2009年9月10日木曜日

オバマ政権は月探査に引導を渡すのか?


米専門委が火星有人探査への推進提言、月探査は後退

米航空宇宙局(NASA)による有人宇宙飛行計画の審査を進めてきたホワイ
トハウスの専門委員会は8日、2020年までに月探査を再開する計画を見直
し、火星探査に向けた取り組みを進めるよう提言する報告書をまとめた。
NASAが進める月探査計画は、予算総額400億ドル(約3兆7000億円)
のうち、既に77億ドルを投じて新型のロケットや乗組員の移動用カプセルの
開発を進めている。
その一方で、NASAは「ジェネレーション・マーズ」という火星探査構想を
策定。今後30年にわたって、火星への有人探査に向けた準備的なミッション
を重ねながら、技術開発を進めていく計画という。
専門委員会の委員を務めた元宇宙飛行士のリーロイ・チャオ氏は、インタビュ
ーに対し、今は火星探査の実現時期を設定しないとした上で、「まずは、今あ
る予算で今後数年間のうちに何ができるか。いつ火星へ行けるのかが分かるの
は、その次の予算計画になるだろう」と話した。
さらに報告書は、国際宇宙ステーション(ISS)の運用を5年延長し、
2020年までとすることなども選択肢として提案している。

(ロイター 2009/9/10)


今回の専門家委員会の結果を読むと、現在のNASAが抱える問題
が色々と判ってきます。

月探査を行う為の現在のコンステレーション計画は、2010年のシャ
トル退役と2015年の国際宇宙ステーション(ISS)の運用停止を前
提にしていますが、ISSを完成させる為には、シャトルは2011年
まで運用する必要があります。ISSに至っては、完成に20年以上
の歳月と1500億ドルの巨費を投じた人類最大のプロジェクトの成果
を、完成後僅か5年で放棄するものであり、とても許容できるもの
ではないというのが委員会の現状認識になっています。

従って、現状のNASAの予算では、月探査は不可能で、年間30億
ドル程度の追加支出が必要であるというのが委員会の結論となって
います。

委員会の議論は、これを踏まえて、以下の様な諸点を取り上げてお
り全体としては、非常に合理的な議論が行われていると思います。

その中で、コンステレーション計画で最初の目標とされていた月探
査に関しては、その必要性に関して力点がおかれず、代替案として
ラグランジュ点での有人探査や、地球近傍小惑星探査が「柔軟な探
査順路設定」として新たに提案されています。
そして、アレス1の開発に代えて、商業有人打上げサービスの有効
利用が提起されています。(AP通信の報道では、ロシアが提案し
ている宇宙飛行士一人当り50億円のサービスに対し、商業有人打上
げでは一人20億円程度での打上げが可能との事です。)

なお、専門家委員会の提案のサマリーは以下の通りです。

●正しい目標と正しいサイズの組織
NASAの予算は、その目標に見合ったものにする必要がある。
更に、NASAには、国家的重要性のある施設を維持するだけでな
く組織とインフラを形成する能力が与えられなければならない。

●国際協力
米国は、人類による宇宙探査の分野で、全く新しい国際協力をリー
ドする事ができる。各国の積極的な協力があれば、より多くのリソ
ースを投入する事が可能になり、潜在的に国際関係を改善する事に
なる。
(⇒中国、ロシアとの国際協力を想定?)

●短期的なシャトル計画
シャトルは、安全で慎重な運行がなされなければならない。その上
で運行計画は2011会計年度まで延長される事になるだろう。予算上
もこの手当てが行われるべきである。

●有人宇宙船打上げ能力の欠如期間
現在の状況では、米国が宇宙飛行士を打ち上げる能力がなくなる期
間は少なく共7年に及ぶ可能性がある。委員会はこれを6年以下に
縮める新しい手段を見つける事ができなかった。この期間を大幅に
縮めるにはシャトルの延命が必要である。

●国際宇宙ステーションの延長
ISSの延命によって、米国とパートナー各国の投資回収は著しい
改善が見込まれる。ISSの延命を行わなければ、将来の国際宇宙
協力での米国の指導力は大幅に減退する事になろう。
(⇒2020年までの延命を提案)

●大重量打上げ能力
地球低軌道に大重量を打ち上げる能力は、地球外へ重量物を投射す
る能力を含め、宇宙探査に有益であり、宇宙での国家安全保障や、
科学分野でも有効と思われる。
この大重量打上げ能力の実現には、アーレスロケットや、その派生
型、シャトル改良型、EELV派生型が考えられるが、おのおのに
利点と欠点がある。

●地球低軌道への商業有人打上げ
地球低軌道へ商業的に乗組員を打上げる事は、手の届く範囲にある
と言える。リスクは残るとはいえ、政府がおこなうより少ない初期
投資と生涯費用で、より早期にそれを実現できる可能性がある。
適切なインセンティブ付きの新しい競争が米国の全ての航空宇宙会
社に向かって開かれる。これにより、NASAは、地球軌道外の有
人探査を含む、より挑戦的な目標に専念できる事になる。

●宇宙探査と宇宙商業利用の為の技術開発
探査の前進させる為には、上手く設計され、適切な開発予算が付け
られた宇宙技術開発が重要である。必要となる技術が前もって開発
されているならば、探査戦略はより素早く、より経済的に遂行でき
る事になる。この投資は、無人探査や、米国の商業宇宙産業、政府
のユーザーにとっても有益となる。

●火星への順路
火星は人類の宇宙探査での究極的な目標である。しかしながら、そ
れは最初の目標として適当であるとは言えない。「最初に月を訪問」
する事も「柔軟な探査順路設定」を行う事も探査戦略としては有効
である。両戦略は排他的なものではない。火星への飛行の前に、自
由空間での経験を蓄積しても良いし、月の表面探査の経験を積む事
にも意味がある。

●有人宇宙計画のオプション
委員会は有人宇宙計画について5つの代替案を作成した。その結果
以下の所見を得た。
・2010会計年度の予算では、地球低軌道を超えた有人探査は実行で
きない。
・意味のある有人探査を行うには、全体資源としては2010会計年度
予算対比で年間30億ドル程度を追加したより圧迫度の少ない予算が
必要である。
・増加された予算レベルでは、「最初に月を訪問」する事も「柔軟
な探査順路設定」も共に第一着手が行う事ができ、理に適ったタイ
ムフレームで結果を出す事が可能と見込まれる。


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