2008年11月27日木曜日

筑紫哲也氏をどう評価するか

筑紫哲也さん死去

1989年にスタートした「筑紫哲也ニュース23」でメーンキャスターを
18年余り務め、テレビジャーナリズムの確立に大きな貢献をした筑紫哲也さ
んが7日午後、肺ガンのため亡くなりました。73歳でした。

筑紫哲也さんは早稲田大学を卒業後、朝日新聞社に入社。政治部記者、ワシン
トン特派員などを歴任し、89年10月から「筑紫哲也ニュース23」のメー
ンキャスターに就任しました。

新聞記者として培ってきた鋭いニュース感覚と独特のコラム「多事争論」で、
多くの視聴者の信頼をえました。

アメリカのクリントン前大統領をはじめとする各国のリーダーとの「市民対話」
を実現したほか、映画・音楽など文化活動の発掘・紹介など、これまでのニュ
ース番組にはないテレビならではの可能性に挑戦しました。

肺ガンのため今年3月でメーンキャスターを退きましたが、5月には「その活
動実績がわが国のテレビジャーナリズムの活動に多大な貢献をした」として、
今年度の日本記者クラブ賞を受賞しました。

その後も闘病生活を続けていましたが、7日午後、肺ガンのため亡くなりまし
た。(07日19:32)

(TBS News i 2008/11/8)


◎サムアップ

●原理と戦い、不正義を憎んだ男でした。

●取材は列にならんで順番待ちする紳士であり、 
徒歩で車を使わないエコ派であったそうです。 

●「反面教師」という言葉を、我々に深く浸透させた。 
生粋の日本人に、我が国(日本)を思う気持ちを改めて起こさせた
功績は大きい。  
●喫煙の危険性を、我々に改めて認識させた。 
一般人の肺がんによる死去では、身内レベルにとどまるが、彼は一
応全国区の為、その危険性の啓蒙に一役買った。 


◎サムダウン

●ロハスでサラ金経営者を賞賛
2005年のニュース23年末特別番組で、わざわざ北海道にサラ金プロ
ミスの神内会長を取材して神内が運営する神内ファームをスローフ
ード、スローライフ、ロハスの代表として紹介していた。
当時マスコミがようやく重い腰をあげてサラ金の違法な取り立てや
高金利貸付、利用者に生命保険をかけて貸し剥がしで自殺に追い込
むとか問題になってたのに拘らず、それらに一切触れず神内達を
「人生の勝ち組」とまで持ち上げていた。

●阪神大震災 
「一番の印象は…なんか、温泉町に来たような感じがします…」 
「まったく消防活動はやってる気配がないねー、これは」
「人間の姿ってのは、全然見えないっすねぇ」 
「ああー、ここもまた、燃え…燃えてる真っ最中。燃えさかってると。
ここも消火活動の形跡ないですねー」 

・地震発生2日目、長田区蓮池小学校に非難したある被災者は、News23
のカメラに向かって、「お前ら!帰れ!米軍早く使え!遅すぎるん
じゃ!」と怒声を浴びせた。当日のNews23は全く伝えていなかった
が、米軍の空母とヘリコプターの支援を断ったのは、筑紫お気に入
りの村山首相なのである。村山様にとって都合の悪いニュースは報
じない、当初からそういう姿勢だった。 

・同じく2日目、さすがに煙草なしで被災地を徘徊、遺骨収集のため
に焼け跡を掘り出していた三人の男性に接近。 
ぶしつけな筑紫に対し、男性のひとりが丁重に「すみません、映さ
ないで」と再三お願いしたにもかかわらず、カメラを回し続け、
「言いたいことがあったら言ってくれますか」とたたみかけた。 
ようやくVTRを止めて、場面はスタジオに戻ったのだが、筑紫はなん
と、「被災者のイライラも、頂点に達しているようです」と報じた。 

