2010年5月21日金曜日

祝 H2A F-17金星探査機「あかつき」打ち上げ成功!

※写真は、読売新聞Webサイトから転載。

金星探査機「あかつき」を打ち上げ

「H2A」17号機が21日午前6時58分、鹿児島県の宇宙航空研究開発機
構(JAXA)種子島宇宙センターから打ち上げられた。約27分後、あかつ
きを分離し、予定軌道への投入に成功した。

あかつきは約半年間の飛行を経て、今年12月に金星へ到着。金星上空を1周
約30時間で周回し、約2年間にわたり大気の観測などを行う。

打ち上げは当初、18日の予定だったが、天候不良で3日延期された。あかつ
きの開発費は約146億円、H2Aの打ち上げ費(打ち上げ延期による追加分
を除く)は約98億円。

あかつきは赤外線や紫外線などで異なる高度を観測する5台のカメラを搭載。
金星全体を覆う硫酸の雲や秒速約100メートルで吹き荒れる暴風などを調べ、
謎に包まれた大気のメカニズムを解明する。

日本が惑星探査機を打ち上げたのは平成10年の火星探査機「のぞみ」以来2
度目。のぞみは打ち上げ後の不具合などが原因で火星周回軌道への投入に失敗
した。

17号機はあかつきのほか、小型ソーラー電力セイル実証機「イカロス」など
計5基の小型衛星を搭載した。イカロスは宇宙空間で“帆”に相当する約14
メートル四方の樹脂膜を展開。太陽光が持つ微弱な圧力を受けて飛行する“宇
宙ヨット”で、成功すれば世界初の飛行技術になる。

H2Aの打ち上げは今回で11回連続の成功。信頼性を一段と高め、商業衛星
打ち上げビジネスの新規受注に向けて前進した。

(産経新聞 2010/05/21)


H2Aの17回目の打ち上げが成功しました。H2Aとしては連続
11回。H2Bも含めれば連続12回の打ち上げ成功になります。
今更、表題に「祝」と書くのは、JAXAや三菱重工の関係者に失
礼かも知れませんが、ロケットの発射は、いつまでたってもハラハ
ラドキドキです。

さて、今回打ち上げられたのは、金星気象観測衛星とも言える金星
探査機の「あかつき」です。
「あかつき」は、元々はH2Aではなく、一回り以上も小さい打ち
上げロケットであるM-Vによって打ち上げる予定であったので、
打ち上げ重量が500kgしかありません。本体とSRB-A2本の
H2Aとしては最小構成である202構成でも、打ち上げ重量に余
裕があるので、主衛星の「あかつき」以外に、副衛星とも言える重
量310kgの小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS」の他、
ピギーパック衛星を4機搭載しています。この内3機は、地球軌道
に留まりますが、一機は、金星軌道まで飛行する事になります。

「あかつき」と「IKAROS」については、各々、エントリーを
書いています。

「金星大気の謎を探る「あかつき」」
http://ysaki777.iza.ne.jp/blog/entry/1290781/

「金星探査機「あかつき」、宇宙帆船「イカロス」打ち上げ日決まる」
http://ysaki777.iza.ne.jp/blog/entry/1493369/

今回は、金星軌道まで飛行するピギーパック衛星を取り上げます。
この金星に向かって打ち出されるピギーパック衛星は、世界初の大
学開発の深宇宙衛星でUNITEC-1という名前です。(打ち上
げ後、「しんえん」という愛称がつきました。)
衛星のサイズは、縦横高さが各々40cmの立方体で、重量は21kg。
通常のピギーパック衛星の10倍以上の規模となっています。

搭載しているのは、全国22の大学宇宙工学コンソーシアム所属の
大学・高専からコンペで選ばれた6校(東京理科大学、北海道工業
大学、高知工科大学、東北大学、電気通信大学、慶応義塾大学)が
各々製作したUOBC(電力,体積,重量,ミッション内容等の制
約のついたコンピュータ)で、金星への旅で、その生き残り競争を
行おうというものです。

ピギーパック衛星にとっては地球軌道ですら、生き残る上では、な
かなか厳しい環境ですが、地球軌道を離れた深宇宙環境は、更に条
件が厳しくなります。

サクセスレベルは、まず、ミニマムサクセスとして衛星を共同で開
発し,打ち上げ,そして電波の受信に成功することになっています。
フルサクセスは予定された通信可能期間、UOBCの試験結果を受
信・解読できることです。エクストラサクセスは、フルサクセスの
期間より更に二ヶ月以上、UOBCの試験結果または放射線カウン
タのデータを受信・解読できること となっています。

