2009年1月19日月曜日

ガス供給再開するも敗者はロシア


※写真は、ロイターサイトからの転載

「19日にもガス供給」EUは不信感 露・ウクライナ

【モスクワ=佐藤貴生】ロシアがウクライナと欧州への天然ガス供給を停止し
た問題で、ウクライナのティモシェンコ首相は18日未明、「19日にも欧州
向けのガス供給が再開される」との見通しを語った。インタファクス通信が伝
えた。モスクワで首相と会談したプーチン露首相も同様の趣旨を述べた。ただ、
パイプラインの再稼働に必要なガスの費用をだれが支出するかなどは明らかで
はなく、欧州連合(EU)は両国の動きを慎重に見守る姿勢を崩していない。

プーチン首相は会談後、ウクライナ側がガスの通過料を昨年同様に抑えること
を条件に、「今年のウクライナ向けガス価格を、欧州向けのマイナス20%と
する」ことで合意したと述べた。ティモシェンコ首相は、ロシアとウクライナ
が19日、新たな合意文書に署名した後、供給が再開されるとしている。

ガスの欧州向け価格は1000立方メートル当たり450ドル前後とされるが、
両国が合意した今年の具体的な価格は明かされていない。また、ウクライナが
ロシアに対して6億5000万ドルに上るガス料金を未払いのままにしている
問題もあり、両国の対立がすべて解消されるかは不透明だ。

モスクワでは17日、EU関係者を招いて問題を協議する会議が開かれた。メ
ドべージェフ大統領は欧州の主要ガス企業でコンソーシアムを結成し、ウクラ
イナ国内のパイプライン維持に必要なガスを購入することなどを提案した。

しかし、EUは議長国チェコの閣僚らを会議に派遣するにとどめ、ロシア側と
距離を置く姿勢を示した。ロシアとウクライナによって何度か調停案を覆され
てきたEUの不信感はかなり根深いとみられる。EUは最近、早急に事態が打
開されない場合、「両国との関係を見直す」との厳しい姿勢を打ち出している。

(産経新聞 2009/01/19)

今回のロシアのヨーロッパに対するガス供給停止問題に絡んで、ロ
シアとウクライナの確執であるとか、料金の不払いであるという要
素を抜きにしても、ロシアは、そういった問題と無関係のヨーロッ
パ諸国に対し、供給責任を果たさなかったという事実は残ります。

元々、今回の欧州へのガス供給停止は、ウクライナのガス抜き取り
に対抗するというロシア流の大義名分がありましたが、その内容た
るや、ウクライナが抜き取ったとされた量を通常の供給量から削減
するという乱暴なものであり、ウクライナが、そこから、自国の必
要量を取得すれば、ヨーロッパ諸国への供給はますます削減される
しかない点で、ヨーロッパ諸国に共同でウクライナに外交圧力をか
けないとガス供給を停止するというロシアからの恫喝以外の何者で
もありませんでした。そして、その結果として二週間以上に亘り実
際にガス供給が停止してしまった訳です。

この様に、露骨にウクライナへの圧力をかけるという目的でロシア
は天然ガス供給を政治的武器として使用しました。これは2006
年に続いて二回目の事です。一回だけなら誤射かもしれませんが、
二回目ともなれば、どの国であっても、ロシアにガス依存度を深め
るとそれを梃子に圧力がある事を前提に外交を考えないといけません。
つまり、今後共、ロシアのガス供給に依存する事を選ぶ国は、基本
的にロシアの地域ヘゲモニーに従う事を積極的に選択した国と言う
事になります。

逆に言えば、ロシアの政治的圧力を嫌う国は、ロシアの天然ガスに
対する依存度を低下させる必要が出てきます。具体的には、天然ガ
ス供給国を多角化する事です。それによって、ロシアからの供給を
備蓄目的用にしてしまえば、供給ストップとなっても通常使用分は
影響を受けない事になります。また、エネルギー源としての天然ガ
スへの依存を低下させる必要も出てきます。この為には、一部の国
で既に始まった様に停止原発の再稼動や原発の新設まどが対策とし
て考えられます。
その一方で、ロシアが進めようとしているウクライナを経由しない
ノースストリームやサウスストリームと呼ばれるガスパイプライン
については、ロシアへの依存度を下げたいと思っている国は、現状
以上に建設に消極的になる筈です。

ロシアは、昨年12月に「ガス輸出国フォーラム」(GECF)を
開きOPECにならったガス供給に関する価格生産量調整用の国際
機関を作ろうとしましたが、今の処、国際金融危機もあって、創設
への動きは鈍いと言えます。また、天然ガスを高価格にすると、海
中に眠っているメタンハイドレードの開発を加速させる事にもなっ
てきます。

これらを勘案すると、今回のガス供給を梃子にしたプーチン外交は、
発動するタイミングとしては、必ずしも良いものではなく、逆に、
ロシアが更なるガス戦略を発動する事を前提とした欧州諸国の対抗
処置を招き、結果的にロシアの戦略オプションの幅を狭め、ガス輸
出量を低下させる悪手であると言える様に思います。


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