2010年6月18日金曜日

戦闘機供与拒否で、中国は、北朝鮮への影響力強化を図る?

※写真はF-15K。Jetpics.comから転載

金総書記が中国に戦闘機供与を要請、拒否される 韓国紙報道

17日付の韓国紙、朝鮮日報は、北朝鮮の金正日総書記が5月に訪中した際、
中国の胡錦濤国家主席に最新鋭戦闘機の無償供与など軍事支援を公式に要請し、
拒否されたと報じた。北朝鮮内の消息筋が明らかにした。

消息筋によれば、中国側は、北朝鮮が攻撃された場合、十分に防御、支援する
ので北朝鮮があえて最新の兵器を保有する必要はないと説得したという。

朝鮮日報は、北朝鮮を脱出した元幹部の言葉を引用しながら、金総書記が哨戒
艦撃沈事件以降、米韓の軍事的攻撃の可能性に相当な危機感を持ち、韓国の
F15、F16戦闘機を防げる中国の最新鋭戦闘機を求めたと分析している。

(産経新聞 2010/06/17)


現在、韓国は最先端の戦闘攻撃機であるF-15Kの導入を推進し
ています。戦闘攻撃機と言いますが、実際には戦術爆撃機であると
言って良いでしょう。戦場で陸軍の攻撃を直接、間接に支援する役
割を持っています。元々F-15は制空戦闘機として開発されまし
たが、その優れた機体性能を利用して、空対空戦闘以外の兵器搭載
能力を強化し戦闘攻撃機とする為の大改造が行われました。その結
果、機体にぴったりとフィットした増加燃料タンクと機外兵装搭載
用パイロンを持つコンフォーマルタンクが増設され、エンジン推力
の増強やレーダーとFCSの機能が強化されたF-15Eが開発さ
れました。その最新型が韓国が導入中のF-15Kという訳です。
既に40機近くが配備されており、更に20機が追加導入される予
定となっています。

韓国は、北朝鮮に対する陸軍での量的劣勢に対し全般的な質的優位
と航空優勢によって対抗していますが、このF-15Kの導入によ
って、戦場での制空権を完全に韓国に奪われてしまうと北朝鮮が懸
念する事は理解できない事ではありません。その点で、金正日が、
中国に最新鋭戦闘機の無償供与を要請したという報道は理解できる
のです。しかしながら、中国もしたたかです。単純な軍事援助では、
一見、供与兵器の部品供給ルートを押さえたと思っていても、北朝
鮮が、イラン、シリアと言った「悪の枢軸」を経由し旧ソ連製兵器
用部品の闇供給ルートを通じて代替部品を取得する可能性も考慮し
たと考えられます。

そして、最新戦闘機を供与する替わりに、中国の戦闘機による抑止
力の傘を提供するという訳です。この場合、抑止力の信頼性は、北
朝鮮の中国に対する態度によって担保される事になります。つまり、
北朝鮮が中国のより強い影響下に入ると考えられるのです。

勿論、北朝鮮は韓国と比べ、量的優勢を確保しているというものの
質的側面では軍事面の全てで老朽化が目立っており、制空能力面で
の劣勢は、その一つに過ぎません。また、北朝鮮は、独自の核開発
を行う事で核抑止という最高レベルの抑止戦略で中国からの離脱を
現在も図っている処です。今回「北朝鮮が攻撃された場合、十分に
防御、支援するので北朝鮮があえて最新の兵器を保有する必要はな
い」と中国が主張したというのが事実であれば、このロジックは核
抑止に関するものと同じであり、中国の北朝鮮に対する嫌がらせと
も言えなくもありません。

そういう面では、北朝鮮への中国の影響力を強化すると言う中国の
施策は、直線的に実現に向かっている訳ではありませんが、北朝鮮
が、軍事の全ての分野で時代に取り残されつつあるのもまた事実で
す。その事実を活用しながら、長期的に目的を達成する事を中国が
考えている様に思われるのです。


