2009年3月5日木曜日

各国の戦略ミサイル潜水艦パトロールの実態


※画像は、Russian Submarine Patrols 1981-2008。
FAS Strategic Security Blogより転載

ロシアによる戦略ミサイル原潜パトロールが回復中

By Hans M. Kristensen

アメリカ海軍の情報機関からFAS(全米科学者同盟)が得た情報によれば、ロシ
アは、昨年、1998年以降で最多の核弾道ミサイル潜水艦を戦略パトロールに
送りだした。

その情報によれば、ロシアの戦略ミサイル潜水艦は2008年に10回のパトロール
を行ったが、2007年は3回、2006年には5回、2002年には、戦略パトロールま
ったく行われていなかった。

ロシア戦略ミサイル原潜パトロールの復活?

過去10年の間、ロシアに残された11隻の戦略ミサイル原潜(SSBN)は連続的な戦
略パトロールを維持していなかったが、その代わりに訓練目的で時折パトロー
ルを行っていた。セルゲイ・イワノフ国防相が、2006年9月11日に語った処では、
その時点で、5隻のSSBNがパトロール中であった。しかし、その数がその年に
実施されたパトロールの回数に一致した事から、それは連続的に実施されたと
言うよりも、むしろ一斉パトロールだった事が明らかになった。

それとは対照的に、アメリカ合衆国、フランス、英国は、連続的なパトロール
を少なくとも1隻のSSBNで行っている。アメリカ合衆国の場合、その14隻の
SSBNの内、3分の2はどんな時間にでも海上にあり。内4隻は警戒待機状態に
ある。

2008年の10回というロシアのパトロール回数は、ロシアが連続的なSSBNによる
パトロールを再開したかどうかという問題を提起している。ロシアによる戦略
SSBNパトロールの期間も間隔もわかっていない。もし、彼らが36日以上海上に
あって、重複がなければ、ロシアには連続的な海上の核抑止力があると言える。
しかし、2006年にように固まって行われるならば、海上核抑止の体制はまだ散
発的なものと言える。

Ryazanの航海

アメリカ海軍の情報機関から得られた情報では特定されていないが、ロシアの
パトロールのうちの1つは、恐らく、バレンツ海のコラ半島にある北方艦隊か
らカムチャッカ半島にある太平洋艦隊へのデルタIII級潜水艦Ryazanの30日間
の海氷下航海である。

Ryazanは、2008年8月1日に、弾道ミサイル、恐らくはSS-N-18(珍しくミサイル
タイプは公表されなかった)の、バレンツ海からのテスト発射に成功した。
このテストでは、弾頭は北ロシアを横断し、カムチャッカ半島のクラ試験場に
着弾した。

8月の終わりに、Ryazanは北方艦隊を出発し、氷に覆われたロシア北岸の海氷
の下を航行し、ベーリング海峡を通って南下し、ウラジオストックの弾道ミサ
イル潜水艦基地に9月30日に到着した。

軍備管理上の意味

オバマ政権は戦略核戦力の削減を提案しており、クレムリンはそれに好意的に
応えるようである。ちょうどその時、ロシアのSSBNが冷戦時代の習慣に復帰し
連続的な海上核抑止パトロールを実行するというのであれば、それは、とても
皮肉な事と思われる。

長射程核ミサイルを大規模な第一撃を耐えぬくために海洋の深みに隠す、連続
的なSSBNパトロールは、冷戦の最後の象徴の1つである。米国のSSBNは1980年
代のそれに相当するパトロール率を維持しており、フランスと英国も、両者が
先月衝突した事で明らかになった様に、常時1または、2隻を海上にしておこ
うとし続けている。そして、中国とインドもSSBN艦隊を建造しようとしている。

多くの人々は、SSBNは、純粋に報復的な武器であり、受動的に海に隠れている
と考えている。しかし、アメリカとロシアの核兵力がさらに削減され、そして、
中国とインドがSSBNクラブに加われば、前方配備された水中の核兵器は核軍縮
に最も挑戦的な問題の一つになるに違いない。

(FAS Strategic Security Blog 2009/2/17)


1月に英国とフランスの戦略ミサイル原潜(SSBN)が衝突事故を起こ
した事で、はしなくも、核大国が依然としてSSBNによる核抑止を実
施している事が明らかになりました。

このFASのブログのエントリーによれば、米国は冷戦時代と全く変
わりない戦略核抑止体制を引き続き実施しており、英国やフランス
も最低限の海上核抑止体制を維持しています。更に、中国やインド
という新興国もSSBNクラブに加入してくる事も予想しています。
(公然の秘密と言うべきでしょうが...。)

オバマ政権が戦略兵器の更なる削減を行おうとしている時にロシア
によるSSBNパトロールが復活する事は、確かに皮肉ではありますが
より皮肉な事は、各超大国が核軍縮を行えば行う程、中国やインド
と言った新興核保有国との核戦力格差が縮小していく事です。

中国やインドは、戦略兵器削減交渉の埒外ですから兵力拡大は自由
に行えます。現状では、米国は14隻、ロシアは11隻、中国は4
隻程度のSSBNを保有おり、その差は絶対的なものと言えます。しか
し、戦略兵器削減交渉で米ロがSSBNを半数に削減すると、米ロ各々
7隻、6隻の保有状況となり、中国の4隻と隻数では余り変わらな
くなってしまいます。

現時点では、弾頭数やMaRV化の度合い、射程等で、技術的には、大
きな格差があるものの、中国には追う側のメリットがあります。中
国が軍事費の拡大を続けていく限り、その差は急速に縮小していく
筈です。

つまり、米ロが戦略兵器削減交渉で大規模な核軍種を行えば行う程、
中国の核戦力が相対的に強化され、米ロ両国は、ますます、中国を
戦略的に無視できなくなる事になります。勿論、これは、インドに
ついても同様ですので、核戦力においても近い将来、世界は多極化
に向かい、つれて不安定さを増すと考えられるのです。


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