※画像はhttp://therealrevo.com/blog/?p=5876より転載
敵基地攻撃能力の保有を打ち出す 防衛大綱で自民提言案
自民党は3日、国防部会防衛政策検討小委員会(今津寛委員長)で、政府が年
末に改定する「防衛計画の大綱」への提言案をまとめた。核実験と弾道ミサイ
ル発射を繰り返す北朝鮮を念頭に敵基地攻撃能力の保有を打ち出した。また、
平成15年度予算以来の防衛費・防衛力の縮減方針を撤回し、防衛費と自衛官
の定員を維持・拡充するよう要求した。近く首相官邸や防衛省へ提出する。
提言を政府側がどれだけ受け入れるかが焦点になる。
提言案は敵基地(ミサイル策源地)攻撃について「専守防衛の範囲で、ミサイ
ル策源地攻撃能力を保有し、米軍の情報、打撃力とあいまった、より強固な日
米協力体制を確立することが必要」とし海上発射型巡航ミサイル導入を挙げた。
防衛費縮減方針の撤回要求の理由としては「陸海空自衛隊ともやりくりの限界
を超えている。防衛力整備に必要な防衛予算および整備基盤の維持・拡充を行
うべきだ」とした。政府の経済財政政策の指針「骨太方針」の中の防衛費縮減
目標の見直しも求めた。
また、米国を狙う弾道ミサイルの迎撃など集団的自衛権の行使容認▽内閣直轄
の対外情報機関や国安全保障会議(日本版NSC)創設▽他国との共同開発の
ための武器輸出三原則の緩和▽国境離島(防人の島)新法制定と離島の領域警
備体制の充実-を盛り込んだ。
同小委の会合では(1)軍事大国にならない(2)専守防衛(3)非核三原則
-に沿って防衛政策を進めることも確認した。今津委員長は記者団に「次期衆
院選の争点の1つになるのが安全保障政策だ」と語った。中谷元・党安全保障
調査会長「北朝鮮が核やICBM(大陸間弾道ミサイル)を保有するなら、専
守防衛は変えないものの策源地攻撃能力を考えなければならない」と述べた。
(産経新聞 2009/6/03)
整備すべきは、敵基地攻撃能力なのか策源地攻撃能力なのか今ひと
つ判り難いですね。それでいて専守防衛は変えないとなると、なか
なか実現すべきもののイメージがはっきりとしません。どの様に想
定するかで、実現に要する費用も期間も大きく変わってきます。今
回の提言案の中にもっと書きこんであるとは思いますが、提言の内
容が報道されるまでの間は少し想像の羽を伸ばして、何が、目的を
達成する上で、合理的な実現手段なのかを考えてみたいと思います。
高名な軍事関係ブログのコメント欄では、ノドンの移動発射機を潰
せないと意味がない。その為には、数千機の攻撃機とそれを支援す
る制空戦闘機や支援機が必要という極端な意見が出ています。残念
ながら作戦機の数が五百機程度しかない航空自衛隊の現状では、実
現は到底不可能です。
では、まず、何の為に、敵基地攻撃能力を整備するのか目的をはっ
きりさせたいと思います。私はこの敵基地(策源地)攻撃能力は、敵
の通常兵器による攻撃を抑止する為のものであると考えます。
つまり、北朝鮮が、核攻撃を行った時には、米国が核報復を言明し
ているので抑止されているとしても、通常弾頭を装備したミサイル
で日本を攻撃した場合に、米国による攻撃と同時に、あるいは日本
単独であっても北朝鮮の基地(策源地)に攻撃を行う事を明らかにし
ておく事で、北朝鮮のミサイル攻撃を抑止するというものです。
これを、一度、攻撃を受けた後に、敵基地を攻撃する事=ノドンの
移動発射機を破壊する事が目的であると解釈すると難易度が極端に
高くなり、やっても無駄という結論にしかなりません。
何故なら、イラク戦争中に、発射機が比較的見つけ易いと思われる
イラクでスカッド狩りを米軍が行いましたが、かなりの兵力を投入
したにも係わらず百発近いスカッドの発射を許容せざるを得なかっ
たからです。トンネルの掘削経験・能力が高く、地勢的にも移動式
発射機隠すのが容易な北朝鮮では、ノドン狩りの有効性は更に低下
すると考えるのが適当と思われます。
従って、目標を明らかにするかどうかは別にして、日本が整備すべ
