2009年5月1日金曜日

産経新聞さん、不適切な表現に苦言を呈します


※コリンズ級潜水艦 Australia Dept. of Defenceサイトから転載

豪、中国に対抗 シーレーン防衛、潜水艦・哨戒機など軍備大増強計画

【シンガポール=宮野弘之】オーストラリアのラッド政権が、第二次大戦後、
最大となる軍備増強を計画している。近く発表される国防白書で今後20年間
で潜水艦隊を倍増し、新たにF35戦闘機を100機導入するなど装備の大幅
な刷新と増強の必要性を表明する見通しだ。地元紙オーストラリアンが伝えた
もので、アジア太平洋地域で空母を含む中国海軍の増強に対抗するものとされ
る。ただ、ラッド首相はこれまで「親中派」とみられてきただけに、今回の計
画に中国が強く反発することも予想される。

白書では、アジアにおける中国の着実な軍備の増強により、アジアの大国間で
海軍力の増強競争が起こると分析。その結果、巡航ミサイルを搭載した新世代
の潜水艦や軍艦、さらに対潜水艦戦や電子戦用の基盤整備が進むだろうとして
いる。

こうした地域情勢に対応してオーストラリアとしても海軍力を中心に増強をは
かり、シーレーン(海上交通路)の防衛に努めるのが狙いだ。

ラッド首相も昨年末、「シーレーンを守ろうとするつもりなら、相応の能力が
必要だ。わが国は、そのために必要な海軍力を将来持たなければならない」と
述べていた。

白書では、今後の国防計画について、弾道ミサイル防衛システムを搭載した
7000トン級の戦艦8隻、さらに1500トン級の新型の哨戒艇を2020
年までに導入するとしている。

さらに海軍力を増強するため、対潜哨戒機も旧型のAP3オライオンから、
P8ポセイドンへと更新、少なくとも8機を導入する計画だ。さらに対潜ヘリ
コプターを27機以上導入することが検討されている。

一方、空軍はF18の後継として、F35ステルス戦闘機100機を14年ま
でに調達する。また、C130Jハーキュリー輸送機6機を増強、C27J輸
送機の導入も検討されている。そのほか、陸軍もヘリ部隊の増強や新型の装甲
戦闘車の配備を進める。

白書では、オーストラリア軍は同国周辺、特に南太平洋地域における安全保障
を先頭に立って確保する能力が求められているだけでなく、さらに遠方へ軍を
展開する能力も必要としている。

(産経新聞 2009/4/29)


記事の言わんとしている内容については問題はありません。ラッド
親中政権ですら無制限な軍拡を続ける中国に対して対抗する必要を
感じているというのは、十分大きなニュースです。
また、そういう前提に立てば、ラッド政権の成立で一旦中断状態と
なっている日豪防衛協力を、オーストラリアとしても今後推進せざ
るを得なくなっているとも考えられます。

本音では捕鯨問題で如何に気にいらないにせよ、新興大国意識ムン
ムンの中国に対して、保険として、同じ圧力を受け、民主主義国と
して共通の価値観を持つ国との協力関係を推進すべきであるという
論理的な結論にオーストラリアの労働党政権が漸くたどり着いたの
は、ご同慶の至りとも言えます。

しかしながら、そういう内容を補完すべき記事の細部が頂けません。
産経新聞シンガポール駐在の宮野記者は、もう少し軍事関係の知識
を増やさないと折角、立派な安全保障関係記事を書いても、常識的
な軍事知識もない事が明らかである為、信頼性が失われてしまいま
す。

この記事の元ネタは、2009/4/25付け The Australian紙の
"White paper orders huge military build-up"
http://www.theaustralian.news.com.au/story/0,,25383010-22242,00.html
であると思われますが、直訳した事による誤訳が散見されるのです。

まず、「7000トン級の戦艦8隻」という表現がありますが、こ
れは、「7000トン級の戦闘艦8隻」と訳すべき部分です。
英語ではWarshipsと書かれていますが、日本語で言う「戦艦」は、
英語ではBattleshipとなります。ちなみに、現在、世界で戦艦を
使用している海軍はありません。ちなみに、ここで書かれているの
は、オーストラリアがスペインに発注しているイージス艦の事です。
日本や米国のイージス艦より一回り小型ですので、艦種としてはミ
サイル駆逐艦という表現が一番正確と思われます。

