2010年8月27日金曜日

日本の有人宇宙開発は是か非か


※CGはJAXA Webサイトから転載

無人補給機に帰還カプセル搭載へ 宇宙機構、有人を視野

有人宇宙船に近い形態を採用した「HTV-R」の想像図。機体右側の白い部
分が帰還カプセルにあたる(JAXA提供) 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
は11日、昨年9月に初飛行を成功させた国際宇宙ステーション(ISS)無
人補給機「HTV」の改修型で、ISSからの物資回収を可能とする「HTV-R」
の開発計画を文部科学省の宇宙開発委員会に報告した。来年度概算要求に盛り
込む方針で、JAXAはHTV-Rを日本独自の有人宇宙船の開発につなげて
いくという。

HTV-Rは大型バス程度の大きさの機体に帰還カプセルを搭載。ISSへの
物資補給後、帰還カプセルに実験試料などを積み込んでISSを離れた機体か
ら分離し、大気圏再突入後に海上で回収する。複数の改修案があり、有人宇宙
船に近い形態を採用した場合、約1.6トンの物資が回収可能。開発費は数百
億円で、平成28年度にも国産最強の大型ロケット「H2B」で打ち上げる。

日米露欧など計15カ国で運用するISSからの物資回収手段は、来年2月に
予定される米スペースシャトルの退役後、少量しか運べないロシアのソユーズ
宇宙船だけとなる。大気圏で燃え尽きる現在のHTVと異なり、多量の物資を
持ち帰ることができるHTV-Rへの各国の期待は高い。
JAXAはHTV-Rを有人宇宙船の実現につなげる方針で、HTVの機体改
修も有人化につながる範囲内で実施。一方、厳しい財政状況の下、「現状では
HTV-Rの打ち上げは、今後10年間で1基が精いっぱい」(JAXA関係
者)との声もある。

(産経新聞 2010/08/11)


日本の有人宇宙計画ですが、確かに夢のある計画だと思いますが、
日本の現状を見ると、それ程優先度が高くないのではないかと考え
ざるを得ません。

時期的にも、2011年のシャトル退役と商業有人打ち上げ開始(2015
年頃)までの隙間に間に合えばそれなりのニーズがあったかも知れ
ませんが、今から開発したのでは到底間に合う事はありません。

上記の記事では、HTV-Rは平成28年(2016年)度に完成ですから、更
に5年間かけるとして平成33年(2021年)に有人飛行が実現する事に
なりますが、その頃には、SpaceX社のドラゴン宇宙機により、宇宙
飛行士一人当り20億円程度での打ち上げが実用化されている事にな
ります。もし、4名の宇宙飛行士をカプセル込みで80億円で打ち上
げる事が可能であれば、SpaceX社に対抗できますが、80億円では、
H2Bの打ち上げ費用もまかなえません。従って、日本に有人宇宙飛
行士を軌道に打ち上げるニーズがあったとしても、SpaceX社等の商
業打ち上げサービスを利用するのが合理的であると言えます。

では、そもそも有人宇宙飛行士を軌道に送り込むニーズはどの程度
あるのでしょうか。国際宇宙ステーションは、2015年に、閉鎖され
落下する予定でしたが、取敢えず2020年まで退役は延期され、引き
続き使用される事になりました。その為に、宇宙飛行士を軌道に送
るニーズは存在します。しかし、それ以降に、宇宙飛行士を宇宙に
送るニーズはまだありません。

国際宇宙ステーションを建設し、維持する為には、宇宙飛行士を軌
道上に打ち上げる必要があるのは自明ですが国際宇宙ステーション
が退役した後、有人宇宙飛行が必要なるプロジェクトは必ずしも明
確になっていないのです。オバマ大統領によって、有人月着陸計画
はキャンセルされてしまいましたが、それに変わる計画は、まだ姿
を見せていないのです。日本が、米国の主導する次の有人宇宙計画
に参加するかどうか、また、その時に、日本が独自に宇宙飛行士を
打ち上げる必要があるかどうかは不明確であるとしか言えません。