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2010年6月17日木曜日

「イカロス」宇宙空間で初の自分撮りを公開

※写真はJAXA Webサイトから転載

宇宙ヨット「イカロス」の写真を公開 JAXA

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は16日、太陽光の微弱な圧力を受けて飛
行する世界初の宇宙ヨット「イカロス」が大きな帆を広げて飛行する写真を公
開した。宇宙空間で探査機自身の姿が撮影されるのは珍しい。

写真は14日、地球から約1000万キロ離れた金星方面への軌道上で、イカ
ロスから分離された小型カメラが撮影。中心にある円形の本体から一辺約14
メートルの帆が広がり、太陽光を受けて闇の中を飛行する様子がわかる。

イカロスは太陽光の圧力を利用した加速や軌道制御、帆に張り付けた薄型太陽
電池の発電などを行う小型ソーラー電力セイル実証機。10日に展開し終えた
樹脂製の帆は厚さが髪の毛の太さの10分の1程度で、飛行経過は順調という。

イカロスは5月21日、JAXA種子島宇宙センター(鹿児島県)から国産大
型ロケット「H2A」17号機で日本初の金星探査機「あかつき」と一緒に打
ち上げられた。

(産経新聞 2010/06/16)

実は、宇宙空間で自分の姿を撮影したのは、イカロスが始めてでは
ありません。新型ロケットの発射時の様に、問題が起こりそうな処
にテレビカメラを設置し、映像をテレメトリーで地上に送る事など
はごく普通に行われています。イカロス以前のソーラーセイル展開
実験などは、そういう形で実験の結果の写真を得ています。

また、子探査機が撮影した映像の中に探査機の一部が写っていた事
もあります。小惑星探査機「はやぶさ」が、子探査機ミネルバを放
出した際にミネルバが取った写真の中に「はやぶさ」の太陽電池パ
ネルが写っていたのが、この例であると思います。

広義の自分撮りとしては、「タイ・ファイター」(映画スターウォ
ーズでダースベイダーの搭乗した宇宙戦闘機機)そっくりと有名に
なった、小惑星イトカワに写った「はやぶさ」の影の写真なども上
げられると思います。

偶然写った自分撮りを別にすれば、明確な目的なしに、探査機が自
分撮りを行う事はありません。宇宙空間で自分を撮影するには、今
回の撮影でも判る様に、自分撮り用の仕掛けが必要になります。

今回はその仕組みを非常に安価に実現している様に見受けられます
が、自分撮り用の仕組みは、一般的には写真撮影用の子探査機と同
じ様な扱いになりますので、その自由度や自律性によっては結構な
コストがかかる事になります。「はやぶさ」の子探査機ミネルバも、
当初は、JPL(ジェット推進研究所)でローバーを提供するという話
があったのですが、その開発費用が「はやぶさ」本体に等しくなり
(百億円以上!)、結局取りやめとなった話が残っています。
その代わりに日本側が開発したら、極めて安上がりに仕上がったと
いうオチが付いています。

一般の探査機が自分撮りをしないのは、将に、そういう必要がない
からという事がその理由になります。予算やスペースに制約のある
探査機には無駄な事をする余裕はありません。今回の「イカロス」
についても、ソーラー電力セイル実証衛星として、ミニマムサクセ
スの一項目に大型薄膜の展開、展張があるほどソーラーセールの展
開が重要であり、その達成を検証する事が重要度が高い事から、自
分撮りの仕組みも整えられたという訳です。

それにしても、イカロスから送信された自分撮りの写真の効果は圧
倒的です。今まで発表された写真では類推するしかなかった、ソー
ラー電力セイルの展開状態が一目瞭然に分かります。分離カメラは、
その目的を100%達成したと言えるでしょう。これから、建造される
ソーラー電力セイル実用機や複雑な仕組みのアンテナ展開が必要と
なる衛星には、この様な自分撮り用の分離カメラの様な仕組みは必
須のアイテムになりそうです。


