2010年2月2日火曜日

宇宙開発計画の主役に躍り出た民間打上サービス

※ドラゴン宇宙機(有人構成) SpaceX社Webページより転載

米予算教書 有人月探査計画は打ち切り

予算教書には、有人月探査計画の予算は盛り込まれず、計画は事実上、打ち切
られることが決まった。深刻な財政、雇用情勢に宇宙計画がのみ込まれた形で、
米航空宇宙局(NASA)は今後、民間企業のロケット開発を支援していく。

有人月探査計画は2004年、ブッシュ前大統領が「コンステレーション計画」
として打ち出し、NASAは1972年以来となる有人月探査を20年までに
実現することを目指していた。だが、オバマ大統領は就任前から「計画を5年
遅らせれば、教育予算がまかなえる」と否定的だった。有人宇宙船を運ぶ次世
代ロケット「アレス」の開発も併せて打ち切る。

その代わり、宇宙開発関連予算として今後5年間で59億ドル(約5312億
円)を計上。NASAはこの予算内で、民間企業によるロケットの開発と打ち
上げを支援し、宇宙飛行士を民間ロケットで宇宙へ送り出す計画だ。

ただ、民間への事業委託に対しては、安全性や科学技術の流出、雇用悪化への
懸念から、議会を中心に批判が根強い。AP通信は「アンクル・サム(米国)
は、タクシーにでも飛び乗るように宇宙飛行士の搭乗料金を支払うことになる」
と皮肉っている。

一方、野口聡一さんが滞在する国際宇宙ステーション(ISS)については、
20年まで5年間、運用を延長するための予算を確保する。

(産経新聞 2010/02/02)


予算教書が正式に発表になりました。発表された米国の宇宙開発計
画は、概ね、今まで報道された内容と同じです。今まで91億ドル
を費やしたコンステレーション計画には引導が渡されました。コン
ステレーション計画の幕引きには更に25億ドルを要する見込みです。
大型計画は、計画中止にすら多大なコストを要します。

その一方、民間企業による有人打ち上げロケットや貨物打ち上げサ
ービスには、59億ドルが投入されます。
今まで、民間企業の打ち上げサービスは、あくまで、NASAの主力ロ
ケット開発の端境期に、NASAの打ち上げを補完するというのが、そ
の位置付けでしたが、今回の発表では、国際宇宙ステーション(ISS)
への補給の主役に昇格する事になります。つまり、NASAの次期有人
打ち上げロケットは、最早存在しないのです。

NASAはこの民間打ち上げサービスにより、早ければ2016年には、ISS
への打ち上げを目論んでいるようですが、このタイムフレームで有
人打ち上げが実現可能な民間企業は、SpaceX社のドラゴン宇宙機し
かありません。しかも、ISSの運用は、取敢えず2020年まで継続さ
れただけであり、元々有人宇宙機への発展を考慮してドラゴン宇宙
機を設計していたSpaceXは別として、他社が、わずか4年のISS運用
の為に、有人宇宙機を開発するかどうかは、疑問とせざるを得ない
のです。(可能性があるのは、SpaceX同様、ISSへの補給業務を請
け負っているOSC社のシグナス宇宙機程度ではないかと思われます。)

有人打ち上げを独占する事になるかも知れないSpaceX社ですが、謳
い文句は魅力的です。SpaceX社は、宇宙飛行士一名のISSへの輸送
単価を2000万ドルで請け負えると豪語しています。それが実現でき
れば、2016年まで使用するロシアのソユーズによる宇宙飛行士打ち
上げサービスの単価5000万ドルに比べ大幅なコストダウンが図れる
事になります。

しかしながら、ドラゴン宇宙機の打ち上げに使用されるSpaceX社の
Falcon9ロケットは、まだ試験機の打ち上げすら行われていない状
況なのであり、Falcon9とエンジンを共用するFalcon1ロケットすら、
過去、5回の打ち上げ成功率は40%と、必ずしも技術的に完成した
と言える様な段階ではないのです。さらに、NASAの開発遅延とは比
べものにならないとは言え、Falcon9の開発そのものも、目標スケ
ジュールに対しては遅れ気味で推移しています。

Falcon9の一号機の打ち上げは、今月に予定されていますが、その
スケジュールは未だ確定したものではありません。勿論、一号機か
らミッションペイロードとしてドラゴン宇宙機が搭載される他、有
人打ち上げが行われるまでに、商業軌道輸送契約で10機以上が打ち
上げられる予定であり、打ち上げロケット、宇宙機共に、有人打ち
上げまでに信頼性が向上する事は間違いありませんが、それでも、
それらの打ち上げが失敗なしに行われる保証は全くありません。
一度でも失敗すれば、2016年の有人打ち上げと言うスケジュ-ルを
実現するのは厳しいものになる事は確実と思われます。

その意味で、今回の米国の宇宙開発計画の変更は、NASAのロケット
開発のリスクを一民間企業へ振り替えたとも言えるものであり、今
まで以上に薄氷の上に乗った計画と言わざるを得ないのです。


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