2010年2月19日金曜日

向かい風を受ける様になった中国


【国際情勢分析】中国は責任ある大国か

経済や軍事で力を増す中国と、超大国といわれた米国の不協和音が鳴りやまな
い。イランの核開発問題などで、米国は中国に責任ある行動を求めているもの
の、中国の協力が得られないことが理由の一つだ。米中「G2時代」が到来し
たといわれる中、現実には米国だけでは中国を御することはできないとの指摘
もされている。

■イラン制裁に難色

まずイラン問題。国際社会の制止を無視して核開発を続けるイランは最近、濃
縮度20%のウラン製造に成功したと発表した。国連安全保障理事会は、イラ
ンへの制裁を検討しているものの、拒否権を持つ中国が難色を示している。

このままイランが核武装してしまえば、その責めは誰が負うのか。オーストラ
リア議会外交小委員会委員長のマイケル・ダンビー氏は、2月11日付の米紙
ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)・電子版への寄稿で、「もし戦争
が起きたら、その責任の多くは中国政府にあることになろう」と論じた。

貧富の格差が大きい中国では、「国民は生活水準の恒常的向上を期待するよう
になっており、これが中国共産党政権の最大の弱み」(WSJ)である。従っ
て、共産党政権はエネルギー獲得に躍起で、「支配と確実性を手に入れるには、
特定の産油国、できれば、欧米と政治的に対立し、欧米以外の国の擁護と友情
を必要としている国と取引すること」(WSJ)を望んでいる。

国連安保理の議論がまとまらず、イランの暴走を許せば、その軍事力の矛先は
欧米に向くかもしれないし、イスラエルがイランに先制攻撃する恐れもある。
その場合「戦争という重大な危機がもたらされることになる」(WSJ)という。

■台湾情勢への幻想

次に米国の台湾への武器売却問題。バラク・オバマ米政権の売却決定で、中国
は米国に激しく反発している。米シンクタンク、ブルッキングス研究所のリチ
ャード・ブッシュ上席研究員は、2月11日付の米紙ロサンゼルス・タイムズ
(LA)・電子版への寄稿で、米政府が中台統一を妨害しようとしていると中国の
関係者は思いこみがちだが、「これほど間違った見方はない。米国が台湾の防
衛を支援するのは、台湾が不安を抱いているからで、その不安は中国がとった
政策の結果だ」と中国責任論を展開した。

台湾では、独立を模索した陳水扁(ちん・すいへん)政権に代わり、対中融和
派の馬英九(ば・えいきゅう)政権が誕生し、台湾有事の危機が和らいだとみ
る米国は胸をなでおろしている。

だが、実際には中国の軍備増強は休むことなく続いており、ブッシュ氏は、米
中台のいずれの利益にもならないのに、「なぜ中国は、緊張緩和という新たな
プラスの現実に合わせて変わろうとしないのか」(LA)と疑問を投げかけた。

とはいえ、覇権国家への野望が見え隠れする中国にこうした理性を求めるのは
むなしい。さらにそれが、米国で中国、台湾通として知られるブッシュ氏の見
方であるというのだから、米国は台湾情勢に甘い幻想を抱いているのかもしれ
ない。

■「G2論」の空虚さ

米エール大のジェフリー・ガーテン教授は2月9日付の英紙フィナンシャル・
タイムズ・アジア版への寄稿で、「米国は10年前とは比べものにならないほ
ど弱体化している」と指摘。「中国のその凝り固まった立場から動かすことが
できる唯一の方策」は「多国間協定の網を作り上げること」であり、欧州や日
本、新興の大国と協力して当たるべきだと説いた。米国の威光の陰りと中国の
責任感のない対応は、「G2論」の空虚さを物語っている。

(Sankei IZA 2010/02/19)


輝かしい北京五輪の成功、リーマンショックを物ともしない経済の
大躍進、次々に中国企業の手に落ちる世界の資源、中国を更なる成
功に導く共産党の指導力、オバマ民主党政権ですら人権問題を指摘
できない程の政治的存在感、ダボス会議で世界に指導的エリートか
らも持て囃されるG2国家の旗頭、胡錦濤主席、温家宝首相。
2008年~2009年の中国は、まさに我が世の春を謳歌していて、全く
陰りがない印象すら与えていました。

