日本から護衛艦派遣 ソマリア沖 麻生首相、対応明言
政府は25日、海上警備行動発令によるアフリカ・ソマリア沖での海賊対策に
ついて、日本から新たに護衛艦を派遣する方針を固めた。インド洋に派遣され
ている海上自衛隊の護衛艦を活用すると補給活動に支障が出る可能性があり、
海賊対策に特化した派遣の方が、より実体的な任務が行えると判断した。ただ、
派遣準備に十分な時間が取れないなどの問題もあり調整を急ぐ。
麻生太郎首相は同日夜、首相官邸で記者団に対し「取り急ぎ日本も対応すべき
だ。取り急ぎということであれば海上警備行動で対応する」と述べ、海警行動
の発令で海自艦艇をソマリア沖に派遣することを正式に表明した。
さらに首相は「他国の船は助けませんではいかがか」と述べて、海賊対策の一
般法の早期制定に意欲を示した。
政府は護衛艦1、2隻に補給艦1隻の陣容を検討。ソマリア沖の海賊多発海域
に艦を配置し、通行する日本関係船舶から危険情報が入った場合に現場に急行
することを想定している。
また、一義的に海上での治安維持を担当する海上保安庁との連携を強化するた
め、日本で海上保安官を同乗させて出航する。武器使用については、警察官職
務執行法を準用し威嚇射撃や海賊側と同程度の武器での応戦を認める。
アジア諸国のうち、中国は海軍艦艇をソマリア沖のアデン湾に派遣、海賊対策
で各国と足並みをそろえる姿勢を強めており、日本の存在感を示す意味でも海
賊対策に特化した護衛艦の派遣は重要となりつつある。ただ、日本籍船の護送
任務を優先する外務省と、海域での警護を念頭に置く防衛省との調整はついて
おらず、年内にも派遣する政府調査団の報告を踏まえ、さらに検討を進める。
(産経新聞 2008/12/26)
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外務省が何も判っていない事が良く判るのが、記事の一番最後の部
分です。国土交通省の海事レポートに書かれていますが、実は、我
が国商船隊を船籍別にみていくと、パナマ籍1,563 隻(商船隊全体
に対するシェア70.3%)、6,106 万総トン(同68.7%)、リベリア
籍109 隻(同5.0%)、443万総トン(同5.0%)など、いわゆる便
宜置籍船がほとんど(平成19年度版海事レポート概要P18)であり、
日本船籍の船は、全体で2200隻の内、わずか95隻。割合にして0.5%
以下でしかないのです。
外務省の言う日本籍船だけを護送する事が如何に無意味か良く判る
と思います。法改正が行われていない現時点では、海上警備行動発
令で救える船は、殆ど存在しない日本籍船しかなく、我が国商船団
の大半を占める便宜地籍船を守る事はできないのです。
その意味で麻生首相の「他国の船は助けませんではいかがか」と言
う発言は間違いです。「我が国の商船隊を守る為には、外国籍船を
守らなければならない」というのが実情なのです。
では、海賊に襲われた、日本の船会社のパナマ船籍船を海上自衛隊
が救う場合は、これに加えてどんな問題があるでしょうか?
実は日本籍船と便宜地籍船では、大きな違いがあります。船の世界
には旗国主義というのがあります。以下はWikipediaからの引用です。
旗国主義(きこくしゅぎ)とは、刑法の場所的適用範囲に関する立
法主義の一つで、自国船舶・自国航空機内における犯罪に対しては
犯人の国籍を問わず自国の刑法を適用するもの。日本の刑法では刑
法第1条2項の規定で旗国主義を採用している。なお、旗国主義は国
家の領土主権の効果が自国船舶・自国航空機内にも及ぶと構成する
ものであるから属地主義の一種ということができる。
つまり、僅かな日本籍船は、日本国の刑法を適用できるが、便宜地
籍船では、日本国の刑法は適用できないのです。
ですから、日本船籍の船が襲われた場合は、日本国刑法を適用して
逮捕可能なのですが、外国籍船、例えばパナマ船籍の船の場合は、
日本の主権が及びませんし、パナマの官憲が海賊を退治してくれる
訳でもありません(パナマは船舶を所有、置籍する為の税金を低く
抑え、船籍登録を促すだけの機能しか持っていません)ので、自衛
隊が海賊を捉えても、本来、法執行を行うべき主体に引渡しができ
ない事から、折角捉えた海賊を釈放せざるを得なくなります。
加えて、自衛隊が、この記事が書いている様な海賊側と同程度の武
器での応戦をした場合にも大いに問題が発生する可能性があります。
つまり、ソマリアの海賊が、実は、軍隊が使用する様な重機関銃や
ロケット弾で自衛隊を攻撃し、自衛隊が同程度の兵器(実際には、
バルカン・ファランクスか自動小銃しかありませんが)で応戦した
場合、ソマリアの海賊の武装の程度を知らない(知ろうとしない)日
本のマスコミは、武器使用の不適切をあげつらい、現場の指揮官(
護衛艦の艦長)に非難を集中する可能性が極めて高いと言えるでし
ょう。
この様な、事態を避ける為には、交戦規則をきちんと定める必要が
ありますが、根拠法が現行の自衛隊法の海上警備行動だけでは、現
場が納得できるほど明快な交戦規則を本当に作れるのか、非常に疑
わしいとしか言えないのです。
結論から言えば、今回の海上警備行動発令だけで、できる事は非常
に限られており、多国籍海賊対策オリンピックに参加する事に意義
があったいう程度の効果しかないと言えます。
護衛艦は、実際には、日本商船隊を保護する事はできず、自艦が海
賊に攻撃されても、碌に応戦も出来ず、ただ逃げまわるだけと言う
事になりかねません。
しかも、それ以上の事を行えば、今度は護衛艦長が処分の対象にな
ってしまうという悲惨な結末に至る可能性も高いのです。
現場にそんな状態を押し付けるだけでは、政治はやるべき事を行っ
ているとは言えないでしょう。それだけに政治はシビリアンコント
ロールを実現する為にも、自衛隊法の改正を一日も早く実施する必
要があると考えます。
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