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2010年6月16日水曜日

随分安っぽくなった「ソウルを火の海に」という恫喝


「ソウルを火の海に」 北朝鮮、16年ぶり脅迫 「心理戦の拡声器設置は宣戦布告」

北朝鮮軍総参謀部(李英鎬〈リ・ヨンホ〉総参謀長)は12日、「重大布告」を
通じ、韓国側が対北宣伝放送用の拡声器を設置したことについて、「警告通り、
反共和国心理戦の手段を清算するための全面的な軍事的打撃行動に突入するこ
とになる。われわれの軍事的打撃は比例的原則による1対1の対応ではなく、ソ
ウルを火の海にすることまで見越した無慈悲な軍事的打撃である点を肝に銘じ
ておく必要がある」と主張した。北朝鮮当局が「ソウルを火の海にする」と脅
迫するのは、1994年の第8回南北実務接触以来16年ぶりのことだ。総参謀部は
韓国軍に送った布告で、「心理戦は戦争遂行の基本作戦形式の一つであるとい
う点から、反共和国心理戦手段の設置は、われわれに対する直接的な宣戦布告
だ」と表現した。

これに対し、韓国合同参謀本部は「北朝鮮軍の異常な動向はとらえられていな
い。北朝鮮が挑発した場合、その倍以上に懲らしめる準備態勢が整っている」
と話した。

(朝鮮日報 2010/06/14)


「ソウルを火の海に」という北朝鮮の恫喝も随分と軽いものになっ
たものだという感慨を覚えます。普通は相手国の首都を火の海にす
るというのは最大限の威嚇の表現でしょう。そういう表現は安易に
用いては、安っぽくなってしまいます。伝家の宝刀は、なかなか抜
かないからこそ価値があるのです。

今回、北朝鮮総参謀部が伝家の宝刀を抜いて止めさせようとしてい
る韓国の行為とは、たかだか対北宣伝放送用の拡声器を数十箇所に
設置するというものでしかありません。拡声器を設置すれば、戦争
するぞというのは、相手を呆れさせる事はあっても、本気に取らせ
ることは、なかなか困難です。

北朝鮮は、本気である事を説明する必要があります。それが、「心
理戦は戦争遂行の基本作戦形式の一つであるという点から、反共和
国心理戦手段の設置は、われわれに対する直接的な宣戦布告だ」と
いうのでは話になりません。もし、そういうロジックが成立するの
であれば、現在は総力戦の時代なのですから平和的な経済建設競争
ですら、「経済建設は戦争遂行の基本作戦形式の一つである」とい
う事になってしまいます。

北朝鮮がもし、拡声器の設置に対し、ソウルを火の海にする事で本
当に答えた時、それを北朝鮮にとって十分な理由であると理解して
くれるのは「悪の枢軸」仲間しかないに違いありません。その他の
国にとっては顰蹙ものの行為というのが一般的な受け止め方になる
に違いないのです。

今回の件で明らかな事は、北朝鮮が、如何なる情報であれ、自国に
不利な情報を自国民に宣伝されるのは避けたいと思っている事です。
それは、強さを示すものでなく、明らかに北朝鮮の弱さを示すもの
に他なりません。そう考えれば、居丈高な北朝鮮軍人の恫喝も、極
貧国の寡婦の悲鳴に聞こえてくるのです。北朝鮮も随分、落ちぶれ
たものだと言わざるを得ないのです。


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2010年6月15日火曜日

素直に喜びたいが....。都合が良すぎる日本の勝利

※写真は、yahooサイト(スポニチアネックス)からの転載

日本、海外W杯で初勝利=堅守で逃げ切る-カメルーンに1-0

サッカーの第19回ワールドカップ(W杯)南アフリカ大会で、1次リーグE
組の日本は14日、当地のフリーステート競技場でカメルーンと戦い、1-0
で勝った。日本は海外開催のW杯初勝利。4度目の出場で、1次リーグの初戦
で勝ったのも初めて。1998年フランス大会で指揮を執った岡田武史監督に
とってもW杯初白星となった。
日本は本田圭佑(CSKAモスクワ)を1トップに置く布陣で臨み、前半39
分にMF松井大輔(グルノーブル)のクロスを本田が決めた。追加点はなかっ
たが、堅守で逃げ切った。日本は19日にオランダ、24日にはデンマークと
対戦する。
同じE組のオランダはデンマークを2-0で下して白星スタート。連覇を狙う
F組のイタリアはパラグアイと1-1で引き分けた。