次に「1500トン級の新型の哨戒艇」という表現が出てきます。
一般的には、哨戒艇という艦種は500トン程度までの小型艦艇を
指す表現です。原語では、1500-tonne corvette-size patrol boats
なっていますが、ここでは、「1500トンのコルベット級新型哨
戒艦」と訳すべきだったと思われます。

また、細かな表記の問題になりますが、F35、AP3、P8等の
記載はF-35、AP-3、P-8という表記が通常使われますし
元の記事ではそうなっています。ハイフンであっても型式名を記者
が勝手に省略すべきではない事はいうまでもありません。細部に対
するこだわりかも知れませんが、記事を書く際にそういう事を踏ま
えているかどうかは、知識があるかないかを示すバロメータにもな
りますので疎かにできないのです。

更に言えば、この誤った表現の記事が編集者による校正もなく通過
してしまう事にも首を傾げてしまうのです。
産経新聞が、安全保障面に強い点を売りにするのであれば、軍事知
識の初歩の部分で読者に疑問を持たせる事はすべきではないと考え
ます。


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2009年4月30日木曜日

北の挑発に乗らず、粛々と経済制裁を続ける


北、安保理議長声明に反発「謝罪なければ核実験」

北朝鮮の外務省報道官は29日、国連安全保障理事会が同国の「衛星」打ち上
げを非難する議長声明を採択し追加制裁を決めたことに関連し、安保理の謝罪
がなければ、核実験や大陸間弾道ミサイル発射実験などを含む「追加的な自衛
的措置を講じざるを得なくなる」との声明を発表した。

また、声明は「軽水炉発電所建設を決定し、その最初の工程として核燃料を自
ら生産、保障するための技術開発を遅滞なく始めるだろう」と濃縮ウランによ
る核開発も示唆した。

北朝鮮は今月25日、使用済み核燃料棒の再処理作業開始を明らかにするなど
緊張を高めており、今回も瀬戸際外交の一環とみられる。韓国の外交安保研究
院の尹徳敏教授は「対米交渉に向け、核武装を既成事実化させるために核実験
を行う可能性が高い。今回の声明もそのために緻密(ちみつ)に練られた手順
の一つだ」と分析している。

(産経新聞 2009/4/30)


関川夏央の「退屈な迷宮」の中に、北朝鮮は、釘一本作れないとい
うくだりが出てきます。北朝鮮は鉄鋼生産はしているが、釘に必要
な軟鋼が生産出来ない事から釘一本も輸入に頼っているという話で
す。実際に釘を生産できないかどうかは、判りませんが、北朝鮮が
工業製品を製造する場合に、その原材料の殆どを輸入に頼っている
事は事実でしょう。

今回の声明の中で、北朝鮮は、核実験、大陸間弾道弾(ICBM)発射実
験、軽水炉発電所の建設、核燃料生産と色々なメニューを並べてい
ますが、これら全ての製造、建設の為の資材は、輸入に頼らざるを
得ないという事を忘れてはなりません。特に、数発の実験兵器とし
てであれば、それ程の巨額ではなかった核兵器も、兵器体系として
頼れるものを配備しようとすると巨額の費用がかかってきます。
北朝鮮の場合は、核ミサイルを配備する事が一番費用がかからない
と思われますが、それであっても核弾頭の生産と配備、発射統制シ
ステムの整備は最低限必要となります。既存のミサイルを改造する
のか新造するのか別にしてミサイル側にも手を入れる必要がありま
す。

更に、核燃料を生産する為には、ウラン濃縮工場が必要になります。
遠心分離式にすれば、北朝鮮の必要とする規模に応じた工場とする
事ができるでしょうが、それでも数百台から1000台規模の遠心分離
機を備える必要があります。遠心分離機の設計図はパキスタンのカ
ーン博士の整えた核の闇市場で既に流通しているようですから、北
朝鮮も既に入手済みでしょうが、遠心分離機そのものはイランが行
った様に設計図にそって自ら生産しなくてはなりません。

それこれ考えると、核兵器体型の整備には、少なくとも数百億から
数千億円の費用を要する事になります。そして、その多くは輸入に
当てなくてはなりません。資材の輸入には、ハードカレンシーが必
要になります。北朝鮮が、なんとしてでも、このハードカレンシー
を入出しようとする筈です。それは、既に切り詰められている食料
等の輸入品に対する割り当ての削減かも知れませんし、覚醒剤や武
器、ニセ札、ニセ煙草、援助食糧横流しによる輸出増によるものか
も知れません。あるいは在日朝鮮人からの送金の増加に頼るかも知
れません。何れにせよ。今まで以上に核兵器に資金を使う以上、そ
れに必要な資金は捻出されねばならない
のです。

