2010年10月8日金曜日

中国が嫦娥2号を月軌道に投入

※CGはCNSA製作のものをSpaceflight Nowから転載

日本でも、中国の月探査機が月軌道に投入された事が簡単に報じら
れましたが、Spaceflight Nowに少し詳しい記事が掲載されました
ので抄訳します。

中国が嫦娥2号を月軌道に投入

地球を離れて五日、中国の二番目の月探査機は、水曜日の早朝、月を巡る初期
の軌道にすべりこみ、少なくとも半年に亘る科学観測の為の準備を整えた。
国営新華社通信によれば、無人の嫦娥2号オービターは、推進システムの噴射
をグリニッジ標準時で水曜の午前3時06分(東部夏時間火曜日午後11時06分)か
ら約30分行った。この噴射により、月の重力が嫦娥2号を捉え、周期12時間の
楕円軌道に載せる事になった。運用軌道である月面上空100km(60マイル)の軌
道に載せるまで、あと二回の減速操作が計画されている。

中国の報道機関によると、嫦娥2号は、最終的に月面から15km(9マイル)以内
に接近する予定である。

嫦娥2号は、グリニッジ標準時の10月01日11時に西昌発射場から長征3Cロケッ
トで打ち上げられたが、これによって5500ポンドの衛星を地球から月に到達さ
せる事になった。なお、10月01日は、中国共産党政権による61回目の建国記念
日であった。

嫦娥2号は112時間で地球から月に到達したが、これは2007年に嫦娥1号が月
に到達した時と比べ、半分以下の時間となっている。中国の先駆的なオービタ
ーである嫦娥1号は、月への旅に12日を要した。

嫦娥2号の打ち上げには、地球軌道から脱出する為の余分のエネルギーを供給
する液体燃料ブースター二基を搭載し、より強力な長征3Cロケットが使用され
た。長征3Cは、探査機をより高い軌道に投入したが、これは、嫦娥2号が、月
への旅の間に少ない燃料しか使用しないという事を意味する。
余分の燃料が、探査機のタンクに残された事で、6ヶ月の基本探査計画の期間
を超えて探査機の運用を行う事ができるようになる。

嫦娥2号は、嫦娥1号が失敗した場合の地上予備機として製作された。
新華社の報道によれば、嫦娥1号の解像度が400フィートであったのに対し、
嫦娥2号の画像の最高解像度は10m(32.9フィート)に達する見込みである。嫦
娥2号は、低い軌道を周回する事でよりシャープな映像を取得する事ができる。
中国当局は、嫦娥月探査計画の名前を月の女神からとった。

嫦娥2号は、2013年に予定されている中国の次の月探査計画であるロボット探
査機を月表面に軟着陸させる計画の着陸候補地の地図を作成する予定である。
中国の長期計画には、その他探査計画として、月から土壌や岩石を持ち帰るプ
ロジェクトがある。

新華社によれば、134百万ドルの月面探査の基本計画が終われば、嫦娥2号は
拡張探査フェーズに入る。中国当局は嫦娥2号の拡張探査フェーズについて三
つのシナリオを検討している。その中には、中国の技術者に地球から遠く離れ
た場所での探査機運用を経験させる為、探査機を月から離脱させ深宇宙へ送る
事が含まれている。また、新華社が、主任設計者として紹介しているHuang
Jiang chuan氏は、探査機の推進材は、嫦娥2号を地球軌道に帰還させる事も
できるとしている。また、嫦娥2号は、引き続き、月にあって、科学データを
送り続け、その後、月表面への着陸や衝突を行う事もできる。

なお、嫦娥1号は、2009年3月にその使命を終え、月に衝突させられている。

(Spaceflight Now 2010/10/06)



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2010年10月7日木曜日

下地島にE-2C配備を!

