2010年1月18日月曜日

資金不足で開発計画キャンセルの瀬戸際に立つA400M

※写真はAFPのWebサイトから転載

エアバス社CEOは、A400M軍用輸送機をキャンセルするかもしれないと語る

エアバス社の最高責任者トム・エンダーズは、A400M軍用輸送機の製造をキャ
ンセルする用意ができていると警告した。
欧州各国政府がより多くの開発資金を提供することができないならば、A400M
開発計画を終えることを考えるだろうとBBC Worldのインタビューで語った。

「我々は、大きな財政的援助なしに、この機体の開発を完了することができな
い」と、彼は語っている。
開発計画は、現在、当初の予算に比べ50億ユーロ(72億5000万ドル;£4.5bn)
超過となっている。その原因は重量超過とエンジン問題の結果によるものだ。

エアバス社は、追加融資を議論するために、今週末にA400Mを発注した各国の
代表と会談を行なう予定となっている。機体を発注した欧州の7ヶ国政府は、
その後、追加費用を支払うかどうか、1月末までには決定する。

価格設定の誤

7ヶ国、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルク、スペイン、トルコと
英国は、全体で180機のA400M輸送機を発注している。
6年前、開発計画が始まる前に署名された契約の中で、エアバス社は固定価格
で機体を各国に売却することに同意した。
「我々は、大きい間違いを犯した。それは6ないし7年前に行った、この機体
の契約だ」「間違いをしたならば、それを繰り返してはいけない。我々は、来
る将来に更なる問題を発生させる様な決定を二度と行ってはいけない。」と、
エンダーズ語る。しかし、彼は開発計画を廃棄するべきかどうかについての最
終的な決定は、エアバス社の親会社であるEADS社の取締役会の決定であると付
け加えた。

A400Mは軍隊とその器材を積載する様に設計されている輸送機であり、欧州各
国の空軍で老朽化した軍用輸送機を更新する事になっている。当初の予定では
昨年に就役する事になっていたが、現在の計画では、早くとも2012年までは
就役する事がない事が明らかにされている。この遅延により、南アフリカは8
機の発注をキャンセルする事になった。

欧州各国は機体を製造したい国と、早期に使用することを望む国に別れている。
特に英国とフランスの間には開きがある。更に、ドイツの様に、コストを分散
する為に開発計画をゆっくり進めるのが望ましい国がある。

深刻な警告
A400Mの開発計画を諦めると約57億ユーロの前渡金の返却が必要となるが、
これは現在迄の開発で作った24億ユーロの損失の倍以上の数字となる。
引き返すにせよ、進めるにせよ非常に悩ましい事になる。
「A400Mに関するエアバス社のポーズは、開発計画を確実とするために資金提供
を確保するため政府からの援助を引き出す戦術だ。A400M開発計画が終了され
れば、エアバス社はその現金準備を帳消しに、その株価を壊滅させる数十億ユ
ーロの違約金に直面する事になる。」と、航空アナリストのサジ・アフマドは
言う。

しかし、開発計画を打切る事で同社が更なる損失を避けられると考えるアナリ
ストもいる。「そのうちに、EADS社が単純に逃げ出すことが良い様な分岐点が
来る」と、航空宇宙アナリストのジェイソン・アダムズは言う。
しかし、そうすることでエアバスは評判を傷つけ、最大のライバルであるボー
イングの評価を押し上げる事になる。そして、A400MライバルのC-17の発注リ
ストがふくらむ事になる。

(BBC World 2010/01/12)

やや旧聞に属しますが、A400Mの開発コスト超過とその資金供給に
痺れを切らしたエアバス社のCEOが、A400Mの開発をキャンセル
するかも知れないと語ったと報じられました。BBC Worldにそれに
ついての詳しい報道が出ていたので抄訳しました。

エアバスA400Mは、深刻な重量超過に悩んでおり、一号機はそれが、
12トンに達したと報じられています。この場合のペイロードは20
トン程度になります。今後、重量軽減策を進めると最大7トン程度
の削減が可能な見込みですが、初期生産分は5トンしか削減できず、
このままでは当初予定していた32トンの搭載能力を達成できない
見通しです。ドイツが時間をかけての開発を主張しているのは、
A400Mで輸送を期待していたプーマ装軌装甲車(31t)の輸送が現状、
見込めない事も影響していると思われます。

コストも問題で、当初180機の製造コストは200億ユーロ
(290億ドル)でしたが、現在では、更に110億ユーロを要する
と見込まれています。

今回の件は、当初の固定費用契約を盾にする欧州各国に対し、初飛
行したA400Mを人質にしたEADS社がコスト超過を認めさせようとして
いる構図であり、初飛行を2009年中に達成していなければエアバス
社の立場はもっと弱いものになっていただろうと想像できる事から
すれば、昨年12月の初飛行は、正に、このためのものであったと
いう感を深くします。

なお、110億ユーロのコスト増加が認められた場合、開発製造コ
ストの合計は310億ユーロとなり、一機当りのコストは、1.72
億ユーロ(2.5億ドル)となり、A400Mの二倍の輸送量を持つC-17
の2億ドルを上回る事になります。ちなみにA400Mの半分程度の大
きさであるC-130Jは70百万ドルと言われています。


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