2月12日の以下のエントリー
潜水艦建艦競争が激化するアジア。惰眠を貪る日本?(2010/02/12)
http://ysaki777.iza.ne.jp/blog/entry/1457002/
で取り上げたヘリテージ財団のレポートですが、中国海軍に対する
米国海軍の動きについても、良く書かれているので抄訳する事にし
ました。原文は以下のURLで参照できます。
http://www.heritage.org/Research/NationalSecurity/bg2367.cfm
第一回は、総論と米国の動きについてで、次回は中国や他の諸国の
動きになります。
太平洋での潜水艦軍備競争:米国の海中での優位に対する中国の挑戦
by Mackenzie Eaglen and Jon Rodeback
The Heritage Foundation, February 2, 2010
要約
冷戦の終了以来、中国はその海軍、とりわけ潜水艦隊の拡張を図っており、
1995年以降、数十隻の攻撃型潜水艦を増勢した。同じ期間に、米国の攻撃型潜
水艦隊は、53隻に縮小し、2028年には、41隻に減勢するものと予想されている。
米国の艦隊は、既に、現在行われている作戦の需要で、余裕がなくなってきて
おり、オーストラリア、インド、その他太平洋諸国も、このバランスの移動を
認識して、自らの海軍の拡張、特に潜水艦隊の拡張に入っている。米国が艦隊
の減勢に終止符を打ち、反転させない限り、米国の太平洋における軍事的優位
は、弱まり続け、米国の利益と友好国や同盟国を支援する合衆国海軍のこの地
域での作戦実行能力は、非常に制約を受ける事になるだろう。
2009年4月、オーストラリアは、地域的な安全保障環境の変化、とり分け、太
平洋における米国の覇権の凋落と中国海軍の急速な発展に対応して、「第二次
大戦以降最大の軍備増強」を行う旨発表した。長い間、米国に最も忠実な同盟
国であり、友人であった国の一般向けの声明は、米国議会と米国の上級防衛担
当者に対し、目覚ましのベルと言えるものとなった。
中華人民共和国(PRC)は、地域的な海軍大国から世界的な大国へと急速に発展
してきており、「米国と中国、また、中国と日本の間で東アジアにおける安全
保障上の厳しい競争が生起する見通しが強まっている。」この地域の他の太平
洋諸国も、潜水艦の取得予定で明白に示されている様に、この安全保障環境の
変化に留意している。
オーストラリアの軍備増強は、潜水艦隊を現在の6隻から、より大型で、能力
の高い12隻へと増強するものであり、それに加え、「インド、マレーシア、
パキスタン、インドネシア、シンガポール、バングラデシュ、韓国も近代的な
通常動力潜水艦の取得を計画中」である。オーストラリアとインドは、その海
軍増強の少なくとも一部が中国の海軍建設に対する対抗処置である事をはっき
りと述べている。
これとは対照的に、米国の潜水艦隊は2028年まで縮小し続けると予測されてお
りこれによって、太平洋での事件に対する米国の影響力と形成力がさらに制限
される事になる。
米国の攻撃型潜水艦は海洋の支配と覇権の確立に重要な要素であり、他の軍事
資産と交換できるものではない。
その独特の能力は、軍事力に乗数効果をもたらすものであり、「体重を上回る
パンチ力」を可能とする。そして、東アジアと太平洋における米国の利益を保
護し、米国の盟邦を支え、安心させるために、米国は、太平洋で軍事バランス
を維持するより広範な政策の重要な構成要素として潜水艦隊の減勢を中止し増
強へと反転させなければならない。
水中のかくれんぼ
強力な武器システムとステルス能力の結合により、潜水艦には戦略的な抑止、
海洋管制と海洋利用拒否、戦場準備、監視と情報収集、特殊部隊上陸や陸上攻
撃を含む地上作戦に対する支援といった広範囲にわたる任務を成し遂げる特別
の適性がある。
ステルス能力は、効果的な水中活動の主要な成分である。それは、潜水艦が予
想外の方向から、突然の、破壊的な攻撃を行う事を可能とし、幽霊のように作
戦地域に出入する事を可能にしている。また、潜水艦は、発見された場合、攻
撃には脆弱である事から、ステルス能力は潜水艦の主要な防御能力でもある。
潜水艦は四種類に大きく分類される。これらは、ディーゼル電気推進攻撃型潜
水艦(SSとSSK)、原子力推進攻撃型潜水艦(SSN)、原子力推進巡航ミサイル潜水
艦(SSGN)と原子力推進弾道ミサイル潜水艦(SSBN)であり、主要な武装と推進シ
ステムによって区別される。
武装
