英仏の原潜、大西洋で衝突 「放射能漏れない」
英仏の原子力潜水艦が今月初めに大西洋で衝突し、双方が破損していたことが
分かった。両国の当局が16日、衝突の事実を認めた。「放射能漏れはなかっ
た」と説明しているが、両原潜は核兵器を搭載していたとみられ、あわや大惨
事となるところだった。
英メディアによると、ぶつかったのは英国のバンガード級戦略原潜(水中排水
量約1万6千トン、長さ約150メートル)と、仏のル・トリオンファン級原
潜(水中排水量約1万4千トン、長さ約140メートル)で、ともに核弾道ミ
サイルを搭載していたとみられる。
仏国防省は当初、「2月6日に巡回から戻っていた原潜が、水中で物体(おそ
らくコンテナ船)とぶつかった。水中音波探知機(ソナー)が壊れたが、乗組
員らにけがはなく、原子力の安全も保たれていた」と報告していた。
ところが、英メディアが16日、衝突したのはコンテナ船ではなく英原潜だっ
たと報道。その後、英仏の国防省がともに事実関係を認めた。英海軍本部のジ
ョナサン・バンド第1武官は「両原潜は低い速度で接触した。負傷者は報告さ
れていない」と説明。英BBCによると、英原潜には大きなへこみと、こすっ
た跡が出来ていたという。
両国が衝突の詳細を調べているが、英紙サンは両原潜ともソナーを備えていた
が、敵に居場所を探知できなくさせる技術のために互いに分からなかったので
はないか、と指摘。BBCは原潜同士の衝突を「大西洋の広さを考えると百万
分の一の確率で、とても信じられないことが起きた」と報じている。
反核団体「核軍縮キャンペーン」(CND、本部・ロンドン)は「平時に原潜
を海に放つことの危険さを浮き彫りにした。核兵器は我々の安全に何の役にも
立たない」と批判した。
(朝日新聞 2009/2/17)
1991年にソ連が崩壊してから、既に、17年が経過したにも係わらず、
英仏という二線級核保有国ですら戦略ミサイル原潜によるパトロー
ルを継続している事が、今回の事故によってはからずも明らかにな
りました。世界は緊張感を決して緩めていないようです。
旧ソ連が崩壊し、核保有国としての地位はロシアが継承しています
が、既に体制の違いがない(?)にも係わらず、英仏は決してロシア
に心を許していない事を示していると言えます。
ソ連崩壊以降、戦略原潜によるパトロールの停止であるとか再開と
いうニュースが流れた事を私は寡聞にして知りません。という事は
G8でロシアを西側体制に取り込んだにも係わらず、完全な武装解
除も同盟関係の構築も行われなかった点で、根本的な処では信頼し
ていなかったと言う事になります。近年、プーチン政権下でロシア
の全体主義的独裁制構築が進んでいるように思えますので、この点
での英仏の正しさが伺えるようにも思えます。
勿論、英仏の事ですから、ロシアが抗議した場合に備え、照準は定
めていなかった位の事は言いそうですが、原潜パトロールが、核抑
止力の根幹になっている事を考えれば具体的な抑止対象を指定して
いないとは考え難いですし、技術的にも一隻当たり、96(仏)~224
(英)近い目標設定を発射する都度行うとも考えられません。
(恐らく目標セットを複数もっており適宜交換可能になっていると
思われます。)
その点からも、具体的な目標としてロシアの大都市を照準していた
と考えるべきでしょう。勿論、これはロシアも同様の意思はあった
と思われます。(現実には、経済状況によっては原潜パトロールを
継続できていたかどうか疑問がありますが、実施できる状況では実
施していた筈です。)
もう一つ、今回の件でわかった事は、両原潜の低速での静粛度が恐
るべき水準に達している事です。潜水艦は、海中での音波探知装置
としては理想的であり、戦略ミサイル原潜はパトロール中、聞き耳
を立てる事が唯一の任務と言える程です。
原子力潜水艦の場合は、海中に停止している時でも、原子炉の冷却
水を循環させる必要があり、冷却水循環ポンプを常時動かしておか
ねばならず、加圧水型原子炉ではこのポンプが大きな騒音発生源と
なっていると言われてきました。また、高速回転する蒸気タービン
で低回転のスクリューを回すため、減速ギヤを介在させる必要があ
り、この減速ギヤも大きな騒音発生源になっていると言われてきま
した。そうであるにも係わらず両原潜共に衝突まで相手側の推進音
を探知する事ができませんでした。
通常動力潜水艦にAIP機関が装備される様になり、静粛度で勝る通
常動力潜水艦が少しは原潜に近づいたと思わせる様になりましたが、
原潜の側も弱点克服を着実に実施していた事を示すものと言える様
に思います。
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