●福岡一家殺害事件 
03年に発生した中国人による凶悪事件。裏付けもないのに「事件の
背後に殺害を依頼した日本人黒幕が」いたと報じた。結局12月26日
に福岡県警が「犯行は中国人3人によるもの」と断定したが、番組
はひとことも報道せず。 

●中国報道 
00年10月、来日中だった中国の朱鎔基首相を番組に招いて、初のテ
レビ市民対話を放送。「日本はこれまですべての正式な文書の中で、
中国の人に謝罪したことはありません」と報道。日中国交回復以来
度々謝罪している点を無視したものだった。

●映画「セブン・イヤーズ・イン・チベット」 
「この映画は、中国による『自治権拡大』を描いた……」
「中国の行為を悪と決め付けるのは難がある」。 
中国のチベット侵略を 「 中 国 の 自 治 権 拡 大 」
と報じた。 

<略> 
その日番組では、「セブン・イヤーズ・イン・チベット」(ジャッ
ク・アリー監督)なる映画の紹介をしていた。これは、現在もサヨ
クの好意的黙認の下に進められている、中国政府によるチベット 
侵略を糾弾した映画である。映画のラストの字幕、 

「チベットでは、中国の侵略により百万人以上の住民が殺され、六
千以上の僧院が壊された」

という悲壮な一文が、全てを語っている。「南京大虐殺30万人説」
など裸足で逃げ出してしまうほどの暴虐な、現在進行形の非人道的
侵略行為、それこそが、この映画が観客に訴えている事なのである。 
ところが、番組冒頭部分のナレーションは、何とこう紹介したのである。 

 「この映画は、中国による「自治権拡大」を描いた… 」

…私は言葉を失った。いや、正常な精神の持ち主であれば、誰でも
言葉を失うであろう。かつて、「侵略・進出書き換え事件」をでっ
ち上げてまで、怒りをあらわにして見せた男のやる事が、これなの
だ。彼等は中国による「侵略」を、「自治権拡大」などという、一
生において複数回聞くことが無いであろう奇天烈な人造語をでっち
上げてまで、擁護しようとしたのである。 

<略> 
筑紫の真骨頂は、インタビューの後に現われた。ピットの前では愛
想笑いを振りまいて迎合していた筑紫は、ピットがいなくなった途
端、こう言い放った。 

 「中国の行為を悪と決め付けるのは難がある」

本気でそう思っているのなら、なぜピットに論争を挑まなかったのか?

●坂本弁護士一家殺人事件 
96年、オウム真理教による坂本弁護士一家殺人事件に絡んで発覚し
た、TBSビデオ問題。TBSが「オウム信者にビデオを見せた事実はな
い」と全面否定したその日、筑紫は「真相は見せた見せないという
水掛け論に、最後は終わらざるをえないのだろうと思います」と発
言した。結局、オウム側が供述したため、TBSは嘘を認め、3月25日
に社長自ら陳謝。その晩に「TBSは死んだ」と第三者の如く報道。

青木直人BLOG 筑紫哲也と竹内好 
筑紫氏がオウム事件の際『TBSは死んだ』と発言したこともよく
知られている。が、彼はだからといって、ニュース23を降板する
ことはなかったし、年間数億円という契約料も手にし続けた。 
贖罪は彼に『名誉』と膨大な冨をもたらしたのである。 

●拉致被害者帰国のニュース 
「もし、拉致された人、そして亡くなった人たちに何かの過失があ
るとすれば、それは、「日本人」に生まれたということでしょう。」
と報道。 

●健康増進法、ナチスドイツ的と非難
調査結果を元に、日本循環器学会がJRに駅構内新幹線内の禁煙措置
を求めたというニュースについて、「分煙化運動はファッショ的で
気持ち悪い。喫煙者にも人権はある」と批判、禁煙・分煙運動に対
し戦前日本的・ナチスドイツ的であるとのレッテルを貼り、健康増
進法の趣旨を非難した。 

