2010年4月22日木曜日

インドがGSLVロケットの打ち上げに失敗した理由

※写真は、Wikipediaから転載

インド、GSLV-D3ロケット打ち上げ失敗

インド宇宙研究機関(ISRO)は現地時間4月15日16時27分(日本時間19時57分)、
インドの通信試験衛星「GSAT-4」を載せたGSLVロケット(GSLV-D3)を、サテ
ィッシュ・ダワン宇宙センター(SDSC)から打ち上げたが、3段目のエンジン
が正しく動作せず、打ち上げに失敗した。

ISROによると、ロケットの初段と第2段は共に正常で、打ち上げから約5分後に、
第3段エンジンが点火し、約12分間燃焼する予定だったが、エンジンに動きが
なく、ロケットはそのまま失速し、衛星と共に海面に落下した。

今回の打ち上げに使用された第3段エンジンは、インド初の国産極低温エンジ
ンだった。エンジンが点火したかどうかはまだ確認されていないため、ISROは
今後、失敗の原因を究明し、次回の極低温エンジンの打ち上げ試験について検
討する。

なお、GSLVロケットの打ち上げは2007年9月以来、実に2年半ぶりだった。

(sorae.jp 2010/04/16)


GSLVロケットは、インドが、静止衛星打上げ用に開発した大型ロケ
ットです。日本のH-IIAと比較すると、サイズと重量では同等、衛
星打ち上げ能力では大体半分程度の能力があります。

GSLVロケットは、三段式で、第一段は末端ヒドロキシル基ポリブタ
ジエン(HTPB)を使用した固体燃料ロケット、これに四基のVikas液
体燃料エンジン(四酸化二窒素とジメチルヒドラジン)を使ったロケ
ットブースターが付加されています。第二段も、ブースターと同じ
系列のVikas液体燃料エンジン。第三段は、液酸液水エンジンを使
用すると言う、一見、複雑な構成を取っています。

GSLVロケットの開発コンセプトは、並行して打ち上げられている先
代の衛星打ち上げロケットであるPSLVロケットの一段目と二段目を
使用し、且つ、二段目を若干改造した四基の液体燃料ブースターロ
ケットを使用する事で、推力を高めると同時に、経済性と信頼性を
確保する。また、高性能の液酸液水エンジンを第三段に装備する事
で運用の柔軟性を高める事であったと思われます。当初は、この液
酸液水ロケットを自前開発する事で、技術的な高度化を狙っていま
したが、途中で、ロシアから輸入する事になりました。

インドは第三段エンジンはロシアから合計7基を輸入しており、五
号機までは、それを使用してきました。それに加え、インドはロシ
アからこの液酸液水エンジン技術そのものも購入しようとしました。
しかし、インドが核兵器開発を推進している処から、国際的な制裁
の一環として、米国の圧力もあってロシアは、インドへの技術移転
を拒否する事になります。

この為、インドは高性能の液酸液水エンジンの自国開発を余儀なく
される事になりました。元々インドは、このプロジェクトが発足す
ると同時に国産技術による液酸液水エンジンの開発に着手していま
したので、その開発を再度加速する事で、この事態に対応しました。
その結果、一応、実用に耐える国産の液酸液水エンジンが完成し、
その国産液体燃料エンジン搭載した最初のGSLVとなったのが、今回
打ち上げられたGSLV6号機という訳です。

細かく言えば、ロシア製の第三段ロケットエンジンを付けたロケッ
トをGSLV Mk.1と言い、国産の第三段エンジンを付けたものをMk.2
と言って区別しています。

今回は、失敗しましたが、今年から来年にかけ、GSLVは、二回の打
ち上げが予定されています。その二回分は、ロシアから輸入した第
三段ロケットが、使用される予定です。今の処、その後の打ち上げ
には、国産液体燃料エンジンが使用される事になっています。
GSLVは、これまでの6回の打ち上げられていますが、その結果は、
成功2回、部分的成功2回、失敗2回と必ずしも芳しいものではあ
りません。