(時事通信 2010/06/15)


カメルーン戦勝利おめでとうございます。既にどのマスコミでも取
り上げられていますが、今回の勝利で、日本は、ワールドカップへ
参加して以来始めて、外国での大会で、勝利を得る事が出来ました。
これで日本も本当の一人前、本当にそう信じたい処です。

思えば、この数ヶ月の日本代表チームの戦績はとても、希望の持て
る状態ではありませんでした。前回ドイツ大会での惨敗の後、日本
代表チームの建て直しを任されたオシム監督は病に倒れ、その後を
継いだ岡田監督については、アジア地区予選は勝ち抜けたものの、
とても、世界水準の代表チームの監督とは言えず、最早、交代のタ
イミングを逸したので、敗戦処理をやらせるとまでマスコミに書か
れる程の酷評ぶりでした。

それが蓋を開けると、緒戦で、日本にアウェーでの初勝利を呼び込
んだのですから、驚いてしまいます。
思えば、Jリーグの発足以来、今回程、国民から期待されなかった
代表チームもありませんでした。そして、それが逆に危機バネとな
り、代表チームを結束させ、試合でも日本が少ないチャンスを生か
し、鉄壁の守りでカメルーン攻撃を凌ぎ切る事に繋がったと紙面を
埋めるスポーツマスコミやサッカー評論家も多いと思います。

私もそういう評価を、素直に信じたいと思います。でも、試合の内
容から見ると余りにも日本がラッキーであるとしか言い様がないの
も事実です。

直前のFIFAランキングで、カメルーンは、19位、日本は45位でした。
試合でのボール支配率は日本が44%に対し、カメルーンは56%でした。
これは、日本が前半で得た得点を守る為に後半は守備に徹したから
と言えなくもありません。同じくシュートの数は、日本が5本に対
し、カメルーンは11本と二倍以上でした。そして、コーナーキック
は日本が0に対して、カメルーンは3回でした。カメルーンは攻撃
面で日本を圧倒し、再三セットプレーのチャンスを得たにも関わら
ず得点できなかったのが見て取れます。

何故でしょうか。それは波状攻撃をかけている最中にファウルを取
られ攻撃が細切れになったからです。それは審判が相手側のファイ
ルをとった数である直接フリーキックの数をみれば判ります。日本
が29本を得たのに対し、カメルーンは20本を得たに過ぎません。
カメルーンは日本に比べ5割増しのファウルを取られた事になりま
す。しかし、試合を見た印象では、カメルーンの選手が日本選手に
比べ、格別にラフプレーをしていたという印象はありません。解説
者が、日本選手は上手く審判にアピールしていたとすら言っていた
程です。

では、何故、審判は、日本に有利な笛を吹いたのでしょうか?日本
のサッカー協会が審判を買収する事はありません。それ程、勝利に
対する執着があれば、ワールドカップ前にここまで盛り下がる事は
なかったに違いありません。私は、日本に有利な笛があったのであ
れば、その指示は、FIFAから出ていると思います。

FIFAは、元々、世界的なプロサッカー普及の為の組織であり、公明
正大な正義の組織であるとは考えられません。その活動原理は、商
業主義そのものです。FIFAにとって、今や、急拡大しているアジア
マーケットを如何に活性化させるかは、彼らの世界的なビジネス拡
大にも大きな影響を与えます。今回のワールドカップで一言でアジ
アの躍進と表現されていますが、韓国-ギリシア戦でも、事前の予
想を覆して、ランキング47位の韓国が、ランキング15位のギリシア
や破っています。それはランキング45位が、ランキング19位を破っ
た日本-カメルーン戦と好一対であると言えます。