※尖閣諸島周辺地図。朝日新聞より転載

空飛ぶレーダーサイト、E2Cの沖縄展開を検討 防衛省

防衛省は航空自衛隊三沢基地(青森県)に配備されているE2C早期警戒機を、
定期的に空自那覇基地(那覇市)に展開させ同基地を拠点に一定期間運用する
検討を本格的に始めた。中国漁船の衝突事件が起きた尖閣諸島をはじめ南西諸
島に低空で航空機の侵入があった場合、沖縄県・宮古島にある最西端のレーダ
ーでは捕捉できないためだ。ただ、沖縄の基地負担が増えないように常駐配備
は見送る方針だ。

領空侵犯を警戒するため空自は、全国28カ所に置かれたレーダーサイトと
E2C早期警戒機、E767早期警戒管制機などにより24時間態勢で日本周
辺の空域を監視。最西端にあるレーダーが沖縄本島から約300キロの宮古島
に置かれている。

ところが、例えば、宮古島から約210キロ離れた尖閣諸島の上空では、低い
空域に航空機が侵入してきても、水平線の下になり宮古島のレーダーで探知で
きない「死角」が生じてしまう。防衛省幹部によると、尖閣諸島上空では高度
約2千メートル以下の空域が死角になっているという。宮古島から約230キ
ロ離れた日本最西端の与那国島周辺でもほぼ同様という。

このため、機体背面のレーダーで数百キロ離れた超低空での機体の動きを上空
から探知できるE2Cを3機程度、定期的に三沢基地から那覇基地に展開し、
上空から南西諸島の監視を強化する検討を本格的に始めた。沖縄側に部隊展開
への理解を求め、できるだけ早期に実施したい考えだ。

防衛省によると、南西諸島では沖縄本島以外には陸上自衛隊の常駐部隊がおら
ず、宮古島以西は「防衛上の空白地帯になっている」(同省幹部)という。
E2Cの展開は、9月に尖閣諸島沖で起きた中国漁船と石垣海上保安部の巡視
船の衝突事件の前から検討が進められていたが、省内では事件後、海上だけで
なく周辺の空域の警戒監視も一層警戒すべきだとの意見が強まっている。

空自機のほか海自機、民間航空機などと共用している手狭な那覇基地の実情に
加え、米軍基地が集中する沖縄の基地負担に配慮し、部隊を完全に那覇基地に
移すことは見送り、一定期間、三沢基地から那覇基地に展開する「ローテーシ
ョン」配備にとどめる方針だ。

空自幹部は「三沢基地を拠点に北海道周辺のロシア機への警戒監視も引き続き
必要だ。部隊ごと沖縄へ移すことはしない」と話している。

南西諸島周辺では07年9月、中国軍の中距離爆撃機が東シナ海で日本の防空
識別圏に入って日中中間線付近まで飛行したり、今年3月には同じ東シナ海で
Y8早期警戒機が飛行したりするなど活動が活発だ。09年度に沖縄を拠点と
する空自南西航空混成団の所属戦闘機が緊急発進(スクランブル)した回数は
101回で、過去5年で最も多かった。

「南西諸島の海空域の警戒・監視の充実」は年末までに策定される新たな防衛
計画の大綱でも重要項目の一つとして位置づけられ、首相の私的諮問機関「新
たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」の報告書も、離島の周辺海空域
での警戒監視の強化を答申している。

防衛省は8月31日に締め切られた11年度の概算要求の中で、日本近海での
中国軍の活発な活動を念頭に、沖縄県・与那国島などに陸上自衛隊を配備する
ための調査費(3千万円)を計上するなど南西諸島の警戒監視の強化を打ち出
している。

(朝日新聞 2010/10/06)


沖縄本島より尖閣諸島に近いのは宮古諸島ですが、実は、そこに
3000m級滑走路と計器着陸設備を備えた第一級の立派な飛行場があ
ります。それが下地島空港です。下地島は、宮古島の隣にある伊良
部島の西隣に位置し、6本の橋で伊良部島と繋がっており、事実上
伊良部島の一部となっています。

下地島空港は、日本国内唯一のパイロット訓練用の飛行場として設
けられた空港で、現在は国交省の管理下にあります。
近年は、航空会社はパイロット訓練にシミュレータを使う事が多く
費用がかかる実機訓練を行う機会は減少しているので、この空港が
使われる事は少なくなっています。

