2008年12月12日金曜日

日韓通貨スワップ枠拡大。激変緩和措置としては理解できる




ウォン安対策、韓国に2.8兆円融通 日本政府方針、通貨危機防止

日本政府は通貨ウォン相場の急落で外貨不足の恐れのある韓国を支援するため、
日韓で結んでいる協定を拡充する方針を固めた。ウォンと引き換えに円やドル
を韓国に融通する通貨交換(スワップ)協定の資金枠をいまの130億ドル
(約1兆2000億円)から300億ドル(2兆8000億円)規模に広げる方向で最終調
整しており、中国も人民元の供給枠を増額する方向。13日の日中韓首脳会議で
正式合意する。金融危機の打撃でウォンがアジア通貨危機以来の安値に急落す
る中で、連携強化により危機再発を防ぐ。

日韓が結んでいる現在の通貨交換協定には、中央銀行間でいつでもウォンと引
き換えに円を融通する協定と、国際通貨基金(IMF)が緊急融資を発動する
ような「危機」時にドルを供給する協定の2種類がある。それぞれの枠は円が
30億ドル分、ドルが100億ドルで、合わせて130億ドル相当になる。これを2.3
倍に引き上げる方向だ。
(日本経済新聞 2008/12/11)

通貨交換(スワップ)協定

▽…国や地域が互いに外貨準備を活用して外貨(主に米ドル)を融通し合う
取り決め。ある国や地域の通貨の為替レートが急落し、貿 易決済や為替介入
のために必要な外貨が不足した場合などに、その国の通貨と引き換えにほかの
国が外貨を一時的に貸し出すことで、通貨の安定や経済の安定をめざす。 

▽…東アジア地域では1997年に発生したアジア通貨危機の反省から、日中韓と
東南アジア諸国連合(ASEAN)が2000年に外貨を融通し合う「チェンマイ
・イニシアチブ」の構築に合意、協定を広げてきた。さらに体制を強化するた
め、2国間協定のネットワークを多国間協定に束ねる「マルチ化」を進めてい
る。 

(日本経済新聞朝刊 2008年11月22日付)

まあ、常日頃、反日粘着されている訳ですから、こういう時こそ、
自分の尻は自分で拭けとほっぽり出したいのはやまやまであり、韓
国経済の崩壊を薄ら笑いを浮かべて眺めていたいとは思います。
しかしながら、そういう感情だけに流されるのでは、奴らと変わら
なくなってしまいます。(これを通称フォースの韓国面に堕ちると
言います。) という訳で冷静に評価すれば、今回のスワップ枠拡
大は悪くないと考えます。

今回、検討されている二国間通貨スワップ協定ですが、上手くいけ
ば使われずに済みますし、使われた処で、それ程、悪い話にもなり
ません。円借款を行うより余程ましと言えます。

つまり、円借款の場合は、その返済を期待しなくてはならない訳で
すが、こういう時ですから、借金のカタは恐らくはなしです。期間
も通常は長期(一年以上)という事になります。返せて貰えても、散
々恩着せがましい態度を取った上で返してくるのは目に見えていま
す。

しかしながら、通貨スワップの場合は、あくまで両国通貨の交換に
なります。今回の場合は、日本円とコリアンWonを交換します。
(日本が持っているドルをWonと交換する事もあります) 細かい所
はこれから決めるのでしょうが、基本的には日本側はWonを市場に
放出するのではなく、凍結します。運用すれば良さそうですが、
Wonをどこかの銀行に預けると、銀行から銀行を巡って、Won売りの
資金になってしまう可能性があるからです。それでは通貨スワップ
を行った意味がなくなります。そこで、LIBOR等をベースにして期
間、利息等の条件をつけた上で凍結する訳です。
日本円の方は、当然の事ながら、市場に放出され、ドルに交換され
そのドルを元にWon買介入の為の資金源になるという訳です。

実際にスワップが行使される様な時はWonが売り込まれている場面
ですから、決済される時の交換レートは、行使時に比べると円安
Won高になっているので、円建ての返済金額は、充分利益が乗る事
になります。買い戻し時のレートが予め決められている場合も考え
られますが、そういう場合は、日本側が不利になるように決定され
る事はありません。悪くても、利息なしの同額での返却が期待でき
ます。