ちなみに、アジアの躍進の結果破れた、ギリシアとカメルーンはFIFA
にとって日本や韓国程重要な市場ではないのは誰しも認める処でし
ょう。なお、北朝鮮は、トリックスターであって、勝った処でFIFA
のマーケット拡大には役立つ事はありません。ですから、実力通り
の勝敗がつく事になります。

その一方で、アジアの躍進がこれから、どこまで続くかには、疑問
が残ります。あまりに安易に決勝リーグへ進ませる事は、次回のワ
ールドカップでより以上の成績を残す期待が失望に終われば市場の
継続的な拡大には逆効果になります。

サッカー市場を持続的に成長させたければ、ワールドカップ毎に戦
績が少しづつ上がっていく事が望ましいと言えます。特に、日本に
関して言えば、今回のアウェーでの初勝利で、ここ数年落ち込んで
いた日本市場でのサッカーの活性化には、十分な効果が期待できま
す。そう考えると、以降の試合では、日本に有利な笛は必要がない
という事になります。将に実力通りの容赦のない試合結果が出てく
る筈です。実際、実力から言えばドイツ対オーストラリアの4対0
のスコアが、オランダ対日本の成績であっても全くおかしくありま
せん。今回のワールドカップへの日本代表チームの本当の挑戦は、
これから始まると言った方が良い様に思えるのです。


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2010年6月14日月曜日

7年60億キロ宇宙の旅終わる。世界初の惑星間サンプルリターン成功!


※写真と図は、読売新聞サイトから転載

「はやぶさ」大気圏突入、60億キロの旅帰還

宇宙航空研究開発機構の小惑星探査機「はやぶさ」が13日夜、7年に及ぶ旅
を終え、地球に帰還した。

飛行した距離は、地球―太陽間の40倍にあたる60億キロ・メートルで、満
身創痍(そうい)の奇跡の帰還だった。機体は大気圏突入で燃え尽きたが、突入
前に分離した耐熱カプセルは、ウーメラ(南オーストラリア州)付近に着地し
た。宇宙機構は今後、カプセルを日本に運び、内部の確認を行う。はやぶさは
月以外の天体に着陸して帰還した人類初の探査機となった。

カプセル内には、小惑星の砂が入っている可能性がある。小惑星の砂や石は、
ぎゅっと固まる過程を経た惑星の岩石と違い、太陽系の初期の状態をとどめて
いるとみられる。米アポロ計画で採取した月の石などに続く、貴重な試料とし
て、世界の研究者の期待を集めている。

はやぶさは、2003年5月に地球を出発。05年11月に地球から3億キロ
・メートル離れた小惑星「イトカワ」に着陸し、砂などの採取を試みた。小惑
星に軟着陸したのは、史上初だった。

しかし、離陸後に燃料漏れで制御不能になり、通信も完全に途絶した。奇跡的
に復旧し、07年に地球への帰路についたが、帰還は3年遅れとなり、劣化の
激しい電池やエンジンでぎりぎりの運用が続いてきた。

はやぶさは13日午後8時21分(日本時間午後7時51分)、インドの上空
7万4000キロ・メートルでカプセルを分離した。同11時21分(同10
時51分)ごろ、まずカプセル、続いて本体がオーストラリア上空で大気圏に
突入し、夜空に光跡を描いて落下した。

本体は大気との摩擦で燃え尽きたが、カプセルは底面が断熱材で覆われており、
パラシュートを開いて減速した模様。位置を知らせる電波を発信しながら降下
して、同11時37~38分(同11時7~8分)ごろ、ウーメラ付近に着地
した。

