※写真は、Japanese.CHINA.org.cnからの転載
中国の新兵器により威力を失うF-35 米軍は調達削減か
米メディアによると、オバマ政権はF35戦闘機2500機の調達計画を見直す考え
だ。中国など米国の潜在的ライバルのレーダーや対空ミサイル分野での驚異的
な進歩を受け、今後10年でF35を配備しても、90年代の設計当初のように「重
大な価値を有する」かどうかを再検討する必要に迫られたからだ。
米戦略予算評価センター(CSBA)のクレピネビッチ所長は「F35の設計完成以
来、世界は大きく変化した。中国など米国の潜在的ライバルの装備構成によっ
て、米軍のその他の航空機、ミサイルシステム、武器プラットフォームが、い
くつかの状況下では、高額なF35よりも有効になった」と指摘。その例として、
ハイテクレーダーや地対空ミサイルなど中国が現在開発・整備中の先進兵器シ
ステムを挙げる。これらはF35にとって十分脅威なので、前方基地や空母から
発進するF35は以前ほど役に立たない。国防総省はF35の調達数を思い切って削
減し、浮いた予算を他の航空機やミサイルの調達に充てるべきか検討する必要
があるというのだ。
クレピネビッチ所長は、こうした政策変更の有用性を指摘する。クレピネビッ
チ所長は米国防政策委員会の重要人物であるうえ、同委員会は多くの重要な問
題について国防長官に直接提言を行うため、国防総省もクレピネビッチ所長の
提言に非常に注目している。
F35はコストの肥大化とプロジェクトの遅れのため、米軍・政府双方にとって
関心の焦点となっている。1機当たりの価格は4500万ドルから1億ドル以上へと
つり上がり、海外の取引先の調達意向にも影響を与えている。だがゲーツ国防
長官や国防総省の一部高官は、F35の直面する難題を解決し、最終的に計画通
り調達することを希望している。
(中国網Japanese.CHINA.org.cn 2010/07/05)
この記事の元ネタですが、Dailytechの以下の記事であるようです。
F-35 Lightning II May Bring Less "Value" to Battlefield than Intended
http://www.dailytech.com/F35+Lightning+II+May+Bring+Less+Value+to+Battlefield+than+Intended/article18888.htm
確かに、中国の様な敵国が採用しようとしている新型レーダーや対
空ミサイルの高性能化がF-35の開発当初に意図した様な、「高性能」
を実現できるかどうかという問題点と、F-35の開発コストが、高騰
しており、2500機を調達するという計画の見直しが米政府内で提起
されているとの指摘があります。
両者を比較して興味深いのは、元の記事にあって、中国側の報道に
ない点や中国の記事で特に強調している点です。
元の記事自体が、具体性を欠くきらいがあるのですが、元記事のポ
イントは、F-35が敵とする国の対空システムの充実により、F-35の
有効性が減少した事に「加え」、米国の軍事予算が、F-35の様な
3820億ドル(約35兆円)も掛かる巨大兵器開発と、退役軍人向けの健
康保険の充実というこちらも巨費のかかる事業を、中東での作戦と
同時には実施できないというものです。
では、F-35に変わって何を採用するのかについては、元記事は、違
う機体によって充足する事が国防総省内部で検討されているとしか
述べられていません。
中国の記事は、中国が開発している新型の対空システムによって
F-35の有効性が低下したという点のみを大きく取り上げた記事にな
っているのです。
それでは、本当に、中国の対空システムの高度化により、F-35の有
効性は、大きく低下したのでしょうか。
中国の兵器は、ロシア(ソ連)の兵器を国産化したものや、一部改良
したものが多いのですが、対空ミサイルシステムもその例に洩れま
せん。現在主力として展開中の最新対空ミサイルシステムは、ロシ
ア製のS-300PMUであり、中国国産では最新のHQ-12は、ごく一部に
しか配備されていません。では、S-300PMUは、ロシアでいつ配備さ
れたのかを調べてみると1992年です。比較的新しく見えますが、同
じシリーズのS-300Pは1980年代から使われており、段階的に性能が
向上しています。これに対しF-35の開発が始まったのが、2000年で
すから、F-35の要求仕様を纏める上で当然、考慮された筈の対抗兵
器という事になります。(なお、ロシアでの最新対空兵器は次世代
のS-400になっています。)
従って、中国の新兵器によって当初想定された威力が低下したと言
う議論は成り立たず、寧ろ、コスト超過によるプロジェクト規模削
減の言い訳に使われていると言える様に思われるのです。
この様に見ると、中国の記事は、米国の記事から中国にとって誇ら
しい部分だけを抜き出したものであり、その内容はミスリーディン
グであると思われるのです。(中国軍部が本気でそうであると信じ
るのであれば、それはそれで対抗兵器を過小評価する事になります
が、中国の軍事専門家を、それ程、無能と想像するのは、不適切で
しょう。)
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