今後インドの大型衛星打ち上げが順調に行えるかどうかは、インド
国産の液酸液水エンジンを含めGSLVが、充分な信頼性が得られるか
どうかにかかっている様に思われます。


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2010年4月21日水曜日

「羅老号」2号機の打上げは6月9日に決定


※sorae.jpサイトから転載

韓国、「KSLV-1」の2号機の打上げは6月9日

大韓民国教育科学技術部は4月19日、「羅老(KSLV-1)」2号機の打ち上げを早
ければ6月9日にも実施すると発表した。

発表によると、打ち上げ日時は現地時間6月9日16時30分から18時40分(=日本
時間)に設定され、最終的には天候の状況を見ながら、打ち上げを実施する予
定。また、打ち上げ可能期間は6月9日から6月19日までになっているという。

ロシア側が製造した初段は既に羅老宇宙センターに運ばれ、現在打ち上げに向
けての準備作業が進められている。2段目と衛星を載せたペイロードフェアリ
ングは5月下旬に取り付けられる予定で、その後、発射台へと移動し、打ち上
げリハーサルを実施する。

今回の打ち上げには、前回の打ち上げと同じく「科学技術衛星2号(STSAT-2)」
が搭載される予定で、この衛星は韓国航空宇宙研究院と韓国科学技術院(KAIST)
衛星研究センターなどが共同開発したもので、重さ約100kg。マイクロ波ラジ
オメータ観測器やレーザー反射鏡などを搭載し、低軌道で約2年間にわたって、
大気と海洋を観測し、衛星技術の検証などを行う。

韓国は2009年8月25日、「科学技術衛星2号(STSAT-2)」を載せた
「羅老(KSLV-1)」初号機を打ち上げたが、フェアリングの片方が分離せず、
衛星の軌道投入に失敗した。

(sorae.jp 2010/04/19)


2度目のカウントダウン「羅老号」

原子力や宇宙開発は国力に支えられる国のみ取り組むことのできる巨大科学で
ある。米国は24トンの貨物を載せ、国際宇宙ステーションまで往復するスペ
ースシャトルを繰り返して打ち上げている。ロシアやフランス、日本、中国は、
8~18トンの貨物を、一度で低い軌道に打ち上げる宇宙発射体を持っている。
羅老(ナロ)号は、100キロの衛星を打ち上げる宇宙発射体である。始まり
は小さいとはいえ、韓国は宇宙開発のベスト10入りを目標としている。宇宙
開発は、エネルギーや通信、軍事、放送、気象、海洋調査、天体観測のような
分野で、国力を分ける未来産業だ。

◆羅老号は、本物の発射体の開発に向けた「練習用」だ。宇宙発射体の中核は
第1段ロケットだ。羅老号の打ち上げが成功してこそ、1.5トンの衛星を打
ち上げる本物の宇宙発射体「KSLV-2」の開発に乗り出すことができる。
今月5日に、全羅南道高興(チョルラナムド・コフン)の羅老宇宙センターに
第一段ロケットを持ち込んだロシア側のセキュリティは物々しかった。第一段
ロケットの運用や関連装備は全て、ロシアから持ち込んだ。ロシア人の技術者
らは、関連資料の入っているコンピューター室への出入りの際ごとに、新たな
封印を行った。全人数の20%がセキュリティ要員だ。我々の宇宙技術の不足
によって味わわされる悲しさである。

◆宇宙への打ち上げは0.1%が失敗しても、全てが失敗したことになる。全
ての装置が決まった時間に正確に作動してこそ、成功できる。昨年に打ち上げ
られた羅老号は、中間段階でフェアリング(衛星の蓋)が切り離されず、失敗
した。失敗から学ぶ教訓は貴重である。閔庚宙(ミン・ギョンジュ)羅老宇宙
センター長は、「ロシアの技術陣は我々を見下したが、今は、アンガラ宇宙発
射体プロジェクトに我々も参加してほしいと提案を受けるまでになった」と語
った。

