2010年6月10日木曜日

日本版GPS衛星の名残 準天頂衛星打ち上げへ






※CGは、JAXA Webサイトから転載

準天頂衛星 1号機 8月2日に種子島から打ち上げへ

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9日、全地球測位システム(GPS)の
精度向上を目指す準天頂衛星1号機(愛称・みちびき)を8月2日午後10時
54分から同11時54分の間に、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2A
ロケット18号機で打ち上げると発表した。

準天頂衛星は、カーナビなどの位置情報を送信している米国のGPS衛星を補
い、国内での測位を高精度化するための技術実証が目的。米衛星に代わる「日
本版GPS」構築を目指し、官民共同で3基打ち上げる計画だったが、06年
に産業界が撤退、残る2基の開発のめどは立っていない。前原誠司・宇宙開発
担当相の私的諮問会議は10年4月「利用者の強い要望がない限り不要」との
提言をまとめている。

(毎日新聞 2010/06/09)


今やカーナビを始めいたる処で使われているGPS衛星ですが、元々
は、米国国防総省が始めたプロジェクトである事をご存知の方も多
いと思います。例えば、船や飛行機が外部からの情報に基づき自分
が地球上のどの位置にいるかを知る事ができれば、目標位置との比
較を出す事ができ、その差に基づいて飛行経路を修正でき、確実な
航法を期待できる様になります。

実際、初期のミサイルは、GPSの様な外部情報を得られなかったの
でINS(慣性航法システム)を装備し、自分で自己位置を推定して飛
ぶ方式を採用していました。(それ以外にも、デジタル地形マップ
との対比で自己の位置を推定する精密誘導航法などもあります。)

それに比べ、地球を公転する複数の衛星から電波を受信し、その受
信電波から地球上の位置を計算で確定できるGPSは、ミサイルのみ
ならず、飛行機、船、自動車、人といった自分の位置と航法を必要
とする全ての移動物体にとって、夢の航法ツールと言えます。

ただ、元々、米国が自国の軍隊用に開発した測位システムですから
戦時においては、GPS電波の精度の変更やGPS電波の発信停止と言っ
た運用上の制限が出る事が予想されます。米国との関係での疎密は
ありますが、自立的な軍事力を建設しているロシアは独自のグロノ
ス測位システムを保有しており、欧州は、ガリレオ計画を推進中で、
中国もこのガリレオ計画に相乗りする事を予定しています。

今回、打ち上げが決まった準天頂衛星は、日本独自の測位システム
の夢の跡とも言えるものです。

GPSシステムは、高度20000kmの軌道を公転する30個の衛星ネットワ
ークからなっています。この内、三個からの電波を受信できれば、
位置が決定できます。しかし、実際には、衛星に搭載している電波
時計の誤差等もあって4個の衛星電波を受信する事で、正確に自己
位置を計算しています。

しかし、衛星の軌道によっては見通し角度の影響で衛星の電波を受
信しづらい事もあり精度上の問題が出る事もあり、位置決定に時間
を要する事もあります。

当初は独自の測位システムとして構想された準天頂衛星システムで
すが、少ない個数の衛星で測位システムを構成できるという特徴が
あります。その上、GPSの補完であれば、僅か三個あれば十分実用
的な価値出てきます。

準天頂衛星はその名前の通り、日本から見て天頂付近にある時間が
長い軌道を使いますので、GPS衛星からの電波が受信しにくい場所、
例えば、ビルの谷間でも衛星からの電波を受信しやすいという特徴
があります。遠地点の高度は、41000kmと通常のGPS衛星に比べ、二
倍近く遠くなりますので、その分、衛星を大きくして衛星から発信
する電波を強くしてあります。

今回の衛星は、準天頂衛星の最初の一個ですが、それに続く二個の
衛星については、一個目の運用状況を見ながら決定する事になって
います。当初は、官民で第三セクターを作り利用者から利用料金を
取る様なスキームでしたが、米国のGPS衛星の提供サービスが改善
された事もあって、スキームそのものが見直し対象になっています。

ただし、GPS衛星更新計画が必ずしも上手くいっていない事が、
2009年5月にGAO(米国会計監査院)により明らかにされ、場合によっ
ては、数個の衛星が2010年以降、運用できなくなるかも知れないと
報じられました。実際には、更新計画は、その後、改善され、GPS
サービスが停止する様な事態が発生する事はなさそうです。しかし、
衛星サービスは、幾分かの不確実性を必ず含んでおり、サービス停
止を防ぐ為には、一定の冗長度が必ず必要となります。その点、比
較的少ない衛星で、一定のバックアップシステムを構成出来る準天
頂システムは、GPSを補完するという理由だけでも打ち上げる価値
があると思うのです。


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