2010年6月2日水曜日

ガザ支援船団を急襲したイスラエルの虚虚実実

イスラエル軍、ガザ支援船団急襲

イスラエル軍は31日早朝、パレスチナ自治区ガザ地区への封鎖を突破し、支
援物資を届けようとした親パレスチナの国際支援団体の船団を急襲し、イスラ
エルのテレビ局によると、イスラエル兵が船を制圧する際に船上で衝突となり、
船団側の活動家19人が死亡、36人が負傷した。一方、軍報道官は死亡者は
10人だと発表した。イスラエル軍は拿捕(だほ)の過程で支援活動家から銃
や刃物で攻撃を受けたと主張しているが、イスラエルに対する国際的な非難が
高まっている。

フランス通信(AFP)などによると、6隻からなる船団にはパレスチナ支援
の活動家約700人が乗船、建築資材や医薬品など約1万トンの支援物資を積
んで、5月30日にキプロスを出港した。船団は各国のパレスチナ支援団体に
より組織されていたが、船団側によると、死亡した活動家の多くはトルコ人だ
ったという。

イスラエル政府は支援船から銃が発見されたと発表し、「船団はそもそも人道
支援が目的ではなく、テロ行為による挑発を狙っていた」(政府報道官)と非
難した。イスラエル軍は、イスラエル兵10人が負傷したとしている。

多数が犠牲となったトルコでは31日、イスタンブールで数千人規模の抗議デ
モが発生。AFPによると、アルンチ副首相はトルコ政府が国連安全保障理事
会に緊急会合の開催を要請したと発表するとともに、予定されていたイスラエ
ルとの3つの軍事演習を中止することを明らかにした。

非アラブのトルコは1996年、イスラエルと軍事協定を結ぶなど、中東では
数少ないイスラエルの友好国。今回の事件で、すでに温度差の広がりつつある
両国関係が決定的に悪化するとの懸念が強まっている。

2002年に政権の座についたイスラム系の公正発展党(AKP)はアラブや
イランとの関係を重視しつつ、シリアとイスラエルの間接和平交渉の仲介を務
めるなど、中東和平の橋渡し役の立場も模索していた。しかし、エルドアン首
相は08年末に始まったイスラエル軍のガザ大規模攻撃を激しく非難し、両国
の関係は急速に冷却化。イランの核問題でも、トルコは独自の仲介を行うなど
イスラエルとの溝が広がっていた。

一方、国際社会にも非難の声が広がっており、欧州連合(EU)のアシュトン
外交安全保障上級代表は「事件の徹底的な調査」とガザの即時封鎖解除を要求、
クシュネル仏外相が「いかなる状況でも(イスラエル軍による)このような暴
力は正当化できない」と非難した。アラブ連盟は6月1日、カイロで緊急会合
を開く。

イスラエルは、パレスチナのイスラム原理主義組織ハマスが07年6月にガザ
地区を武力制圧して以来、「武器の流入阻止」などを理由にガザの境界管理を
強化。このため、ガザ住民の生活は困窮し、長らく「人道危機」が指摘され、
欧州各国からは封鎖緩和を求める声が出ていた。だが、イスラエルは「ガザに
人道危機はない」(リーベルマン外相)と主張してきた。

(産経新聞 2010/05/31)


ガザ支援船襲撃 封鎖政策の矛盾浮き彫りに

イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザ地区に向かっていた国際支援船団を公海
上で急襲し多数の死傷者を出した事件は、ガザ封鎖によりイスラム原理主義組
織ハマスを弱体化させるとのイスラエルの狙いとは裏腹に、多くの矛盾点を浮
き彫りにする結果となった。国連安全保障理事会の議長声明に「封鎖解除」を
求める文言を盛り込むことは見送られたものの、封鎖政策の有効性を疑問視す
る声はイスラエル国内からも出ている。

1日付イスラエル有力紙イディオト・アハロノトは1面で「罠(わな)」と大
見出しを掲げ、支援船団に乗り込んだイスラエル兵が活動家たちの仕組んだ挑
発に引っかかったとの見方を示した。同国のメディアは「活動家たちから先に
攻撃を受け、やむを得ず発砲したイスラエル兵に責任はない」という点ではほ
ぼ一致している。

しかし、長期にわたるガザ封鎖の効果については、さまざまな議論が出始めて
おり、有力紙ハアレツは「イスラエルは、4年間におよぶ封鎖で苦しむガザに
向かう船を攻撃し、ハマスはロケット弾を1発も撃つことなく圧倒的な勝利を
収めた」とし、「封鎖政策が逆にイスラエルの国際的な立場を著しく損ねてい
る」と指摘した。

