2008年12月3日水曜日

アレスI ロケットが開発中止になった時




※写真はアレスIロケットのCG。Wikipediaより転載

オバマ政権移行チーム、「アレスI」ロケットの開発中止を検討

オバマ米次期大統領の政権移行チームがNASAが開発を進めているスペースシャ
トルに代わる有人ロケット開発のためのコンステレーション計画(Constellation 
Program)の計画縮小を策定していることが米宇宙開発専門誌「スペース・ドッ
ト・コム」の報道により28日までに明らかとなった。

政権移行チームでは既にNASA幹部に対してコンステレーション計画実現に必要
な具体的な予算規模などのインタビューを実施。その上で、最小の予算で計画
実現が計れる方策として有人宇宙船打ち上げ専用ロケットの「Ares I(アレスI)」
に関しては開発中止とする方向で検討入りした模様だ。

政権移行チームでは「アレスI」の代りに有人専用ロケットとしては重量級貨
物専用ロケットとして開発が進められている「Ares V(アレスV)」の規模を
縮小したものを、もしくは衛星打ち上げ用ロケットして既に実績がある
「Delta IV(デルタIV)」ロケットを利用するとしている。

政権移行チームではまた、有人ロケットの選択肢として開発中の有人宇宙船
「Orion(オリオン)」をスケールダウンすることにより、ESAの「Arian V
(アリアンV)」ロケットや日本の「H2A」ロケットによる打ち上げを行うこと
なども検討している模様だ。

(Technobahn 2008/11/30)

アレスIは、米国のコンステレーション計画の一環として現在、鋭
意開発が進められているシャトル後継有人宇宙船打ち上げロケット
です。今回の報道は、オバマ政権移行チームが、このアレスIロケ
ットの開発を取り止める方向で検討に入ったというものです。

しかしながら、実は、アレスIは、有人宇宙船打ち上げロケットと
しては、米国唯一のものであり、この記事が代替案として、書いて
いるアレスVロケットの縮小型や、Delta IVロケットでは、今でも
就役の遅れが取り沙汰されるコンステレーション計画を更に遅らせ
る事になりかねません。その一方で、喜ぶのは、Deltaロケットの
製造メーカーであるボーイング社だけです。その意味で、この記事
はボーイング関係者が流したガセネタである可能性が強いとも考え
られます。

コンステレーション計画では、アレスIとアレスVという二種類のロ
ケットを開発していますが、アレスIが有人宇宙船打ち上げ専用で
あるのに対し、アレスVは、無人を前提にしています。

有人用と無人用では、ロケットの信頼性についての要求で桁が一つ
違ってしまいます。つまり有人宇宙船打ち上げ用のロケットを開発
する事は、無人用のロケットを開発するのに比べ、開発費用が上昇
する事になり、ロケット自体も高度の冗長構成を取った安全設計を
行う為、コスト高になりがちです。

アポロ計画では、サターンV型ロケットで有人宇宙船を打ち上げま
したが、アレスでは、有人部分と、無人部分を分け、前者をアレスI
で、後者をアレスVで打ち上げ、軌道上で、両者をドッキングさせ
る事で全体コストの引き下げを図ったと言えます。開発費用の削減
の為の施策は、それ以外にも、新規開発を極力絞った設計である事
にも伺えます。

アレスIで言えば、第一段固体燃料ロケットは、スペースシャトル
のSRBを改良したものを使用しています。また、第二段も、サター
ンVの第二段と第三段に使用されていたJ-2エンジンを改良した、
J-2Xエンジンを使用します。両者ともに有人宇宙船打ち上げ用に使
われた実績のあるコンポーネントですが、こういった実績のあるコ
ンポーネントを使用しても開発が、2015年までかかるのです。

これに対し、代替策であるDeltaIVロケットの有利な点は、ペイロ
ードニーズを満足する無人用ロケットの完成品があるという一点だ
けです。これを有人用に転換するには、基本設計にまで戻った改設
計が必要です。(日本のH-IIA,Bを有人宇宙船打ち上げ用とする場合
も同じプロセスが必要です。)
勿論、Deltaロケットも実績のあるロケットですから、極端な性能
要求を行わなければ、スクラッチから開発するのと比べ、短い期間
で実現できる点は間違いありません。しかしながら、それがアレスI
と比べ、早いかどうかと言えば、疑問とせざるを得ないのです。

もう一つの代替案であるアレスV縮小型ですが、アレスVは、元々無
人機打ち上げ用ロケットです。しかも、第二段はアレスIと同じJ-2X
ロケットを使用します。違いは、第一段ですが、これはDeltaロケ
ットと同じRS-68エンジンを使用するのですから、これを有人宇宙
船打ち上げ用に変更するには、アレスI以上の時間がかかるのは確
実と言えます。

ついでに言えば、記事の一番下の段にある、オリオンカプセルを縮
小して、アリアンVやH-IIAで打ち上げる案については、アリアンV
は元々有人宇宙船ヘルメスを打ち上げる想定で設計されていたので、
可能性はあるでしょうが、H-IIAについては、無人前提で設計され
ているので、Deltaと殆ど変わらない時間とコストが必要になるの
で代替案にはなりません。

もし、オバマ政権移行チームが本気で、こんな事を考えているので
あれば、米国は近い将来、宇宙へのアクセス手段を失う事になり、
それだけでオバマ氏は偉大な大統領と言えなくなる様に思います。

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