では、中国の天宮計画の様に、日本独自に宇宙ステーションを作る
必要があるのでしょうか?今は、トーンダウンしていますが、2015
年に国際宇宙ステーションが退役する予定であった時、それに合わ
せて、その一部を使って日本用の小型宇宙ステーションを作り運用
するという構想がありました。しかし、それも構想だけで、そこで
何をするのかという議論は行われませんでした。実際、国際宇宙ス
テーションで当初予定されていた実験の多くが、その建設遅延の中
で、コンピュータシミュレーションで行われてしまい、宇宙実験の
為に、宇宙ステーションを維持するニーズは少なくなってしまって
います。

確かに宇宙飛行士にしか出来ない作業はあります。例えば、ハッブ
ル宇宙望遠鏡の保守作業の様なものがそれです。しかし、ハッブル
望遠鏡の後継機は、ラグランジュ点に設置される予定で、宇宙飛行
士による保守・補修は予定されていないのです。つまり、近い将来
有人宇宙飛行は、自己目的化してしまう可能性が高いと言えるので
はないかと思えるのです。

それに加えて、日本の場合は予算上の問題があります。日本は中国
と違って有人宇宙計画を国家威信の発揚という目的ではどんどん資
金をつぎ込む事は出来ません。現状、国際宇宙ステーションの維持
費用は、HTVの費用も含め、毎年4百億円と言われていますが、
有人計画となった場合、日本用の宇宙ステーション建設が無償で出
来たとしても、有人宇宙機の打ち上げコスト等を考えると、少なく
共、現状の二倍程度の予算が必要となる筈です。日本の宇宙開発予
算の枠は、情報収集衛星も含め毎年二千億円程度しかありません。
追加予算の4百億円は僅かな予算の様に見えますが、JAXAの予算の
二割程度の大きさであり、財政再建の必要性が高まる中で、今後
JAXA予算の二割増しが容易に実現できると考えるのは楽観的に過ぎ
るのではないかと思われます。そうなれば有人宇宙計画で4百億円
が出っ張れば唯でさえ少ない他の予算から4百億円を削るしかあり
ません。それでは、日本が世界に先んじている無人宇宙機によるサ
ンプルリターンであったり、ソーラーセイル衛星による小惑星探査、
外惑星探査などが不可能になってしまいます。勿論、科学観測衛星
のみならず地球観測衛星等の実用衛星にも影響が出てくるでしょう。

そうであるならば、何の役に立つか判らない有人宇宙計画に色気を
見せるのではなく、寧ろ、日本の独自性が発揮できる無人探査機に
よる宇宙探査計画を優先して推進すべきであると思われるのです。


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2010年8月24日火曜日

中国の軍事力 2010 第一章要約(2)




人民解放軍のドクトリンの発展

2009年、人民解放軍は引き続き、より現実的でハイテクな条件下での戦争に対
する訓練と同様に非戦争任務を強調した最近のドクトリンの発展にそった訓練
を強調している。情報武装した各軍種の共同訓練を達成しようとする人民解放
軍の努力は、2008年の防衛白書で強調されたものであり、改正された軍事訓練
評価の枠組みを実現する継続した取り組みとして示されている。この新たな評
価基準は2008年央に出版され、2009年1月1日に人民解放軍全体の標準となった。

軍事能力を拡大する新技術を開発、調達、獲得する中国の努力の発展

中国は外国の技術、軍民両用部材の獲得、及び特定部門に焦点を当てた国内研
究開発によって軍事近代化を推進している。

中国は、大規模で、良く組織された企業、軍事品生産工場、提携された研究所
のネットワークを保有している。また、機密情報と輸出制限技術の収集を容易
にするコンピュータ・ネットワークを運用している。これらの実体は、必ずし
も中国の情報機関や安全保障サービスと常に連携している訳ではない。

中国の軍産複合体を形成する多くの企業や研究所には、軍事と民間、両方の研
究開発機能を持っている。この商業と政府と連携した企業と研究機関のネット
ワークは、しばしば、人民解放軍が、機密技術や軍民両用技術、あるいはそれ
に関する専門家に民間の研究開発の装いの下で接触する事を可能としている。
これらの企業と研究所は、技術会議やシンポジウム、合法的な契約や共同のベ
ンチャー企業、外国企業との提携、特定の共同技術開発の形式でこれを行って
いる。

