする。



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2010年3月10日水曜日

民主党政権に、非核三原則の厳格実施はできない?


佐藤元首相「核『持ち込ませず』は誤り、反省している」

日米の密約に関する調査で見つかった文書で、核兵器を「持たず、作らず、持
ち込ませず」という非核三原則を提唱した佐藤栄作氏が、その後「『持ち込ま
せず』は誤りであったと反省している」と悔やんでいたことが明らかになった。

この文書は、69年10月7日付の東郷文彦・外務省北米局長(当時)による
「首相に対する報告(沖縄関係)」。沖縄返還後の米国による核の再持ち込み
の可能性などを佐藤首相と議論した際の記録だ。このとき佐藤氏は「難しいこ
とが多いが、この苦労は首相になってみないと分からない」とも漏らしていた。

佐藤氏が最初に非核三原則を表明したのは67年12月の衆院予算委員会。翌
年1月27日の施政方針演説にも盛り込んだ。偶然にも、東郷氏が「持ち込み」
についての日米の理解のずれを記した「東郷メモ」を作成した日のことだった。
佐藤氏は2月5日にこのメモを閲読していた。佐藤氏は首相退陣後の74年
10月、三原則などが評価されて、ノーベル平和賞受賞が決まる。前月の「ラ
ロック証言」で、三原則への疑念が日本中を揺さぶる中での発表だった。

(朝日新聞 2010/03/10)

岡田外相、米に解釈たださず 核寄港「今後考えにくい」

岡田克也外相は密約の調査結果公表にあわせた朝日新聞のインタビューで、米
側との解釈のずれをただす必要はないとの考えを示し、その理由に米政府が水
上艦などへの核兵器の搭載を再開する可能性が考えにくいことを挙げた。

岡田氏は米政府の核政策について、「今は核の役割を低減しようというのが大
きな方向性なので、(水上艦からの核の撤去が)元に戻るということは非常に
考えにくい」と指摘。「それ以上に仮定の議論はすべきではない」とした。

政府はこれまで核搭載艦船の寄港の有無について、核の持ち込みに必要な「事
前協議」が行われていないことを理由に「ない」と説明してきた。だが、今回
の調査でこの立場が崩れたことになり、岡田氏は「なかったと考えたいと思う
が、証明する手だてはない」とした。

また、日本は米国の核の傘のもとにあるが、岡田氏は9日の記者会見で「核の
抑止力を肯定している」と言及。核兵器の存在を肯定も否定もしない米国の
「NCND政策」についても「米国の判断であり、理解している」と述べた。

(朝日新聞 2010/03/10)


もともと、非核三原則の内、「持ち込ませず」というのは、日本国
内に外国の核兵器を配備させないという意思を示したものです。
これに、核兵器の通過や一時保管も含める様な国会答弁をした事、
及び、それが実は、矛盾をはらんでいた事が、今回、「広義の密約」
とされた解釈が、日米間で暗黙に合意された背景にあります。

当時は、戦略核兵器とならんで戦術核兵器が大量に配備されていま
した。小さいものでは、大砲の弾にまで、核兵器が準備されていま
した。また、魚雷の頭部に装備する核弾頭や、潜水艦を攻撃する対
潜ロケットや対空ミサイルにも核弾頭が、配備されていました。

この様に、戦術核兵器が大量に配備されていた理由は、兵力的に西
側自由主義陣営が社会主義陣営に対し劣勢にあった事にあります。
その兵力の格差を核兵器という装備の質と技術によって埋めていた
事になります。

また、戦略思想としても、戦術核兵器であっても、その爆発規模が
通常兵器とは格段に異なる事から、一度使用すると容易に全面核戦
争を招くという認識が広まっていませんでした。その為、核兵器の
位置付けが単なる爆発規模の大きな弾頭という解釈で、幅広く核兵
器が配備されていました。これは、米国のみならず、ソ連について
も同様であり、特に、攻撃型潜水艦への核弾頭の搭載は、ソ連崩壊
まで、継続していました。

では、非核三原則の「持ち込ませず」のどこが矛盾をはらんでいる
のでしょうか?

