※写真は延期発表前日に行われたANA向け787の最終組み立て開始式
Boeingサイトから転載米ボーイング、ドリームライナーの初飛行を再延期
米航空機大手ボーイングは23日、今月末までに予定していた次世代中型旅客
機787(ドリームライナー)のテスト飛行を延期すると発表した。主翼と胴
体の結合部分に補強の必要性が確認されたため。補強作業を進め数週間後に新
たに初飛行スケジュールを確定するとしている。
当初、2008年5月までに航空会社に納入が開始される予定だったが、10
年1~3月期に2年近く延期された。テスト飛行を再延期したことで納期はさ
らにずれ込む可能性がある。導入を予定している全日本空輸や日本航空の事業
計画への影響も懸念される。(共同)
(産経新聞 2009/6/23)
このニュースは、本当にごく一部の人間にしか伝えられていなかっ
た様で、発表前日にはボーイング社のエバレット工場では、全日空
が、全日空向け787一号機の組み立て開始式で鏡開きを行ってい
たという話も伝わっています。また、全日空は、CF用に試験機の一
機をANA塗装とし、初飛行に合わせて流そうとしていた様ですが、
これもスケジュールの変更で影響が懸念されます。
通常は、この手の悪い話は、マスコミや証券会社の航空アナリスト
に個人的な関係でも流れ易いのですが、その個人的な関係でも情報
が流れなかった様で、今回の遅延に係わる記事の中には、知れせて
貰えなかった恨み辛みを、アナリストがボーイングとの信頼関係が
崩壊したと書き連ねているものもあります。
株価についても、この寝耳に水のニュースが流れた後、ボーイング
社の株価は一気に10%近く値下がりしましたが、ここ数ヶ月悪い話
が出ていなかっただけに、投資家にとっても如何にショッキングで
あったかを示していると言えます。
それでは、初飛行延期の発表の後のアナリスト向け遠隔会議の中か
ら興味深い処を拾ってみましょう。全文は以下のURLで参照できます。
http://blog.seattlepi.com/aerospace/library/BA-Transcript-2009-06-23T14_001.pdf
Pat Shanahan:ボーイング社 機体開発担当副社長
テスト中に何があって、今回の初飛行延期に繋がったのか説明します。先月、
我々は試験機の翼を曲げる等の静強度試験を実施しました。この試験は型式証
明を得る為の通常の手順によるものです。この試験中に、胴体側面の構造に予
想以上の加重がかかっているのが判りました。これについての予備的な分析の
結果は、初飛行には影響はないという事でした。しかしその後のテストと分析
の結果、胴体側部の接合部の一部を強化しないと生産的な飛行試験は行えない
と言う結論に達しました。それ故に、初飛行を延期し、必要な改修作業を行わ
なければならなくなった訳です。ここで強調しておきたいのは、これは、構造
強化の問題であって、素材や工作品質の問題ではないという事です。複合材料
は、機体構造上正しい選択です。改修はごく一部に限られており充分管理可能
です。我々はこの緊急対応を充分な品質と速度で実施できる強力なチームを持
っています。
Scott Fancher:ボーイング社787担当副社長
今まで、我々は主として問題点の把握に焦点を絞ってきました。我々は、社内
の専門家達と今回見つかった事をレビューし、今まで対応した内容が正しかっ
た事と正しい答えを持っている事を確認しました。我々の技術的な専門家達は
胴体側部の接合部の特定の部分の構造を強化する改修方法をいくつか開発して
います。現在その内、どの改修方法を取るのが最適なのかを検討している処で
す。これを行った後で、詳細設計を行い、必要な部品を製作し、それを導入し、
その上で、要素毎あるいは全体的なテストを行って、改修のパフォーマンスを
確かめます。試験飛行はその後に開始する手順となります。これは緊急の作業
ですが、スケジュールの為に品質を落とすような事はありません。数週間の内
に、新しい試験飛行やその後の大まかなスケジュールをお知らせする事ができ
るだろうと考えています。この問題を解決する事で、一号機や量産機の完成に
向け大きな前進が図れると思います。ちょうど十日前、一号機は、中間ガント
レットテストを成功裡に終了しました。この九日間の継続的な運用を通じ、我
々は機体システムについて自信を深めました。この一号機のシステム機能試験
を更に続ける事で、最終ガントレット試験や地上走行試験に進む事ができると
考えています。その上で、機体システムの成熟化を続けます。
二号機についても、類似した作業を続けます。二号機は最近フライトラインに
移動させており、エンジンを動かす準備ができています。
飛行試験に使用される機体は、組み立てが終了し、飛行準備が完了した段階で
フライトラインに揃う事になります。同様に量産機の組み立て作業がその後に
続いています。
Q:この問題は、いくつかのパーツにまたがるものなのか、それとも単一パーツ
に係わるものなのか?また、強化するのは両サイドなのか、それとも一方なのか?
A:この問題は複数のパーツに跨るものであり、三菱重工製の主翼と富士重工製
の中部胴体が係わっており、設計の面では、この両者とボーイングが係わって
いる。構造の問題であるので、当然の事ながら、その様になる。解決方法につ
いても三社で検討している。また問題は胴体の両側に係わっている。
Q:この問題は、場所について特定できるのか、またどの位の広さの事を言って
いるのか?
A:問題になっている場所は、胴体側部と主翼との接合部で、特に接合部の上側
にそった1~2平方インチの部分についての問題。片側18ヶ所、両サイドで
全部で36ヶ所ある。これらは非常に狭い範囲の部分の話であって、全体に跨
る話ではない。各々の場所で構造を強化する部品は手の平に収まる程度のもの
である。
Q:この問題は先月発覚したとの事だが、今日まで発表を待ったのはどういう理
由か?パリエアショーという世間の注目が集まる時でも良かったのでは?
A:パリエアショーの時には、まだ予備的な分析結果しか出ていなかった。この
改修はマイナーなものでもあったので試験飛行スケジュールには影響がないと
その時には判断していた。この最終的な分析は先週一杯行われ、結果が出たの
は金曜日だった。試験飛行をスケジュール通りに開始する事もできたが、しっ
かりとした型式証明の取得の為の試験を行うには、改修を実施してからの方が
良いと最終的に判断した。
Q:もし、この改修を行わずに試験飛行を行っていた場合に最悪どんな事が起き
るのか?翼が脱落したり、胴体にヒビが入る様な事があったのか?
A:我々のアセスメントでは何も起こらなかっただろうと考えている。ただ、応
力集中によりモデルから乖離する事で、我々が望ましいと考えているフライト
エンベロップを実現する上で余裕度が減少すると考えている。
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