日本としては、この資金が日本から北朝鮮に流れる事を絶対に阻止
しなければなりません。そして、その手を打った上で北朝鮮を放置
すれば、軍備への過大投資が原因となったソ連型の体制崩壊に北朝
鮮を導ける可能性が高くなると考えるのです。
北朝鮮には、是非、核兵器体系整備の為に、第二の「苦難の行軍」
を実行して貰いましょう。


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2009年4月28日火曜日

中国海軍のR&Dの焦点


※J-10 keypublishing forumから転載

中国海軍は、超音速巡航能力を持つ戦闘機を要求
by Bradley Perrett

超音速巡航能力を持つ戦闘機の取得は中国海軍で高い優先度にあると、高位の
海軍提督が公式インタビューで明らかにした。この高官はインタビューの中で、
中国海軍の公認されている弱点と将来進むべき方向性について強い手掛かりを
与えている。

中国人民解放軍海軍司令官である呉勝利提督は、また、敵の防御力に打ち勝つ
精密誘導ミサイルの研究を進めなければならないと語ると共に、中国は大型戦
闘水上艦艇-恐らく、ますます差し迫っている空母プログラムを意味すると思
われる(AW&ST 1/5/2009 p22)をより速やかに開発しなければならないと語った。

アフアーバーナーなしで超音速飛行を可能にする超音速巡航能力に対する呉提
督の要求は、J-XXと呼ばれている次世代中国戦闘機がその様な能力を利用可能
である事を示している様に思われる。

「ひとつの可能性は、J-XXが超音速巡航用に設計されており、呉提督がその航
空機の海軍版を作る案をサポートしようとしているということです」と、シン
ガポールのS. Rajaratnam国際研究学校のシニアフェローであるRichard
Bitzingerは語る。

J-XXのデザインは、まだ知られていない。それは全く新しい航空機かも知れな
いし、最近就役したJ-10の発展形とも考えられる。

J-10の構成はEurofighter Typhoonと類似しているが、Typoonは、メーカーに
よればマッハ1.5の超音速巡航能力(有効な外部兵装を装備した場合にはスピー
ドは幾分低下する筈)を保有している。

中国海軍にとっての、超音速巡航能力の優位点は、短い時間で、大きな防御エ
リアをカバーできる事であり、それは、遠距離にある米国の空母戦闘団を想定
目標と考えれば非常に有効である。

重要なことは、呉提督が、中国海軍がここ10年程度で実現できる様に思われる
他の要求事項と同じリストの中に、この超音速巡航戦闘機を含めていると言う
事である。それは、彼が、絵空事のような飛行性能と考えていない事を示唆し
ている。

「洗練された機器は、海軍が地域的な紛争に勝つための重要な基礎的素材です。」
と、呉提督は、明らかに台湾海峡で対立の可能性に言及する。そして、「我々
は、重要な武器に対する取組みに歩速を速めなければなりません。」と語って
いる。更に、それに加えて以下の様に語った。
「我々は大型水上戦闘艦艇、ステルス性能を持つ長持久力潜水艦、超音速巡航
性能を持つ戦闘機、敵の防御力に打ち勝つ精密で長射程のミサイル、深深度性
能を持ち、高速で、インテリジェントな魚雷、互換性と共通性を提供する電子
戦闘装置といった次世代兵器を開発しなければならない。」

(AW&ST 2009/4/27)

中国海軍 大型水上戦闘艦艇など新装備を開発

中国人民解放軍の海軍が成立60週年を迎えるにあたり、中国共産党中央軍事委
員会委員で海軍の呉勝利司令員が13日にメディアの取材に応じ、海軍の60年の
歴史を振り返り今後の発展を展望した。

呉勝利司令員によると、60年の発展で水上艦艇部隊、沿岸防衛兵、航空兵、潜
水艦部隊、陸戦隊の5兵種で編成された戦略的で総合的、国際的な海軍になり、
5兵種は半機械化から機械化へレベルアップし、徐々に情報化へ変更している
という。

