2009年5月20日水曜日

日本車"禁輸" 日本への影響はないが極東ロシアへは影響大

※写真は富山港で船積みを待つ中古車 読売新聞サイトから転載

露、右ハンドル規制を検討 日本製中古車“禁輸”審議へ

【モスクワ=遠藤良介】ロシア産業貿易省が月内にも、極東部や東シベリアで
主流となっている右ハンドルの日本製中古車を事実上、禁輸とする新たな車検
法規(政令)案を政府に提出する方針であることが明らかになった。ロシアで
はこれまでも、国産車保護を目的に右ハンドル輸入車の規制を求める当局者の
発言が相次いでいた。ただ、極東の沿海州(州都ウラジオストク)などでは中
古車ビジネスの帰趨(きすう)が地方全体の死活問題に直結しているだけに、
政府が新法規の承認に踏み切れるのかが注目される。

産業貿易省関係者によると、新法規案は「安全確保」を目的に乗用車の車体基
準として「右側通行に適合していること」との条項が含まれる。すでに使用さ
れている日本製中古車には適用しないとされるが、この条項が発効した場合は
新たな日本製中古車の輸入や販売が不可能になる。

右ハンドル規制をめぐっては極東部の住民による大きな反発が予想され、政府
はこの条項だけを個別に審議する見通しだ。このため、新法規は政府の承認か
ら12カ月後に発効するものの、右ハンドル条項だけが廃止されたり、保留と
される可能性も高い。

専門家の一人は「新法規案は公聴会を経て政府に提出されなければならないが、
私の知る限り、これまで行われていない」とし、「政府の狙いは安全確保では
なく、競争の排除による国産車関連業界の保護だ」と当局の動きを批判する。

プーチン首相は昨年12月、国産車保護を目的に中古車の輸入関税を2~3倍
に引き上げる政令に署名した。これに対し、ウラジオストクでは昨年末に大規
模なデモが起き、政権はモスクワから治安部隊を派遣してデモを押さえ込んだ
経緯がある。関税引き上げとルーブル通貨下落で極東の中古車ビジネスはすで
に大打撃を受けており、政権は新車検法規案をめぐって難しい判断を迫られそ
うだ。

ソ連崩壊後、ロシアでは現地生産や中古車を含む外車が一貫して増え、国産車
のシェアは3割未満にまで減少した。昨年秋以降の経済危機も関連業界に深刻
な追い打ちをかけている。

(産経新聞 2009/5/20)


現実には、日本への影響がないと言えば嘘になりますが、一般の日
本人には殆ど影響がないのも事実です。
実は、このロシアへ輸出されている中古車は、一部は中古車として
販売されていた車もありますが、多くは日本では廃車となった車が
スクラップとして、ただ同然の値段で極東ロシアに輸出されている
のです。(日本側での集荷にはパキスタン人不法移民が係わってい
ます。)

これがウラジオストックを中心とした中古車の再生市場に回り、中
国製や韓国製、自国製の安価な部品を使って整備された上で、全ロ
シアに、販売、流通しているのです。

ソ連時代は東シベリアや極東ロシアに住む住民には手厚い保護があ
ったと言いますが、ロシアとなってからは、その保護も撤廃され、
安全保障上の考慮から戦略的に配置されていた工場も非効率な為に、
多くが閉鎖され、極東ロシアの重工業は壊滅状態となりました。
多くの技術者、熟練労働者はヨーロッパロシアに再移住し、人口が
大きく減少しました。その産業衰退をストップさせたのが、この中
古車ビジネスなのです。これによりシベリアが息を吹き返したとも
言われています。

貧富の差が著しいロシアでは、モスクワやペテルブルグに住み、政
権や財閥とのコネクションがある人間こそ、近年のロシアの経済成
長の恩恵を受けましたが、それ以外の地域では、政権に繋がる人間
が少ないだけに購買力が遥かに低く、この日本製中古車は、彼らに
とっても支払い可能な割には、旧ソ連製のジグリなどに比べれば遥
かに高性能、高信頼性の車と言えます。それだけに、日本製中古車
はロシアに急速に浸透していきました。(考えてみれば、日本では
本来の使われ方をしていなかったSUVなどは、ロシアでこそ真価を
発揮できるとさえ言えます。)

中古車ビジネスとは言っても裾野の広い自動車産業です。当然なが
ら中古車の再生、整備を行う極東ロシアの地場産業も、この恩恵を
受け急速に成長したのです。

その一方で、国内産業の育成を図るロシア政権にとっては、安価で
高性能な日本製中古車が流通する事により、未熟なロシア自動車産
業の成長が阻害される事も事実です。これの排除を狙った政策を矢
継ぎ早に打ってきました。その第一段が昨年12月の関税引き上げ
です。ただ、元値が廃棄物扱いで極めて安価ですから関税が2~3
倍になった処で、輸入をストップさせるには至りませんでした。
そこで、今回は、右ハンドル中古車の輸入をストップさせる規制を
導入する事になったという訳です。

昨年末は記事にもある通り、ウラジオストクでは大規模なデモが発
生しましたが、今度は、完全に極東の中古車ビジネスをストップさ
せる規制です。今後、短期的には、昨年末以上の混乱が、ウラジオ
ストクで発生する可能性がある他、長期的には極東ロシアから大き
な産業がなくなる事で、地域の人口減少が加速する可能性もでてく
る様に思われます。(勿論、日本製に替わり、韓国製や中国製の中
古車を扱うという事になるかも知れませんが、完全に代替するのは
難しいと考えられます。)

そうなった場合、ロシアにとって日本からの技術移転による極東ロ
シアの産業振興が今以上に大きな課題になる
事は間違いありません。
風が吹けば桶屋が儲かるの類かも知れませんが、ロシアとの平和条
約交渉を考える場合にこういった要素も考える必要があると思われ
るのです。


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