それもあって地元は、過去、自衛隊を誘致しようとした事もありま
す。隣の宮古島に空自のレーダーサイトがある事もあり、自衛隊へ
の感情は、悪くはなさそうです。

上記の記事では、那覇基地への配備が、今まで以上に地元負担が増
加するので「ローテーション」配備にとどめるとありますが、下地
島であれば、空港の利用度が低下しているだけに、那覇基地の様に
地元負担が問題になる事もありません。

位置的には、沖縄本島から尖閣諸島まで410kmあるのに対し、下地
島からは210kmであり、240kmも近く、基地から進出するのに1時間
近い差が出ます。E-2Cの無給油飛行時間は6時間ですので、 那覇
基地からだと二時間進出、二時間哨戒、二時間帰還というフライト
になりますが、下地島であれば、一時間進出、四時間哨戒、一時間
帰還というフライトが可能になります。

下地島に配備すれば、同じ一回のフライトで哨戒時間では二倍とな
り非常に効率が高い上、恒久配備とする事で、三沢基地との間でロ
ーテーションの必要もないのでE-2Cの本土との定期的な往復も発生
しません。その点でも、機材の効率的な運用が可能となる筈です。

この様に、国が保有する既存設備を有効利用する事は、民主党が目
指す行政の無駄を省く事と全く同じ意味があります。また、防衛省
が次期防で目指す、島嶼防衛の推進の上でも、下地島に自衛隊の航
空基地設置する事により先島諸島全体の防衛を、安価な費用で効率
高く実現する事ができると思われるのです。


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2010年10月5日火曜日

日本は中国を有人月面着陸に向かわせるべき?

中国人の95%が「月面有人着陸は日本より中国が先」探査衛星打ち上げで自信高揚 

中国は1日の国慶節(建国記念日)に合わせ、月探査衛星「嫦娥2号」を打ち
上げたが、これにより自国の宇宙開発技術に対する中国人の自信がおおいに高
揚したようだ。インターネットを通じたアンケート調査によれば、約95%の
中国人が「中国の有人宇宙船は日本より先に月面着陸できる」と考えているこ
とが明らかになった。

調査を実施したのは、中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時
報が運営するウェブサイト、環球ネット。

調査は打ち上げ当日の1日午後から始まり、4日未明までに約1万7千人から
回答が寄せられた。そのうち、中国の有人宇宙船は日本より先に月面着陸する
と考えている人は約1万6200人にものぼった。

アンケートの設問で、宇宙開発の競争相手として、最先端の技術を持つ米国で
はなく、日本が選ばれたのは、9月7日に尖閣諸島付近で起きた中国漁船衝突
事件以降、中国国民の間で日本へのライバル意識が高まったためとみられる。

中国の有人宇宙船が日本より先に月面着陸する理由としては「中国の宇宙開発
技術はすでに世界のトップレベル」「日本の技術は米国からもらっているので、
いつも最先端なものではない」など、いささか首をかしげざるを得ないような
主張も少なくない。

その一方で、「今の日本は確かに技術面で優れているが、中国には発展の勢い
があるので必ず追い越せる」「これからは日本と軍備競争が始まるので負ける
わけいかない」といった“冷静”な意見もある。

(産経新聞 2010/10/04)


日本も将来の人間型ロボット利用による有人月面探査をその長期宇
宙計画に含んでいます。しかし、その有人月面探査は、米国のコン
ステレーション計画を前提としたもので、自前で有人月ロケットを
打ち上げる事は、全く念頭にありません。その意味で、オバマ政権
がコンステレーション計画を破棄した事で、日本の有人月探査計画
はお蔵入りになったと言って過言ではありません。

米国が有人月探査を放棄した事により、有人月探査の長期計画を持
つ国は中国だけになっています。私は、個人的には、中国に是非、
有人月探査を実施して貰いたいと考えています。また、それ以前に
中国が無人探査を重ね、月周回探査から、月面軟着陸、そしてサン
プルリターンを是非実行して欲しいと思います。その様なステップ
を踏むことで、中国国内でも、宇宙計画の次の目標として有人月探
査への期待が高まり、実際にそれが実現する蓋然性が高くなると思
われるからです。また、中国にとってその国威発揚の効果は非常に
大きいと考えられるからです。

