2010年10月4日月曜日

中国の軍事力 2010 第二章 (3)


中国の軍事戦略

人民解放軍の理論家達は、情報化の条件下での局地的な戦争で、戦闘を行い勝
利できる時間のかかる軍隊の建設を目標とするドクトリンに基いて改革への枠
組みを開発している。それらは、とりわけ不朽の自由作戦とイラクの自由作戦
を含む合衆国が率いた戦役での軍事的経験、ソ連とロシアの軍事理論、人民解
放軍自身の戦闘経験を踏まえた青写真に基づいた、軍事力の全ての領域を亘る
改革である。

改革のペースと規模は、広範囲で余す所のないものである。しかしながら、人
民解放軍は、近代的な戦闘を経験していないままである。作戦経験の欠如は、
中国の軍事改革の進展についての外部からの評価を難しいものにしている。
それと同様の理由で、中国内部から自身の軍事的能力を評価する事も難しいも
のとなっている。中国の軍人ではない指導者達は、近代的な戦闘の直接的経験
のない司令官達のアドバイスや、近代的な戦場の真実味を欠く「科学的」戦闘
モデルに頼らなくてはならない。

権威ある講話や文書の分析によれば、中国は、軍事力の使用と展開を計画し管
理する為の全体的な原則とガイドラインとして「新時代国家軍事戦略ガイドラ
イン」(新時期国家軍事戦略方針)に、従っている事を示唆されている。

作戦可能な、あるいは、ガイドラインの積極防衛の構成要素は、防衛的な軍事
戦略であり、中国は戦争を仕掛ける事や、侵略戦争を行う事はなく、国家主権
と領土保全の場合のみ戦争に関与すると定めている。

海上戦闘

「積極防衛」の海軍の構成要素は、「沿海積極防衛」と呼ばれている。2008年
の防衛白書は人民解放軍海軍を戦略的任務として記述し、「遠海」での作戦能
力を開発中であるとしている。人民解放軍海軍は三つの任務がある。海を経由
する侵攻に対する抵抗、国家主権の防衛、海上権益の保護の三つがそれである。
海洋作戦に対する人民解放軍海軍のドクトリンは、6つの攻撃と防御戦闘に焦
点をあてている。封鎖、海上交通路対する攻撃、海洋からの陸上攻撃、艦船攻
撃、海上輸送保護、海軍基地防衛の六つである。

胡錦濤主席は、2006年の海軍共産党会議での講話で、中国は「シーパワー」で
あり、「力強い人民の海軍は海洋の権利と利益を擁護する」と主唱した。
他の政治指導者や人民解放軍海軍士官の発言、政府の文書、人民解放軍報道機
関は、中国の経済的政治的な力は、海洋への接近と利用が可能であるかによっ
て左右され、強力な海軍は、海洋への接近を保証する上で求められるとしている。
中国から遠く離れた場所での任務に対する考慮が求められてきているが、海軍
は、台湾をめぐる合衆国軍隊との紛争の可能性を強調しながら第一列島線や第
二列島線の内部における作戦への準備に焦点が当てられている。これは北京が
受け入れ可能な形で台湾問題が解決しない限りは、正しい選択であろうと思わ
れる。

地上戦闘

「積極防衛」の下で、地上軍は、中国の国境を守り、国内の安定を確かなもの
とし、地域レベルの戦略展開を試みる事をその役割としている。地上軍は、割
り当てられた軍区の中で、地点確保戦闘、運動戦闘、都市部戦闘、山岳地戦闘、
沿岸防衛戦や上陸戦を行う静的な防衛軍としての存在から、中国の周辺地域で
戦闘可能な装備を持った、より積極的で大きな運動性を持った攻撃的存在に移
行している最中である。

2008年の防衛白書では、地上軍を地域防御軍から地域間移動な可能な軍隊に変
化してきていると記述している。地上軍の変革は、小さく、モジュール式で、
多機能、空陸共同作戦や遠距離移動が可能で、迅速な攻撃と特殊攻撃が可能な
能力を保有する単位を作り上げる事を目標にしていると述べている。人民解放
軍の地上軍の改革はロシアのドクトリンと合衆国軍隊の戦術にならって作られる。
地上軍は、統合した共同作戦を実行する臨時で、多機能な統合戦術編成の実験
を主導している様に見える。2009年の8月と9月に、各地の軍区から集められた
合計5万人以上の軍隊が、人民解放軍のこの種のものとしては、最初の大規模
機動演習となるKuayue(跨越)2009に参加した。

航空戦闘

人民解放軍空軍は、限定的な領土防衛用の軍隊から、合衆国とロシアの空軍を
モデルにした、沿海での攻撃的防御作戦が可能で、より柔軟で機敏な戦力に変
化している。焦点が当てられている主要な領域には、攻撃、対空対ミサイル防
御、早期警戒と偵察、戦略的機動が含まれている。人民解放軍空軍には、統合
対空戦での指導的な役割が割り当てられている。「統合対空戦」は、接近拒否
や地域利用拒否に関する中国の作戦計画の基礎を形作るものである。人民解放
軍の理論では、攻撃と防御の曖昧さを強調して、統合対空戦は、自ずから戦略
的防衛戦であるが、作戦レベルや戦術レベルでは、敵基地攻撃や敵艦船攻撃が
求められるとしている。

