第一章 年次更新
台湾海峡における安全保障状況の展開
2008年3月に馬英九大統領が当選して以降、中華人民共和国(中国)は、台
湾海峡を跨る関係強化を促進している。
北京も台北も、半当局者と半当局者、人民と人民、党と党の接触の拡大や、経
済や文化の紐帯の拡大を強調している。しかしながら、本土側には、台湾の対
岸での中国の軍事的存在感を減らす意味のある動きは全くない。
中国軍事力の規模、位置、能力に関する展開
中国軍事力の長期的で広範囲な変革は、兵力展開能力や、アクセス拒否/地域
利用拒否能力を改善している。台湾海峡での緊急事態への準備に関する短期的
な焦点と整合させながら、中国は、台湾の対岸にあたる軍区(MRs)に最新のシ
ステムを展開している。
弾道ミサイルと巡航ミサイル
中国は、世界で最も活発な地上発射の弾道ミサイルと巡航ミサイルの計画を推
進している。数種類の新型や派生型のミサイルが開発、テストされており、ミ
サイル部隊が追加設置されている。いくつかのミサイル部隊では質的改善が行
われており、弾道ミサイルに対する防衛方法も開発中である。
●人民解放軍は、国産開発で地上発射のDH-10地上目標巡航ミサイル(LACM)、
国産開発の旅洋II型ミサイル駆逐艦(DDGs)に装備された同じく国産の、陸上/
海上発射のYJ-62対艦巡航ミサイル(ASCM)といった、多くの非常に精密な巡航
ミサイルを調達している。また、ロシア製のSS-N-22/サンバーン超音速対艦ミ
サイルが、同じくロシアから調達された中国のソブレメンヌイ級ミサイル駆逐
艦に搭載されている。そして、ロシア製のSS-N-27B/シズラー超音速対艦巡航
ミサイルがロシアで建造された中国のKILO級ディーゼルエレクトリック潜水艦
に装備されている。
●2009年12月までに、人民解放軍は、台湾の対岸に1,050基~1,150基のCSS-6
とCSS-7短距離弾道ミサイル(SRBM)を配備した。これらのミサイルには、射程、
命中精度、弾頭が改良された三種類の派生型が含まれており、破壊力が向上し
ている。
●中国は、CSS-5準中距離弾道弾(MRBM)の派生型を基にした対艦弾道ミサイル
(ASBM)を開発している。このミサイルは1,500kmを上回る射程を備えており、
終末運動可能な弾頭を装備している。そして、適当な指揮管制システムと統合
されれば、西太平洋で、空母を含む艦船を攻撃する能力を人民解放軍に与える
事になる。
●中国は、より生存性の高い運搬手段を付加する事で、その核戦力を近代化し
ている。例えば、最近、道路移動が可能で固体燃料の大陸間弾道弾(ICBM)であ
るDF-31とDF-31Aの部隊配備が行われている。DF-31Aは、11,200kmを超える射
程があり、米国大陸本土の殆ど場所を標的としてカバーする事ができる。
●中国は、また、新しい道路移動が可能な新型ICBMを開発しているが、これに
は、多目標独立誘導弾頭(MIRV)を搭載可能としているものと思われる。
海軍
人民解放軍海軍は、主要戦闘艦艇、潜水艦、両用艦艇からなるアジアで最大の
戦力を保有している。中国海軍の戦力は、約75隻の主要水上艦艇、60隻以上の
潜水艦、55隻の中型または大型の両用戦艦艇、約85隻のミサイル装備の哨戒艇
からなっている。
●海南島に建設されている人民解放軍海軍の新しい基地の主要部は完成してい
る。この基地は、攻撃型潜水艦と戦略ミサイル潜水艦及び、先進的な水上艦艇
の全てを収容するのに十分な大きさがある。この基地は地下施設で、人民解放
軍海軍に主要な国際海上交通路への直接的なアクセスを提供しており、南シナ
海へ潜水艦を密かに配備する事を可能としている。
●中国には、活発な空母研究開発計画がある。そして、中国の造船産業は、今
年末には国産空母の建造に着手できるものと思われる。中国は、2020年には、
空母と支援艦艇からなる艦隊を複数建造する事に興味を示している。
●人民解放軍海軍は、空母から発進する固定翼機のパイロットを50人養成する
プログラムを開始すると決定したと伝えられている。この最初のプログラムで
は、恐らく、地上での訓練がまず開始され、その後、四年間は、現在、大連の
造船所で近代化改装中の旧ワリヤーグ(ソ連クズネツォフ級空母)を使用した海
上での訓練が行わるものと思われる。
●人民解放軍海軍は、Sky WaveレーダやSurface Waveレーダを用い超水平線(OTH)
目標能力を改善している。超水平線レーダは、偵察衛星と協同し、中国の海岸
線から遠く離れた目標に精密誘導された攻撃、例えば、対艦弾道ミサイルを使
用した攻撃を行う事に用いられるものと思われる。
●中国は、引き続き最新の晋級(094級)原子力推進の戦略ミサイル潜水艦(SSBN)
の建造を継続している。中国は五隻程度まで新型SSBNを配備するかもしれない。
一隻の晋級戦略ミサイル原潜が、二隻の商級(093級)攻撃型原潜、四隻の漢級