大学や高専、一般企業が、キューブサットと呼ばれる超小型衛星を
打ち上げる事は、珍しくなくなってきましたが、今回は、初の金星
軌道への旅になります。まずは、生き残り競争が成立する為の条件
であるミニマムサクセスが達成される事を祈りたいと思います。

UNITEC-1ウェブサイト
http://www.unisec.jp/unitec-1/ja/top.html

UNITEC-1運用フォーラム
http://arvireo35b.sakura.ne.jp/forumunitec1/index.php


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2010年5月20日木曜日

韓国哨戒艦沈没 中国の非協力で韓国民の恨はどこへ行く

※図は、朝鮮日報Webサイトより転載

哨戒艦沈没:外交通商部の説明に中国大使欠席

哨戒艦「天安」の沈没事件をめぐり、合同調査団による調査結果発表が20日に
予定される中、中国は韓国に対し、さまざまな方法できまりの悪さを表現して
いる。

事件原因が北朝鮮による魚雷攻撃だとの結論を出した韓米が、首脳間の電話会
談やクリントン国務長官の訪韓などで、強固な協調体制を維持していることに
対し、中国が拒否感を表明したと受け止められている。

韓国政府は19日、調査結果を共有してきた米国を除く、中国、日本、ロシア、
英国、フランスなど約30カ国の大使を外交通商部に呼び、事前説明を行う方針
だが、中国の張シン森駐韓大使は欠席を伝えてきたという。

中国は、張大使より格下のケイ海明公使が出席すると外交通商部に伝えてきた
もようだ。張大使本人の判断ではなく、中国政府の考えを反映しているとみら
れる。韓国政府の当局者は「大使の出席が難しければ、公使が出席するのが慣
例だ」と話したが、別の当局者は「張大使に直接調査結果を聞いてもらいたい」
と述べた。

韓国政府は先月30日、韓中首脳会談で事前に調査結果を説明すると中国側に伝
えたが、中国は形式を問題視し、結果通知を拒んだとされる。中国は韓国の玄
仁沢統一相が今月4日、公の席で張大使に「中国政府の責任ある役割が重要だ」
と語った点を挙げ、「完全な非公開形式でなければ、調査結果を聞くことはで
きない」との立場に固執しているという。このほか、中国は外交ルートを通じ、
「北朝鮮による仕業だという確実な証拠はない」「この事件は基本的に南北関
係の問題にすぎない」といった立場を伝えてきたという。

北京の消息筋は「中国がややこしい条件を設け、『天安』の事件調査結果に対
する事前通知を先送りしようとするのは、今回の事件に対する中国の見方と無
関係ではないはずだ」と指摘した。中国は今月15日、韓中外相会談でも、「科
学的かつ客観的調査」を求めるとするこれまでの立場を繰り返すにとどまった。

中国の奇妙な動きは、張大使による17日の国会訪問からも感じ取れた。張大使
は同日、赴任あいさつのため、民主党指導部には会ったが、ハンナラ党は訪ね
なかった。外国大使の就任あいさつは通常、与野党を同時に訪問するか、与党
を先に訪ねるのが慣例だ。張大使は民主党を訪れた席上、「『天安』の事件が
誰の仕業かについては明らかな証拠がないようだ」とも述べた。ハンナラ党は
「正式就任前にあいさつに来るとの打診はあったが、それから特に連絡はない」
と説明した。

在韓中国大使館は、「民主党訪問は、日程の関係で先になっただけだ。ハンナ
ラ党訪問に関しては、特に明らかにすべきことはない」とコメントした。しか
し、中国が意図的に与党を無視し、「天安」事件で立場が似ている野党を先に
訪問したのではないかとの憶測が生じている。

(朝鮮日報 2010/05/20)

日本「天安問題に関して韓国と米国を支持」
中国「客観的な調査が必要」


韓中日3カ国の外相は、15日と16日の二日間にわたり慶州で会談を行い、哨戒
艦「天安」の沈没問題とその対応策について意見を交換した。

天安が北朝鮮の魚雷攻撃によって沈没したという暫定的な結論を下した韓米の
見方に対し、日本は支持と協力の意向を明確にした一方、中国は北朝鮮の関連
性については触れず、3カ国の間で立場の違いがあらわになった。天安問題を
取り巻く各国の立場の違いは、「韓米日VS中国」という形に固まりつつある。