冷戦下で、日本は被爆国として、非核三原則を振りかざしながら、
自らは手を汚す事なく、実際には、米国の核の傘で、守られている
という矛盾がありました。また、日米の同盟関係は、防衛に関して
は片務的といわれていましたが、アジア大陸での社会主義陣営の拡
大を抑制する自由主義陣営の不沈空母として、アジアに睨みを聞か
せる米軍の足場としての役割を果たす事が、求められていました。
その点で、米国が日本の防衛に抑止力を提供するという負担を行っ
たのと同様に、日本は、米軍の出撃拠点や補給拠点としての負担を
約束していた訳です。

現在では、米軍の艦船や航空機には、この種の戦術核兵器は搭載さ
れていませんし、オバマ政権は、保管中の核トマホーク用核弾頭の
廃棄を明言していますので、非核三原則との矛盾はありません。
しかし、冷戦当時は、米軍の艦艇と一部航空機は、核武装していた
事は確実でした。当時、もし、核搭載艦艇の寄港を日本が拒否して
いれば、出撃拠点、補給拠点としての、日本の価値や有効性は、大
きく損なわれていた筈です。しかも、当時の情勢を考えると、米国
の空母機動部隊を牽制したり、あるいは、米軍基地に戦術的奇襲を
行う為、日本の領海内にソ連の核兵器搭載艦艇が遊弋(ゆうよく)し
ていた可能性も非常に高かったと言えます。つまり、日本が「核を
持ち込ませず」を米国に対し厳格に適用していれば、同盟国には、
非核寄港あるいは通過を強要しながら、逆に敵国の核搭載通過は許
容するという、いびつな対応を余儀なくされる事になってしまい、
究極的には、日米安保体制を危うくするものになっていたに違いあ
りません。

国内の左翼陣営は、勿論、これらの事実を知りながら日米離反を狙
って、国民の核アレルギーを利用して非核三原則の"米国に対する"
厳格適用を狙っていた訳であり、そうする事で、社会主義陣営の利
益になるという認識であった事はいうまでもありません。

先程、記した様に、現在では、米国に関する限り、「持ち込ませず」
が、日米安保体制と矛盾する事はなくなりました。しかし、鳩山民
主党政権が、非核三原則の厳格適用を掲げるのであれば、矛盾は引
き続き残ります。それは、ロシアと中国の戦術核搭載艦艇をどの様
に取り扱うのかという点です。ロシアと中国にとっては、米国の艦
艇は、大きな軍事的脅威です。艦艇を含む通常兵器の質と量が、米
国に対抗できない両国にとって、それに対応する安価な対抗手段は
核兵器しかありません。日本の領海内には定期的に、ロシアと中国
の核搭載原潜が侵入している可能性が高いと考えるべきなのです。

2004年に、中国の漢級原子力潜水艦が我が国領海を侵犯するという
事件がありました。他国の領海を航行する潜水艦は、浮上して国旗
を掲揚する事で、無害航行が認められます。しかし、あの事件の様
に、潜行中の国籍不明の潜水艦が発見された場合は、強制浮上の上、
臨検する必要があります。実際には、日本は強制力のある行動を取
る事ができず潜水艦は自主的に領海から退去する形になりましたが、
あの艦に核兵器がなかった訳がないのです。日本は領海を侵犯され
た上、「非核三原則」を犯された事になります。

中国やロシアの原子力潜水艦が再び、日本の領海を侵犯した時、非
核三原則の厳格適用を主張する鳩山政権は、海上自衛隊に対し、潜
水艦の強制浮上と臨検を命令できるのでしょうか? もし、できな
いのであれば、米国に対してのみ非核三原則の厳格適用を行うのは、
ダブルスタンダードと言わざるを得ないのです。


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2010年3月9日火曜日

幻想から覚めた国民に民主党は何を見せる事ができるのか?