◆宇宙開発の超大国である米国は、宇宙開発の予算が我々の180倍にのぼり、
発射台だけでも20台を備えている。しかし、我々は蔚山(ウルサン)の砂原
に造船所を建設し、短期間で世界トップの造船能力を備えた国ではないか。入
梅前の6月初めに羅老号の2度目の打ち上げが行われる。2度目の打ち上げの
成功に続き、本物の宇宙発射体に向けた1段液体ロケットの開発も成功するこ
とを願う。閔庚宙センタ長―の名前は、「星」の「庚」の字に「宇宙」の「宙」
の字を使う。生まれつき、宇宙開発の運命を担っているような気がする。羅老
宇宙センターの関係者らは最近、乾杯の音頭を「空へ」、「宇宙へ」と取ると
言う。

(東亜日報 2010/04/19)


昨年の8月に打ち上げに失敗した韓国の国産ロケット「羅老号」
(KSLV-1)2号機の打ち上げが6月9日と決まりました。
前回は、ロシア製作の第一段の開発遅延もあって合計7回打ち上げ
スケジュールを延期しましたが、前回の打ち上げで第一段には、問
題がなかったので、今回は、意外にすっきりと打ち上がるのではな
いかと個人的には考えています。

前回の打ち上げでは、ロシアで製作された第一段液体燃料(液酸-ケ
ロシン)ロケット、ロシア設計で韓国で製造された(設計及び製造は
韓国とする報道もある)第二段固体燃料ロケットは正常に稼働した
ものの、ロシア設計で韓国で製造された衛星フェアリングの内、片
側の分離に失敗した結果、予定の軌道に投入する事が出来ず、失敗
に終わりました。このフェアリングの分離失敗の原因は、火工品と
呼ばれる、火薬を内蔵した分離用部品の動作不良が疑われています。

この「羅老号」の開発では、人工衛星打上げ能力獲得を急ぐ韓国が、
従来の国産技術開発の方針を転換し、ロシアから技術を導入する事
で、自前ロケットの打ち上げ能力を獲得する狙いがありました。

その結果、「羅老号」の一段目は、当時ロシアで開発途上だったア
ンガラロケットのURM(Universal Rocket Modules)の推力を若干、
少なくしただけのデチューン版(エンジンの型式はアンガラロケッ
トがRD-191であるのに対し、羅老号はRD-151)となった他、二段目や、
衛星フェアリング、その分離機構等も全てロシア設計、韓国内製造
で、ロケット全体の取り纏め、射場設備等もロシアから大きな技術
支援を得たものと思われます。

元々、アンガラロケットは、ロシアが次世代衛星打上ロケットとし
て開発しているロケットですが、韓国は当初、それを技術移転する
事によって、国内生産する事を計画していました。(一部ではエン
ジニアリングサンプルをリバースエンジニアリング手法で解析する
事で技術移転する事を計画していたという噂もあります。)

しかしながら、技術盗用を恐れるロシアは、技術移転には応ぜず、
ロシアで生産した第一段ロケットを完全輸入する事になりました。
中央日報の記事でもわかりますが、第一段エンジンについてはロシ
ア側は、厳しい保安体制を組んでいます。この保安体制の下でも、
韓国は、ロシアからロケットの運用に対する考え方や運用体制につ
いての知識を得る事はできますが、流石に、ロケットエンジン技術
に関するノウハウを得るのは、困難です。

韓国は、今回の打ち上げの後、1.5トン級の衛星打ち上げ能力を持
つ、KSLV-2の開発に入る予定です。当初の目論見では、羅老号の一
段目はそのまま利用し、二段目のみをこの新型ロケット向けに開発
する事で、これを実現する予定でした。しかし、その場合は、今回
同様の屈辱的とも言えるロシアによる保安体制を韓国は再度、受け
入れる必要があります。