日本の岡田外相は16日の韓日外相会談で、柳明桓(ユ・ミョンファン)外交通
商部長官に対し、「韓国政府は非常に困難な状況の中で、客観的かつ科学的に
調査を行っていることを高く評価したい」と述べたという。これは、外交部の
金英善(キム・ヨンソン)報道官が明らかにした。日本は20日に予定されてい
る事故調査の発表後、北朝鮮に対する韓米の対応策について、経済制裁など日
本の協力が必要な分野があれば、協力を惜しまないとの立場も明確にしたという。

しかし、中国の楊潔チ外相は15日の韓中外相会談で、天安事故に対する哀悼の
意を表しながらも、「科学的かつ客観的な調査を行うことが重要だ」と述べ、
この問題に対する中国の立場を繰り返すにとどまった。また、北朝鮮が関与し
た可能性についても言及しなかった。

(朝鮮日報 2010/05/17)


韓国は、本日、哨戒艦「天安」の沈没原因として北朝鮮の潜水艦
(潜水艇)による魚雷攻撃であった事を公開しました。
この証拠として、
①引き上げられた船体から検出された爆発物を分析した結果、東側
 で広く使用されているRDXという爆薬である事が判明した事。
②現場に残っていた魚雷の残骸が、以前に回収された北朝鮮の訓練
 用魚雷と材質が一致した事。
③底引き漁船が現場から引き上げた魚雷の残骸が発見され、そのス
 クリューシャフトにハングル文字の番号が記載されており、これ
 が訓練魚雷に書かれたそれと同種のものである事がわかった事。
とされています。

李明博政権が、この原因調査を海外の専門家も含めた官民合同調査
委員会にゆだねた事は、原因判断に対する高い透明性を与えたとニ
ューヨークタイムズは評価しています。しかし、過去、北朝鮮から
数度に亘る攻撃やテロを受けている韓国の軍艦が、国境付近で突然
沈没し、状況証拠が十分ある中で、最初は事故として処理しようと
したり、時間がかかる事を承知で、国際的な原因調査チームを組成
した事は、軍事報復のオプションを最初から投げていたと評価でき
ます。その後、46名もの死亡が確認され、その遺族を中心とした
世論が沸騰してきた為、韓国政府も拳を上げざるを得なくなったと
言えます。

李明博政権は、今後、米国や日本と共同で、国連の安全保障理事会
を通じ北朝鮮への追加制裁を行おうとするでしょうが、一番軽い安
保理の議長声明ですら、北朝鮮の同盟国としての立場から振舞おう
としている中国の同意が必要です。しかし、中国が、北朝鮮に対す
る安保理の処置を可能な限り軽いものに留め様としている事は上記
の記事からもほぼ確実であると言えます。

4月に突然行われた金正日の中国訪問が予定より一日早く終了した
事で、中朝交渉の不調の噂もありましたが、金正日は、精力的に中
国諸都市を見学し、改革開放のポーズを取る事で、一番欲しかった
体制の保障を中国が再確認したので、早々と訪問を打ち切ったと考
えるのが正しかった様です。

そう考えれば、北朝鮮が、自国の犯行を認める訳もなく、また、中
国は、韓国の原因調査で北朝鮮の犯行と断定できないと安保理で主
張し続ければ、国連を通じた制裁は骨抜きにならざるを得ません。
米国は、韓国の立場を支持するでしょうが、アフガニスタン安定化
やイラン制裁問題を抱え、更に北朝鮮にまで戦線を広げる事はさけ
たい筈です。

恐らくは、時間だけが過ぎていき、事件は、時の流れの中に風化し、
最終的に北朝鮮を非難する安保理議長声明が気が抜けたタイミング
で行われる程度で、幕引きが行われるのではないかと思われます。
また、李明博政権は、北朝鮮に、G20の邪魔をさせない事を釘を
さす程度で、矛を収めるのかも知れません。最終的に残るのは、攻
撃を受け、大した報復もできずに泣き寝入りとなる韓国民の恨とい
う事になりそうです。