しかし、2010年に入ってから、中国を取り巻く環境は一変しました。
コペンハーゲンで行われたCOP15を契機に、中国に対する欧米の風
圧が一変したのです。この会議で、中国は、ベネズエラやキューバ、
スーダンと言った反欧米国家を使って、米欧主導による二酸化炭素
排出規制合意を徹底的に阻みました。また、欧米各国が首脳を送っ
て合意形成に務めたのに対し、中国は交渉担当者しか派遣しないと
いう非礼を敢えてした上で、上記の様に交渉が暗礁に乗り上げる様
に影で糸を引いていた訳です。欧米各国から見て、黒幕は明らかで
あり、その非協調的態度は、欧米各国に中国異質論を再確認するも
のとなりました。

もともと中国の経済発展は、為替レートを市場実勢に任せず、意図
的に人民元を低く抑える事で、他国の市場を奪う近隣窮乏化政策に
よるものでした。また、2009年に鉄鉱石の価格交渉で、鉱山会社リ
オ・ティントの中国駐在員をスパイ容疑で逮捕勾留する等、非常識
とも言える価格交渉態度にでました。それに輪をかけたのが2010年
初に明らかになった中国からGoogleへのサイバー攻撃と違法アクセ
スです。一時は、中国当局の検閲を甘受してでも中国市場に進出し
ようとしたGoogleでしたが、この事実により撤退に向け舵を切りま
した。また、リオ・ティントは2010年の鉄鉱石の価格交渉プロセス
から最大需要家であるにも関わらず中国を排除し、日本との交渉結
果を中国に提示し、受け入れなければ中国への輸出を行わないとい
う態度に出るようになりました。

中国に対する更なる圧力になったのが、米国による台湾向けの武器
売却です。最新鋭戦闘機や潜水艦と言った派手な兵器の供与は手控
えられましたが、パトリオットPAC3は、明らかに台湾に向けられた
中国の弾道ミサイルから台湾を防御する事を目的にしたものでした。
記事にも取り上げられて様に、中台関係の緊張緩和にも関わらず、
戦力の増強を継続する中国に対するオバマ政権からの警告とも言え
る決定でした。

これに対し中国は、米国との軍事交流を停止する他、兵器を供給す
る企業を禁輸対象とする等、過剰反応とも言えるリアクションを見
せました。それに対し、オバマ政権も、今まで控えていたダライ・
ラマ14世との首脳会談を急遽実現する等、政治的エスカレーション
に進んできています。それは、米中二ヶ国による世界支配(パック
ス・シナエ・アメリカーナ)構想である「G2論」の幻想を吹き飛
ばすものであったと言えます。

我が国においても日本経済新聞グループや多くの左翼系メディアの
ように、中国の近年の経済発展に幻惑される企業や人士が多かった
のですが、一歩引き下がって冷静に考えれば、この動きは、まさに
第二次大戦直前に、ドイツの勢力拡大に眩惑され、バスに乗り遅れ
るなと、それまでの対英米協調路線から三国同盟へ国策を誤って行
った経緯を彷彿させる動きであると言えます。

それにしても、民主党政権が発足してから4ヶ月足らずであるにも
関わらず、与党の幹事長が、百数十人の国会議員を引き連れて中国
を訪れ、朝貢外交を行い、米国の大統領が、日本との付き合い方が
分からないと韓国大統領に愚痴る時代になってきました。

残念ながら、民主党には、最低でも、あと3年半、日本を自由に統
治できる権利が与えられています。その時間が日本にとって取り返
しのつかないものにならない様、心から祈りたいと思います。


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2010年2月18日木曜日

スター・ウォーズを意識した?国際宇宙ステーション「展望デッキ」



※写真上は、今回国際宇宙ステーションに設置された「展望デッキ」
野口聡一さんの簡易ブログ「ツイッター」より転載。
写真下は、映画「スターワォーズ」からミレニアム・ファルコン号の銃座

国際宇宙ステーションに「展望デッキ」設置

[ケープカナベラル(米フロリダ州) 15日 ロイター] 国際宇宙ステー
ション(ISS)に滞在する宇宙飛行士たちが、現地に「展望デッキ」を設置
した。デッキからは、ISSの全景のほか眼下に地球を一望することができる。

スペースシャトル「エンデバー」のクルーは、ISSのロボットアームを使用
し、イタリア製のモジュールである「キューポラ」を今回地球から持ち込んだ
モジュールの「トランクウィリティー」に接続する作業を行った。