国家安全保障に関わる核心技術や輸出統制機材、通常の商業ルートや学術ルー
トで獲得できない材料に関しては、中国は、合衆国の法律や輸出管理に違反し
て情報機関や合法活動以外の手段によって獲得している。2008年以降、合衆国
の報道機関は、中国が、技術開発の軍事力の近代化に真に重要と判断した部材
を獲得した方法について幾つかの事例にスポットライトを当てた報道をしてい
る。これらの事例では、合衆国から中国へ、合衆国に在住する個人が違法な技
術移転を起こしたものが主体だが、伝統的なスパイ活動によるものも発生して
いる。

台湾抑止戦力の変化

2009年には、台湾海峡とその周辺では、武力紛争は発生しなかった。また、全
体的な状況は2008年同様安定していた。しかしながら、台湾に対する中国の軍
事力増強と先進兵器の配備は、緊張を緩める事を許さない。

2008年5月に就任以降、馬英九総統は、軍隊を合理化し、プロ化する為のいく
つかの重要で広範囲な改革を実施している。台湾は、いくつかの分野で進歩し
ており、全体的な非常事態対応訓練を改善している。しかしながら、戦力バラ
ンスは引き続き中国本土に優位に傾いている。

中国の宇宙戦、サイバー戦についての能力の変化

宇宙戦、対宇宙戦能力

中国は、情報収集衛星、偵察衛星、調査衛星、航法衛星、通信衛星の編隊を拡
大している。それと併行して、中国には、危機や紛争時に潜在的敵が宇宙空間
に設置した資産(衛星)を使用する事を制限したり妨害する複数のプロジェクト
がある。中国の商業宇宙計画には、非軍事の研究施設があるが、非軍事用の施
設でも軍事用に使用可能な打ち上げや管制能力がある事を示している。

サイバー戦能力

2009年に、合衆国政府が保有しているものを含む、世界中の数多くのコンピュ
ータが、引き続き、中国を発信基地とする侵入攻撃の標的となった。この侵入
攻撃は、情報を取り出そうとするものであったが、その内のいくつかは戦略的
あるいは軍事的な情報だった。これらの侵入攻撃に必要な接近方法やスキルは、
コンピュータネットワークを攻撃する場合に必要とされるものと類似している。
これらの侵入攻撃が人民解放軍や中国政府の他の機関によるものであったり、
支援されたものであるかどうかは判っていない。しかしながら、サイバー戦能
力を開発する事は、権威のある軍事的著作に示された方針と一致している。

中国の海外での軍事的関与

中国の他の国々に対する軍事的関与は、中国が外国との関係改善し、国際的な
イメージを高め、中国の台頭に対する他の国々の懸念を減ずる事による国力の
発展を意図したものである。人民解放軍の活動は、先進的な兵器システムの獲
得やアジア内外での作戦経験の増加、外国の軍事管理訓練、作戦ドクトリン、
訓練方法への参加を通じて、その近代化を促進する事になる。

共同演習

中国の二国間または多国間演習への参加が増大している。人民解放軍は影響力
の拡大とパートナー国や組織との紐帯を強化する事で政治的利益を引き出した。
その様な演習は、テロ対策、機動作戦、補給と言った領域で能力を改善する事
で人民解放軍の近代化に対しても貢献している。人民解放軍は、戦術や命令の
意思決定、先進国の軍隊で使われている機器を観察する事で、実務的な洞察を
得る事が出来る。

平和維持、人道支援、災害救助活動


2002年以降、国連が後押しする平和維持活動への中国の貢献が拡大している。
現在では、全体で22の任務に12,000人が派遣されている中で、2,100人以上の
中国人要員が国連の任務に参加している。中国は、国連安保理常任理事国五ヶ
国の中では平和維持活動に対する最大の貢献国となっている。中国の貢献には、
技術支援、補給、医療部隊、民間警察、監視任務等が含まれている。