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2010年5月19日水曜日

中国には難しすぎた? Su-27のコピー機に欠陥



http://www.defence.pk/forums/china-defence/43179-update-j-11b-project.html
より転載

コピーに失敗?中国新戦闘機

中国軍系国有航空機メーカーが生産した新型戦闘機「殲11B」16機が飛行
時の異常振動などのために軍側に受け取りを拒否されていることが17日、分
かった。中国の軍事動向に詳しい専門誌「漢和防務評論」(本部カナダ)最新
号(6月号)が伝えた。

「殲11B」は中国側がロシアの戦闘機「スホイ27」の技術を基に開発した
とされ、ロシア側と知的財産権をめぐりトラブルになった経緯があるが、技術
転用に失敗した可能性がありそうだ。

製造したのは遼寧省にある「瀋陽航空機」で、2009年に16機生産。しか
し、納品の直前に空軍パイロットがテスト飛行したところ振動があり、受け取
りを拒否した。

(産経新聞-共同 2010/5/17)


「殲11B」については、採用されたステルス技術について、朝鮮
日報が報道していた事もあり、そのレベルについて評価したエント
リーを書いた事があります。

「中国製ステルス機のステルス度合いを計ってみる」
http://blogs.yahoo.co.jp/ash1saki/51432549.html

また、中国が空母艦載機としてロシアのSu-33に相当する機体
を「殲15」を開発している事を取り上げたエントリーも書いています。

「中国空母艦載機「殲15」の完成度」
http://blogs.yahoo.co.jp/ash1saki/61553995.html

今回のエントリーは、その続きの様な感じになります。

「殲11B」は、中国がSu-27SKをライセンス生産した時に
取得した技術や設計書類に基づいて、Su-27SKの設計を変更
し、搭載能力を強化した機体です。外形は、Su-27にそっくり
ですが、武器搭載用のハードポイントを14箇所に増やした他、そ
れに応じて機体強度の強化を行っています。また、アビオニクスや
レーダーなども西側の技術を使って強化しています。更に、RCS
低減対策を図る事によってそれを五分の一にすると同時に、整備、
保守性を向上する対策も取られているとされます。

Su-27は素性の良い機体で、本家のロシアもSu-27をベー
スにSu-30やSu-33、Su-35といった各種の発展型が
開発されていますが、「殲11B」もその眷属と言えます。

報道によれば1997年頃からSu-27SKをライセンス生産し
ていた瀋陽航空機で「殲11B」の開発に取り掛かったと伝えられ
ています。中国の生産体制がどの様になっているか判りませんが、
量産試作あるいは初期量産型の16機について、部隊受領試験の段
階でフラッターと思われる機体の振動が発生し、受領が拒否された
と思われます。

通常の場合、機体開発では、量産期に先行して試作機が作られ、こ
れを使って各種の試験飛行が行われ、機体の欠陥や設計不良が、洗
い出されます。機体の振動が設計不良に起因するものであれば、こ
の段階で発生しているのが判っている筈です。それをクリアした上
で、量産に入った後、異常振動が発生したとすれば、それは製品製
造に関連する問題である可能性が高いと思われます。

①量産機用部品生産上の問題
 試作機では、特別に製造された部品であったが、量産用に製造さ
 れた部品の加工精度が十分でなかった。
②量産機用部品材質の問題
 上記と同じく、部品や部材の材質が量産機と試作機では異なり、
 強度が変化した事で振動が発生する様になった。
③国産化部品を使用する事の問題
 「殲11B」の国産化率は50%とされていますが、この国産化
 率を高める過程で、部品品質が悪化した。その結果①、②が発生。

量産機になってから一律に、振動が発生したのであれば、②または
③の問題である可能性が高いかも知れません。

最近でこそ中国の生産技術は急速のそのレベルを向上させています
が、それは、まだまだ、外資が管理している製造会社や、外資が技
術移転をした範囲に留まっています。その点で、今回「殲11B」
を製造した国営企業の「瀋陽航空機」が、どの程度の品質管理水準
にあったのか興味深く思われるのです。


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2010年5月18日火曜日

20SS(平成20年度計画潜水艦)は、革命的な艦になるか?