ロボットアームの操作担当者はこれまで直接外の景色を見ることができず、カ
メラからの映像のみに頼って作業を行ってきたが、テリー・バーツ宇宙飛行士
によると、今回の新モジュール設置によって今後は視界が大きく広がるという。

(ロイター 2010/02/16)


映画「スター・ウォーズ」では、この多角形に中央が円形のデザイン
が結構出てきます。例えば、写真で示したミレニアム・ファルコン
号の銃座以外にも、同じミレニアム・ファルコンの操縦席も、八角
形の上半分が透明窓になった形ですし、ダースベイダーの搭乗機で
あるタイ・ファイターの操縦席がやはり、八角形になっています。
探せばもっとあるかも知れません。

材料工学の発展度合の違い(?)を反映してフレームの太さは大分違
いますが、今回、国際宇宙ステーションに展望窓を設置する上で、
隠れ(?)SFファンでもあるデザイナー氏が、意識して「スター・ウォ
ーズ」の八角形のモチーフを少し変えて採用したのではないかと思
いたい処です。

勿論、正式に照会すれば、展望デッキの形状について合理的な理由
が回答として返ってくるとは思いますが、宇宙ファンの多くは、多
かれ少なかれSFファンでもある可能性が高いと思いますので、デザ
イナーも仲間の一人と、国際宇宙ステーションに今までより少し多
めの共感を持って頂ければと思います。


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2010年2月17日水曜日

実用に一歩近づいたエアボーン・レーザー

※YAL-1 http://www.sargentfletcher.com/spp.htm より転載

上空からミサイル破壊実験成功=ジャンボ機でレーザー照射-米国防総省

米国防総省は14日までに、上空のボーイング747型ジャンボ機から高出力のレ
ーザーを照射して、発射直後の弾道ミサイルを破壊する実験に成功したと発表
した。ミサイル開発を進めるイランや北朝鮮をけん制する狙いもあるとみられる。

これは発射直後の上昇段階のミサイルを迎撃するエアボーン・レーザー(ABL)
計画の実験。宇宙空間を飛行(ミッドコース)中のミサイルを迎撃するイージ
ス艦搭載の海上配備型迎撃ミサイルSM3と合わせて、重層的な迎撃体制を構築
することを目指している。

(時事通信 2010/02/14)


地下サイロや移動式発射装置から打ち上げられ、上昇していく禍々
(まがまが)しいICBM(大陸間弾道弾)。上空を飛行するジャンボジェ
ット機。そのジャンボ機の機首から発射される一条の激光。
爆発するICBM。

といったSF小説に出てきそうな情景が浮かんできそうですが、実際
には、現時点のABLは、一撃で、ミサイルを破壊できるものでは、
まだまだ無いようです。現時点のABLが狙っているのは、ミサイル
の外殻をレーザーで熱する事で変形させ、それによってミサイルに
空気力学的な変形を生じさせ破壊に導くというものです。

これは、機上に搭載した燃料から化学反応を通して取り出す事が出
来るエネルギーの密度に限界がある事、また、レーザーを発射する
機体から標的であるミサイルまで空気中をレーザーが通過する事に
より、レーザーの減衰が発生し、ミサイルを瞬間的に破壊できる様
な熱エネルギーを伝達できないことによるものです。

加えて、ABLは、ミサイルの燃料がまだ消費されておらず、速力も
遅いブースト段階を狙いますが、その為には、レーザー発射機は、
ミサイルが発射される場所に可能な限り接近する必要があります。
しかし、ミサイル発射地点は必ずしも国境近くにはなく、場合によ
って相手国領空深く侵入せねばならず、接近する事自体が非常に困
難です。現在、レーザー発射機に使われているのは、ジャンボジェ
ット機ですが、ICBMやIRBMを保有する国が当然保有していると考え
られる近代的防空システムにとっては、比較的簡単に対処が可能な
目標である様に思われます。

勿論、対空システムに対処する為、レーザー発射機以外にも、電子
戦機や、護衛戦闘機が随伴しているかも知れませんが、そういう大
きな編隊を構成していれば、さらに発見は容易になります。そして、
その様な編隊の接近自体がミサイル発射を抑制させると思われるの
です。

今回の実験で、発射直後の弾道ミサイルを破壊する実験に成功した
事自体はABLの完成形に向けての大きなブレークスルーであると評
価できる様に思われます。しかし、対ミサイルレーザーの更なる高
出力化と小型化によって、スティルス機(例えばB-2)に搭載可能に
なれば、本来の使い方が出来るのでしょうが、今の状態では、まだ
まだ実験段階を超えていない様に思われるのです。