キーワード1:新式装備

海軍は新世代の艦載戦闘機を研究開発する計画で、当面、3つの艦隊は駆逐艦と
護衛艦の分隊、モーターボート分隊、上陸用舟艇分隊および作戦支援艇分隊の
数十隊と、3級以上の戦闘艦艇数百隻を擁し、その容積トン数は1980年代に比
べて5倍に達するなど、艦艇の総合的な戦闘力が大いに強まっている。

重点は兵器と装備の開発を迅速に行わなければならない点で、大型の水上戦闘
艦艇、水中での連続潜航時間とステルス性の高いすぐれた新しいタイプの潜水
艦、超音速巡航戦闘機、防衛システムを突破する能力が強い精密な遠距離ミサ
イル、深深度高速人工知能魚雷、通用性と許容性を兼ねた情報戦の装備など、
新しいタイプの兵器と装備を研究開発する必要がある。

また各戦略的方向では、戦略的な母港を中心とする沿岸保障力をしだいに形成
し、海上での修理や遠洋兵力の輸送、大型救援と補給面での整備を強化する。
今後、遠洋機動戦力と戦略的な兵力輸送能力を、軍事力整備システムに組み入
れることにしている。

キーワード2:航空兵

第三世代の戦闘機が配備されるにつれ、航空兵部隊の全ての戦闘旅団は、多地
域間の機動作戦に参加することができるようになり、戦闘準備のパイロットは
全員ミサイルの実戦訓練に参加する。

キーワード3:人材の養成

新しいタイプの総合補給艦に代表される後方勤務の艦艇装備部隊の発足で、保
障艦艇の容積総トン数は80年代の6倍に達している。大型の戦略的な母港や重
点空港、後方の戦略的倉庫を建設し、艦船や航空機、装備の修理基地を十数所
も建設するなどして、遠洋に向かう海軍を強くサポートしている。

近年では高学歴の艦長やパイロット、仕官の養成規模が5年前に比べて10倍に
なり、4カ所の海軍の大学は仕官の訓練を行い、毎年、訓練を受けた仕官と兵
士は5000人に達している。

キーワード4:沿岸部隊

現在、沿岸部隊は全面的にミサイル化を実現し、新世代の沿岸ミサイルも全面
的に配備され、海軍の沿岸部隊は他の兵種による攻撃を支援する新しいタイプ
の兵種になった。

防衛システムを突破する能力が強化され、知能化レベルも向上、射程もより遠
くなり、妨害に対する抵抗力がより強い新世代の沿岸ミサイルが全面的に配備
されるにつれ、要地防空と近海防空能力を備える沿岸防衛部隊は、ほかの兵種
の攻撃に効果的にサポートする新しいタイプの兵種となった。

キーワード5 潜水艦部隊

人民海軍潜水艦部隊の防衛システムを突破する能力は明らかに向上している。
潜水艦は水中での重要な突撃力として海軍にとって重点的に構築する兵種であ
る。新世紀では新しいタイプの通常動力型潜水艦や原子力潜水艦が相次いで配
備され、新タイプの潜水艦には、超長波通信システム、データチェインシステ
ム、戦術ソフトウェア、指揮自動化システム、知能魚雷、精密誘導ミサイルな
どの装備が配置されている。またステルス性や連続潜水時間、生存力が明らか
に高まり、水中での防衛能力が明らかに強まった。

キーワード6 軍事演習と訓練

この10年、海軍は集団での海上作戦や戦役演習を30回以上実施してきた。これ
らの演習によって新しい戦法を検証し、海軍の一体化と総合的戦力、戦略抑止
力が大いに引き上げられた。

海軍の遠洋訓練はすでに日常的になり、海軍の5兵種は毎年数回、遠洋での演
習を実施している。そのうち水上艦艇の昼夜航行訓練は数百ノットから数千ノ
ットになり、潜水艦の水中での待機訓練は十数日から数カ月にわたっている。

(「チャイナネット」 2009/4/16日)
(人民網日本語版 2009/4/26)


中国海軍のR&Dに関する面白い記事がAviation Weekに掲載されてい
たので、ご紹介します。

元ネタがないか探していたら、人民網の4/22の記事の中に該当する
ものを見つけましたので、是非比較して頂ければと思います。

Aviation Weekは航空関係がメインですが、人民網の報道と同程度
の情報から、これだけの推測を行えるというのは流石に専門家と関
心しました。

なお、中国海軍のR&Dの中では、潜水艦のステルス性能と水中での
連続潜航時間向上が出ているのは、原潜を保有する中国でも、主と
して通常動力潜水艦での課題と思われる問題が結構深刻に捉えられ
ている事に興味深く感じました。