※写真は17SS「うんりゅう」。朝雲新聞社Webページより転載

20SS(平成20年度計画潜水艦)は、そうりゅう型潜水艦の五番艦とな
る潜水艦です。そうりゅう型自体が、通常動力潜水艦としては世界
最大の艦であるだけでなく、各種の新機軸を装備した最新鋭艦です
が、20SSは、更に大きな自由度を潜水艦に与える注目すべき新技術
が採用される事になっています。

但し、そうりゅう型潜水艦の五番艦という位置づけから判る様に、
表面的なスペック上は、1番艦から4番艦までと変わる事はありま
せん。武装も火器統制システムもソナーも変わる事がありません。

その新技術は何で、どの様な利益をこの艦に与えるのでしょうか?
実は、この艦から採用されるという新技術は、我々には、既に、耳
慣れた技術です。リチウムイオン電池というのが、この艦から採用
される新技術です。如何ですか、がっかりされたでしょうか。

ノートパソコンの電池にはもう大分前からリチウムイオン電池が採
用されていますし、電動自転車のバッテリーでも既に一般的です。
しかし、ハイブリッド自動車には、まだまだリチウムイオンの採用
は進んでおらず、主として安全性やコスト面での有利さもあり、ト
ヨタのプリウスやホンダのインサイトではニッケル水素電池が使わ
れています。大容量の二次電池として、リチウムイオン電池は、ま
だまだ一般的とは言えないのです。但し、ニッケル水素電池と比べ、
リチウムイオン電池は、ポテンシャルが非常に高い事もあり近い将
来、電池自動車では、確実に主流になると見込まれています。

その大容量リチウムイオン電池を世界に先駆けて潜水艦用の蓄電池
として実用化したのが海上自衛隊であり、その採用第一号が、20SS
と言う訳なのです。この大容量リチウムイオン電池と潜水艦用蓄電
池プラントの開発は、平成14年から平成17年にかけて研究開発及び
試験が行われました。

では、20SSの装備するリチウムイオン電池は、潜水艦の性能をどの
様に変えるのでしょうか。潜水艦には、その最初期から蓄電池とし
ては鉛蓄電池が採用されてきました。この理由は、コストが安く、
大量に生産でき、短時間で大電流放電させたり、長時間緩やかな放
電を行っても比較的安定した性能を持ち、メモリー効果もなく、長
寿命であるという非常にバランスの取れた電池性能を実現していた
からです。

リチウムイオン電池が鉛蓄電池に勝るのは、一にも二にも、取り出
せる電気の量が多く、電気の充電に急速に行う事ができるという点
にあります。電池が単位容積当りどの程度のエネルギーを蓄えられ
るかは、エネルギー密度という単位で計りますが、鉛蓄電池が1㍑
当り60-75Whを蓄えられますが、リチウムイオン電池の場合は、こ
れが、200Wh以上、今後の技術進歩によっては600Wh~700Whにもな
る潜在力があると評価されているのです。

今回採用されたリチウムイオン電池がどの程度の性能を持つかは明
らかにされていません。公式には2倍以上となっていますが、おそ
らく3倍近い能力をもっているものと思われます。(一般の電動自
転車用のリチウムイオン電池が240Wh/Lなので、この程度は達成し
ていると思われます。)

潜水艦は水中では、シュノーケル状態でなければディーゼル主機を
動かす事はできません。そうりゅう型の場合は、スターリング機関
がありますので、低速度(5kt程度)であれば、かなりの長期(二週間
程度)に亘って行動する事ができますが、それでも高速力を出す事
はできません。従来の鉛蓄電池では、一時的には、20kt超の水中速
力を出す事は可能でしたが、それはごく短時間しか許されませんで
した。(この場面で20ktを10分、そこからあちらに動いてから20kt
を5分というような感じだそうです。)

リチウムイオン電池になってもそういう制約は残りますが、高速力
を出せる時間が、2倍~3倍に改善される事は大きな意義がありま
す。潜水艦としての運動性能は大幅に改善する事になります。

また、速力を出す場面でなくとも、大容量の電力を蓄積しているの
で、従来に比べれば、水上やシュノーケル状態で充電する必要が減
少します。それによって敵に探知される機会が減少する事になり、
生存性が向上する事になります。

また、電池そのものの形状は、従来の鉛蓄電池とほぼ同じであるの
で、従来艦に対してもレトロフィットも比較的容易ではないかと考
えられます。もし、レトロフィットが容易であれば、海上自衛隊の
潜水艦全てに適用可能と言う事になり、既存艦の運動性能の向上と
生存性向上に役立つ事は疑いありません。リチウムイオン電池潜水
艦は、勿論、原子力潜水艦には及ぶべきもありませんし、U212級の
様な燃料電池推進艦と比較しても、スターリング機関と併用して漸
く対抗できるレベルなのかも知れません。しかし、それでも、最小
費用による戦闘能力向上が実現できるのは、喜ばしい事であり、自
衛隊潜水艦隊の実力を大いに高める事ができると思われるのです。