高い効果が望まれる有人月探査は、また、非常に多額の費用を要す
るものになる事が確実です。米国のアポロ計画は極めて合理的な計
画でしたが、当時の値段で100億ドル以上を要しました。現在の貨
幣価値に直せば、その数倍に達すると思われます。これは中国でも
変わりません。他国では、社会保障の要求もあるので有人月探査の
予算捻出は実現が難しいかも知れませんが、中国であれば、社会保
障を抑えても有人月探査を実現してくれるに違いありません。

月探査の実現をする事で、中国は、非常に多くの宇宙開発のノウハ
ウを獲得する事になります。しかし、その殆どは、宇宙開発用の突
端技術として、閉ざされた領域での技術開発となると思われます。

また、その技術を利用したスピンアウトも考えられますが、既に、
米国はアポロ計画を経験しており、中国が新たに保有する事になる
技術やノウハウも西側では既知のものである可能性が高いと思われ
ます。言い換えれば、アポロのスピンアウト技術で有用なものは既
に汎用化、商用化が実現されてしまっていると考えて差し支えない
筈です。

つまり、中国は、有人月探査を行う事で、アポロを追体験する事に
巨額の費用支出する事になりますが、それによって技術的な突破が
発生する可能性はかなり低いと思われます。そうであれば、中国の
月探査計画は日本にとって安全であり、中国にその国力を浪費させ
る事ができる訳で、日本にとって望ましい計画であると言えます。
ついでに言えば、米国がそうであった様に、中国が有人月探査と同
時に、地球上でも、ベトナム戦争の様な泥沼に足を突っ込む様なア
レンジが非常に望ましいと思われるのです。


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2010年10月4日月曜日

中国の軍事力 2010 第二章 (3)


中国の軍事戦略

人民解放軍の理論家達は、情報化の条件下での局地的な戦争で、戦闘を行い勝
利できる時間のかかる軍隊の建設を目標とするドクトリンに基いて改革への枠
組みを開発している。それらは、とりわけ不朽の自由作戦とイラクの自由作戦
を含む合衆国が率いた戦役での軍事的経験、ソ連とロシアの軍事理論、人民解
放軍自身の戦闘経験を踏まえた青写真に基づいた、軍事力の全ての領域を亘る
改革である。

改革のペースと規模は、広範囲で余す所のないものである。しかしながら、人
民解放軍は、近代的な戦闘を経験していないままである。作戦経験の欠如は、
中国の軍事改革の進展についての外部からの評価を難しいものにしている。
それと同様の理由で、中国内部から自身の軍事的能力を評価する事も難しいも
のとなっている。中国の軍人ではない指導者達は、近代的な戦闘の直接的経験
のない司令官達のアドバイスや、近代的な戦場の真実味を欠く「科学的」戦闘
モデルに頼らなくてはならない。

権威ある講話や文書の分析によれば、中国は、軍事力の使用と展開を計画し管
理する為の全体的な原則とガイドラインとして「新時代国家軍事戦略ガイドラ
イン」(新時期国家軍事戦略方針)に、従っている事を示唆されている。

作戦可能な、あるいは、ガイドラインの積極防衛の構成要素は、防衛的な軍事
戦略であり、中国は戦争を仕掛ける事や、侵略戦争を行う事はなく、国家主権
と領土保全の場合のみ戦争に関与すると定めている。

海上戦闘

「積極防衛」の海軍の構成要素は、「沿海積極防衛」と呼ばれている。2008年
の防衛白書は人民解放軍海軍を戦略的任務として記述し、「遠海」での作戦能
力を開発中であるとしている。人民解放軍海軍は三つの任務がある。海を経由
する侵攻に対する抵抗、国家主権の防衛、海上権益の保護の三つがそれである。
海洋作戦に対する人民解放軍海軍のドクトリンは、6つの攻撃と防御戦闘に焦
点をあてている。封鎖、海上交通路対する攻撃、海洋からの陸上攻撃、艦船攻
撃、海上輸送保護、海軍基地防衛の六つである。