中国の軍民の指導者は、人道支援(HA)と災害救助(DR)を地域や世界的なパート
ナー諸国と協力する領域として指定している。

合衆国の関与と安全保障面での協力

軍対軍の紐帯

合衆国と中国の軍と軍との関係は、オバマ大統領と胡主席の合衆国と中国の軍
隊の関係を深め改善し、継続的且つ信頼できる軍軍関係に発展させる為の具体
的な処置を取るというコミットメントにより2009年には改善した。この様な、
指導者レベルでの対話は、国際的安全保障環境と関連する安全保障上の挑戦に
対する共通する見方を創り上げる上での重要な基盤を提供する。

国防総省は、国益の衝突や相違が生じた場合に建設的に討議できる継続的な対
話ルートを構築するよう務め、中国と対話や協議の複数のメカニズムの構築に
努力した。

これらのプラス面の発展にも係わらず、2010年1月にオバマ政権が台湾へ防御
兵器を売却する意図を発表した後、北京は、軍と軍の関係を中断する事を選んだ。

非軍事的な安全保障面での紐帯

合衆国と中国の戦略経済対話の最初のラウンドが、ワシントンDCで2009年7月
27日~28日に行われた。戦略経済対話は、両国が直面する二国間、地域的、全
世界的な短期長期の戦略的経済的利益についての広範囲な挑戦と機会に焦点が
当てられ強調された。戦略経済対話は、米国側は国務長官と財務長官が、中国
側は、戴秉国国務委員と王岐山副総理が主導したが、エネルギー長官や、政務
担当国防副長官、合衆国太平洋軍司令官等、米国の閣僚レベルの高官多数が参
加した。

合衆国と中国は2008年10月に台湾に米国の武器輸出発表の後で中止されていた
核不拡散二国間対話を、2009年9月にワシントンで再開した。双方は、北京で
2009年12月に再会した。国務次官補レベルの討議は全体的な核拡散防止への協
力を強化するものである。

(Department of Defence 2010/08/16)

Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010
http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf


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2010年8月23日月曜日

中国の軍事力 2010 第一章要約(1)





第一章 年次更新

台湾海峡における安全保障状況の展開

2008年3月に馬英九大統領が当選して以降、中華人民共和国(中国)は、台
湾海峡を跨る関係強化を促進している。
北京も台北も、半当局者と半当局者、人民と人民、党と党の接触の拡大や、経
済や文化の紐帯の拡大を強調している。しかしながら、本土側には、台湾の対
岸での中国の軍事的存在感を減らす意味のある動きは全くない。

中国軍事力の規模、位置、能力に関する展開

中国軍事力の長期的で広範囲な変革は、兵力展開能力や、アクセス拒否/地域
利用拒否能力を改善している。台湾海峡での緊急事態への準備に関する短期的
な焦点と整合させながら、中国は、台湾の対岸にあたる軍区(MRs)に最新のシ
ステムを展開している。

弾道ミサイルと巡航ミサイル

中国は、世界で最も活発な地上発射の弾道ミサイルと巡航ミサイルの計画を推
進している。数種類の新型や派生型のミサイルが開発、テストされており、ミ
サイル部隊が追加設置されている。いくつかのミサイル部隊では質的改善が行
われており、弾道ミサイルに対する防衛方法も開発中である。

●人民解放軍は、国産開発で地上発射のDH-10地上目標巡航ミサイル(LACM)、
国産開発の旅洋II型ミサイル駆逐艦(DDGs)に装備された同じく国産の、陸上/
海上発射のYJ-62対艦巡航ミサイル(ASCM)といった、多くの非常に精密な巡航
ミサイルを調達している。また、ロシア製のSS-N-22/サンバーン超音速対艦ミ
サイルが、同じくロシアから調達された中国のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐
艦に搭載されている。そして、ロシア製のSS-N-27B/シズラー超音速対艦巡航
ミサイルがロシアで建造された中国のKILO級ディーゼルエレクトリック潜水艦
に装備されている。