●特攻隊
「特攻隊は自爆テロリスト」と発言。

●大韓航空機撃墜事件
ソ連空軍機により撃墜された大韓航空機撃墜事件(ジャンボ機 日
本人乗客28名全員死亡)ニュース23放送のときの筑紫キャスターが
話していたびっくりするコメントです。 
「ソ連は嘘を付いていない。ただ、対応がまずかっただけである。
アメリカは防空レーダーで捕捉した飛行経路のズレを大韓航空機に
連絡すべきであった」 
「アメリカから連絡があればソ連軍の民間航空機撃墜は防止できた
であろう」 
民間機を撃墜したソ連軍を擁護して、アメリカが撃墜犯のような報
道をしていた。

●週刊金曜日の拉致関連報道について
筑紫が編集委員やってた週刊金曜日は、平壌で曽我ひとみさんの家
族にインタビューし、11/15号に記事を掲載した。 
「お母さん(ひとみさん)は10日で帰るはずだったのにまだ帰ってこ
ない、日本政府は約束を破った、お母さんを早く帰してほしい。」
という内容のものだ。 

曽我ひとみさんは11/14に訪れた「週刊金曜日」の記者に記事を見
せられて動揺し、当日の予定を全てキャンセルした。「家族会」や
「救う会」は「週刊金曜日」を北朝鮮の政治宣伝に加担していると 
して厳しく批判した。 

このインタビュー記事について、「週刊金曜日」編集長の岡田幹治
氏は「読者のみなさんの多くは、北朝鮮側に思惑があることを知っ
たうえで記事を読んでくださるに違いない」と説明した。 
「週刊金曜日」の編集委員をつとめている筑紫哲也氏は、11/14の
テレビ番組で、利敵行為と言われようとも事実を伝えるのがジャー
ナリストの仕事だ、と論じた。

●玄海灘事件報道
(パナマ船籍の韓国貨物船が、日本漁船を当て逃げし多数の死者が
発生した事件)
ニュース23は、加害者に関わるパナマ以外の国名情報を全て隠蔽
した。他の報道機関は、韓国との関連を報道していた。
ニュース23が大々的に報じたえひめ丸事件とは好対照を見せた事
もあり、韓国に不利な事実を隠蔽したとの批判が出た。

●韓国の竹島占拠について
竹島が占領されたのは靖国の問題と報道。 

佐古「別に煽ってるわけじゃないですよね」 
筑紫「あのね煽らないのがいいのは当たり前ですけども、元々こう
   いう風に日韓がとんがってしまったのは、靖国問題がやっぱ
   りきっかけですよね。えーまーそういってもその、水面下の
   で協議と言うんですけども冷静な対応がこうなってくると出
   来るのかどうかですね、えー本当に」 
佐 「冷静に」 
筑 「いきたいですね、ええ」 

●慰安婦問題
2007年3月8日、筑紫哲也は、「ニュース23」の「多事争論」 
で慰安婦問題に関して次のように述べた。 

(一部抜粋) 
「慰安婦問題でニュースで報じられているようなことが 
続いておりますけれども、仮に、 
軍の強制が直接であったか間接であったか、 
あるいは狭義の、あるいは広義の強制があったかという、 
そういう議論をいくらしても、慰安所があって、 
慰安婦というものが存在したということは消えません。 
こういう事をくどくどと説明して、 
どれほどの意味があるんだろうかと思います。 」

●部落解放同盟擁護
2006年にTBSの系列局のMBSが奈良市環境清美部収集課職員が病気を
理由に5年間で8日しか出勤していなかった問題をスクープ。 
TBSにテープを全国放送するよう依頼したがこの職員が部落解放同
盟の関係者であることを理由に筑紫側が拒否。 
交渉の末、テープは放送されたが、該当者が部落解放同盟の関係者
であることは一切伏せられた。 

●息子の処遇について
田原も、みのも、自分の息子娘をテレビ局に情実採用させて、政界
の二世議員を叩いていることを思えば、可愛いものかも知れないけ
れど、やっぱりあれはどうかと思う。ああいう所は、彼も所詮凡人
だったなと思います。