今回の打ち上げの結果については、勿論ですが、韓国が、今後、
KSLV-2の一段目について、どの様な開発・導入方針を取るのか他人
事ながら、気になる処です。


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2010年4月20日火曜日

韓国哨戒艦沈没 対潜装備の見直しを迫られる韓国海軍

※写真は韓国海軍のリンクスヘリコプター。朝鮮日報Webサイトから転載

海軍ヘリ墜落:「事故相次ぐリンクス・ヘリ、部品に問題」
エンジン関連会社が閉業
「ヘリコプター間で部品の使いまわし」


潜水艦の探知を主要任務とする韓国海軍のリンクス・ヘリが相次いで墜落や不
時着の事故を起こしている中、リンクス・ヘリのエンジン部品の調達が正常に
なされておらず、運用に困難をきたしていたことが分かった。軍関係筋は18日、
「リンクス・ヘリのエンジン部品会社が数年前に閉業し、部品調達が難しくな
った。一部ヘリでは、部品を外してほかのヘリの部品として使いまわす“同類
転換”をしていると聞いている」と話した。軍当局は、15日午後に全羅南道珍
島の南東海上で墜落したリンクス・ヘリがこうした問題と関連があるのか、集
中的に調査しているという。

15日の墜落事故に続き、第2艦隊所属のリンクス・ヘリ1機が17日午後10時13分、
西海(黄海)小青島から南22.8キロの海上にレーダーでとらえられた正体不明
の物体を確認するため出動し、韓国型駆逐艦「王建」に戻る途中で海上に不時
着し、乗組員3人が救助された。機体は18日午前7時40分ごろ、救助艦「清海鎮」
によって引き揚げられた。軍関係筋は「17日の事故は、ヘリの飛行高度を表示
する高度計の異常が原因である可能性が高いとみて調査している」と語った。
海軍は相次ぐ事故により、三つの艦隊に配備されているすべてのリンクス・ヘ
リ運用を中断した。

(朝鮮日報 2010/04/20)


泣きっ面に蜂の様な感じですが、哨戒艦の沈没に続き、韓国の対潜
ヘリコプターが連続事故を起こし、問題になっています。

それと同時に、今回の哨戒艦の沈没原因についても、北朝鮮の小型
潜水艦による魚雷攻撃が有力になっており、では、何故、哨戒艦が
潜水艦を探知できなかったという疑問が提起されてきています。

ちなみに、哨戒艦「天安」の沈没後、僚艦「束草」による潜水艦探
査が行われており、一時間後には対潜ヘリコプターによる探査も行
われていますが潜水艦は探知できていません。

元々、無音潜航している潜水艦を発見するのは、非常に難しい上、
今回の沈没事件が発生した場所は、水深が浅く、海岸と島嶼が接近
しており、音響探知が難しいエリアです。

更に、哨戒艦そのものも、船体の大きさに比べ、大砲や対艦、対空
ミサイルと言った砲たん兵器が処狭しと並べられており、潜水艦の
天敵である対潜ヘリコプターは、元々搭載しておりませんでした。
それでも、対潜兵器として、より大型のウルサン級フリゲートと同
様の、三連装短魚雷発射管二基とシグナール社製PHS-32パッシブ・
ソナー、AN/SQS-58ハルソナーを装備していました。

この対潜システムは、韓国国防部が公表した処では、事故当日の白
リョン島付近の海洋環境の場合、ソナーが距離約2キロメートル前
後で潜水艦、半潜水艇、魚雷を探知できる確率は70%だとされて
います。しかし、実際には、探知率は50%ほどにすぎないという
軍関係者の意見もあり、実態は、こちらの方の数字の可能性が高そ
うです。

更に、哨戒艦が沈没した状況は、北朝鮮との海上境界であるNLLに
接近していたものの、特に、戦闘配置は発令されていなかった模様
です。また、ソナーを有効に稼働させる為に、低速航行する事で自
艦の発生騒音を抑制するのが望ましいのですが、その様な対潜戦の
体制をとっていたという情報はなく、ソナーを作動させていたかす
ら疑問が残るのです。

