100歳以上の高齢者の「所在不明」が全国で続いている。
問題発覚のきっかけとなった東京都足立区の男性は、実際には30年以上も前
に死亡していた。白骨化が進んでいたが、これほど長い期間、生存確認が放置
されてきたのは異様である。
日本は本格的な高齢化時代を迎え、1人暮らしの高齢者も急増している。100
歳以上は全国に約4万人以上とされるが、今回のような事例は100歳以下で
も起きている可能性がある。
長寿社会における“ひずみ”が端的に現出したケースであり、だれにでも起こ
りうることを認識することが重要だ。まずは、各自治体が早急に本人確認を行
い、実態把握することを求めたい。
自治体調査には難しさもあるという。入退院を繰り返したり、施設や親類宅に
身を寄せたりしているケースもある。民生委員が訪問しても面会を拒否される
ことも多い。だが、個人の人権やプライバシーを尊重するあまり、自治体側が
深入りを避けた側面もあったのではないか。
調査の甘さが悪事に利用されては元も子もない。親の年金をあてにする家族が、
死亡を隠して不正受給を続けている事例はかねて少なからずあった。
本人に会わず、長寿祝いの品を事務的に処理して贈っていたケースなどは、行
政の怠慢と非難されても仕方あるまい。
医療や介護保険を長期間利用していないといった情報のチェックができれば、
行政はもっと機敏に対応できたであろう。必要に応じて行政機関が調査できる
仕組みの構築や権限を総合的に見直すことも必要ではないか。
だが、所在確認ができれば問題が解決するわけではない。
問題の本質は、高齢者と向き合おうとしない社会にこそある。今回の問題では、
何十年も子供や親類が連絡を取らなかったなど家族の絆(きずな)が希薄なこ
とも浮き彫りになった。近隣住民が、顔を見せなくなったお年寄りに気を配っ
ていれば、状況は大きく異なってくるであろう。
日本は少子化も急速に進み、社会の支え手は減っていく。すべてを行政に、と
はいかない。急増する高齢者を社会、もっといえば共同体でどう支えていくの
か。今回の問題を、長寿社会の安心、安全を考える契機としたい。
(産経新聞 2010/08/05)
この問題については、二つの問題を切り分ける必要があります。
一つは老人の孤独死の問題であり、もう一つはいわゆる「故人年金」
の問題です。
老人の孤独死の問題については、社会全体で老人をどう支えるのか
という大きな問題と、故人年金問題に関わる老人の生存把握をどの
様にするかという問題があります。
今回のケースは、孤独死ではありませんが、老人の死亡を家族が届
ける事がなかった事から、三十年に亘り、死者に年金が提供され、
それを家族が詐取した事が疑われています。
老人の死亡が長期に亘って確認できなかったのは、役所にとって、
特定の老人の生死を確認する必要が必ずしも無かった事によります。
行政サービスは基本的にサービスを必要とする住民からの申請によ
って行われます。今回のケースでは、家族にとっては年金がストッ
プされる事がなければ、介護や健保等の行政サービスは必要があり
ません。通常は、死者を埋葬するには、届けが必要になりますが、
年金を詐取する場合はそれすら必要がありません。
つまり、家族が年金を詐取しようと考えた場合、死亡した事実を公
表しない事(つまりアクションを起こさない事)が、年金支払いが停
止されない為の必要要件であり、そこに問題であると言えます。
本来、特定の老人が、介護保険や健康保険を使用する事なく、年金
だけ受給しているのは、異常な事態ですが、年金の所管は、区役所
ではなく、区役所には、その異常を知るトリガーもインセンティブ
もありません。その上、個人情報保護法の施行で、取得情報の目的
外利用には制限があり、役所の保有する情報のクロスチェックも難
しくなっているという話もあります。
その点を考えれば、故人年金問題で、いたずらに役所の不作為を責
めるのではなく、免許の書き換えの様な、年金受給証の発行とその
二年毎の書き換えを年金受給の要件にし、書き換えの際に本人確認
を行うと言ったプラグマティックな対策が必要である様に思われる
のです。
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