胡錦濤主席は、2006年の海軍共産党会議での講話で、中国は「シーパワー」で
あり、「力強い人民の海軍は海洋の権利と利益を擁護する」と主唱した。
他の政治指導者や人民解放軍海軍士官の発言、政府の文書、人民解放軍報道機
関は、中国の経済的政治的な力は、海洋への接近と利用が可能であるかによっ
て左右され、強力な海軍は、海洋への接近を保証する上で求められるとしている。
中国から遠く離れた場所での任務に対する考慮が求められてきているが、海軍
は、台湾をめぐる合衆国軍隊との紛争の可能性を強調しながら第一列島線や第
二列島線の内部における作戦への準備に焦点が当てられている。これは北京が
受け入れ可能な形で台湾問題が解決しない限りは、正しい選択であろうと思わ
れる。

地上戦闘

「積極防衛」の下で、地上軍は、中国の国境を守り、国内の安定を確かなもの
とし、地域レベルの戦略展開を試みる事をその役割としている。地上軍は、割
り当てられた軍区の中で、地点確保戦闘、運動戦闘、都市部戦闘、山岳地戦闘、
沿岸防衛戦や上陸戦を行う静的な防衛軍としての存在から、中国の周辺地域で
戦闘可能な装備を持った、より積極的で大きな運動性を持った攻撃的存在に移
行している最中である。

2008年の防衛白書では、地上軍を地域防御軍から地域間移動な可能な軍隊に変
化してきていると記述している。地上軍の変革は、小さく、モジュール式で、
多機能、空陸共同作戦や遠距離移動が可能で、迅速な攻撃と特殊攻撃が可能な
能力を保有する単位を作り上げる事を目標にしていると述べている。人民解放
軍の地上軍の改革はロシアのドクトリンと合衆国軍隊の戦術にならって作られる。
地上軍は、統合した共同作戦を実行する臨時で、多機能な統合戦術編成の実験
を主導している様に見える。2009年の8月と9月に、各地の軍区から集められた
合計5万人以上の軍隊が、人民解放軍のこの種のものとしては、最初の大規模
機動演習となるKuayue(跨越)2009に参加した。

航空戦闘

人民解放軍空軍は、限定的な領土防衛用の軍隊から、合衆国とロシアの空軍を
モデルにした、沿海での攻撃的防御作戦が可能で、より柔軟で機敏な戦力に変
化している。焦点が当てられている主要な領域には、攻撃、対空対ミサイル防
御、早期警戒と偵察、戦略的機動が含まれている。人民解放軍空軍には、統合
対空戦での指導的な役割が割り当てられている。「統合対空戦」は、接近拒否
や地域利用拒否に関する中国の作戦計画の基礎を形作るものである。人民解放
軍の理論では、攻撃と防御の曖昧さを強調して、統合対空戦は、自ずから戦略
的防衛戦であるが、作戦レベルや戦術レベルでは、敵基地攻撃や敵艦船攻撃が
求められるとしている。

人民解放軍の新しい任務は、人民解放軍空軍の将来に関する議論を導く。即ち
中国の世界的な利益を保護する為には、人民解放軍空軍の遠距離輸送能力と補
給能力の増強が必要であるという全般的な合意が形成されている。中国から遠
隔地に航空戦闘部隊を展開するという要件については、あまり議論が行われて
いない。海軍の場合と同様に、次の10年における空軍の主要な焦点は、台湾と
東アジアの合衆国軍隊に対し、確実な軍事的脅威を齎す事ができ、台湾の独立
を変更し、あるいは北京の条件によって紛争を解決するよう台湾に影響を与え
る事ができる様な能力を建設する事である。

宇宙戦闘

人民解放軍の戦略家は、宇宙を近代的な情報戦闘の中心と見ている。しかし、
人民解放軍のドクトリンは、宇宙での作戦を、それ自体独立した作戦可能な
「戦闘」とは考えていない。寧ろ、宇宙作戦は、全ての戦闘に枢要な構成要素
であるとしている。人民解放軍の軍事理論誌「中国軍事科学」は、「情報化時
代の戦争の焦点は、宇宙に集中する事になる」と述べ「特に、宇宙に基礎を置
く通信、情報収集、航法システムは、多軍種共同戦闘を可能とし、更に調整を
可能とする事で、近代戦争を勝利する為に重要である」としている。