少し疑問なのは、対空ミサイルに対する関心の少なさです。対艦ミ
サイルが取り上げられているのに対空ミサイルが課題リストから落
ちているのは、中国が対空ミサイルに自信を持っている表れかも知
れません。


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2009年4月27日月曜日

中国の海軍力は日本を上回る


※晋級SSBN Globalsecurity.orgより転載

海軍能力「世界の6強」 中国紙報道、日本上回る

【北京23日共同】中国国営通信、新華社系の時事週刊紙「国際先駆導報」は
23日、中国海軍の総合的な実力について「米国、ロシア、英国には及ばない
が、日本を上回り、インド、フランスと並ぶ」と指摘し、世界の6強に入って
いると報じた。

同紙は主要国の海軍(日本は海上自衛隊)について、作戦行動が実施できる範
囲を3分類し(1)世界各海域=米国(2)自国近海と一部遠洋海域=ロシア、
英国(3)自国近海=中国、フランス、インド、日本-と分析。

日中の比較では、中国海軍が戦略ミサイル原子力潜水艦などで「一方的な優位」
にあると指摘。原潜以外でも、中国が先進的なミサイル駆逐艦や通常型潜水艦、
戦闘機を相次ぎ就役させ、日本が優位といえなくなったとしている。

(共同通信 2009/4/23)


この「中国の海軍力は日本を上回る」という結論を否定してかかる
方も多いと思うのですが、私は逆に、中国人民解放軍海軍の方がバ
ランスの取れた構成であると思います。勿論、装備の多くは旧ソ連
設計、中国製造で旧式化しているものも多いと思いますが、20年継
続した国防費二桁増加は確実に装備の近代化に回っています。

米国国防総省発行の2009年版「中国の軍事力」によれば水上艦艇の
25%、潜水艦の47%が"近代化"されています。近代化されたものだけ
とっても、決して過小評価は出来ません。

空母はまだ計画段階であるにせよ艦艇は主要水上艦艇74隻で、ここ
数年の間に051C級及び052C級ミサイル駆逐艦各二隻、054A級ミサイ
ルフリゲート4隻を取得しています。これらの国産水上艦艇は有力
な長中射程の対空ミサイルを装備しており、ロシアから輸入したソ
ブレメンヌイ級と合わせ来るべき空母機動部隊の構成要素と目され
ています。

潜水艦では夏級戦略ミサイル原潜に加え、後継の晋級戦略ミサイル
原潜の配備が進められており戦略抑止力を備えています。攻撃型原
子力潜水艦も漢級に代わって商級が配備されています。
これらの原子力潜水艦は、日本では政治的に配備できませんが、中
国海軍が日本を凌駕する大きな要素であると言えます。

また、海上自衛隊が、対潜哨戒機しか持たないのに比べ、機数だけ
を数えれば、航空自衛隊を凌駕する戦闘機、爆撃機からなる海軍航
空隊を保有しており、旧型機に代わって爆撃機はTu-22Mバックファ
イア、戦闘機も新型のSu-30MK2の配備も開始されています。

さらに二個旅団1万人からなる海兵隊を有し、37隻の両用戦艦艇を
保有している点も、台湾侵攻の為とは言え、総合的な海軍力強化に
役立っています。

これらを装備する人民解放軍海軍の要員数は、約29万人と見積もら
れていますが、4.5万人の海上自衛隊の比べ、六倍以上になってい
ます。

勿論、軍備や兵力の多寡が実力を決定する訳ではなく、装備の性能
と数、それと要員の錬度との乗数になりますから、一概に中国の方
が上とは言い切れませんが、闇雲に海上自衛隊の方が上とも言い切
れる訳ではないと認識するのが正しい情報評価の態度ではないかと
思われるのです。

例えば、ソマリアの海賊対策では、日本が護衛艦を派遣するより数
ヶ月前に中国は、略同規模の艦隊を派遣しています。中国が全体主
義国で政策決定に時間を要しない事を考えても、艦艇がいつでも海
外派遣に出せる状態であった事、海賊制圧用の特殊部隊の準備も含
め、高いレベルの臨戦態勢が出来ていた事も事実であると思われる
のです。その点でも、海上自衛隊はうかうか出来なくなっている様
に思えてなりません。


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