では、何故、Wonの売り叩きによる韓国の経済破綻を防ぐ手伝いを
日本がするのでしょうか?
韓国の経済構造は、製品を製造し輸出する事でなりたっていますが
製品製造の為の中間財や原料の多くを日本からの輸入に頼っていま
す。日韓の貿易収支は日本側の経常的な黒字で年間2~3兆円もの
莫大な金額に上っています。つまり、日本は韓国に対し莫大な債権
を保有している事になります。ここで、韓国の外貨繰りが付かずデ
フォルトを起こした場合、日本にいる債権者は、韓国に対する債権
(輸出した製品の代金であったり、直接投資の配当や利息です)を回
収できなくなってしまいます。これでは日本にとっては大きなマイ
ナス要素になります。場合によっては、日本側の企業が倒産する事
も考えられます。

更に、一旦デフォルトを起こした場合、Wonが長期間に亘って、安
値になる可能性があります。こういう不自然な、Won安は、韓国の
交易条件を大きく改善します。韓国は日本と競合する製品を多く作
っていますが、デフォルトによるWon安で、企業努力なく、安値輸
出が可能になってしまいます。こういった場合、日本も同様の円安
政策で対抗できるのですが、恐慌時の通貨の引き下げ競争は過去第
二次大戦を遠因になっており、日本の様な国際経済に大きな影響力
と責任を持つ国が行えるものではないのです。
この為、Won安が長期に及べば日本は、みすみす輸出産業の競争力
を落とすことになり、企業のそれに対する対応はリストラを経由す
る事で、日本の景気を大きく引き下げる方向に働きます。

既に一年前と比べるとWonは円に対し4割以上下落しており、大き
な円高となっています。これ以上の円高は日本経済の競争力を損な
う可能性があります。円高に対する輸出企業の抵抗力は一朝一夕で
作られる訳ではありません。円高抵抗力をつけるには時間が必要で
す。その時間を稼ぐ為には、今、二国間通貨スワップ枠の拡大を行
うべきと考えます。


ボーイング社が787のスケジュール変更を正式発表




※787のWingboxの破壊試験結果。破断面がプラスティックの様に見
えるのが興味深い。Boeing社サイトから転載


787の生産遅延については、昨日のエントリーで取り上げました
が、今日になって、ボーイング社から正式な発表がありましたので
その内容を紹介します。


787ドリームライナーの初飛行と引渡しスケジュールを延期
―ストライキとファスナー取替え作業のインパクトを反映

エヴァレット、ワシントン、2008年12月11日 
ボーイング 社は、今日、787ドリームライナーの初飛行を2009
年第2四半期、一号機の引渡しを2010年第1四半期とするスケジュ
ール変更を発表した。新しいスケジュールは、最近の機械工のスト
ライキと初期生産機についてのファスナーの取替えの影響を反映し
たものある。

ボーイング社民間機部門の社長兼CEOであるScott Carsonは「我
々の生産チームは構造テスト、システムハードウェアの認証と生産
面で前進した。しかし、予想外の2つの要因による中断のスケジュ
ールに与える影響を調節する必要がある」と、述べた。

9月前半から11月まで民間機部門の生産活動の殆どを停止させたス
トライキ以前には、787は2008年第4四半期後半に初飛行をし、
一号機の引渡しを2009年第3四半期に予定していた。

787プログラム担当副社長のPat Shanahanは、「我々は、初飛行
に備えて何がなされないといけないか、レーザーの様に焦点を合わ
せる必要がある。今までやって来たように、我々はこの状況を克服
できるし、前進する為に何が必要か、我々は明確に理解している。」
と述べている。

また、Shanahanは、「初飛行の準備の中には、エンジニアリング面
での残作業を調整し最終化した上で、システムテストと審査と認証
取得を完了する事が含まれている」と述べている。

ボーイング社はこのスケジュールの遅延が顧客受渡し日に与える個
別の影響を見極めたうえで、顧客毎にスケジュール変更を通知する
予定である。また、同社は、このスケジュール変更がどんな財政的
な影響も与えるかを確定させた上で、それを後日リリースされる更
新された財政ガイダンスや全体的な機体引渡しガイダンスにも取り
込む予定である。


Boeing News Release

Boeing Schedules 787 Dreamliner First Flight for 2Q 2009; First Delivery for 1Q 2010
Schedule change driven by impact of Machinists' strike and fastener replacement work

EVERETT, Wash., Dec. 11, 2008 -- Boeing [NYSE: BA] today announced
an updated schedule for its all-new 787 Dreamliner program that 
moves the commercial jet's first flight into the second quarter of
2009 and first delivery into the first quarter of 2010. The new 
schedule reflects the impact of disruption caused by the recent 
Machinists' strike along with the requirement to replace certain 
fasteners in early production airplanes.

"Our industry team has made progress with structural testing, 
systems hardware qualification, and production, but we must adjust 
our schedule for these two unexpected disruptions," said Boeing 
Commercial Airplanes President and CEO Scott Carson.