攻撃型原潜、及び、それまで中国のただ一隻のSSBNだった夏級SSBNと舷を接し
て就役している。
●中国は、攻撃型ミサイル原潜を更に強化しており、ここ数年中に五隻程度ま
で095級攻撃型原潜(SSN)を追加するものと思われる。
●中国は13隻の宋級(039級)ディーゼルエレクトリック推進攻撃型潜水艦を保
有している。この宋級潜水艦はYJ-82対艦巡航ミサイルを装備している。宋級
の後継は元級で、合計4隻が既に就役しているものと思われる。中国は、この
クラスを更に15隻建造する可能性がある。元級潜水艦は宋級潜水艦と類似し
た武装だが、AIP(大気非依存型推進)機関を装備しているものと思われる。宋
級潜水艦、元級潜水艦及び商級原潜は、現在、開発試験中の新型のCH-SS-NX-13
対艦巡航ミサイルを発射する能力をもっている。
●人民解放軍海軍は、引き続き国産建造の水上艦艇の調達を続けている。これ
らの中には、国産の長射程対空ミサイルであるHHQ-9を装備した旅洋II級(052C級)
ミサイル駆逐艦2隻、ロシア製の長射程対空ミサイルSA-N-20を装備した旅洲
級(051C級)ミサイル駆逐艦2隻、現在開発中の中射程垂直発射型対空ミサイル
であるHHQ-16を装備した江凱II級(054A級)ミサイルフリゲート4隻~6隻が含
まれている。これらの艦艇は、過去、艦隊の弱点とされてきた対空戦闘能力を
強化するという指導部の優先順位付けが反映されている。
●中国は、新型の波浪貫通型カタマラン船体を持つ紅稗級(022級)ミサイル艇
を60隻配備している。各艇は、8発のYJ-83対艦巡航ミサイルを装備している。
空軍及び防空軍
中国は台湾を燃料補給なしで作戦行動半径に収める490機の戦闘用航空機を基
地に配備している。それらの基地は更に数百機を収容する離着陸能力がある。
多くの機体は、古いモデルの機体を能力強化したものである。しかしながら、
新型機や、より先進的な機体の割合が増加してきている。
●人民解放軍空軍は、2009年11月11日に、創設60周年を祝った。その式典の中
で、中央軍事委員会第一副主席である郭伯雄将軍は、人民解放軍空軍が新兵器
の開発を加速し、補給システムを改善し、多軍種共同作戦行動訓練を改善する
事を訴えた。また、記念日でのインタビューで、人民解放軍空軍司令員許其亮
将軍は、宇宙空間を含む軍備競争は避けられないものであり、本土防衛中心か
ら統合された航空宇宙空間での攻撃防御両面の能力を備えるよう人民解放軍空
軍の変革を強調した。
●中国は、B-6爆撃機戦隊(オリジナル機体は、ロシアのTu-16)の新しい派生型
を開発しており、作戦行動が可能になった時には、新型の長射程巡航ミサイル
を装備する事となる。
●人民解放軍空軍は、長射程で先進的な対空ミサイルシステムの装備を拡大し
ており、現在では、その分野では世界最大の軍隊となっている。過去5年間に
亘り、ロシアが輸出可能な最新の対空ミサイルであるSA-20 PMU2大隊の調達を
図ってきた。また、国産設計開発のHQ-9システムも導入されている。
●中国の航空産業は数タイプの空中早期警戒管制機(AEW&C)を開発している。
これには空中早期警戒管制と同時に情報収集と海洋哨戒を行うY-8型輸送機を
元にしたKJ-200や、IL-76輸送機の改造型が含まれている。
地上軍
人民解放軍の陸上戦力は125万人の兵員からなっており、その内、40万人が、
台湾の対岸に当たる三つの軍区(MR)に配置されている。中国は、地上部隊に近
代的な戦車や装甲兵員輸送車、火砲を配備する事で改善を図っている。人民解
放軍陸軍が新たに獲得または開発中の能力としては、第三世代の99式主力戦車、
新世代の水陸両用戦闘車、200mm、300mm、400mm多連装ロケット発射システム
がある。
●2009年に、人民解放軍は指揮管制、空陸共同、情報戦についての可動性と動
員、攻勢作戦に関して焦点を当てた訓練と演習を行った。
●それに加えて、現役の地上部隊の他、中国は2008年度で50万人の予備役兵力
を保有しており、更に戦時には自身の居住地域での戦闘に動員される大規模な
民兵組織がある。中国は、11次五カ年計画(2006-2010)の終わりには、近代的
に組織された民兵の規模を10百万人から8百万人に縮小する計画だが、18才~
35才までの全ての男性が、現在は軍事組織に属していなくても、技術的には民
兵システムの一部となっている。
(Department of Defence 2010/08/16)
Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2010
http://www.defense.gov/pubs/pdfs/2010_CMPR_Final.pdf
環球閑話日々の徒然まとめサイト
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