「内閣改造の発想ない」 支持率3割台突入で首相 打開策にも言及


鳩山由紀夫首相は8日朝、報道各社の世論調査で内閣支持率が3割台に下落し
たことについて、政治とカネの問題を念頭に「せっかく政権交代したのに民主
党らしさが見えず、前(の政権)と変わらないとの思いが国民の中に広がって
いる。批判を正面から受け止め、打開策を考えていく必要がある」と述べた。
政権浮揚のための内閣改造の可能については「今、内閣改造をするという発想
を持っているわけではない」と否定した。首相公邸前で記者団に答えた。

平野博文官房長官は同日午前の記者会見で「(平成22年度)予算が執行され
れば、政権に対する国民の理解も得られると確信している」と述べた上で、政
治とカネの問題については「党が企業・団体献金の禁止について今国会中に成
案を得るべく努力している。これが見えてくれば国民の理解は大きく得られる」
と語った。

(産経新聞 2010/03/08)


鳩山民主党政権の支持率が低下しています。発足直後には、70%以
上という圧倒的支持を誇った鳩山政権ですが、発足以降のほぼコン
スタントに支持率が低下し、今月始めの報道各社の世論調査でつい
に30%台に下落してしまいました。

上記の記事によれば、その原因と対策が「せっかく政権交代したの
に民主党らしさが見えず、前(の政権)と変わらないとの思いが国
民の中に広がっている。批判を正面から受け止め、打開策を考えて
いく必要がある」というのでは、支持率の下落理由が、良くわかっ
ていないのではという思いを深くします。

鳩山内閣の支持率が低下した原因は色々とあるとは思いますが、ま
ずは、鳩山首相自身の脱税問題に起因している事はいうまでもあり
ません。それを民主党らしさが見えていない事が原因と言うのは、
「からす」を「さぎ」と言う様なものでしょう。

それに加えて、民主党の陰のオーナー然として振舞っている幹事長
の小沢氏の存在があります。党内の権限を全て自分に集中した上、
党内に異論を許さない統制を引いている姿はグロテスクとしか言い
ようがありませんが、ご自身は、北朝鮮マンセーの日教組出身の輿
石氏を腰巾着にして結構幸せなご様子です。その内、誰かが「王様
は裸だ!」と言いそうですが、選挙にさえ勝てれば、そのまま行進
を続けていきそうな勢いです。党内民主主義さえろくに機能してい
ない民主党は、殆ど名前負け状態です。

勿論、小沢さんの政党助成金流用疑惑は国民全体を民主党に対する
疑惑の念を覚えさせていますが、禄な説明をしなかった小沢氏にと
って、その様な国民の思いは、子供手当てをばらまいて札束で横面
を張り倒せば、簡単に覆せる程度のものという認識なのでしょうか?
それでは、あまりに国民を馬鹿にしているとしか言えないのです。

一時は、人気を集めた「事業仕分け」で二番煎じも、用意している
様ですが、先の「事業仕分け」で民主党シンパの巡回人形劇団に、
満額の予算を付けた反面で科学振興予算に大鉈を振るった事で、日
本の将来を深く考えて仕分けを行ったのでは無い事が赤裸々になっ
てしまいました。至る所に無駄があるという選挙前の主張とは裏腹
に、実際の仕分けで出てきた資金は、予定の二十分の一という僅か
なものであり、それも技術立国日本の将来へ向かっての投資を削っ
て捻出したものでしかなかったのです。

もうこれでは、日本の将来をお先真っ暗にするのが、民主党としか
思えないというのが、政権発足後半年の民主党政権の総括ではない
でしょうか?この様な内閣は一日も早く退陣して欲しいものですが、
残念ながら、あと3年半は、この何とも無様な民主党内閣は継続し
ます。民主党の口車に乗った有権者の自民党へのお仕置きは、日本
国民全体に大きなツケを突きつけている様です。


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2010年3月8日月曜日

金星探査機「あかつき」、宇宙帆船「イカロス」打ち上げ日決まる


※上段CGが「イカロス」、下段が「あかつき」。JAXAWebサイトから転載

金星探査機「あかつき」5月18日打ち上げ

宇宙航空研究開発機構などは3日、日本初の金星探査機「あかつき」を搭載し
たH2Aロケット17号機を5月18日午前6時44分、鹿児島県南種子町の
種子島宇宙センターから打ち上げると発表した。

