2010年4月30日金曜日

中国製戦闘機 発展途上国の国威発揚を安上がりに実現?

※写真は、読売新聞Webサイトから転載。

中国、戦闘機ビジネス本格化…米機より「割安」

中国が、新型国産戦闘機など多様な航空兵器を中東やアフリカ、アジアなどに
売り込む兵器ビジネスを本格化させている。

国防省は4月中旬、天津に中国駐在の47か国武官団と一部外国報道陣を招い
て新鋭戦闘機「J(殲)10」を公開し、将来的な大規模輸出も念頭に性能を
PRした。

北京と天津を結ぶ高速道路の沿線の農村地帯に駐屯する空軍航空兵第24師団。
首都一円だけでなく、華北・東北地方の防空任務を担う。

約50人の武官らが見守る中、4機のJ10が編隊を組み、16分間にわたる
アクロバット飛行を繰り広げた。

この後武官団と会見した厳鋒師団長は、「私は軍人であって、商人ではない」
と語って輸出計画の詳細は明らかにしなかった。だが、1機当たりの価格が
1億9000万元(約26億円)であることを公表した上、「機動性、敏捷
(びんしょう)性に優れている」としっかり性能をPRする一幕もあった。

J10は、最大速度マッハ1・8で、米戦闘機F16にも匹敵する性能を持つ
とされる。それでF16の約3分の2以下の価格となれば、購入を希望する各
国には大きな魅力だ。

人民解放軍系紙「中国国防報」は3月下旬、「中国の戦闘機輸出が米国を不快
にさせている」との見出しで、「中国の戦闘機の国際的な影響力がますます大
きくなり、米国はその覇権的な地位が脅かされると考えている」などと報じた。
こうした報道は、新型兵器に対する自信を示すものだ。

同紙が海外メディアも引用して伝えたところによると、中国の訓練機K8が6
機ベネズエラ空軍に売却された。さらにK8よりも上級の訓練機L15と、中
国とパキスタンの共同開発による新型軽戦闘機「梟竜(きょうりゅう)」には5
~6か国が関心を示しており、売却交渉が進行している。

近い将来には、J10の輸出も実施されるという。パキスタンへの売却話も伝
えられている。中国国防報は、「中国の航空兵器はすでに、多用途戦闘機から
大型攻撃機、訓練機に至るまで、幅広い機種が輸出対象になっている」と指摘
している。

(読売新聞 2010/04/28)


同じ目的が達成できるのであれば、戦闘機の大きさは小さい方が有
利であると考えられます。これはステルス機の登場以降も、変わる
事がありません。RCS(レーダークロスセクション)は小さい方が探
知されにくいので有利になります。J-10の原型となったイスラエル
製のラビ戦闘機は、J-10よりも一回り小さな機体ですし、J-10の対
抗馬とされているF-16も、同様です。

中国とて、この事は判っている筈です。それが大きい機体になった
のは、搭載するエンジンが違った為と言って良いと思われます。
F-16は、F-15と同じF100エンジンやF-14用のF110を搭載しています。
それと同じで、J-10は、Su-27と同じAL31を搭載しています。
このエンジンの違いが機体の大きさに影響しているのです。

F-16とJ-10を比較すると、表面上の要目はJ-10の方がより大きく、
より重いのですが、最大離陸重量では、F-16の方が上回っており、
燃料や武器をより多く搭載できるのが分かります。その理由はエン
ジンがよりコンパクトで推力が高い事に帰結するのです。

J-10は元々、ソ連の戦闘機に対抗する為に、西側の技術を導入して
開発するというのが、コンセプトでした。それが、天安門事件によ
る欧米諸国の対中制裁もあって、挫折を余儀なくされ、その後、イ
スラエルから、米国の圧力で開発を断念させられたラビ戦闘機の技
術を導入できた事と、体制変革に伴なう経済的困難の中で何でも売
りたかったロシアからエンジンとアビオニクスを導入できた事で、
何とか完成に漕ぎ着ける事が出来たプロジェクトです。

それでも、J-10規模の戦闘機を中国が自力で開発する事ができた事
は、充分に評価に値する事です。しかし、ロシアから導入されたア
ビオニクス製品や電子兵装は、最新のものとは限りません。ロシア
はソ連時代から、最新モデルの輸出制限やモンキーモデルの輸出を
行ってきた実績があります。

また、J-10で使用されているAL31エンジンはロシアから輸入してお
り、それを使用した機体を第三国への転売する場合はロシアの承認
が必要になっている模様です。従って、J-10の場合も、AL31搭載機
を輸出する場合はロシアの承認を得る必要があります。この為、中
国はAL31のコピーとも言われる国産のWS-10Aの開発を進めています
が、ただでさえ、寿命の短いと言われるロシア製エンジンのデッド
コピーであるWS-10AがAL31以上の性能を発揮するとは考えにくいの
です。

これはアビオニクスや電子機器全般の性能や信頼性についても同様
です。中国製の戦闘機が戦闘を行ったのは、ベトナム戦争以降はあ
りません。ロシアは、中東諸国に供与していたソ連製の機体が、中
東戦争、湾岸戦争、イラク戦争を戦っており、その経験を生かした
開発を行う事ができました。米国は、当事国として戦っています。
それと比較すれば、中国製戦闘機がどこまで使い物になるか疑問と
せざるをえないのです。

米国は、ベトナム戦争の戦訓から、ミサイル万能論を退け格闘戦が
出来る機体として、F-16を開発しましたが、昨今では、ミサイルの
命中精度の向上と共に、ステルス機の登場により、戦闘機戦闘のパ
ラダイムが変化し、AWACSと戦闘機、あるいは戦闘機同士の共同戦
闘が重視される様になっています。この様な中で、J-10がどこまで
実用になるか残念ながら判然としません。

記事にあるように、F-16と比較して価格が本当に3分の2であるなら
ば、私であれば、迷わずF-16を選択すると思います。見てくれが強
そうで何しろ数を揃えたいというニーズがある場合やあるいは、購
入に要する費用は全て中国持ちというのでもなければ、国際兵器市
場で中国製兵器を選ぶ国は発展途上国といえどそう多くない様に思
えてならないのです。


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