●「筑紫哲也妄言の研究」 別冊宝島
宝島社 ISBN 4-7966-3848-2 2003/02/06

ロシア原潜事故 消火装置の故障であればありえる事故

ロシア原潜で事故、20人死亡=日本海航行中、放射能漏れなし

9日のタス通信などによると、日本海を航行していたロシア太平洋艦
隊の原子力潜水艦で8日、消火装置が誤って作動し、乗組員ら20人
が死亡、21人が負傷した。艦体に損傷はなく、原子炉も正常に作動
しており、放射能漏れは起きていないという。
事故はセルジュコフ国防相によってメドベージェフ大統領に報告され、
大統領はチャイカ最高検察庁長官に事故原因の捜査を命じた。
海軍当局者によれば、原潜は自力で航行し、9日に極東・沿海地方の
港に入った。原潜の艦名・型式は明らかにされていないが、ロシア
通信は、事故を起こしたのは日本海のロシア領海内で試験航海をし
ていたアクラII級原潜「ネルパ」だと伝えた。
事故当時、原潜には軍人81人と造船企業の関係者ら計208人が乗っ
ていた。最高検察庁当局者は、死者のうち3人が軍人、17人が民間
人で、化学消火装置のフロンガスを吸ったことが死因とみられると
述べた。負傷した21人は軽・中程度の中毒症状で生命に危険はない
という。 

(時事通信 2008/11/9)


アクラ級の原子力潜水艦は、現在12隻が在籍している様
ですが、ロシア攻撃型原潜のワークホース的位置付けの
潜水艦です。「ネルバ」は、インド海軍へリースされる
ことになっており、その試験の為、定員の二倍以上にあ
たる200人以上が乗艦していた模様です。

「ネルバ」は、消火装置として、ハロン1301を使用した
設備を装備していました。ハロン1301は、化学的に安定
した物質ですが、大量に使用されたり(濃度7.5%以上)、
消火時に発生するハロゲン化合物の影響で人体に悪影響
を与える可能性があります。

ハロン1301を使用した消火設備は、陸上でも、水による
消火を避けたいコンピュータ設置用の施設等で、使用さ
れていますが、毒性が低いとは言え、消火設備動作時に
は、警告音が発せられ、それに基づいて緊急避難を行う
手順になっています。(ハロン1301の安全性については
以下のURLを参照して下さい。)


今回の事故では、ハロンが放出される時には、警告音が
発せられたかどうか、放出されたハロンが致死量に達す
る程多くなったのは、どういう理由によるものか、また、
該当区画の要員が脱出可能な状況だったかが問題である
と思います。

一部には、ロシア軍の能力に疑問を呈する向きもありま
すが、こういった消火装置の誤作動は、どの国、どの施
設においても起こる可能性のある問題です。
致死性の低い物質を使用したとしても閉鎖空間である潜
水艦で発生した消火剤放出事故が非常に大きな犠牲者を
齎すものである事を、改めて、認識させた事件である様
に思います。

やっぱり、おかしい田母神空幕長更迭




前空幕長退職金問題 防衛相、自主返納要求へ 公明などの意向配慮

浜田靖一防衛相は6日の参院外交防衛委員会で、の政府見解と異なる歴史認識
を含む論文を公表し航空幕僚長を更迭された田母神(たもがみ)俊雄元空将
(60)=3日付で定年退職=に対し、退職金の自主返納を求める考えを示した。
田母神氏には5000万円前後の退職金が支払われるとみられることから、与
党から「多額の退職金をこのまま渡していいのか」(北側一雄公明党幹事長)な
どと支払い停止を求める声が上がっていた。浜田氏もこうした公明党など与党の
意向に配慮して、自主返納を求める意見を表明した格好だ。

公務員の退職金は国家公務員退職手当法で本人が辞退しない限り支払われるこ
とが決まっている。だが、浜田氏は委員会で「今回の事案の重大性を考えれば、
自主返納という本人の判断を待ちたい」と語った。

