※写真は産経新聞サイトから転載
「核に対抗できるのは核」 北朝鮮情勢で中川前財務相
中川昭一前財務相は19日、北海道帯広市での会合で、ミサイル発射を非難す
る国連安全保障理事会議長声明に反発して北朝鮮が核開発再開を宣言したこと
に関連し「純軍事的に言えば核に対抗できるのは核だというのは世界の常識だ」
と述べ、日本として核武装を議論すべきだとの考えを表明した。
中川氏は安倍政権で自民党政調会長を務めていた平成18年10月にも「憲法
でも核保有は禁止されていない」と発言している。
中川氏は、北朝鮮が日本のほぼ全土を射程に入れる中距離弾道ミサイル「ノド
ン」を多数保有し、ミサイル搭載できる小型化した核爆弾を保有しているとの
見方を強調。「彼らは予告なしにいつでも撃ってくるという態勢に一歩近づい
た。対抗措置を常に議論しておかなければならない」と訴えた。
ただ、現時点での日本の核兵器保有の必要性については「核(武装)の論議と
核を持つことはまったく別問題」と述べ、当面は国民レベルでの議論に委ねる
のが望ましいとした。
(産経新聞 2009/4/19)
既に何度か取り上げていますが、「純軍事的に考えて」北朝鮮相手
に、日本が核武装を行う事は不要です。日本は現時点では、MDの
信頼性を高め、また、一方で日米安保条約の有効性を維持、強化す
る対策を取る事が正解であると思われます。
「純軍事的」に考えると、A国が核兵器を保有していて、それをB
国に対して使用した場合に、B国あるいは、その同盟国である核保
有国C国からA国に対して同程度の核兵器による報復があると信じ
るべき十分な根拠があれば、A国がB国を攻撃する事は抑止されま
す。これを抑止力と言います。また、C国がA国を核攻撃した場合
に、A国またはその同盟国である核保有国D国から同程度の報復が
予想される場合は、C国もA国を核攻撃する事が抑止されます。こ
の関係を相互抑止の状態と言います。(相互抑止の典型はA国、B
国が、米ソ冷戦時の様に互いに同程度の核保有国であるケースです。)
では、A,B,C,D国に各々、北朝鮮、日本、米国、中国と当て
はめた場合にはどうなるでしょうか。
日本は米国との間に日米安全保障条約があり、中朝の間には、中朝
友好協力相互援助条約がありますので、大きく見た場合は、相互抑
止が働いている状況にあると言えます。
ただし、モデルと比べ、北朝鮮と中国による日本と米国に対する核
攻撃は日米のMDによってミサイルが一定割合撃ち落されるので友
効性が減殺されています。また、北朝鮮が日本を核攻撃し、米国が
北朝鮮を報復した時、中国が米国を本当に攻撃するかという点につ
いては疑問が残ります。つまり六ヶ国協議で緊張の緩和努力を払っ
ている中国の意図を無視して北朝鮮が日本を核攻撃する事は、米国
の北朝鮮に対する報復に対する中国の米国に対する核報復の信頼性
を低下させる事になるからです。
日本国内でも、日本が核攻撃された場合に、米国はロサンゼルスを
犠牲にしてまで報復攻撃をするのだろうか?という疑問が出る事が
ありますが、それと同様に、中国が、その意図に反して核戦争を仕
掛けた北朝鮮との同盟の為に北京や上海を犠牲にするのかという疑
問は、より深刻に北朝鮮に問いかけられる事になります。
つまり、北朝鮮が六ヶ国協議で、ごねればごねるほど、中国の北朝
鮮に対する核の傘は相対的に破れ傘になっていくという訳です。
また、北朝鮮は自国の核の傘を整備している訳ですから、中国の核
の傘は何れ不要という事になります。中国から見れば、いずれは自
国の影響圏から離脱するであろう国に自国の犠牲による庇護を与え
ている訳です。つまり、皮肉な事に、北朝鮮の核兵器庫が充実すれ
ばするほど、中国の北朝鮮に対するコミットメントは、逆に不安定
なものになってくるのです。
冷戦時代に米国の核の傘に疑問を感じたフランスは独自の核武装に
走り、その結果、フランスが独自の外交政策を展開した事は、北朝
鮮にとっても良き先例に見えるかも知れません。しかし、実は大き
な違いがあります。フランスには、陸、海、空に核兵器システムを
展開する経済力がありましたが、北朝鮮はそれを欠くという厳然た
る事実です。北朝鮮は、小さな再処理工場を動かせるかも知れませ
んし、数個の核兵器を製造する事もできるかも知れません。しかし、
米国を射程に収め、米国のMDを突破できる能力を有するICBM
を十分な数(恐らく数十基)展開できるかどうかと言う点です。
私は、北朝鮮には、それを行う経済力はないと考えます。
それが出来なければ、日本自体に核抑止力がなくても北朝鮮は日本
を核攻撃する事はできません。米国は、中国による報復を気にせず
に、北朝鮮を報復攻撃する事ができるからです。
従って、日本とすれば、米国による核の傘がいつでも機能する様に
しておく事、及び、万一の事態に備え、核ミサイルを撃ち落す能力
を高める事で、北朝鮮に備えた核武装を行う必要はないと言えるの
です。
中川昭一代議士は、保守派としては得がたい人材だと思いますが、
アルコール依存を止めると共に、軍事についても、もう一段勉強し
て貰いたいものだと思います。
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