2009年6月9日火曜日

米人記者逮捕事件の不思議

※写真は、Reutersサイトより転載

北朝鮮、米人記者に労働教化12年=オバマ大統領「深く憂慮」

朝鮮中央通信は8日、北朝鮮の中央裁判所(最高裁に相当)が、拘束中の米国
人女性記者2人に対し、12年の労働教化刑を言い渡したと伝えた。オバマ米政
権が北朝鮮の核実験を受け、テロ支援国再指定検討など制裁強化の動きを見せ
ている中、米国への挑発を強めた形だ。今後、米国は身柄解放に向け、北朝鮮
との交渉を働き掛ける方針だが、難航するとみられる。
同通信によると、裁判は4日から8日まで続けられ、2人に対して「朝鮮民族敵
対罪と不法出入国罪の有罪を確定」したという。
これを受けて、ホワイトハウスはオバマ大統領が「(判決を)深く憂慮してい
る」と明らかにした。その上で2人の解放実現に向け、全力を尽くす方針を強
調。米国務省も北朝鮮に対し、2人の即時解放を改めて呼び掛けた。
判決を受けたのは、米ケーブルテレビ局のローラ・リン、ユナ・リー両記者。
2人は3月17日、中朝国境地帯で脱北者問題を取材中に捕らえられ、その後、
「不法入国と敵対行為」などの罪で起訴。朝鮮中央通信は6月4日に「裁判を4
日午後3時から始める」と異例の事前報道を行っていた。
今後の日程は明らかとなっていないが、これで判決が確定する可能性が高い。
北朝鮮の刑法では、朝鮮民族敵対罪は5年以上の労働教化刑で、特に、事案が
重大な場合は10年以上としている。
(時事通信 2009/6/09)


今回の報道で、北朝鮮には、朝鮮民族敵対罪という犯罪と、不法出
入国罪という犯罪があるのが判りました。北朝鮮に対して外国人が
取材する事が何故、朝鮮民族敵対罪になるのか判りませんし、北朝
鮮に入国してもいないのに、不法出入国罪に問われるのか理解でき
ないのですが、それにも増して、我々外部の人間は、北朝鮮の刑法
や刑事訴訟法を読む事が出来ても、北朝鮮国内では、絶対機密にな
っており、住民は、その内容を知る事すらできないである点は余程
問題であると思われます。法律が公開されていなければ、事前でも
事後でも、為政者の思う通り法律を作る事が出来る訳で、誰であっ
ても明確な根拠なく犯罪者として逮捕する事が可能になります。こ
れだけをとっても、北朝鮮が法治国家ではなく、前近代的な専制国
家であると言えます。

更に、報道によれば、二人の記者は、国境の中国側で北朝鮮の官憲
に逮捕されたそうですから、中国領でも北朝鮮の国境に近い部分で
は、北朝鮮側が管轄しており、一定の逮捕権も持っているようです。
しかし、その様な事実は、同じく、公開されていないという点で中
国が北朝鮮と同様な問題点を持っている事を示しています。

法律的な面でも、この事件は興味深いのですが、政治的には、より
興味深い側面があります。元々事件が発生した時から言われた事で
すが、北朝鮮は、この二人の記者を人質として利用すると考えられ
ています。つまり、米国が北朝鮮に対する敵対行為を止めたら記者
を解放すると言う訳です。そして、記者解放の為の交渉に当たって
相手側の大物政治家を要求し、その政治家と、記者解放以外の北朝
鮮との関係全般について大枠で合意してしまうという手法を使う事
が懸念されています。クリントン政権時のカーター元大統領との交
渉や、富士山丸事件での金丸副総裁との直接交渉などが、この典型
例です。

今回の場合は、逮捕された記者の所属するカレントTV社の経営者
には、アル・ゴア元副大統領がおり、オバマ政権は北朝鮮との記者
解放交渉をゴア氏に任せるという話も出ているようです。既に過去
の例もあるので、例えゴア氏が交渉に出るとしても、カーター氏の
轍を踏む事はないと思われますが、今回有罪を宣告された記者が各
々、中国系と韓国系である事や、事件が発生したタイミングが北朝
鮮がミサイル発射や核実験を行う直前であった事を踏まえると、事
件そのものが北朝鮮が対米直接交渉を実現する為に準備した一種の
舞台装置ではないかという疑念も考えずにいられないのです。


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