攻撃型潜水艦の第一の任務は敵国の水上艦艇や潜水艦を発見し、撃沈する事で
海洋の支配力を確立する事である。最新の攻撃型潜水艦は、巡航ミサイルを発
射する事ができるが、これにより陸上攻撃能力が与えられた事になる。
SSGNは、海上覇権を確立する為の水上攻撃目標任務と陸上目標を攻撃する任務
の双方を行う事ができる巡航ミサイルを装備する。SSBNは、SLBM(潜水艦発射
弾道ミサイル)を発射する能力を持ち、米国とロシア、そして遠からず中国の
核抑止力を担っている。
推進機関
どの様な推進機関を保有するかで、航続距離、潜水維持能力、速度、敏捷性、
そして、危険な状況に探知されずに出入する静粛性と言った潜水艦の能力が大
まかに決定される。
多くの国は、ディーゼル電気推進潜水艦を配備している。このタイプの潜水艦
は水上ではディーゼルエンジンで推進され、水中では、電気バッテリーで航走
する。潜水中は、非常に静粛である。ロシアのキロ級潜水艦は、探知を避ける
能力の高さから「ブラックホール」と渾名された。しかしながら、この印象的
なステルス能力も航続距離と速度の制約と数日毎に潜望鏡深度あるいは水上で
バッテリーに充電する必要があるという犠牲によって齎(もたら)されたもので
ある。
いくつかの国は、非核、非大気依存(AIP)推進潜水艦(SSP)を実戦配備している。
その潜水艦は、ステルス性と速力は伝統的なディーゼル電気推進潜水艦と同様
ながら、一時に数週間潜水できる能力を持つ。この長期間潜水する能力は、明
白に、探知機会を減少させ、脆弱性を低下させる事になる。
原子力潜水艦の大きな長所は、そのほとんど無制限とも言える推進力である。
その推進力は、より高速の作戦速度と実質的に無制限の航続距離、及び数ヶ月
に及ぶ潜航能力を実現する。そしてその潜航能力は乗員用の糧食と貯蔵品、乗
員の持久力によってのみ決定される。
原子力潜水艦の大きな欠点は、原子炉がバッテリーパワーで動いている電気モ
ーターより本質的に騒音が高いということである。しかし、これは潜水艦の音
響特性を減少させる材料と設計によって軽減する事が出来る。
原子力潜水艦は、国際的な威信の源にもなっている。実際、国連安保理の常任
理事国五ヶ国以外には僅かな国を除き原子力潜水艦を保有していない。
対潜水艦戦
対潜水艦戦(ASW)とは、艦艇や航空機、潜水艦他を使用して敵国の潜水艦を探知、
追跡し、撃沈する戦闘である。潜水艦は、目標と同じ環境で運用される能力、
及び同程度の戦力と脆弱性を持つ事から、恐らく最高の対潜水艦戦用のプラッ
トフォームである。しかしながら、対潜ヘリコプターと哨戒機は、航続距離と
速度、及び獲物となる潜水艦からの脅威に対して、脆弱でないという有利さを
持つ。水上艦艇は、非常に能力の高い対潜プラットホームではあるが、潜水艦
からの攻撃に対してより影響されやすいと言える。
敵の潜水艦を破壊するか、少なくとも戦場から退場させる為には、まず、探知
する事が必要であり、通常はソナーによって行われる。アクティブソナーは、
第二次大戦時の映画で一般に良く描かれている様に、ピンによって探知目標
(通常は潜水艦)の正確な位置を知る事が出来る。しかし、同時に、それによっ
て、ソナー発振器の位置を露呈し、敵潜水艦に誰かが何かを探している事を警
告する事になってしまう。パッシブソナーは、潜水艦や他の艦艇の特徴的な音
響を音波や超音波を通じて「聞く」事に依存している。
最近のパッシブソナーは、艦艇に曳航されたソナーやソノブイ、その他水中セ
ンサーから得られた音響をフィルターに通したり、翻訳したりするのにコンピ
ュータを使用している。理想的には、パッシブセンサーは、ソナー探知により、
方位と位置とタイプを識別する事ができる。
航空機と衛星は、水面下すぐの処にいる潜水艦を探知する事ができる。また、
衛星は、水中の潜水艦を、水中航走時に水面上の発生する波のパターンによっ
て探知する事ができるが、これは他の要因、通常は荒れた海にによる「雑音」
によって制約を受ける。最新の対潜水艦戦は、高いスキルの専門家と広範囲の
訓練と先進の機器を要する挑戦的で高価な、非常な努力の賜物と言える。
太平洋の潜水艦隊
潜水艦隊とその配備は、冷戦の集結から劇的に変化した。1990年代を通じ、ロ
シアは、その潜水艦隊の殆どを実戦配備から退役させた。そして、米国も潜水
艦隊を着実に減勢した。米国の潜水艦が継続的に減勢している間に、中国は急
速に潜水艦隊を拡張し、更新した。軍事バランスの変化に対応して、他の太平
洋諸国も潜水艦隊を拡張し、近代化している。
米国
