2010年5月18日火曜日

20SS(平成20年度計画潜水艦)は、革命的な艦になるか?

※写真は17SS「うんりゅう」。朝雲新聞社Webページより転載

20SS(平成20年度計画潜水艦)は、そうりゅう型潜水艦の五番艦とな
る潜水艦です。そうりゅう型自体が、通常動力潜水艦としては世界
最大の艦であるだけでなく、各種の新機軸を装備した最新鋭艦です
が、20SSは、更に大きな自由度を潜水艦に与える注目すべき新技術
が採用される事になっています。

但し、そうりゅう型潜水艦の五番艦という位置づけから判る様に、
表面的なスペック上は、1番艦から4番艦までと変わる事はありま
せん。武装も火器統制システムもソナーも変わる事がありません。

その新技術は何で、どの様な利益をこの艦に与えるのでしょうか?
実は、この艦から採用されるという新技術は、我々には、既に、耳
慣れた技術です。リチウムイオン電池というのが、この艦から採用
される新技術です。如何ですか、がっかりされたでしょうか。

ノートパソコンの電池にはもう大分前からリチウムイオン電池が採
用されていますし、電動自転車のバッテリーでも既に一般的です。
しかし、ハイブリッド自動車には、まだまだリチウムイオンの採用
は進んでおらず、主として安全性やコスト面での有利さもあり、ト
ヨタのプリウスやホンダのインサイトではニッケル水素電池が使わ
れています。大容量の二次電池として、リチウムイオン電池は、ま
だまだ一般的とは言えないのです。但し、ニッケル水素電池と比べ、
リチウムイオン電池は、ポテンシャルが非常に高い事もあり近い将
来、電池自動車では、確実に主流になると見込まれています。

その大容量リチウムイオン電池を世界に先駆けて潜水艦用の蓄電池
として実用化したのが海上自衛隊であり、その採用第一号が、20SS
と言う訳なのです。この大容量リチウムイオン電池と潜水艦用蓄電
池プラントの開発は、平成14年から平成17年にかけて研究開発及び
試験が行われました。

では、20SSの装備するリチウムイオン電池は、潜水艦の性能をどの
様に変えるのでしょうか。潜水艦には、その最初期から蓄電池とし
ては鉛蓄電池が採用されてきました。この理由は、コストが安く、
大量に生産でき、短時間で大電流放電させたり、長時間緩やかな放
電を行っても比較的安定した性能を持ち、メモリー効果もなく、長
寿命であるという非常にバランスの取れた電池性能を実現していた
からです。

リチウムイオン電池が鉛蓄電池に勝るのは、一にも二にも、取り出
せる電気の量が多く、電気の充電に急速に行う事ができるという点
にあります。電池が単位容積当りどの程度のエネルギーを蓄えられ
るかは、エネルギー密度という単位で計りますが、鉛蓄電池が1㍑
当り60-75Whを蓄えられますが、リチウムイオン電池の場合は、こ
れが、200Wh以上、今後の技術進歩によっては600Wh~700Whにもな
る潜在力があると評価されているのです。

今回採用されたリチウムイオン電池がどの程度の性能を持つかは明
らかにされていません。公式には2倍以上となっていますが、おそ
らく3倍近い能力をもっているものと思われます。(一般の電動自
転車用のリチウムイオン電池が240Wh/Lなので、この程度は達成し
ていると思われます。)

潜水艦は水中では、シュノーケル状態でなければディーゼル主機を
動かす事はできません。そうりゅう型の場合は、スターリング機関
がありますので、低速度(5kt程度)であれば、かなりの長期(二週間
程度)に亘って行動する事ができますが、それでも高速力を出す事
はできません。従来の鉛蓄電池では、一時的には、20kt超の水中速
力を出す事は可能でしたが、それはごく短時間しか許されませんで
した。(この場面で20ktを10分、そこからあちらに動いてから20kt
を5分というような感じだそうです。)

リチウムイオン電池になってもそういう制約は残りますが、高速力
を出せる時間が、2倍~3倍に改善される事は大きな意義がありま
す。潜水艦としての運動性能は大幅に改善する事になります。

また、速力を出す場面でなくとも、大容量の電力を蓄積しているの
で、従来に比べれば、水上やシュノーケル状態で充電する必要が減
少します。それによって敵に探知される機会が減少する事になり、
生存性が向上する事になります。

また、電池そのものの形状は、従来の鉛蓄電池とほぼ同じであるの
で、従来艦に対してもレトロフィットも比較的容易ではないかと考
えられます。もし、レトロフィットが容易であれば、海上自衛隊の
潜水艦全てに適用可能と言う事になり、既存艦の運動性能の向上と
生存性向上に役立つ事は疑いありません。リチウムイオン電池潜水
艦は、勿論、原子力潜水艦には及ぶべきもありませんし、U212級の
様な燃料電池推進艦と比較しても、スターリング機関と併用して漸
く対抗できるレベルなのかも知れません。しかし、それでも、最小
費用による戦闘能力向上が実現できるのは、喜ばしい事であり、自
衛隊潜水艦隊の実力を大いに高める事ができると思われるのです。


環球閑話日々の徒然まとめサイト
http://space.geocities.jp/ash1saki/


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昨日のエントリーに20SSには、リチウムイオン電池は搭載されてい
ないのではないかという指摘を頂きました。
改めて調べてみましたが、搭載されていないと明確に述べた資料は
資料はなかったものの、防衛省の予算関係資料で判る潜水艦の調達
費用を概算要求時と予算成立時を比べてみると、20SSについては、
リチウムイオン電池を搭載していれば、上昇する筈の船価が、逆に
前年に比べ、大きく低下しているのが判ります。
従って、おそらく20SSやそれ以降の艦にも、リチウムイオン電
池は搭載されていないと考えざるを得ません。
残念ですが、リチウムイオン電池の潜水艦への搭載はあくまで将来
計画と考えるべきだろうと思います。

     概算要求時 成立予算  差額
22SS 544億円 528億円 ▲16億円
20SS 540億円 510億円 ▲30億円
19SS 550億円 533億円 ▲23億円
18SS 577億円 552億円 ▲25億円
17SS 585億円 586億円 + 1億円
16SS ――――― 598億円 不明








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