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2010年2月15日月曜日

空中警戒管制機の導入進む韓国空軍

※http://www.spyflight.co.uk/737aewc.htmから転載

やや旧聞に属しますが、今月9日に韓国空軍向けの737型空中警戒管
制機の一号機がボーイング社から韓国に引渡されました。但し、こ
の機体は、MESAレーダを装備していないクリーン状態のもので、
これから韓国内で、ノースロップグラマン社製のレーダーと制御装
置、管制卓等を一年をかけて装備される見込みです。以下、これを
報じたUPIの記事を抄訳しました。

韓国が最初の早期警戒機を入手

ボーイング・インテグレーティド・デフェンスシステム社(ボーイングIDS社)
は、空中警戒管制機四機の内の最初の一機を韓国に引渡した。
韓国防衛調達計画監督庁の声明によれば、韓国のKAI社が、来年の韓国空軍へ
の最終引渡しに備え、機体の改造を担当する。
この改造作業の中で、KAI社は、ノースロップ・グラマン社のLバンド多目的電
子スキャンアレーレーダーを装備する。

三年前に締結された16億ドルの計画の下で、ボーイングIDS社は2012年までに
四機の737早期警戒機を韓国に引き渡す事になっているが、その2012年には、
米軍から韓国に戦時作戦統制権が引渡される事が予定されている。

韓国には北朝鮮からの侵攻の可能性に対処する為に、28500名の米軍が駐留し
ている。南北朝鮮は、1950-53年の朝鮮戦争以降、平和条約ではなく、休戦協
定によって戦争が停止されており、理論的には、戦争状態が続いている。

最初の737型機は、シアトルのボーイング社施設から韓国南部の泗川市にある
KAI社施設に空輸される。
41000ftの高度を最高速度340ktで飛行する能力を持つ同機は、管制乗員向けに
6基の共通管制卓を持つ。専門家によれば、その柔軟性と支援能力は、民間機
の航空管制によく似ていると言う。
「737型空中早期警戒管制機は、韓国が、米国から戦時作戦統制権の移譲を受
け、独自の情報集約と探査監視能力を構築する上での核となる役割を果たす事
になろう」とディフェンスニュース紙は述べている。

この機体は、戦闘機による迎撃や地上の目標物へ低空で侵入する戦術空軍の攻
撃を空中で管制し統制する役割を果たす能力を保有している。
この機体は、この小さな共和国が、無人機、RF-4C偵察機、Hawker800型機によ
る偵察航空団を構築する計画の一翼を担う事になる。

(UPI通信 2010/02/09)


空中警戒管制機は、空軍の主要な戦力倍増要素の一つと言われてい
ます。米国、NATO、日本は、ボーイング707や767をベースとしたE-3、
E-767AWACSを装備していますが、この機体は、新しいだけあって、
E-3とE-767のロートドームとは異なり、レーダーアンテナは可動部
のない固定式の電子走査レーダーを搭載しており、機体は小さいも
のの能力的には既存のAWACSと遜色がないと見られています。
元々は、オーストラリア空軍向けに開発され、韓国空軍の他、トル
コ空軍も導入を予定しています。
(なお、似たような電子スキャンレーダーを持った早期警戒管制機
を中国も開発中です。)

今まで、この種の早期警戒管制機は、北東アジアでは、日本と米国
しか保有していませんでしたが、今回の韓国の737型空中警戒管制
機導入により、日韓の空軍戦力の格差は大幅に縮小する事になるも
のと思われます。

勿論、ハードウェアとしての空中警戒管制機を導入するだけで戦力
が倍増する訳ではなく、空中警戒管制機の能力を100%引き出す為に
は、実際の運用経験を重ねる必要があるのですが、韓国が徐々にそ
の能力を高めていく事は間違いありません。

韓国は、この処、経済危機にも関わらず、陸海空戦力の近代化を急
速に進めています。過去10年、日本は、隣国の軍備拡張や近代化
に関係なく独自の基準で軍備の整備(特にMD整備)を進めてきまし
たが、戦力が相対的なものである以上、そろそろ、北朝鮮以外の隣
国の動きにも対抗したMD以外の戦力整備を行う必要が出てきてい
る様に思われてなりません。


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