2010年1月21日木曜日

日航再生 単純な格安航空会社化は、解決策にならない。


日航再生、国際線が焦点 事業戦略づくり急務

会社更生法を活用して再建を目指す日本航空にとって、今後は事業面の戦略が
焦点になる。財務や人員・路線削減などのリストラは進むが、企業の将来像が
見えないためだ。航空業界では、日米欧を中心に先進国の旅客需要が低迷する
一方、新興国は拡大する見通し。各国を代表する航空会社間の競争が激化する
なか、国際線のあり方を中心に事業戦略づくりが急務になる。

日航は19日にも会社更生法の適用を申請する。その後、同社を支援する企業再
生支援機構が中心となり更生計画をつくる。機構はこれまで財務リストラを先
行してきたため、具体的な事業計画づくりは遅れていた。国際線事業は国内線
に比べて収益の変動幅が大きい。景気の影響に加えテロや疫病の流行、五輪な
どのイベントや相手国との友好関係に左右されるためだ。このため航空業界で
生き残るのは(1)大きなネットワークを国内外に張り巡らせるメガ・キャリア
(2)収益性の高い1~2の国際線だけに特化する格安航空会社(LCC)
(3)国内線に特化した航空会社――のいずれかとの見方が多い。

(日本経済新聞 2010/01/12)


今日の日本経済新聞に、日航の再生は、格安航空会社(LLC)化し
かないという記事がありました。しかし、単純なLLC化は解決に
ならない事を論じてみたいと思います。

LLCの例として上がっていたのは、輸送人数では、全米一になっ
ているサウスウエストエアラインです。
LLCとは、効率性の向上によって低い運航費用を実現し、低価格
かつ簡素化された航空輸送サービスを提供する航空会社であると言
えますが、サウスウエスト航空は、このビジネスモデルを、もっと
も地道に展開してきた航空会社であると言われています。

その効率性の追求は、以下の様な手法で行われています。
1.路線及び機材の効率化
  ボーイング737やエアバスA320と言った中小型機による多頻度、
  低サービス、低料金運航。
2.運航コストの節減
  使用機種を一つのシリーズに統一し、機材購入コストを抑える
  と共に、保守費用や乗員訓練コストを抑制する。
  大都市周辺の地方空港を使い、多頻度運航、短い折り返し時間、
  定時性を実現する。
3.人件費の節減
  有資格の経験者のみを採用し、要員訓練費用を抑制する。訓練
  を有償化、あるいは訓練期間中の無給化を行なう。
  制服、備品の有償化。社員向け無償特典を廃止する。
4.機内外のサービスの簡略化(ノーフリル)
  座席クラスをエコノミーに統一。座席指定の廃止(予約定員制
  の自由席)。無償サービスの省略。客室設備の簡素化。機内食
  を有償化または廃止する。預り手荷物の無料枠の削減、有償化。
5.航空券販売コストの節減
  旅行代理店を通さない顧客への直接販売を基本としインターネ
  ット予約、Eチケットを活用する。販売価格のきめ細かい操作
  で、空席率を圧縮し、収益率を向上する。
6.航空運賃以外への収益源の拡大
  機体へのスポンサー広告の実施、命名権の販売。オリジナルグ
  ッズ等の販売。機内販売の積極化。航空会社ネームを活用した
  通信販売、クレジットカード事業。

日航の再建の為には、徹底したローコスト化が必要なのは勿論の事
です。しかし、ながら、上記の効率化を単純に当てはめられるかど
うかが問題です。

まず、路線及び機材の効率化ですが、日航はこれまでも赤字路線の
廃止を進めています。それは良いとして、中小型機による高頻度、
低料金運行が出来るかとなると、日本の場合は、そう単純にはいき
ません。日本の航空需要は、地方と東京を結ぶ羽田便が大宗であり、
そこが既に飽和している事が問題なのです。LCC化して需要がい
くら増加したとしても、簡単には増便が不可能であり、その様な市
場構造の中で輸送量を増強する為には、増便ではなく機材の大型化
しかなかったというのが、今までの経緯なのです。日航の機材構成
で大型機が多いのは、日本の国内市場に適応したものなのです。
その為、機材を小型化すれば、その分輸送量が低下するだけで、高
頻度運行による輸送量増加は期待する事ができないのです。

リーマンショック以降、航空需要は落ち込んでいますが、市場の構
造は全く変わっていません。羽田の増便枠は、来年度の羽田第四滑
走路の完成で、30%近く増加する見込みですが、その枠は瞬間的蒸
発してしまう状況なのです。

運行コストを低減する為に、首都圏の地方空港を活用する手法も日
本では使えません。茨城空港が、LCCの受け入れ先として手を上
げていますが、東京の中心部から2時間を要し、決してアクセスが
容易な場所とも言えない処から、この3月の開港にあわせて就役す
る国内線がない現状なのです。しいて可能性があるとすれば石原都
知事が提案している横田基地の民間共用化でしょう。横田基地の場
所であれば、LCCの就役が期待できます。しかし、これが可能に
なるには時間がかかる上、発着枠は羽田同様瞬間蒸発する事が確実
であろうと思われます。つまり、LCC的な手法を使う為には、比
較的中心部に近い場所に航空需要を大幅に上回る空港発着枠がなけ
ればなりませんが、東京には、そういう条件は成立していないと言
えるのです。(一方、関空、伊丹、神戸空港がある関西地域はLLC
が成立する余地があると言えます。) 従って、単純なLLC化は、
解決策にならないのです。

こういう路線構造を前提とすると、日航を再建する、最も確実な方
策として、まず、現状の機材を一番効率良く使うための施策が必要
となります。大型機が就役している路線では、なんとかして、赤字
をさけながら空席率を下げる施策が必要となるでしょう。そして、
その為には、柔軟な価格政策が必要となるでしょう。例えば、サー
ビスは同じですが、座席指定ができる現状と同じ価格のクラスと、
バーゲン価格の予約定員制クラスを路線の需給に応じて便毎に率を
調整して供給すれば、空席率の低下に寄与する事になります。

更に、なるべく現状の価格を維持しながらコスト構造については、
LLCに準じた施策を行なう事で、大型機を運航しても黒字が出る
体質にしなければなりません。上記の3~6の効率性の追求につい
ては、新生日航が確実に実施していくべき施策になります。日航民
営化以降進められてきた効率化を一層強力に推進していく必要があ
ります。更に、今回の破綻を契機として、日航の宿痾とも言える労
働問題と年金問題についてより踏み込んだ解決が行われない限り、
日航の再生は不可能だろうと考えるのです。


環球閑話日々の徒然まとめサイ
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