●2009年12月までに、人民解放軍は、台湾の対岸に1,050基~1,150基のCSS-6
とCSS-7短距離弾道ミサイル(SRBM)を配備した。これらのミサイルには、射程、
命中精度、弾頭が改良された三種類の派生型が含まれており、破壊力が向上し
ている。

●中国は、CSS-5準中距離弾道弾(MRBM)の派生型を基にした対艦弾道ミサイル
(ASBM)を開発している。このミサイルは1,500kmを上回る射程を備えており、
終末運動可能な弾頭を装備している。そして、適当な指揮管制システムと統合
されれば、西太平洋で、空母を含む艦船を攻撃する能力を人民解放軍に与える
事になる。

●中国は、より生存性の高い運搬手段を付加する事で、その核戦力を近代化し
ている。例えば、最近、道路移動が可能で固体燃料の大陸間弾道弾(ICBM)であ
るDF-31とDF-31Aの部隊配備が行われている。DF-31Aは、11,200kmを超える射
程があり、米国大陸本土の殆ど場所を標的としてカバーする事ができる。

●中国は、また、新しい道路移動が可能な新型ICBMを開発しているが、これに
は、多目標独立誘導弾頭(MIRV)を搭載可能としているものと思われる。

海軍

人民解放軍海軍は、主要戦闘艦艇、潜水艦、両用艦艇からなるアジアで最大の
戦力を保有している。中国海軍の戦力は、約75隻の主要水上艦艇、60隻以上の
潜水艦、55隻の中型または大型の両用戦艦艇、約85隻のミサイル装備の哨戒艇
からなっている。

●海南島に建設されている人民解放軍海軍の新しい基地の主要部は完成してい
る。この基地は、攻撃型潜水艦と戦略ミサイル潜水艦及び、先進的な水上艦艇
の全てを収容するのに十分な大きさがある。この基地は地下施設で、人民解放
軍海軍に主要な国際海上交通路への直接的なアクセスを提供しており、南シナ
海へ潜水艦を密かに配備する事を可能としている。

●中国には、活発な空母研究開発計画がある。そして、中国の造船産業は、今
年末には国産空母の建造に着手できるものと思われる。中国は、2020年には、
空母と支援艦艇からなる艦隊を複数建造する事に興味を示している。

●人民解放軍海軍は、空母から発進する固定翼機のパイロットを50人養成する
プログラムを開始すると決定したと伝えられている。この最初のプログラムで
は、恐らく、地上での訓練がまず開始され、その後、四年間は、現在、大連の
造船所で近代化改装中の旧ワリヤーグ(ソ連クズネツォフ級空母)を使用した海
上での訓練が行わるものと思われる。

●人民解放軍海軍は、Sky WaveレーダやSurface Waveレーダを用い超水平線(OTH)
目標能力を改善している。超水平線レーダは、偵察衛星と協同し、中国の海岸
線から遠く離れた目標に精密誘導された攻撃、例えば、対艦弾道ミサイルを使
用した攻撃を行う事に用いられるものと思われる。

●中国は、引き続き最新の晋級(094級)原子力推進の戦略ミサイル潜水艦(SSBN)
の建造を継続している。中国は五隻程度まで新型SSBNを配備するかもしれない。
一隻の晋級戦略ミサイル原潜が、二隻の商級(093級)攻撃型原潜、四隻の漢級
攻撃型原潜、及び、それまで中国のただ一隻のSSBNだった夏級SSBNと舷を接し
て就役している。

●中国は、攻撃型ミサイル原潜を更に強化しており、ここ数年中に五隻程度ま
で095級攻撃型原潜(SSN)を追加するものと思われる。

●中国は13隻の宋級(039級)ディーゼルエレクトリック推進攻撃型潜水艦を保
有している。この宋級潜水艦はYJ-82対艦巡航ミサイルを装備している。宋級
の後継は元級で、合計4隻が既に就役しているものと思われる。中国は、この
クラスを更に15隻建造する可能性がある。元級潜水艦は宋級潜水艦と類似し
た武装だが、AIP(大気非依存型推進)機関を装備しているものと思われる。宋
級潜水艦、元級潜水艦及び商級原潜は、現在、開発試験中の新型のCH-SS-NX-13
対艦巡航ミサイルを発射する能力をもっている。

