2009年8月7日金曜日

現実を無視した東アジア共同体構想は危うい

※写真は時事通信サイトより転載

民主・鳩山氏「アジア共通通貨の実現を」

民主党の鳩山代表は、10日発売の月刊誌「Voice」に寄稿し、東アジア
地域の通貨を統合する「アジア共通通貨」の実現を提唱した。

鳩山氏は、「私の政治哲学」と題した寄稿で、自らの政治信条である「友愛」
に基づく国家目標の一つとして、「東アジア共同体」の創造が必要だとの考え
を示した。

具体的には、国際情勢について「米国一極支配の時代から多極化の時代に向か
う。中国が、軍事力を拡大しつつ、経済超大国化していくことも不可避の趨勢
(すうせい)だ」との認識を示した。そのうえで「アジア共通通貨の実現を目標
とすべきであり、その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組み
を創出する努力を惜しんではならない」と主張した。ただ、アジア共通通貨の
実現には「今後10年以上の歳月を要する」とし、政治的統合には「さらなる
歳月が必要」とも指摘した。

(読売新聞 2009/08/06)


もともとは論文として書かれている訳ですから、それを読んで批判
すべきですが、報じられている範囲で気になった事を書いてみます。

まず鳩山氏の友愛思想は、どこまで普遍的な内容を持っているのか
全く不明です。政治信条というのは理想です。昔「世界は一家、人
類は皆兄弟」と言っていた競艇業者がいましたが、内容としてはそ
れとあまり変わりない様に思われます。実際にこの競艇業者は、今
では日本財団と言う財団を持っていて、世界的な各種のボランティ
ア活動に資金提供を行っており、その理念に基づいた活動を行って
います。少なくとも、自己の管理する資金を自己の理念に基づいて
支出するのは誰の迷惑にもなりませんし、結構な事と思います。

翻って、鳩山氏の場合はどうでしょうか。鳩山氏も私財を投げ打っ
て「友愛」に尽くしてもらえれば、誰の迷惑にもならないのですが、
鳩山氏の場合は自身の政治目標として「友愛」を掲げ、その表現とし
て、国家目標としての東アジア共同体の創造を唱えています。
しかし、「友愛」という言葉が地域を限定しない理念であるならば、
対象は、東アジアに限られる必要は全くありません。アジア全域で
あっても構いませんし、米国との間であっても、世界全体であって
も良い筈です。

「世界は一家、人類は皆兄弟」というスローガンの方が、「東アジアは
一家、東アジアは皆兄弟」というスローガンに比べ、私には快く響き
ます。一般的にも、余程シンパシーが高いと思われます。悪く言え
ば、東アジアと限定するのは、偏狭に思える位です。たまたま、隣
国というだけで、思想的にも、体制的にも、相容れず、宗教的にも
経済的な発展段階も異なる国と何故、共同体を組まなければならな
いかという一点に限っても、素直に理解するのは難しいと言わざる
を得ません。

次に気になる点は、「アジア共通通貨の実現を目標とすべきであり、
その背景となる東アジア地域での恒久的な安全保障の枠組みを創出
する努力を惜しんではならない」という言葉です。東アジア共同体
だったものが、共通通貨についてはアジア共通通貨と適用範囲が広
がっています。通貨の適用範囲が政治的な領域より広がる事はあり
ません。英国で独自通貨であるポンドが使われている様に、ユーロ
はEU全域で使われている訳ではないのです。寧ろ、通用する範囲
は狭いと言えます。鳩山氏のアジア共通通貨という言葉を善意に解
釈すれば、東アジア共同体以外でも貿易決済通貨として使われる通
貨としてアジア共通通貨と書かれているのかも知れませんが、やや
通貨に対する考え方が粗雑である様に思われます。

更に、気になるのが実現までのタイムスケジュールです。鳩山氏は
アジア共通通貨の実現には「今後10年以上の歳月を要する」とし、
政治的統合には「さらなる歳月が必要」とも指摘した様ですが、先
に述べた様に、通貨統合は共同体が深化しないと実施できません。
つまり東アジア共同体ができなければ、共通通貨は実現できません。
EUはその前進である、欧州石炭鉄鋼共同体が1952年に設立されて
から、マーストリヒト条約が締結されEUが発足するのに、40年の
年月を要し、通貨統合が行われるのに、更に、9年と合計50年に近
い期間を要しています。文化も、体制も、宗教も、経済発展段階も
東アジアよりもはるかに近似したヨーロッパですら通貨統合迄に半
世紀を要したのに、東アジアで、10年で共通通貨が実現できる可能
性は、ゼロとしか言い様がありません。

今人気の愛を旗印にした戦国武将が主人公のNHK大河ドラマを当
て込んだ様な感じがしないでもない「友愛」と言う信条も結構ですが、
次期総理になるかもしれない鳩山氏には、もう少し国際社会の現実
に目を向けて欲しいと思われてなりません。


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