宇宙機構は、着地点をヘリコプターから確認した。14日にもカプセルを回収
する。今後、日本へ空輸し、専用施設で慎重に中身を調べる。

イトカワで試みた砂の採取は、装置が正常に作動しなかった。しかし、着陸の
際に舞い上がった砂煙が、カプセル内に入った可能性があると期待される。

はやぶさは、新技術のイオンエンジンを搭載した。のべ4万時間稼働して、小
惑星へ往復する長距離の航行を完遂。日本の宇宙技術の高さを世界に示した。

(読売新聞 2010/06/14)


一つの旅が終わったという感じのする「はやぶさ」の帰還でした。
インターネットでの現場中継をご覧になった方も多かったのではな
いかと思いますが、私には、先端の帰還カプセルの後ろで、燃え尽
きていく「はやぶさ」本体の姿が、カプセルを守って自らを犠牲に
する姿の様に見えてなりませんでした。

勿論、実際には違います。化学燃料に十分な余裕があれば、「はや
ぶさ」本体の軌道を変更する事も考えられたのです。しかし、度重
なる事故や故障で全ての化学燃料を失っていた「はやぶさ」には、
その余裕は残っていなかったというのが、本当の処です。

今回の「はやぶさ」の旅は、工学実験機として「はやぶさ」が抱え
ていた潜在的なリスクから来る度重なる故障や事故を、奇跡的とも
言える技術者達の粘りと努力で克服した点が素晴らしかったのです
が、「はやぶさ」の残してくれた技術も、また大きいと言えます。

例えば、月以外の他の天体に離着陸してのサンプルリターンは世界
初の試みです。月からのサンプルリターンは、米国と旧ソ連が達成
しています。また、月以外からのサンプルリターンは、米国がジェ
ネシス探査機(太陽風粒子の採取)とスターダスト探査機(彗星コマ
の粒子採取)で達成していますが、この両者共に宇宙空間に漂う粒
子を採取しただけで他天体への離着陸は行っていません。

これは、地球との間で三億キロという気の遠くなる様な距離から来
る障壁があるからです。三億キロ離れた探査機と地球との電波のや
り取りには、光のスピードでも、30分以上の時間がかかります。
つまり、ある出来事に対応する為に、人間が一つ一つの判断をする
事ができず、探査機にはロボットの様な自律性を持たせる必要があ
るということです。

過去の欧米の探査機では、この様な自律性を持った探査機は、非常
に高価で大型のものになる事が多かったのです。今回の「はやぶさ」
の成功は、「はやぶさ」が高度の自律性と複雑な機構を持つ割には、
非常に安価で且つ小型に仕上げっている事が大きく関わっています。

現在、米国はスペースシャトルに続く計画として地球近傍天体や火
星軌道に人類を送り込む計画を数兆円の予算で計画していますが、
有人と無人の差は大きいとは言え、実際に人間が行ってやる事は、
主として、写真を撮ることとサンプルの採取です。「はやぶさ」の
成功は、それとほぼ同等の事を無人の探査機で行える点を示した事
にあると言えます。

火星軌道とほぼ同じ軌道を描く小惑星イトカワへ離着陸する事と火
星の衛星フォボスやダイモスに離着陸する事とは、それほど大きな
違いはありません。イトカワでサンプルリターンができたのであれ
ば、フォボスやダイモスからもサンプルリターンは可能と言う事に
なります。

平たく言えば、米国が有人で数兆円をかけてやろうとしている事と
ほぼ同じ事を日本は数百億円(はやぶさの予算は210億円でした)
の予算で無人ロボット探査機を使ってやってのける事ができるとい
う事なのです。

民間人工衛星打ち上げサービスや国際宇宙ステーションへの輸送業
務の委託など、2000年代の宇宙計画の大きなのテーマ一つは、宇宙
開発の低価格化である事は疑い様のない事実です。「はやぶさ」の
後継機は、政権交代を受けた予算削減で製造に着手できていません
が、世界的な宇宙開発競争の中で、日本は得意芸である低価格高品
質の自律性のある無人ロボット探査機に力を傾ける事で、「はやぶ
さ」の様な、輝かしい成果を上げ続ける事ができる様に思われるの
です。


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