きは、通常兵器の範囲で、北朝鮮のミサイル攻撃を抑止できる兵力
であると定義する事にします。
この定義で整備すべき、一番小さな兵力は、百発程度のトマホーク
巡航ミサイルであると考えます。北朝鮮はノドンは百発~二百発程
度保有していると伝えられていますので、弾着の正確性を考えると
概ね百発程度トマホークがあればバランスすると思われるからです。
通常弾頭の戦術トマホークの価格は、一発1.5億円程度です。
これを発射するランチャーとしては、護衛艦が装備しているMk41VLS
が使用できます。Mk41VLSは、こんごう型護衛艦に一隻当り90発分、
あたご型護衛艦に同じく96発、むらさめ型護衛艦に各16発。たかな
み型護衛艦には各32発分搭載しています。百発程度であれば容易に
搭載できます。所要費用もソフトウェア関連の改修費用が必要かも
知れませんが、トマホークを装備するには、それ程のコストにはな
らないでしょう。概算で約200億円程度でしょうか。
それよりも、寧ろ、目標として何を選択するかが課題になります。
一番良いのは、ノドン移動式発射機ですが、音速以下の比較的低速
で飛ぶ巡航ミサイルにこの種の移動式目標の攻撃任務を与える事は
有効ではありません。発射時に目標設定が必要ですが、目標までの
飛行中に目標が移動してしまう為です。
寧ろ、固定目標を狙うべきであり、ノドンの製造工場や、液体燃料
の製造工場、軍の各級の司令部、固定式ミサイル基地、航空基地、
レーダー基地等があげられます。また、北朝鮮の代表的な記念碑や
指導者の宮殿も対象にして、嫌がらせを行う事で、敵の非合理的反
応を引き出す事が可能になるかも知れません。日頃から北朝鮮のど
こに何があるのかを情報収集衛星等で集めておき、北朝鮮が一番嫌
がる場所をいつでも攻撃する様にしておく事が重要です。
トマホークの配備に加え、より効果的な攻撃を行う為には、支援戦
闘機(攻撃機)を強化する必要があります。また、北朝鮮を攻撃する
場合、足の長い攻撃機を空中給油機でサポートする必要があります。
現在使用しているF-2は、海上目標と攻撃する事を目的に開発され
たもので、既に生産ラインも閉鎖されています。これから整備する
のであれば、F-15E系列の戦闘爆撃機を導入するのが適当ではない
かと思われます。規模は、2個~3個飛行隊(50機~75機)、所要
費用は、戦闘機導入だけで五千億円~七千五百億円です。
当然、空中給油機も現在の4機では不足するので、これを三倍程度
に増やす必要があります。これにも二千億円程度を要します。
合わせて一兆円といった処でしょうか。本音を言えば、早期警戒管
制機や電子戦機も欲しい処です。
北朝鮮攻撃用に航空機を整備する事を考えるとトマホークと比べる
と非常に高価なものになるのが判ります。敵基地(策源地)攻撃能力
の整備と合わせ、MD整備も怠り無く進めないとならず、こちらに
も資金を要しますから、優先順位としては、戦闘爆撃機他の航空機
の整備は後回しにすべきだろうと思われます。
敵基地(策源地)攻撃能力は、実は、政治的な戦力整備であるとも言
えます。もし、北から通常弾頭のミサイル攻撃があった場合、従来
の考え方からすれば、北朝鮮への攻撃は全て米国が担う事になりま
す。米国が自動的に報復攻撃を行うかどうかは米国の判断による事
になりますが、米国が自身の思惑で、迅速な報復を行わない事がな
いとは言えません。また、攻撃を受けたにも係わらず、日本として
一矢を報いる事をしなかった場合、内閣が持たない可能性が考えら
れます。世論は一夜で変わります。昨日までは攻撃兵器を持たない
のが世論であっても、一度理不尽な攻撃を受ければ報復の声が世論
となるのは明らかです。今回の敵基地(策源地)攻撃能力整備は、抑
止力であると同時に、そのような事態になった際の政治的な言い訳
の道具としても使われると思われるのです。
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