米国の攻撃型潜水艦は、1987年の102隻から2009年の53隻へと減少した。この
減少は、レーガン政権時代の600隻海軍(100隻原潜)計画以降、繰り返された海
軍構造改革計画の改訂によって齎された。ジョージ・H・W・ブッシュが唱え
た1991年計画では80隻となり、統合参謀本部1992年兵力研究では、目標を55隻
とされ、1997年の四ヵ年防衛レビュー(QDR)では、バーが更に下げられ、50隻
とされた。2001年のQDRでは、攻撃型原潜数は55隻に戻された。2006年のQDRで
は、2012年まで一年に建造する原潜の数を2隻に引き上げ、潜水艦隊の60%を
太平洋に配備する事で、この地域での米国の利益を保護する事としている。
海軍は、48隻の攻撃型原潜を含む313隻の艦隊を提案しているが、情報に通じ
た専門家は、この数値が米国のニーズに合致したものか疑問に感じている。
1999年の統合参謀本部(JCS)潜水艦戦力構造研究では、最適の攻撃型原潜数と
して、全ての軍事ニーズと情報収集ニーズを合わせると2015年で68隻、2025年
で76隻が必要と結論づけている。2015年で55隻、2025年で62隻の戦力では、安
全保障上、モデレートなリスクがあるとみなされた。しかしながら、現在の53
隻の攻撃型原潜は、2001年9月11日以前に所要とされたモデレートなリスクが
あるとみなされた水準すら下回っている。艦隊は、既に、過剰に展開されてお
り、海軍の長期的な調達計画ですら、攻撃型原潜の数は、2022年から2033年に
は、48隻以下となり、2028年から2029年には、41隻の底を打つこととなっている。
この予想される「潜水艦ギャップ」を軽減するため、海軍はヴァージニア級潜
水艦の建造時間を60ヵ月に短縮し、また、一部のロサンゼルス級潜水艦の耐用
年数を最高で2年間延長し、同様に配備日数を6ヵ月から7ヵ月延ばすことを検
討している。この計画の全てが上手くいけば、潜水艦隊の減勢は44隻~45隻で
底を打つ事となる。但し、この努力は、911以前に計画された、モデレートな
リスクシナリオに対応したものでしかない事には留意する必要がある。
怠られた対潜水艦戦能力整備
攻撃型原潜勢力の縮小は、効果的に水中の抑止力を維持する海軍の能力に挑戦
を強いると同時に、他のASWプラットホームの減少に示される海軍の対潜水艦
戦への努力にも陰を落としている。海軍は、173機の老朽化したP-3C哨戒機を
保有しているが、後継となるP-8Aは、2013年にならないと実戦配備される事は
ない。海軍は同様に、S-3Bバイキングを退役させているが、この機種は、空母
搭載の長距離対潜機としては唯一のものであり、更新は計画されていない。
これに加えて、「海軍はSOSUS-1950年代にソ連の潜水艦を探知する事を目標
に開発された戦域ベースの音響探知システム-の近代的な同等物を欠いている」
という指摘があるが、これは、ASW能力面での広範な弱点の象徴と言える。
冷戦中に配備された多くのシステムは、今日直面している脅威に対しては、限
られた有効性しか持っていない。例えば、冷戦期に設置された固定センサーは、
今世紀に紛争が発生しそうな場所には、設置されていない。さらにまた、より
多くの国が、米国の空母を脅かす事のできる先進の潜水艦を配備しており、米
国が介入する上でのコストをより高いものとしている。
海軍の戦力構造は、この進化する水中の脅威環境に適応したものでなければな
らない。2008年7月、劇的に変化した最近の脅威評価と海軍の戦闘能力に関連
する優先順位付けについて海軍高官が議会で証言した。バリー・マカルー中将
は、脅威環境に対する海軍の新しい認識を解説した。
急速に進化している伝統的あるいは、非対称的脅威は、戦闘指揮官
を増加する挑戦に晒している。国家レベルあるいは以前は限られた
脅威しか持たなかった非国家レベルの対象が、自身の沿岸域を超え
公海での潜水艦任務や、進歩した対艦巡航ミサイルや弾道ミサイル
を使用する能力を獲得しつつある。いくつかの歴史的に、地域的な
軍事的能力を備えているだけだった国が、海軍力を拡張し、グロー
バルな市場で競争する為、実行範囲と影響範囲を拡大している。
我々の海軍は、彼らが拡張する以上のペースで大洋での活動や能力
を拡張する必要がある。これには、海洋利用拒否戦略に対して公海
上での対潜水艦戦及び対弾道ミサイル戦能力の改善を継続する事を
必要とする。
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