公務員の退職金は懲戒免職となった場合、支払われない。また、在職中に懲戒
処分を受けた場合に減額されるケースがある。

防衛省関係者によると、田母神氏は定年退職の発令に先立ち、同省に「懲戒処
分に当たるのかどうか徹底的に議論したい」と申し入れ、懲戒処分の是非を決
めるため処分対象者の意見を聞く「審理」の場で、論文の記述内容などについ
て争う姿勢をみせていた。

しかし、防衛省は田母神氏が求めた審理を行わないまま、定年退職とし、退職
金の支払いを決めた。こうした対応について、浜田氏は6日の委員会で、「懲
戒処分の形を取ろうとすると、審理に10カ月以上かかることもある。定年延
長せずに今できる一番早い処分を考えた」と説明した。

空幕長(62歳定年)を解かれた田母神氏に適用された60歳定年を延長して
も、誕生日から半年後の来年1月には退官を迎え、退職金の受給対象になる。
審理に入った場合、来年1月までに懲戒処分が確定するのは困難なため、浜田
氏は委員会で「今回の措置を取らなければ空将のままなので、月々給与が支払
われ、一層お金がかかる」と述べた。

(産経新聞 2008/11/7)

今回の田母神空幕長の更迭事件については、一種異様なマスコミの
言葉狩りと、思想統制、政府による権力の乱用と思想信条の自由の
侵害が発生している様に思えてなりません。それに加えて、退職金
まで返納させるなど、もっての他です。

そもそも、今回の事件で、問題があるとすれば、責任を取るべきは、
防衛大臣の浜田靖一でしょう。全くの無能としか言い様がありませ
ん。

空幕長の論文応募のどこが問題で、それが、どういう処分に繋がっ
たのかが、実は非常に不明確なのです。報道の中には、防衛庁内に
知恵者がいると賢しらに述べたものもありましたが、結果的に問題
早期沈静化にすら失敗しているのですから猿知恵としか言えない訳
です。それに乗った浜田防衛省は、今頃になって、退職金を返納さ
せる理由がない事に気が付いたという訳です。

今回の更迭の理由として、田母神空幕長が、論文公開時には、書面
で上司の許可を得るという内規に違反したからだと言われています
が、公務員にせよ、一般企業にせよ、懸賞論文に応募し、その報告
を怠ったからと言って、職を取り上げる所は寡聞にして聞いた事が
ありません。さらに、それが、職務に関係のない60年前の戦争に
関する解釈問題であり、余暇を使って書かれたものとあれば、報告
の必要すらないのが一般的な取り扱いでしょう。

なお、田母神空幕長は実際には口頭での報告を行っているのですか
ら、処分対象になったとしても、罪一等を免じられるべきですが、
今回のケースでは即日更迭の上、同日付けで退職までさせられてい
るのですから、今回の場合、その種の配慮すらないという、荒っぽ
い取り扱いです。

もし、60年前の戦争の解釈問題について、問題があるとすれば、
百年一日自虐史観以外の解釈を認めようとしない中韓両国とマスゴ
ミ以外にはありません。

問題となった田母神空幕長の論文ですが、本文を読んでいると、形
式的には、一部に不適説な引用や、孫引きがあり、学術論文の見方
をすれば不十分と言える点も多々あると思います。ただ、それは事
の本質ではありません。何故なら、かれが更迭されたのは、その本
旨の思想が、自虐史観に基づく村山談話と相容れない事によるもの
だからです。高名な軍事関係ブログの中には、重箱の隅の不備を揶
揄するだけに急なものもありますが、目を大きく開いて、論文の本
旨に注目したいものです。

「テロ」は歴史を変えるか?




