2009年5月29日金曜日

中国の核の傘から脱する北朝鮮 対中関係悪化は必然


対北制裁 中国「沈黙」憶測呼ぶ 情報分析中?強硬措置を検討?

北朝鮮の核実験をめぐり、国際社会による制裁の成否のカギを握る中国が「沈
黙」を続けている。日本政府は、国連安全保障理事会の決議内容などで中国と
の協調を図るため、麻生太郎首相と中国首脳との電話会談を申し入れているが、
回答はない。政府内には「北朝鮮をかばい続けてきた中国も、今回は困ってい
る」(外務省幹部)との観測や、中国が対北経済・金融制裁へとかじを切るの
ではないかとの期待感も出てきた。(阿比留瑠比)

■「貝になった」

「中国は今、貝になっている。中国要人ともなかなか会えないし、会っても中
身のある話にならない。中国側からは、どうするつもりか何も伝わってこない」

政府筋はこう明かす。中国は現在、必死に世界各国の対北朝鮮への対応方針を
情報収集・分析しているところだとの見立てだ。電話首脳会談に関しては、日
本だけでなく他の国ともやっていないという。

核実験当日の25日、中曽根弘文外相がハノイで中国の楊潔●外相と会談した
際も、楊氏は「日本の立場に真剣に耳を傾け、引き続き日中間で協議したい」
と述べるだけで「何も言えないという印象」(日中外交筋)とされる。

中国と北朝鮮は表向き「血の友誼(ゆうぎ)」と呼ばれる同盟関係にある。4
月の長距離弾道ミサイル発射の際も、中国は国連安保理決議に反対し、法的拘
束力のない議長声明での対北非難に落ち着いた。

ただ、その同盟関係は微妙で、「中国は議長国を務める6カ国協議からの脱退
を宣言され、反対していた核実験も強行されてメンツをつぶされ、ミサイル発
射時とは比べものにならないほど怒っている」(同)。

ミサイル発射のときは、北が「人工衛星」を主張したため、中国は「北朝鮮は
ああ言っていることだし」とかばうことができた。だが、今回は核実験成功を
祝う大会まで開催しており、正当化しようがない。また、国際社会でともに孤
立してまで北をかばうメリットもない。

■「本気度」次第

今回、中国はすでに安保理での決議自体は認めており、焦点はどこまで強い内
容の決議にできるかだ。

「北朝鮮に一番効くのは経済・金融制裁、ドルの出入りを止めることだ」(政
府筋)という点では、世界の見方はほぼ一致する。実行できるかどうかは、北
と地続きで国境を接する中国の「本気度」次第だ。

「今(日朝貿易総額は)8億円程度しかなく、かなり減ってきている。その分
だけ他の国で急激に増えているところもある」

麻生首相は28日の参院予算委員会でこう指摘した。国名は伏せたが、中国を
念頭に置いたのは明らかだ。中朝貿易総額はここ数年伸び続け、「現在は
3000億円もある」(外務省首脳)という実態がある。

政府は「中国はとりあえず様子見だが、金融制裁など実効あるムチを使う可能
性はある」(外務省筋)とみて、中国の出方を注意深く見守っている。

●=簾の广を厂に、兼を虎に

(産経新聞 2009/5/29)


先日述べた様に、今回の核実験で北朝鮮は、漸く長崎並みの核兵器
を手にした様です。初回は過早爆発を起こし、今回も米国の分析が
正しければ、過早爆発気味ではあったものの、5キロトンとなんと
か実用と言える核兵器を入手した北朝鮮ですが、中国から見れば、
面白くはありません。それが現在の中国の沈黙に現れていると言え
ます。

北朝鮮の核実験は中国にとって、三つの側面から中国にとっては問
題です。第一に、中国にとって有利なNPT体制を継続するのが
難しくなります。
中国は、NPT(核拡散防止条約)体制の中では、5ヶ国しか認められ
ていない核保有国の一つです。NPT体制は、ある意味、核保有国の
非核保有国に対する優位を固定する体制に他なりませんが、中国に
とっては永続させるべき自国に有利な体制であると言えます。

北朝鮮はNPT条約を批准した上で、それを破棄し、核実験を強行
しました。これに制裁を行う事なく認めれば、北朝鮮に続く国が出
てきます。さらに新しく核保有国になった国の隣国は、対抗上、核
開発を行わざるを得ない事になり(インドに対抗して核開発を行っ
たパキスタンはその典型)、究極的にはNPT体制は崩壊してしまいま
す。そうなった場合、中国は現在享受している有利な地位を失い、
複数の相手と核に対するゲームを行わざるを得なくなります。

これは第二の側面にも通じます。中国は多数の国と国境を接してお
り、既に、ロシアとインドが核保有国である上、例えば、北朝鮮の
核武装に対して韓国や日本が対抗上、核武装を行った場合を考える
と、中国の安全保障に直接的な脅威が増加する結果となります。特
に、中国にとって日本が核武装を行う事は、東アジアのヘゲモニー
争いの上でも中国にとって大きな後退といえます。更に、核武装に
至らないまでも、既に日本は北朝鮮のミサイルに対抗してMDの配
備を開始しており、これによって、中国の日本向けの核ミサイルが
一部無力化される事になっています。この為、中国は日本向けの核
ミサイルの配備数を増加させる必要が出てきますが、これによって、
東アジア全体で新たな軍備競争が発生する可能性が出てきます。
(近年の中国の海軍力強化に対してASEAN諸国や豪州の海軍力増強の
動きが発生しているのが、この種の軍備競争の好例と言える。)
更に、核武装した北朝鮮自体が中国にとっては脅威の増加
あるとさえ言えます。

第三の側面は、北朝鮮が核の兵器庫の内容を増加させればさせ
る程、中国の核の傘が不要となり、必然的に、中国の意向に従う
必然性が乏しくなるというものです。普通は、金の切れ目が縁の切れ
目ですが、北朝鮮にとっては、核の切れ目が縁の切れ目という訳で、
外交上も中国に遠慮する必要がなくなる事になります。勿論、現在、
北朝鮮を外交的には物質的にも支えているのは中国ですが、一度、
米国が核保有国としての北朝鮮の生存を保障してくれれば、日本や
韓国から経済援助は黙っていても入ってくると北朝鮮が期待していて
もおかしくありません。
そうなれば、支援物資の供給先としても中国に頭を下げる必要はな
いという事になります。
中国にすれば、朝鮮戦争で血で贖って維持してやった北朝鮮が、影
響圏から離脱する事(場合によっては競争者)になり、その点でも面
白い訳がない事になります。

上記の記事は、北朝鮮の核実験により、まさにそういう動きになる
事を見越した上での中国の沈黙に他ならないと考えるのです。


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