潜水艦への注意も希薄で、対潜装備もそこそこの物であれば、小型
潜水艦が哨戒艦に不意打ちを食らわせる事ができたとしても不思議
ではありません。

韓国の海軍力は、金大中、盧武鉉両大統領によって飛躍的に増強さ
れましたが、対潜戦用の装備は、補給関係の装備と並んで、一番、
増強が遅れている分野です。

それでも、高性能の対潜哨戒機であるP-3Cが8機配備されており、
大型艦艇では、欧州では標準的な対潜装備であるリンクスヘリコプ
ターが搭載されています。

今回連続事故を起こしたリンクスヘリコプターですが、韓国海軍で
は1991年以降、25機が導入され、「広開土大王」級駆逐艦、「忠武
公・李舜臣(イ・スンシン)」駆逐艦、「世宗大王」級イージス艦
と言った、大型の艦艇に搭載されています。導入以降、19年に亘り、
喪失事故はありませんでしたが、ここへ来て連続で事故が発生した
原因として、上記の記事にある通り、一部部品の供給停止によって
とも喰い整備を余儀なくされているという事情があるのかも知れま
せん。(国防部長は、部品供給に問題ないと発言したという報道も
あるが、韓国は従来からとも喰い整備を色々な装備で行っている。)

いずれにしても、今回の事件で、現状の対潜装備では、重装備の哨
戒艦ですら、北朝鮮の小型潜水艦にすら対応できない事が明らかに
なった訳で、且つ、その対潜装備が、哨戒艦とフリゲート艦の標準
装備になっていた事を考えると、今後、韓国海軍は、艦載対潜シス
テムや対潜哨戒機、対潜ヘリコプター、SOSUS網と言った対潜装備
全体の再構築を余儀なくされている様に考えられます。


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2010年4月19日月曜日

宇宙政策の大転換を行ったオバマ大統領

※写真は、NASA Webサイトから転載

30年代に人類火星軌道に
新型船で小惑星探査も-オバマ米大統領が宇宙政策演説


オバマ米大統領は15日、航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センター(フロリ
ダ州)で新たな宇宙政策について演説し、「わたしたちは2030年代半ばまでに
人を火星の軌道に送り込み、地球に安全に戻すことができると信じている」と
述べた。火星軌道到達に成功すれば、その後火星着陸を目指すとした。

オバマ大統領は「月には到達した。宇宙には探査すべき場所が多くある」と述
べ、アポロ宇宙船で果たした月の有人探査を超え、火星有人探査を目標にする
ことを明示した。

大統領は2月、前政権が策定した月有人探査計画(コンステレーション計画)
を予算超過や遅延を理由に打ち切ると発表。年内にスペースシャトルが退役す
ることもあり、議会や宇宙産業界から雇用喪失や技術力低下への懸念が高まっ
ていた。

大統領は宇宙政策の概念を「より早く、頻繁に宇宙へ出て、低予算でより遠く
まで到達し、長期間滞在できるような技術を開発する」と説明。新政策の下で、
今後10年間でより多くの宇宙飛行士を宇宙に送り出すとした。

計画では、30億ドル(約2800億円)以上を投じて、2015年までに新たな打ち上
げロケットを設計し、その後建造に着手。大統領は「2025年までに新型宇宙船
により、月を超えた有人飛行を開始し、史上初めて小惑星に宇宙飛行士を送り
込み始める」と強調した。このほか、2015年までの予定だった国際宇宙ステー
ション(ISS)の運用を「5年以上延ばす」とした。また、「宇宙ステーション
への輸送を容易にするために、民間企業と連携する」と述べた。

(時事通信 2010/04/16)