それと同時に、中国は敵の宇宙資産を攻撃する能力を開発しており、宇宙の軍
事化を加速している。人民解放軍の文書は、「敵の偵察、通信衛星を破壊し、
損害を与える」必要性を強調しており、偵察衛星、通信衛星、航法衛星、早期
警戒衛星を初期攻撃の対象とし、それへの攻撃により敵の目と耳を奪う事を推
奨している。合衆国と同盟国の軍事作戦についての人民解放軍の分析は、「衛
星や他のセンサーを破壊または捕獲する事は、敵が戦闘のイニシアティブを取
る能力を奪い、精密誘導兵器がその能力をフルに発揮できなくする事ができる」
と主張している。

統合電子ネットワーク戦闘

中国の軍事関係文書では、戦場での成功を確実とするためには、作戦開始後早
期に電磁気的な優勢を獲得しなければならない点を強調している。
人民解放軍の理論家達は、敵側が戦闘継続と兵力展開に使用する戦場情報シス
テムの利用を中断させる為に、電子戦、コンピュータネットワーク運用、運動
弾による攻撃を意味する統合電子ネットワーク戦闘(网電一体戦)という用語を
作りだした。多軍種共同活動の将来のモデルに関する人民解放軍の文書では、
「統合ネットワーク電子戦」を「多軍種統合共同活動」の基本的な形態の1つ
と認識している。そして、人民解放軍の作戦理論では電磁気的な優位の獲得を
戦場支配の中核として提案している。

人民解放軍の機密保持と偽装

人民解放軍の文書は、戦略的偽装の定義として「相手側を誤認させ、そして、
最小の兵力と資材で、計画的組織的に各種の偽情報を作りだし、自身を戦略的
に有利な位置に置くこと」と定義している。情報操作に加え通常のカモフラー
ジュや隠蔽や否定も、戦略と偽装が中国の政治的手法の中で果たした歴史的経
験と伝統的な役割から有効な策としている。

今日、中国の戦略文化に固有の緊張が発生している。軍事的能力や軍事開発計
画を隠し、ごく一部しか認めない根深い傾向は、中国の勃興する力に対する地
域的、世界的な不安に油を注いでおり、それを維持困難にしてきている。

十年以上の間、中国の指導者は、この不安を「中国脅威論」として、中国に反
対する地域的、世界的な強国の聯合を形成する中国の国際的な立場への深刻な
危険と認識している。それに加え、過剰な機密保持は、透明性と情報の自由な
流れを成功する為の要件とする統合された世界経済での中国の役割と一致させ
る事がますます困難になっている。

非対称戦闘

1991年の湾岸戦争と1999年の同盟軍作戦(NATOのユーゴースラビア空襲の作戦名)
以来、人民解放軍の戦略家達は、新しい予想外の可能性に対する軍事機構や戦
略と戦術の構築の緊急性を強調している。彼らは技術的に優越した敵と対する
に当たって、既存の技術と武器システムで戦場での格差を無くす為の革新的な
戦略や戦術を開発する事も強調している。1999年に解放軍報は「絶対的な優勢
を持つ強力な敵であっても弱点が無い訳ではない。我々の軍事敵準備は、強力
な敵の弱点を利用する為の戦術を見つける事に努力を集中する必要がある。」
と記している。

人民解放軍には米国のアプローチと同様の要求があるにも係わらず、その適用
としての作戦要求が米国のそれとは非常に乖離した領域がいくつもある。その
一例として、強力に防御された空域内の目標を攻撃するに当たって、ステルス
機よりも弾道弾と巡航ミサイルにより多くを期待する事が挙げられる。また、
米国の宇宙での優位を中立化する為に情報収集衛星、通信衛星、航法衛星を攻
撃する一連のシステムやコンピュータネットワークから莫大な量の情報を抽出
するアプローチ、近年の攻撃、防御両面での電子戦の強調、それに、「三つの
戦闘」ドクトリンが挙げられる。

(Department of Defence 2010/08/16)


Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010
http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf


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