※写真はムンバイ・テロで炎上するホテル。時事通信から転載

インドで同時テロ、死者80人…邦人1人死亡、1人負傷

【ニューデリー支局】ロイター通信などによると、インド西部ムンバイで26
日夜、ホテルや駅など少なくとも8か所で、ほぼ同時刻に爆発や武装集団によ
る無差別発砲があり、約80人が死亡、250人以上が負傷した。

日本政府筋によると、1人が死亡、1人が負傷したという。地元警察は、組織
的な同時テロの可能性が高いとみている。

AFP通信によると、「デカン・ムジャヒディン」を名乗る組織が、複数のメ
ディアにEメールで犯行声明を出したという。同組織の実態は不明。

AP通信によると、武装集団の一部は27日未明現在も、高級ホテル2か所で、
外国人ら約15人を人質に取って立てこもっており、警察と銃撃戦が続いている。

地元当局は、武装集団のうち4人を殺害、9人を逮捕したと発表したという。

(読売新聞 2008/11/27)

残念な事件が、また起こってしまいました。どういう意図でテロを
行ったのか判りませんが、犯行声明を出した組織の名前から見ると
イスラム過激派を想像させるものです。
パキスタンやインド国内のイスラム過激派は、度々、インドでテロ
活動を行っており、2001年12月にはインド国会襲撃事件を起
こしています。

インドとパキスタン、スリランカは、第二次大戦前は英領インド帝
国を形成していましたが、第二次大戦後の独立時に、ヒンデゥー教
徒、イスラム教徒、仏教徒各々が国家を形成しました。

インドとパキスタンは、特にカシミール地方の帰属(住民はイスラム
教徒だったが、藩王がヒンデゥー教徒であった為、インドに帰属し
た)を巡って、三度に亘って、戦争を行い、特に第三次印パ戦争の結
果、当時、東パキスタンと呼ばれていた地域が「バングラディシュ」
として独立した事から、関係は更に悪化しました。これが、インド
が核武装を行った際に、パキスタンも核武装する原因となっています。

幸いにして、第三次印パ戦争以後は、直接の戦火は交えておらず、
両国共に、核武装を行った事から限定的ながら核抑止が働き、戦争
は起き難くなっていると考えられます。

その一方で、特に、失ったものが大きいパキスタン/イスラム教徒
側の欲求不満が沈潜し、それがテロとなって噴出する結果を招いて
いると言えそうです。

さて、表題の「テロは歴史を変えるか?」という命題ですが、歴史
家、評論家の中には、テロは世界史の大きな流れを変えられないと
いう方もいる様ですが、実際には、テロは明らかに歴史を変えてい
る様に思われます。比較的最近に限っても、アルカイダが911テ
ロを起こさなければ、ブッシュがアフガニスタンやイラクを攻撃し
ていたとは思われませんし、もしイラク戦争がなければ、オバマ氏
が大統領に選出される事もなかったでしょう。

勿論、911事件そのものが、「文明の衝突」という大きな歴史の
流れの表出と捉えれば、遅かれ早かれ、西欧文明とイスラム文明の
衝突が起こっていたと巨視的に見るむきもあるでしょうが、よくよ
く見れば、西欧文明とイスラム文明が、全面衝突している訳ではな
いと考えます。寧ろ、米国一国支配に対するアンチテーゼとしてテ
ロが発生したと言う見方に私は共感を覚えます。(勿論、それも大
きな歴史の流れの表出とも言えますが...。)

テロはある意味で感情の表出でしかありません。大きな政治的社会
的構造を合法的には、思った方向に、希望する速度では動かす事が
できないというある人間やグループの焦燥がテロを生みます。

ただ、テロに影響力がないかと言えば、そんな事はありません。
911事件に見る様にテロを計画した人間が想像した以上の影響を
与える事もありえるのです。また、イスラエルに対するパレスティ
ナのインティファーダの様な継続的なテロ行為は相手側の非理性的
な行為を誘発する事もあり得ます。その点で、テロは対立する両者
の感情をより刺激する事で、対立を更に先鋭化させると言えるかも
知れません。発火点が下がれば、通常であれば、外交努力で沈静化
できた問題も、武力に訴える事になる可能性は高まります。今回の
ムンバイ・テロがそういった悲惨な結果を招来しない事を切に祈り
ます。