あかつきは、金星表面で吹き荒れる暴風などの謎を解明する狙いがある。ロケ
ットにはこのほか、太陽光を受けて進む宇宙帆船「イカロス」や大学で開発し
た衛星など5機も搭載される。

ロケットの打ち上げ可能期間として、地球―金星間の距離が最も短くなる同日
から6月3日までを設定しており、天候不順などで打ち上げが延びれば、次の
チャンスは1年後となる。

(読売新聞 2010/03/03)


日本初の金星探査機となる「あかつき」と、小型ソーラー電力セイ
ル実証機「IKAROS」が、5月18日に、種子島宇宙センターから、
H-IIA17号機で打ち上げられる事になりました。

金星探査機「あかつき」(PLANET-C)は、失敗した火星探査機「のぞ
み」(PLANET-B)に続く、日本で二番目の惑星探査機で、金星大気の
観測を行う事を目的としています。
(ちなみに、PLANET-Aはハレー彗星探査機「すいせい」であり、小
惑星探査機「はやぶさ」は、MUSES-Cという工学実験探査機です。)

金星は、地球のお隣の惑星で、大きさや重力が地球とほぼ同じであ
るにも関わらず、高温高圧の二酸化炭素の大気に包まれ、硫酸の雲
が浮かぶ、地球とはまったく異なる環境です。地球と金星の環境が
これほど異なった原因を調べるのが「あかつき」の目的であり、そ
の現象と原因が解明される事で、地球環境を人類は、更に詳しく理
解できる事になります。

計画では、「あかつき」は打ち上げられてから、約半年かけて金星
の軌道に到達する予定です。

「あかつき」と同時に打ち上げられる「イカロス」ですが、これは、
「あかつき」とは全く異なり宇宙帆船の先駆けとも言える実験機で
す。小型ソーラー電力セイル探査機は、ソーラーセイル(太陽帆)で、
超薄膜の帆を広げ太陽光圧を受けて進む宇宙船で、今までは、SF
小説の中でしかお目にかかる事が出来ませんでした。ソーラーセイ
ルは欧米でもミッションを検討中ですがまだ実現されていません。
「イカロス」は、光圧を受け止めるソーラーセイルに、同じく超薄
膜の太陽電池を装備し、この電力を用いて高性能のイオンエンジン
を駆動することで、ハイブリッド推進を実現すると言う全く新しい
コンセプトの宇宙機の先駆けと言えます。

今回打ち上げられる「イカロス」は、展開前こそ、直径1.6m、
高さ1m、重量315キロの小型探査機ですが、薄膜を展開すると
一辺20m四方という大きさになります。この正方形の帆の展開と、
薄膜太陽電池による発電の実現、更に、ソーラーセイルによる加速・
減速と膜面の方向を調整する事により、機動を制御する処までを実
証しますが、これらはいずれも世界初か、あるいは世界最先端の技
術実証になります。(残念ながらイオンエンジンは搭載されていま
せん。)

今回の打ち上げでは、「あかつき」「イカロス」の他にも、早稲田
大学、鹿児島大学、創価大学、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)
が各々製作した小型相乗り衛星も同時に打ち上げられます。この内、
早稲田大学、鹿児島大学、創価大学の小型衛星は、地球周回軌道に
投入されますが、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)の小型衛星
は、金星へ向かう軌道に投入されます。宇宙機関以外が製作した衛
星が月(38万km)を超えて金星を目指すこと自体、「世界初」の試み
となります。内容面でも金星へ向かう軌道の中で、UNISEC加盟の各
大学が製作した宇宙用コンピュータの内、「誰が最後まで生き残る
か」を競うという興味深いものです。

H-IIA17号機は、これらの非常に興味深いペイロードを打ち上げる
事になります。最近のH-IIAの打ち上げが非常に安定してきている
とはいうものの、米国でも、ロシアでも、中国でも、欧州でも、
何十回成功した後の打ち上げに失敗する事があるというのが、
ロケット打ち上げの宿命と言えます。それだけに、今回の打ち上げ
が無事に成功する事を心より祈りたいと思います。


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