●人民解放軍海軍は、引き続き国産建造の水上艦艇の調達を続けている。これ
らの中には、国産の長射程対空ミサイルであるHHQ-9を装備した旅洋II級(052C級)
ミサイル駆逐艦2隻、ロシア製の長射程対空ミサイルSA-N-20を装備した旅洲
級(051C級)ミサイル駆逐艦2隻、現在開発中の中射程垂直発射型対空ミサイル
であるHHQ-16を装備した江凱II級(054A級)ミサイルフリゲート4隻~6隻が含
まれている。これらの艦艇は、過去、艦隊の弱点とされてきた対空戦闘能力を
強化するという指導部の優先順位付けが反映されている。

●中国は、新型の波浪貫通型カタマラン船体を持つ紅稗級(022級)ミサイル艇
を60隻配備している。各艇は、8発のYJ-83対艦巡航ミサイルを装備している。

空軍及び防空軍

中国は台湾を燃料補給なしで作戦行動半径に収める490機の戦闘用航空機を基
地に配備している。それらの基地は更に数百機を収容する離着陸能力がある。
多くの機体は、古いモデルの機体を能力強化したものである。しかしながら、
新型機や、より先進的な機体の割合が増加してきている。

●人民解放軍空軍は、2009年11月11日に、創設60周年を祝った。その式典の中
で、中央軍事委員会第一副主席である郭伯雄将軍は、人民解放軍空軍が新兵器
の開発を加速し、補給システムを改善し、多軍種共同作戦行動訓練を改善する
事を訴えた。また、記念日でのインタビューで、人民解放軍空軍司令員許其亮
将軍は、宇宙空間を含む軍備競争は避けられないものであり、本土防衛中心か
ら統合された航空宇宙空間での攻撃防御両面の能力を備えるよう人民解放軍空
軍の変革を強調した。

●中国は、B-6爆撃機戦隊(オリジナル機体は、ロシアのTu-16)の新しい派生型
を開発しており、作戦行動が可能になった時には、新型の長射程巡航ミサイル
を装備する事となる。

●人民解放軍空軍は、長射程で先進的な対空ミサイルシステムの装備を拡大し
ており、現在では、その分野では世界最大の軍隊となっている。過去5年間に
亘り、ロシアが輸出可能な最新の対空ミサイルであるSA-20 PMU2大隊の調達を
図ってきた。また、国産設計開発のHQ-9システムも導入されている。

●中国の航空産業は数タイプの空中早期警戒管制機(AEW&C)を開発している。
これには空中早期警戒管制と同時に情報収集と海洋哨戒を行うY-8型輸送機を
元にしたKJ-200や、IL-76輸送機の改造型が含まれている。

地上軍

人民解放軍の陸上戦力は125万人の兵員からなっており、その内、40万人が、
台湾の対岸に当たる三つの軍区(MR)に配置されている。中国は、地上部隊に近
代的な戦車や装甲兵員輸送車、火砲を配備する事で改善を図っている。人民解
放軍陸軍が新たに獲得または開発中の能力としては、第三世代の99式主力戦車、
新世代の水陸両用戦闘車、200mm、300mm、400mm多連装ロケット発射システム
がある。

●2009年に、人民解放軍は指揮管制、空陸共同、情報戦についての可動性と動
員、攻勢作戦に関して焦点を当てた訓練と演習を行った。

●それに加えて、現役の地上部隊の他、中国は2008年度で50万人の予備役兵力
を保有しており、更に戦時には自身の居住地域での戦闘に動員される大規模な
民兵組織がある。中国は、11次五カ年計画(2006-2010)の終わりには、近代的
に組織された民兵の規模を10百万人から8百万人に縮小する計画だが、18才~
35才までの全ての男性が、現在は軍事組織に属していなくても、技術的には民
兵システムの一部となっている。

(Department of Defence 2010/08/16)

Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010
http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf

環球閑話日々の徒然まとめサイト
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