2009年8月3日月曜日

T50は売れない!超音速高等練習機は絶滅危惧種

※写真は、Wikipediaより転載

練習機の海外輸出に苦戦するKAI
韓国製のT50超音速高等練習機

優れた性能が認められてもマーケティング・ロビー活動で押される
公企業構造では限界か


韓国政府と韓国航空宇宙産業(KAI)は、13年という年月と2兆ウォン(現在の
レートで約1487億円、以下同)の資金を投入し、2005年に高等練習機T50を開
発した。韓国独自の技術で初めて開発されたT50は、F16戦闘機に比べ体積が89
%、重量は77%ほどの軽い機体ながら、有事の際には武装を施し攻撃機として
も使用可能なため、国際市場で好評を得た。

しかし、輸出実績はゼロだ。アラブ首長国連邦(UAE)と4年間交渉を続けたが、
今年2月に1機2500万ドル(約23億5450万円)で40機販売という交渉で、イタリ
アに押しのけられた。シンガポールとは2012年までに12機納品することを目標
に交渉中だが、今年10月に発表される結果もまた未知数だ。また今月8日には、
李明博(イ・ミョンバク)大統領がポーランドのレフ・カチンスキ大統領と首
脳会談を行い、T50輸出問題を議題として採択した。ポーランドは、来年初め
に16機(10億ドル=約941億円)規模の高等練習機を導入する事業を進めている。

李大統領がT50に関心を示した裏事情は、こうだ。大統領に当選した当時、UAE
の指導者に親書まで送ったが水の泡となったことに対し、「李明博政権の外交
力不在と、KAI社長任命過程で“落下傘”人事を行ったのが原因」など、あら
ゆる非難が集中した。こうした経験から、李大統領はカチンスキ大統領から何
らかの肯定的な答えを引き出したかった、というわけだ。

防衛事業庁の関係者は、「“T50はポーランド空軍の主力機F16の縮小版で、パ
イロットに合っている”という友好的な答えがポーランド側から聞かれたが、
イタリアの主力練習機M346、イギリスのホーク128、チェコのL156などとの競争
は避けられず、結果は予測できない」と語った。

T50はイタリアのM346より性能が優れている、というのが一般的な評価だ。それ
でもUAEで苦杯を舐めたのは、M346を製造しているアレニア・アエルマッキ社に
比べ、産業協力の面で相手にならなかったからだ。アエルマッキ社は、練習機
を販売する条件としてF1レーシングサーキットの建設など、20億ドル(約1883
億円)規模の「ボーナス」を提示した。これに対し、韓国側は2億ドル(約188
億円)程度だった。

防衛産業分野での輸出は、兵器の性能だけで左右されるものではない、という
のが不文律だ。T50がどれほど優秀でも、公企業構造のためにマーケティング
やロビー活動の面で競争相手に太刀打ちできない、というわけだ。KAIは公式
のマーケティング以外、非公式なロビー活動はできず、初心者的立場から逃れ
られずにいる。

KAIは、産業銀行が最大の持ち分(30.54%)を有しており、そのほかに現代自
動車、サムスン・テックウィン、斗山インフラコアが株主として参加している
半国営企業だ。そのため、兵器産業の取引の特性上、一日も早く民営化しなけ
ればならない、という指摘も出ている。

産業銀行の関係者は、「米国のロッキード・マーチン社やボーイングは米国政
府からさまざまな恩恵を受けているが、株式保有の面では、典型的な民間企業
の形態を取っている。航空関連の大企業と提携してこそ、競争相手より優位に
立てる」と語った。また国防研究院の白承周(ペク・スンジュ)研究委員は、
「われわれが過剰な広報に出たことも、輸出に失敗した原因の一つだ」と指摘
した。防衛産業分野の輸出市場を開拓するには、広報よりも非公開の交渉や努
力が必要だが、広報にばかり熱を上げる態度が問題になった。防衛事業庁側は、
「2030年までに、世界の高等練習機の交換は50カ国・3300機に上ると見込まれ、
KAIはこのうち30%(1000機、600億ドル=約5兆6500億円)の市場シェアを目
標としている」と語った。しかし、この広大な市場で韓国がどの程度実を結ぶ
ことができるかは不透明だ。

(朝鮮日報 2009/8/02)


日本でも、高等練習機を作った事があります。いわずと知れたT-2
高等練習機です。しかしながら、この高等練習機の後継機は導入さ
れませんでした。もし、高等練習機が実用戦闘機パイロットを養成
するのに有用であり、トータルのパイロット養成コストを削減でき
るのであれば、航空自衛隊は、引き続き高等練習機を使い続けた筈
です。

T-2があった頃の航空自衛隊の訓練課程は、
①初等練習機→②(ジェット)中等練習機(T-33)→③高等練習機(T-2)
→④実戦機(F-4、F-1、F-15)
でした。

しかしながら、T-2退役後の現在では、一段階少ない
①初等練習機→②(ジェット)中等練習機(T-4)→③実戦機(F-4、F-2、F-15)
であり、高等練習機での訓練に相当する過程は、実用機の複座型に
よって行われています。

これは、中等練習機を終了した後の高等訓練課程を実戦機で行うの
と高等練習機で行うのを比べた場合、実戦機では、高等練習機で行
う訓練が全て行える上、高等練習機を使った場合に、実戦機に移っ
た時に行うその機体特有の訓練を、実戦機での訓練では、高等訓練
と同時に行う事で、訓練期間の短縮を図る事ができます。また、実
戦機を訓練に使用する事で、いざという時に使用可能な実戦機の機
数を増加させる事ができるという効果も期待できます。

実戦機を使う事で高等練習機を使う場合に比べ、運用費用が増加す
るという欠点が指摘できますが、高等練習機という実戦機に準じる
機体を一機種別に導入する事によるトータルコストと比較すれば、
割安になる他、近年では実機に近いシミュレータを利用する事で、
訓練コストを下げる事もできます。

この為、高等練習機を導入する場合は、その高等練習機と同系列の
実戦機を導入する事で、機体導入コストを削減するのが通例です。
T-2を導入した航空自衛隊も同系列の支援戦闘機F-1を導入していま
すし、韓国空軍も、派生機であるA-50攻撃機を導入する予定となっ
ています。

つまり、T-50は単体で導入する場合は、性能の高い高等練習機であ
るが故に、高価であり、その同系列の実戦機であるA-50攻撃機を導
入する気がなければ、コスト高になってしまうという事です。

その点、T-50の対抗馬に目されているアエルマッキM-346は、T-4の
エンジンを強化して遷音速化した様な機体であり、中等練習機とし
て使用できるものです。これは、チェコのL-159にせよ、BAEのHawk
128にせよ同様です。

つまり、韓国の期待に水を差すのは悪いのですが、最新の超音速高
等練習機という存在は、導入コストの割に、導入効果が低いと言え、
高等練習機単体で導入される可能性は非常に低い絶滅危惧種と言わ
ざるを得ないのです。


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