米国の有人宇宙計画に大幅な見直しが行われる事になりました。
かねて有人宇宙計画に関する大統領諮問委員会のレポートなどでそ
の概要は明らかになっていましたが、単純にそのまま適用してしま
うとフロリダ州など、宇宙計画が大きな雇用を生み出している州へ
のインパクトが大きい事から、既存計画の一部を復活させた事と、
火星軌道到達という多少夢のある計画を追加した事が相違点である
と言えるでしょう。

ただ、根幹にあるのは、宇宙への人と物の輸送をNASAによるものか
ら民間打ち上げに委ねるという考え方で変わっていません。また、
既存のコンステレーション計画の中で、生き残ったのは、ISS(国際
宇宙ステーション)の緊急脱出装置に用途変更されたオリオン宇宙
船の司令カプセルのみで、開発が遅延していた有人打ち上げロケッ
トである、アーレス1は開発中止になりました。また、ヘビーリフ
ターと呼ばれる超大型物資打ち上げロケットであるアーレス5は、
一旦リセットされ、今後5年で設計の見直しを行うという事で、事
実上キャンセルとなりました。

ヘビーリフターに関しては、今後5年間、民間輸送事業の実績を見
定めた上で、小惑星などの地球近傍目標や火星へ到達する為に必要
となるロケットをヘビーリフターで一気に地球から直接打ち上げる
のか、それとも、民間打ち上げサービスを使って何回かに分割して
打ち上げ、打ち上げたモジュールを軌道上で組みあげる事で、構成
するのかを後日決定するという事であろうと思われます。

この宇宙計画の評価ですが、それなりに合理的であると言えると思
いますが、全ては、民間打ち上げサービスの成果にかかっていると
言っても過言ではありません。シャトルの打ち上げコストが、現状
では一回当たり500億円かかっているのに対し、民間打ち上げサー
ビスでは、人員打ち上げが一人当たり20億円、物資打ち上げが、10
トン当たり、50億円程度を目標にしています。シャトルの打ち上げ
能力に換算すれば概ね200億円前後になる計算で、上手くいけば確
かに打ち上げ費用は半分以下になります。しかし、ISSへの輸送機
として予定されている民間打ち上げサービスも、確かに初の打ち上
げに向け、準備は着々と進んでいるものの、実績という点では、現
状は、まだゼロであるとしか言えません。

以前にも、宇宙への輸送手段をシャトルに集中した結果、その開発
遅延や事故が米国の宇宙政策全般に大きな影響を及ぼすという結果
になりました。その点で、民間打ち上げサービスについては、二社
のサービスを利用する事で、同時に打ち上げサービス全てが止まる
事による影響を回避しようとしていますが、それでも、それだけで
大丈夫なのかという疑問が晴れるのは、民間打ち上げサービスが軌
道になってからにならざるをえず、その二社に莫大の補助金を投入
する事の是非も含め、それまでは、どうしても、一定のリスク要因
を抱えながら走る事になります。

また、アポロの技術でも実現できたであろう地球近傍目標は別にし
て、2035年という火星軌道到達目標期限も、野心的とは全く言えな
い様に思います。この2035年という目標は、1903年のライト兄弟の
初飛行から1969年のアポロの月着陸までの期間である66年を1969
年に加えた年ですが、アポロがいかに国家威信をかけて推進された
プロジェクトであったとはいえ、ライト兄弟のフライヤーとアポロ
の相違とアポロと火星軌道探査船の相違を考えると、月着陸後、火
星軌道到着までに要した時間が如何に長かったか、また、人類の宇
宙技術分野の進歩が如何に乏しかったかを実感せざるを得ない様に
思います。

それに加えて、オバマ大統領が、コンステレーション計画を破棄し
た様に、今後25年間、今回の計画が生き残る可能性は、限りなくゼ
ロに近いと言わざるを得ません。もし、今回の計画が25年間生き残
ったとすれば、その時にも、恐らくは存命であるオバマ前大統領は、
自らの計画の正しさを自賛するでしょうか?それとも、後任の大統
領の覇気の無さを憂うのでしょうか?興味は尽きません。


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