民主党政権になってから初めて、2人に死刑が執行された。昨年7月に3人の
執行があって以来1年ぶりになる。
千葉法相はかつて「死刑廃止を推進する議員連盟」のメンバーだった。昨年9
月の就任以降、死刑執行に対する法相としての姿勢を明確にしないまま執行ゼ
ロの状態が続いていた。この結果、死刑確定者は109人と、過去最高の水準
にまで増えていた。
刑事訴訟法は、死刑確定から6か月以内に刑を執行しなければならないと定め
ている。法相の考え方や信条によって、執行のペースが左右されるとすれば、
法治国家として異常な事態である。
先の参院選で落選した千葉法相が、民間人として続投することには批判も出て
いた。この時期、突然の執行に踏み切った真意をいぶかる声もあるが、法に基
づく執行は、法相として当然の責務だ。
内閣府が今年2月に公表した世論調査では、死刑容認派が過去最高の85・6
%を占めた。被害者や遺族の感情に配慮する意見や、凶悪犯罪の抑止力になる
ことを期待する意見が多かった。
世界的には欧州を中心に、死刑を廃止か停止している国の方が維持している国
よりも多い。だが日本では、国民の大多数が死刑を容認している現実を踏まえ、
その声を尊重する必要があろう。
法相は自ら希望して、拘置所で2人の刑の執行に立ち会った。記者会見では
「見届ける責任があると思った」と述べた。法務行政の最高責任者が執行に立
ち会うのは、初めてのことだという。
法相はまた、死刑制度のあり方について、省内で本格的な議論を始める方針を
明らかにした。
昨年から裁判員裁判が始まっており、いずれ裁判員が裁判で死刑の選択を迫ら
れる日も来る。
国民が責任の一端を担う以上、死刑制度の議論を深めること自体には意味があ
ろう。だが、最初から廃止や停止の結論ありきでは、国民の理解は得られまい。
死刑に関する情報の公開も欠かせない。法相が東京拘置所の刑場を報道陣に公
開する方針を示したことは前進と言える。
これまで法務省は、死刑について徹底した「秘密主義」を貫いてきた。執行し
た死刑囚の氏名まで公表するようになったのは2007年以降である。
刑場の構造、執行の方法、死刑囚の生活――。そういった情報が提供されるこ
とが、国民一人ひとりが死刑制度を考えるきっかけになるだろう。
(読売新聞 2010/07/29)
死刑廃止を信念とし就任以来、執行命令書にサインしようとしなか
った千葉法務大臣が、2名の死刑を実施し、その執行に立ち会いま
した。
ご本人は、今回死刑を執行した事について「(これまでと)考え方
を異にしたわけではない。法務大臣として職責が定められているこ
とを承知しながら、大臣職をさせていただいてきた」と述べていま
すが、就任以来今まで死刑執行を放置していた訳であり、意図的に
職務怠慢の状態を作ってきたとしか言えません。
死刑廃止に関する千葉景子法相の志向は極めて明確であり、「死刑
廃止を推進する議員連盟」を主催していた他、「死刑廃止」を主要
な主張の一つとするアムネスティの支援を目的とするアムネスティ
議員連盟の事務局長としても活動していました。
その日本における死刑廃止運動の中心人物というべき人が、今
回何故、年来の主張と信念に反して死刑を執行したのでしょうか。
上に記した、本人の弁明では、法務大臣になった時から、死刑を執
行する覚悟はあったという事ですが、それでは、参議院議員として
の任期の最終日まで、死刑執行命令書にサインするのを引き伸ばし
た理由が判りません。参議院議員であり法務大臣としては、最終日
であっても、民間人としての法務大臣としての職務は翌日以降の継
続するのですから余計に疑念を感じざるを得ません。
では、どうして、千葉法相は、死刑の執行を行ったのでしょうか?
私は、その理由は、極めて緻密に政治的利益を計算した結果である
と考えています。
菅首相は、千葉法相が先の参議院選挙で落選したにもかかわらず法
務大臣を続投させる事で、党内で発生していた内閣改造への突き上
げを回避しようとしました。しかしながら、表向きの理由は、千葉
法相が民間人であっても法相として適切な人物だからと言わざるを
得ません。しかし、その決定に対しては、民主党の内外から批判が
噴出しました。その中でも有力な意見であったのが、千葉法相が死
刑を執行していない事を職務怠慢と捉え、法相として不適格と指摘
するものでした。
記事にもある様に、世論調査では死刑を容認する意見は実に国民の
85%以上に達しています。このまま死刑を執行しない千葉法相を
容認し続ける事は、菅内閣として、国民になんら説明を行う事なく、
その意思に反して、死刑廃止を推進する意思と見られかねない状況
でした。
その渦中の千葉法相が、死刑を執行する事で、菅首相は、千葉法相
の法相としての適格性を再度主張する事ができ、党内の内閣改造の
声を抑える事が可能となり、ひいては、9月の代表選での再選に繋
げる事が出来る様になります。
現時点で、菅首相の頭の中では、9月の代表選での再選が他の何者
にも優先します。千葉法相は、信念を曲げて、死刑を執行した事で、
菅首相に政治的に大きな貸しを作る事ができ、例えば、外国人地方
参政権や、人権擁護法案と言った反日法案への菅首相のコミットを
取り付けたのかも知れません。
千葉法相に対しては、今まで死刑廃止を運動してきた、いわば内部
から、信念を曲げた事に対する批判が出てくるかも知れません。
しかし、上記の様な政治的反対給付がなかったとしても、今回の死
刑執行は、千葉法相にとってマイナスにはなりません。ここで、民
主党内閣や市民運動出身の菅内閣を潰すより、自分が一時的に信念
を曲げる事を選んだと言えば、内部に対して、十分な説得材料にな
ります。その上で、死刑廃止の国民運動を起こし、志に反して死刑
を執行せざるを得なかった心情や、執行に立ち会う事で感じた死刑
の重みを訴えれば、国民運動を主導し、もう一度、日本の死刑廃止
運動を指導する事も可能になるのです。
その意味で、今回の死刑執行は、千葉法相にとって、全く損のない
取引であったと言える様に思うのです。
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