2009年4月16日木曜日

テポドン発射時にロシアが電子戦機を派遣したのは当然の話



写真上段は、IL-20 Coot-A Globalsecurity.orgより転載
写真下段は産経新聞サイトからの転載

露軍機がMD網偵察 北が発射時に情報収集機飛行

北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射した際、ロシアの情報収集機が日米両国の
ミサイル防衛(MD)システムの運用を偵察していたことが15日、分かった。
北朝鮮からの発射時間帯の事前通報をもとに日本海で待機。日米のレーダー網
が実戦モードで照射した電波の周波数帯や、MD運用に伴う自衛隊各部隊の役
割分担に関する情報を集めたとみられる。日本海を舞台にした激しい情報戦の
一端が浮き彫りになった形だ。

偵察飛行を行っていたのは、ロシア空軍の電子情報収集機「IL20」。防衛
省によると、IL20はこれまでにも日本周辺への飛来が確認されている。先
月にも2度、日本海を偵察飛行しており、航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(ス
クランブル)している。

北朝鮮のミサイル発射は今月5日午前11時半。IL20はその約30分前に
北海道沖から日本海を南下し、北朝鮮が設定したミサイルの1段目ブースター
(推進エンジン)の落下危険区域の上空を通過した。発射時には、さらに南下
したところで待機していた。

ミサイル発射を受け、探知・追尾のため、海上自衛隊のイージス艦3隻のSPY1、
地上に配備した空自の2基のFPS-5、4基のFPS-3改のレーダーが一
斉に照射。米軍も日本海と太平洋に2隻ずつ展開していたイージス艦、青森県
に配備しているXバンドレーダーを稼働させた。

IL20はMDでの各レーダーの電波の周波数帯、照射方法や探索パターン、
レーダー同士の任務分担などを確認したとみられる。周波数帯を把握されると、
妨害電波でレーダーが無力化される恐れがある。

MD任務の際、イージス艦はレーダーの機能をミサイル探知にシフトさせ、航
空機などを警戒する防空能力が手薄になる。航空機やほかの護衛艦のレーダー
で防空能力を補完するとされ、IL20は海・空自の部隊の連携などMDでの
「戦い方」を把握。海自のEP3、空自のYS11Eといった電子偵察機の情
報収集任務にも注目していた可能性が高い。

情報収集機が飛来した場合、訓練であればレーダーの照射を控える。だが、今
回は北朝鮮の発射に対処する実任務だったため、自衛隊はレーダー網をフル稼
働させざるを得なかった。空自戦闘機はスクランブルで警戒し、IL20は領
空侵犯はしていない。IL20は2、3時間にわたり、日本近海で偵察を続け、
隠岐の島(島根県)付近まで飛行した後、ロシアに戻っていった。

北朝鮮は発射当日、米中露3カ国に発射時間帯を事前に通報したとされ、ロシ
ア空軍は周到にIL20による偵察飛行の計画を立てたとみられている。

(産経新聞 2009/4/16)


ロシアのIL-20は、日本や米国が使用しているP-3Cと同じ様に、中
型のターボプロップ旅客機から軍用に転用された機体です。機体は、
P-3Cより多少大きいですが、略同程度の機体と考えて良いでしょう。

元々の旅客機型はIL-18 Cootと言い、対潜哨戒機はIL-38 May、
電子戦機はIL-20 Coot-Aといいます。
日本でもP-3Cを改造したEP-3Cという機体がありますが、同様の性
格の機体であると言えます。ターボプロップ機である為、速度は遅
めですが、長い滞空時間が得られる事が対潜哨戒機とニーズが一致
したものと言えます。

EP-3CがP-3Cに各種のレーダードームを追加した機体であるのと同
様、IL-20も胴体下部に一見、大型ミサイルにも見える長大なアレ
ーアンテナを装備しているのが特徴です。

今回の北朝鮮のミサイル実験は、日本や米国にとって、実戦同様の
素晴らしい訓練の機会を提供してくれましたが、記事にもある通り
ロシアにとっても、BMDを構成するSPY-1レーダー、Xバンドレ
ーダー、ガメラレーダー等が実戦モードで電波を発射した得がたい
機会であったのは間違いありません。勿論、今回だけの電子情報収
集で、対抗手段が講じられる訳ではありませし、レーダーの側も対
抗措置を取れるようになっていますが、今後、更に情報収集を行う
事で、北朝鮮や中国に対して、より完成度の高い電波妨害装置など
の売り込みを行う事は十分に考えられます。

現代戦では、実戦に至る前の段階で、平時から、今回の様な情報収
集戦が展開されており、今回、ロシアが電子情報収集(ESM)を行っ
た事で、今度は日米側が電子戦(ECM)能力をより高度なものに改善
する事が促がされ、それが更に、ロシアと北朝鮮による対電子戦
(ECCM)能力改善に繋がっていくという関係にあります。

その点、流石にロシアは抜かりなく手を打っていたと言えますが、
その一方で、もう一方の当事者である中国や北朝鮮がどの様な、
手を打っていたのか非常に興味深い処です。


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