人民解放軍の新しい任務は、人民解放軍空軍の将来に関する議論を導く。即ち
中国の世界的な利益を保護する為には、人民解放軍空軍の遠距離輸送能力と補
給能力の増強が必要であるという全般的な合意が形成されている。中国から遠
隔地に航空戦闘部隊を展開するという要件については、あまり議論が行われて
いない。海軍の場合と同様に、次の10年における空軍の主要な焦点は、台湾と
東アジアの合衆国軍隊に対し、確実な軍事的脅威を齎す事ができ、台湾の独立
を変更し、あるいは北京の条件によって紛争を解決するよう台湾に影響を与え
る事ができる様な能力を建設する事である。

宇宙戦闘

人民解放軍の戦略家は、宇宙を近代的な情報戦闘の中心と見ている。しかし、
人民解放軍のドクトリンは、宇宙での作戦を、それ自体独立した作戦可能な
「戦闘」とは考えていない。寧ろ、宇宙作戦は、全ての戦闘に枢要な構成要素
であるとしている。人民解放軍の軍事理論誌「中国軍事科学」は、「情報化時
代の戦争の焦点は、宇宙に集中する事になる」と述べ「特に、宇宙に基礎を置
く通信、情報収集、航法システムは、多軍種共同戦闘を可能とし、更に調整を
可能とする事で、近代戦争を勝利する為に重要である」としている。

それと同時に、中国は敵の宇宙資産を攻撃する能力を開発しており、宇宙の軍
事化を加速している。人民解放軍の文書は、「敵の偵察、通信衛星を破壊し、
損害を与える」必要性を強調しており、偵察衛星、通信衛星、航法衛星、早期
警戒衛星を初期攻撃の対象とし、それへの攻撃により敵の目と耳を奪う事を推
奨している。合衆国と同盟国の軍事作戦についての人民解放軍の分析は、「衛
星や他のセンサーを破壊または捕獲する事は、敵が戦闘のイニシアティブを取
る能力を奪い、精密誘導兵器がその能力をフルに発揮できなくする事ができる」
と主張している。

統合電子ネットワーク戦闘

中国の軍事関係文書では、戦場での成功を確実とするためには、作戦開始後早
期に電磁気的な優勢を獲得しなければならない点を強調している。
人民解放軍の理論家達は、敵側が戦闘継続と兵力展開に使用する戦場情報シス
テムの利用を中断させる為に、電子戦、コンピュータネットワーク運用、運動
弾による攻撃を意味する統合電子ネットワーク戦闘(网電一体戦)という用語を
作りだした。多軍種共同活動の将来のモデルに関する人民解放軍の文書では、
「統合ネットワーク電子戦」を「多軍種統合共同活動」の基本的な形態の1つ
と認識している。そして、人民解放軍の作戦理論では電磁気的な優位の獲得を
戦場支配の中核として提案している。

人民解放軍の機密保持と偽装

人民解放軍の文書は、戦略的偽装の定義として「相手側を誤認させ、そして、
最小の兵力と資材で、計画的組織的に各種の偽情報を作りだし、自身を戦略的
に有利な位置に置くこと」と定義している。情報操作に加え通常のカモフラー
ジュや隠蔽や否定も、戦略と偽装が中国の政治的手法の中で果たした歴史的経
験と伝統的な役割から有効な策としている。

今日、中国の戦略文化に固有の緊張が発生している。軍事的能力や軍事開発計
画を隠し、ごく一部しか認めない根深い傾向は、中国の勃興する力に対する地
域的、世界的な不安に油を注いでおり、それを維持困難にしてきている。

十年以上の間、中国の指導者は、この不安を「中国脅威論」として、中国に反
対する地域的、世界的な強国の聯合を形成する中国の国際的な立場への深刻な
危険と認識している。それに加え、過剰な機密保持は、透明性と情報の自由な
流れを成功する為の要件とする統合された世界経済での中国の役割と一致させ
る事がますます困難になっている。

非対称戦闘

1991年の湾岸戦争と1999年の同盟軍作戦(NATOのユーゴースラビア空襲の作戦名)
以来、人民解放軍の戦略家達は、新しい予想外の可能性に対する軍事機構や戦
略と戦術の構築の緊急性を強調している。彼らは技術的に優越した敵と対する
に当たって、既存の技術と武器システムで戦場での格差を無くす為の革新的な
戦略や戦術を開発する事も強調している。1999年に解放軍報は「絶対的な優勢
を持つ強力な敵であっても弱点が無い訳ではない。我々の軍事敵準備は、強力
な敵の弱点を利用する為の戦術を見つける事に努力を集中する必要がある。」
と記している。

人民解放軍には米国のアプローチと同様の要求があるにも係わらず、その適用
としての作戦要求が米国のそれとは非常に乖離した領域がいくつもある。その
一例として、強力に防御された空域内の目標を攻撃するに当たって、ステルス
機よりも弾道弾と巡航ミサイルにより多くを期待する事が挙げられる。また、
米国の宇宙での優位を中立化する為に情報収集衛星、通信衛星、航法衛星を攻
撃する一連のシステムやコンピュータネットワークから莫大な量の情報を抽出
するアプローチ、近年の攻撃、防御両面での電子戦の強調、それに、「三つの
戦闘」ドクトリンが挙げられる。

(Department of Defence 2010/08/16)


Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010
http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf


環球閑話日々の徒然まとめサイト
http://space.geocities.jp/ash1saki/









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