2009年5月12日火曜日

787は、リスケ後の開発スケジュールを維持できるか?


※塗装工場を出て給油ステーションに向かう試験飛行一号機。
ボーイング社サイトから転載

ボーイングが悲観論に回答。787の開発スケジュールを維持

ボーイング社は、先週発表された悲観的な調査結果にも係わらず、来年第一四
半期の全日空への引渡しを遅らせる事なく形式証明を取得する事に自信を示した。

ボーイング社は、調査会社バーンスタイン社による用心深い評価に対して回答
を示し「過去の787プログラムの達成度を元にすれば悲観的になるのが自然で
あるのは理解できる」としながらも、その調査結果については、いくつか誤り
があると批判した。

その声明でボーイングは、次の様に述べた。「我々は、777プログラムの経験
に基づいた、787の堅実な飛行試験計画を持っている。我々は飛行試験計画の
内の地上試験部分をより良く管理できる可能性がある新しい方法論を確立した。
そして、我々の飛行試験計画では、機体当たりの飛行試験時間は777と同程度
に設定している。我々の飛行試験チームは1日24時間1週7日稼動する事に
なっており、777プログラムと比べ、より多くの専任飛行試験スタッフ、即ち、
より多くのパイロット、テストディレクター、地上作業員、飛行試験エンジニ
アを保有している。」

性能面の懸念に関しては、同社は787は、「すべての顧客に約束した任務ペイ
ロードの条件を満足している」と述べたものの、「量産初期の機体が予定より
重い事から、重量軽減の為に努力している」点を認めた。

バーンスタイン報告に関して、同社の声明は「航続距離に関する結論は、不正
確であり、787-8の航続距離は、7,000nmより8,000nmに近い。」と述べた。
バーンスタイン調査報告では、「顧客や部品メーカーとの議論から得られた理
解では、量産初期の機体については、凡そ8%の重量超過となっており、これに
より航続距離は、予定より10%~15%減少している。これは当初約束されていた
7,700~8,200nmの航続距離に対し約6,900nmとなる事になる。」と述べていた。

ボーイング社は生産計画についても、「生産準備と重大なデザインブロックの
変更について完全にパートナーと一致しており、2012年内に月当たりの10機の
機体を完成させるという目標は満足できる。」としている。これについてバー
ンスタイン報告では、今週までについては正確に生産上の問題と生産の減速を
予測した上で、月産10機の製造目標は2013年中頃までは成し遂げられないと予
想している。
(ATW Online 2009/5/06)


開発が泥沼に陥ってしまっていたボーイング787の開発ですが、
漸く6月末までには試験飛行が開始出来る様になった様です。
5/5のボーイング社の発表では初飛行前の最終地上試験を開始準備
が整い、テスト用の機体が地上点検に向け列線に並んだとしています。

この地上試験では、外部電源供給の確認や、機上補助電源を使用し
た機器点検、燃料補給、着陸脚の取り回し、システム面の最終確認、
地上滑走試験等々が行われる予定ですが、ボーイング社の発表では、
その結果は今の処良好との事です。

その一方で記事にも引用されているバーンスタイン報告は、航空会
社に対し、試験飛行が始まっても、型式証明の取得に遅れが生じる
事で、更に、六ヶ月程度の引渡し遅延が発生する事を警告しています。

元々の試験飛行計画自体も、従来の開発の遅れをキャッチアップす
る為に、非常に野心的に設定されており、8.5ヶ月~9ヶ月で、
型式証明を得る為の全ての飛行試験を終えるとしています。
ただ、787は機体がフルにコンピュータ化している為、地上では、
システムを完全にはテストできない面もあるとの事で、この面の機
能確認は、実際に機体を飛行させないとバグ出しができない事はボ
ーイング社も認めています。

その為、飛行試験で問題点が発生する可能性は従来より高く、更に
1日24時間1週7日のテストが元々予定されているので、トラブル
のリカバリーに対するスケジュール上の余裕が殆どない計画になっ
ている点で、一度齟齬が生じると連鎖的に全体スケジュールに影響
が与える懸念も高くなっていると言えます。

その為に、飛行試験には十分なリソースを取っているとボーイング
社は主張している訳ですが、今までの実績から見る限り、現時点で
は、悲観的な観測の方が、正しい予想である気がしてなりません。

ボーイング社は、この処、いくつものプロジェクトで開発遅延を発
生させてきました。787プロジェクト以外にも、比較的簡単と思わ
れた既存機からの改造プロジェクトである、KC-767プロジェクト、
P-8Aプロジェクトと開発遅延を重ねています。
勿論、競争相手であるエアバス社もA-380、A400Mとボーイング同様
に開発遅延を発生させていますし、日本でも、C-Xの開発が大幅に
遅延しているのは周知の事実です。これらを見ると機体開発が一般
的に難化している様にも思われます。

機体のインテリジェント化が進み、機体を極限まで、軽量化する事
で、所要の性能を達成しつつ、アウトソーシングを多用して生産性
は最高のものを目指すとするアプローチは、正しいと思いますが、
その一方で、機体設計のコンピュータ化の恩恵を過度に評価して、
短く設定された開発期間が機体開発に大きな無理を強いているとい
う思いを強くする処です。その影響が安全面に出ない事を心から祈
念したいと思います。


[現在の787の開発スケジュール]

初飛行  2009年第二四半期末
一号機引渡  2010年第一四半期中



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