※ロシアのスパイ容疑者。Reuter Webサイトより転載
外交問題に発展せず ロシアのスパイ訴追で米大統領報道官
ギブズ米大統領報道官は29日の定例記者会見で、連邦捜査局(FBI)がロ
シアのスパイとして11人を訴追した事件について「(米露2国間の)関係に
影響を及ぼすとは思わない」と述べ、外交問題に発展する可能性を否定した。
ギブズ氏は、オバマ政権発足後に両国関係は、新たな核軍縮条約「新START」
に調印するなど大きく改善したと指摘し、事件は「司法機関が適正に処理した」
と強調。オバマ大統領は事件の概要について事前に説明を受けていたという。
米国務省のゴードン次官補(欧州・ユーラシア担当)は「情報機関を使った古
い企ての名残があったからといって、誰も大きなショックは受けないだろう」
と指摘し、米露間で依然としてスパイ活動が続いていることを暗に認めた上で
「さらに信頼できる関係に向かっている」と強調した。
(産経新聞 2010/06/30)
露「スパイ団」摘発 核情報など収集か
米司法省は28日、ロシアのスパイとして米国内で核弾頭の開発計画情報など
を収集していたとして、男女の容疑者10人を逮捕し、1人の行方を追ってい
ると発表した。
11人は訴追されており、司法省はロシア対外情報局(SVR)のスパイだと
指摘。小型核弾頭の開発情報収集や、米中央情報局(CIA)への就職希望者
の背後関係調査などを行った疑いがあるとしている。
容疑が事実なら、冷戦終結から20年が経過した後も、映画さながらのスパイ
活動が続いていたことになる。米露関係に微妙な影を落としそうだ。
司法省によると、連邦捜査局(FBI)が2009年、ロシア側からメンバー
に送られた「米国の政策決定人脈に食い込み、情報を送れ」との暗号文を解読。
捜査の結果、27日にニューヨーク州やバージニア州で一斉に10人を逮捕した。
マネーロンダリング(資金洗浄)に関与した疑いももたれている。
訴追記録や米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)によると、逮捕された10
人はカップル5組。10年以上前からニューヨーク郊外やボストン、シアトル
などに偽の身元で居住し、地域に溶け込んでいた。FBIは7年以上前から監
視してきたという。
(産経新聞 2010/06/30)ロシアのメドベージェフ大統領がカナダで行われたサミットからの
帰国の途についたと同時に発表されたのが、今回の「スパイ団」の摘
発です。
ソ連崩壊による混乱で、ロシアの米国に対する諜報活動は二つの要
因で活動レベルが低下しました。その一つは、共産主義イデオロギ
ーに対する信頼の崩壊であり、二つ目は、諜報活動予算の不足です。
西側諸国の社会民主主義勢力や進歩的知識人の中には、マルクス・
レーニン主義を信奉する共産党シンパが、多数存在したのですが、
ソ連の崩壊により、ロシア自身が共産主義を放棄した事でロシアを
奉じる意味がなくなりました。これによりロシアの諜報活動の基盤
が大きく損なわれる事になりました。それに輪をかけたのが、ロシ
ア連邦発足後の政治的経済的混乱です。その中で、諜報組織そのも
のが改廃され大混乱を来たしました。当然ながら諜報活動に使われ
る予算は、大幅に不足したといわれています。イデオロギーに依拠
した諜報活動ができなければ、金銭が媒介した諜報活動が必要にな
りますが、予算不足ではそれも不可能になります。
今回摘発されたロシアのスパイ組織は、10年以上前から活動を行っ
ていたようですが、それは、くしくもプーチンの台頭と軌(き)を一
(いつ)にしています。ロシアの国内の混乱を収束させ、資源輸出に
よる経済発展を軌道に乗せたのはプーチンの手腕ですが、自身が情
報機関KGBの出身であり、政権にKGB出身者を多数登用した事
もあり、諜報機関の組織立て直しが行われ、予算もそれ以前と比べ
相当に潤沢になったと考えられます。その様な背景の中で、今回の
スパイ組織が米国に設置されたのではないかと思われます。
今回のロシアのスパイ訴追に関し米大統領報道官は、外交問題への
発展を否定しましたが、それもその筈です。過去7年間、FBIは
スパイ組織を監視していたと言いますが、それが監視だけで留まっ
ていたという理由はありません。常識的に考えれば、協力者として
接近したり、逆スパイを潜入させたりで、そのスパイ組織を通じ、
本物、偽者を問わず、米国がロシアに、知らせたい情報を流してい
たものと思われるのです。今回の摘発は、まさにそのスパイ組織の
利用価値がなくなったからこそ、行われたものであると考えられます。
今回の摘発でロシアの対外情報局(SVR)は、このスパイ組織か
ら上がってきていた全ての情報の真偽とその情報が流れた意図につ
いて、詳細な分析を行わなければならないなりました。恐らくは、
一時的にではあっても、スパイ団摘発によって対外情報局は半身不
随になる筈です。その意味では、この事件の一番の火の粉は、対外
情報局に降りかかったと言えそうです。恐らくは、それも米国は計
算した上で公表したと考えられます。
こういった外国による諜報活動は、日本にとっても無縁な話ではあ
りません。日本はスパイ防止法もないスパイ天国であるのは周知の
事実です。警察や自衛隊はもとより公安調査庁と言った公安組織の
内部情報すら、中国や北朝鮮には、筒抜けであると言われています。
その意味で、日本は、「情報に関する透明性を持った国」であると
言われます。これは当然の事ながらほめ言葉ではありません。情報
管理の出来ない無責任国家という評価なのです。元CIA長官であ
るゲーツ国防長官が何故あれ程、F-22ラプターの日本への輸出に反
対したのかも、そう考えれば容易に理解できます。
今回の事件は、いみじくも、冷戦後も活発に続く、各国の諜報活動
の実態の一端を赤裸々に見せてくれたニュースであり日本にとって
も対岸の火事ではないと思われるのです。
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