2009年1月22日木曜日

候補者から為政者へ変身したオバマ氏

※Reutersサイトから転載

封じた「CHANGE」 現実見据えた再生へ決意

米国の第44代大統領に就任したバラク・オバマ氏(47)は20日(日本時
間21日未明)の就任演説で、選挙戦で聴衆を高揚させた「変革(チェンジ)」
などの派手なキャッチフレーズを避け、国民の結束によって「米国の再生に取
り掛かる」と、重々しく呼びかけた。“肩透かし”に等しい地味な演説は、景
気後退など厳しい環境下で船出した政権の周辺から、虚飾や過剰な期待を排し
ておく政治判断によるようだ。

就任宣誓に続く20分足らずの演説で、選挙期間中にオバマ氏の代名詞ともな
った「変革」「希望」の使用頻度は、無関係の文脈まで含めても、それぞれ2
度だけにとどまった。

代わってオバマ氏が描いた米国の現状は、出口の見えないテロ組織との戦いや、
「一部の者の強欲と無責任」と厳しい決断の先送りが招いた「経済の激しい弱
体化」など、政権交代後もにわかに解決は難しい「本物の試練」だった。

オバマ政権の移行チーム関係者は、就任式典が近づいた先週末のあたりから、
演説が「責任と透明性」(ラム・エマニュエル新大統領首席補佐官、49歳)
を強調する地味で固い内容となることをメディアに根回ししてきた。オバマ氏
が敬愛するエイブラハム・リンカーン(1809~1865年)やジョン・F・
ケネディ(1917~1963年)ら、歴代大統領の名演説を「敢えて意識し
ない」とも伝えられた。

■「責任分担」明確に示す
就任演説は、大半の部分をオバマ氏自身がまず執筆し、その後、大統領選をと
もに戦い抜いた主任スピーチライターのジョン・ファブロー氏(27)と推敲
を重ねたとされる。だとすれば、就任演説への“期待値”を予め引き下げる広
報対応は、オバマ氏自身が「演説の名手」という評価に傷をつけてでも、厳し
い情勢認識や負担の大きな政策の方針をはっきり示し、国民に責任分担を求め
る必要があると決意した結果と読める。

オバマ氏が訴えようとしたのは、「家も職も失い、ビジネスは閉ざされた」と
いう灰色の現状から、国民が結束して「新しい責任の時代」に突き進むことで、
状況の好転を図るためのいわば道筋だ。

だが、政策に関する言及を見渡すと、「公的資金を管理する者は賢い使い方を
すべきだ」「監視システムがなければ、市場はコントロールを失う」など、オ
バマ政権のめざす政策は、国民や業界の間に痛みや不満が伴うものも多い。

安全保障についても、国際協調路線への転換を打ち出すのと同時に、現実のテ
ロの脅威には米国の武力で対処するという現実路線が盛り込まれた。就任演説
はオバマ氏の独自色ばかりに染めることのできない政権指導者としての苦衷が
色濃くにじんだようだ。(ワシントン 山本秀也)

(産経新聞 2009/01/22)

表題の割には、軽めの話題です。一昨日の夜、オバマ氏の就任演説
をライブで聴かれた方は恐らく少なかったのではないでしょうか。
かくいう私も、昨日勤めを終わってから、yahooの演説テキストを
見ながらABC提供動画で初めてオバマ氏の演説を聞いた次第です。
新聞各社から翻訳は出ていますが、英語でオバマ氏の魅力的な低音
の演説を聞いていると意外に、対位法を使ったり韻を踏んだりと言
った演出が多い事に気がついたりしました。

ただ、就任演説で一番気になったのは、オバマ氏が実に淡々と19分
のスピーチを終えた事です。National Mallに集まった200万人が期
待したフレーズ「Yes We Can !」という言葉が無いのは勿論の事、
フレーズの区切りでも、聴衆の歓声が沸きあがっている途中で、
その腰を折るような感じで、次のフレーズを始めてしまうと言った
具合です。

National Mallへの入場を許された人達は、大統領選挙で、オバマ
当選に貢献した民主党員が殆どです。寒風の中、大統領就任式を何
時間も待ち続けたのは、オバマ新大統領の演説を聞きながら、
「Yes We Can!」を連呼する事で、勝利に酔う事であったに違いあり
ません。オバマ氏も、それは良く承知していたに違いないのです。
そして、その期待に応える事は、全く容易な事であった筈です。
スピーチライターに、そう頼むだけで良かったのですし、民主党大
会での大統領候補受諾演説など、そういうスピーチは、今までも何
度も行っています。また、そういう機会に熱狂的な聴衆の反応を引
き出して来ているのがオバマ氏です。今回の演説でも、聴衆の熱狂
を引き出し、国民の一体感を形成するというオプションもあった筈
です。

今回、その様な草の根民主党員の期待を振り切って実に淡々とした
就任演説を行った事は、まさにオバマ氏が意図してその様なものに
したと明確に指摘できます。オバマ氏は大統領就任式にあがったの
でも、スピーチライターが悪かったのでもなく、寧ろ、候補者時代
の周囲の期待を切り捨てる様な演出をあえて行う事で、明白に為政
者としての役割に転換する事を意図したのではないかと思えるのです。

就任演説の内容そのものの中にも、それを思わせるフレーズがあり
ます。最初に、現実の暗さを指摘し、演説の後半で国民の努力でそ
れを変えて行こう、努力を継続したと後世の人から言われる様にし
ようと促しています。まさに、就任時に華やかな雰囲気で出発する
のではなく、寧ろ低く暗く出発する事で、目的達成への努力を促し
政権を通じた盛り上がりに繋げようという意図があったのかも知れ
ません。

その点で、為政者としてのオバマ氏は、上院議員一期のみという、
その政治経験の乏しさにも係わらず、意外にしたたかな人物である
事を予想させたと言えるのかも知れません。


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