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昨日のエントリーに20SSには、リチウムイオン電池は搭載されてい
ないのではないかという指摘を頂きました。
改めて調べてみましたが、搭載されていないと明確に述べた資料は
資料はなかったものの、防衛省の予算関係資料で判る潜水艦の調達
費用を概算要求時と予算成立時を比べてみると、20SSについては、
リチウムイオン電池を搭載していれば、上昇する筈の船価が、逆に
前年に比べ、大きく低下しているのが判ります。
従って、おそらく20SSやそれ以降の艦にも、リチウムイオン電
池は搭載されていないと考えざるを得ません。
残念ですが、リチウムイオン電池の潜水艦への搭載はあくまで将来
計画と考えるべきだろうと思います。

     概算要求時 成立予算  差額
22SS 544億円 528億円 ▲16億円
20SS 540億円 510億円 ▲30億円
19SS 550億円 533億円 ▲23億円
18SS 577億円 552億円 ▲25億円
17SS 585億円 586億円 + 1億円
16SS ――――― 598億円 不明








2010年5月17日月曜日

少し異様な北澤発言 沖縄の地政学上の重要性は基地移転後も変わらない

※逆さ向き北東アジア地図。Google Mapの地図を一部改変

基地負担、沖縄より全国へ分散=政府の基本方針で―北沢防衛相

北沢俊美防衛相は16日午後、長野市で記者会見し、米軍普天間飛行場(沖縄県
宜野湾市)の移設に関する政府の基本方針について「鳩山由紀夫首相の考えで
(基地負担を)一部、沖縄にお願いせざるを得ないということを基本に、それ
をはるかにしのぐ形で負担を全国展開することの大枠を決定するのが、5月末
決着の大筋だ」と述べた。 

(時事通信 2010/05/16)


北澤防衛大臣は、鳩山政権の閣僚の中では、比較的まともと言われ
ていますが、この発言は、少し異様に感じてしまいました。

勿論、この言葉の前後にそれを説明する発言があるでしょうし、今
や沖縄の負担軽減云々の枕詞が無ければ、普天間問題を論じられな
いだろう事も常識的には、理解可能です。しかし、それにしても言
葉足らずである上、沖縄の戦略的な位置関係についてどの様に理解
しているのかと不思議に思われるのです。

そもそも、沖縄の地政学的な位置関係の重要性がなければ、これ程
までに、基地が集中する筈もなければ、沖縄の返還が70年代まで見
送られる事もありませんでした。(米国は本土復帰に際し、当時の
琉球政府に沖縄独立を示唆したとも言います。)

米国は、別に海兵隊のヘリコプター部隊の訓練場を探している訳で
はありません。単なる訓練場であれば、グアムやフィリピンでも良
かった筈です。それが沖縄でなければならないのは、将に、北東ア
ジアに安全保障の問題が生じた時に策源地として利用可能な出撃基
地を平時から準備する必要があるからこそ、普天間基地の移転と海
兵隊部隊のグアムへの移転がセットになっているのです。

上の地図を見ると、アジア大陸の勢力は、日本列島、南西諸島、先
島諸島、台湾と続く列島弧(中国流に言うと第一列島線)によって包
囲されているのが直感的に理解できると思います。
そして、沖縄が、その列島弧の中心にあって、この包囲網の要石の
位置にあるのが分かります。

被包囲側にあっては、ここを突破できれば包囲は意味をなさなくな
り、太平洋へ自由に出入が出来ると同時に、台湾、日本、朝鮮半島
有事の際には、それらの有機的な連携を阻害できる事になります。
(であるからこそ、左翼勢力が沖縄を離さないとも言えます。)

逆に、沖縄が包囲側にあって、防衛、出撃の策源地になっていれば
有事の際の連携には大いに有効であると言えます。これが沖縄駐留
の在日米軍が東アジアの安全保障上の大きな資産であると言われる
所以です。グアムやテニアン、日本本土ですら沖縄を代替する事は
できないのです。

これらを前提にすると北澤防衛相の「一部、沖縄にお願いせざるを
得ないということを基本に、それをはるかにしのぐ形で負担を全国
展開する」という言葉は、沖縄の軍事機能をごく一部を残して日本
に移して空き家同然にするという異様な決意に聞こえてならないの
です。


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