安保理議長声明では見送られたものの、今回は欧州連合(EU)も5月31日、
事件の徹底糾明だけでなく、ガザ封鎖の即時解除を求める声明を発表。欧州各
国もアラブ・イスラム諸国と足並みをそろえつつある。

イスラエルは、ハマスがガザ地区を武力制圧した2007年6月以降、境界封
鎖を強化したが、強硬姿勢を取る以外に無策なハマスへの住民の失望から、ハ
マスへの支持は低下する傾向にあったとも指摘される。

しかし、イスラエルが強硬策を取るたびに、ハマスは支持を回復。イスラエル
との和平交渉を進めようとする穏健派のアッバス自治政府議長らの立場は弱ま
り、和平プロセスが停滞するというジレンマも抱えている。

一方、治安上の理由からガザ地区への封鎖措置を取るエジプトのムバラク大統
領は1日、人道物資などを搬入するためエジプト側境界のラファ検問所を開放
するよう命じた。ガザ封鎖に対する非難の矛先がエジプトに向かうのを回避す
る狙いがあるとみられる。

イスラエル軍は5月31日、支援船団側の死亡者は9人だったと発表した。負
傷者は合わせて十数人にのぼったとしている。イスラエル政府によると、拿捕
された船団6隻の乗船者は計679人。うち強制送還に応じたのは約50人だ
けで、ほかは拘束される見込みだという。

国際支援団はさらに、ガザを目指す支援船を向かわせると表明。これに対し、
イスラエル軍は徹底阻止するとの姿勢を明確にしており、ガザ封鎖をめぐる駆
け引きは長期化しそうだ。

(産経新聞 2010/06/02)


今日は鳩山首相の辞任を取り扱う方が多いと思いますので、軽くオ
ヘソの穴がスライスしている私は、こちらの記事を扱います。

まず、ガザ地区です。ヨルダン川西岸とならぶパレスチナ自治政府
の足場の一つですが、実際には、2007年6月以降、イスラム原理主
義を信奉する過激派ハマスの支配下にあります。ハマスがガザ地区
からイスラエルに向け大量のロケット弾を発射し、イスラエルの反
撃を招いたのは、覚えてらっしゃる方も多いと思います。

ハマスは、イランやシリアの影響下にあるので、イスラム圏でも、
それを快しとしない国にとっては、ガザ地区は、鬼っことも言える
存在となっています。

実際、ガザ地区は、イスラエルとエジプトが、境界を管理していま
すが、エジプトは、ハマスに対して必ずしも、融和的ではなく、ガ
ザ地区の国境封鎖をイスラエルと共に実施している程です。
とはいえ、エジプトは表向きは封鎖に協力しているものの、エジプ
ト~ガザ国境の地下には何本もトンネルが設置されており、ガザの
生活物資は、このトンネルから大量にガザに流入しています。

しかし、そうであっても、イスラエルにとって、ガザ地区がハマス
支配が強化されるよりも、イスラム穏健派の影響下にある事が望まし
い訳です。

今回の国際支援団体の船団にしても、イスラエルがガザの海域封鎖
を行っているのは、判った上で、やっています。乗船しているのは
イランの息のかかった、トルコ人活動家で、この処、イスラエルと
隙間風が吹いているイスラム穏健派のトルコをイスラエルと対決させ
るという意図があったと思われます。つまり、船団が阻止されるの
は予想の範囲であり、意図通りの結果あったと言えます。もし、イ
スラエルが船団を阻止しなければ、ガザ地区のハマスが欲しがって
いる物資が手に入る訳ですし、それによってハマスの統治能力が強
化されますので、損はありません。

イスラエルは、イスラエルで、支援船団が組織されている事は、事
前に掴んでいます。ハマスの意図も当然見切った上で船団阻止に出
ています。また、船団阻止に出る事は、バックチャネルでエジプト
にも伝わっていた事はほぼ確実であろうと思われます。
そうでなければ、ガザ~エジプト国境が、こうタイミング良く、開
放される事はなかった筈です。イスラエルにとっては、例え、武器
が、エジプト側から搬入されても、エジプトのガザに対する影響力
が強化された方が、望ましかったと言えます。

ガザ支援船団は、その公表された意図以外にも、多くの隠された意
図や思惑の下に送り出された、それ自体が、仕掛け爆弾の様な存在
です。イスラエルとしては、その様な仕掛け爆弾を送り込まれる事
事態が失敗ですが、それを逆手にとって状況を如何に利用できるか
思考実験を重ねたものと思われます。その結果としての、強硬阻止
は、イスラエルの国家存続意思の表れとしか形容が見つかりません。
イスラエルから見れば、今回辞任する事になったルーピー首相の戯
言「日本は日本人だけのものじゃない」など甘いの一言で片付けら
れてしまいそうです。


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http://space.geocities.jp/ash1saki/








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