Prior to the strike that halted much of the company's commercial 
airplane work from early September into November, the 787 was to 
make its first flight late in the fourth quarter of 2008. First 
delivery was slated for the third quarter of 2009.

"We're laser focused on what needs to be done to prepare for first 
flight," said Pat Shanahan, 787 program vice president. "We will 
overcome this set of circumstances as we have others in the past, 
and we understand clearly what needs to be done moving forward."

Included in the preparations for first flight, Shanahan said, are 
finalizing and incorporating remaining engineering changes and 
completing systems testing, qualifications and certification.

Boeing is evaluating the specific impact of this delay on customer 
delivery dates and will provide customers with updated schedules 
once completed. The company is also determining any financial impact 
from this schedule change and will incorporate that into updated 
financial and overall airplane delivery guidance that will be 
released at a later date.


また、同社はこれに合わせ、民間機部門の管理者の人事異動も合わ
せて発表しました。
787プログラム担当のジェネラル・マネージャ(以下GMと略)であ
ったPat Sharahanは民間機部門全体の生産と開発を担当する事にな
りました。Sharahanは引き続き787プログラムの全体を総括しま
すが担当GMとして、ミサイル防衛部門を率いていたScott Fancerが
指名されました。
また、民間機部門にサプライチェーン管理運営部門が創設され、航
空機営業担当副社長であったRay Connerがこの部門を担当します。

787プログラムは順調とはとても言えない状況ですが、担当GMの
Pat Sharahanは、昇進した事になります。こういう人事異動につい
ては、外からは見えない事が色々あるんだと思います。
Scott Fancherは、火を噴いているプロジェクトの消防士という立
場になります。ある意味で、プログラムの悪い点は全て出ているし、
困難なプロジェクトであると誰もが認めているので、その点では
やり易いかも知れません。これで、787(7エイト7ではなく、
あまり遅れるので7レイト7という声もあります)がリスケ後のス
ケジュール通りに開発されれば、アナリストにはビッグサプライズ
になるかも知れませんが、私はその可能性がそこそこあるかも知れ
ないと感じています。


2008年12月11日木曜日

ボーイング787の開発が更に六ヶ月遅延!




※写真はBoeingサイトから転載

Deliveries of Boeing 787 likely to be two years late

By Hal Weitzman in Chicago and Kevin Done in London
Published: December 6 2008 02:00 | Last updated: December 6 2008 
02:00

Boeing is likely to make first deliveries of its 787 Dreamliner at 
least two years later than originally planned, costing the 
aircraft maker billions of dollars in compensation payments and 
forcing it to take at least a short-term loss on the programme.

The Chicago-based company has delayed the 787 programme three 
times because of problems such as the need to redesign the 
aircraft, shortages of parts and incomplete work by suppliers. 
It is currently at least 14 months behind schedule, but customers 
and analysts now expect Boeing to deliver the first aircraft in 
the second quarter of 2010 - a full two years late.

The company is expected to announce the fourth delay in production 
as soon as next week. Boeing said the company was still assessing 
the schedule for the 787 and would give an update when it was ready.

Boeing has already stated that all its commercial programmes will 
be delayed by at least eight weeks, to make up for a strike by 
machinists that shut down production for most of September and 
October.

However, the 787 programme continues to be dogged by glitches that 
are unrelated to the machinists' strike. The most recent problem 
came last month, when it emerged that tens of thousands of 
fasteners had been incorrectly installed after mechanics at 
Boeing's assembly plant in Seattle apparently misunderstood the 
installation instructions.

Virgin Atlantic, which has ordered 15 of the new aircraft, said 
it had not been given a new date by Boeing for the delivery of 
its 787s. "We think roughly it will be a delay of two years," 
the airline said. "We were due for our first deliveries in March
/April 2011. We are now looking at 2013, but they will not give 
us a date.

"Many airlines are waiting urgently for clarity. And it is not 
just a question of the timing of the early deliveries, but of 
whether they can achieve the ambitious level of full production 
they have planned."

Boeing does not reveal the terms of its contracts. However, it 
is facing demands for compensation for previous delays, although 
the group is largely exempt from compensating for delays related 
to the machinists' strike. It may also have to slash the 
aircraft's $146m-$200m price tag and offer customers replacement 
767s until the 787 is in production.

"As they continue to push this thing back, it's having a domino 
effect in terms of deliveries, compounding potential penalties," 
said Brian Nelson, an analyst at Morningstar in Chicago.

(Financial Times 2008/12/06)

この問題は、12/5にWSJが報じた事から、各紙が一斉に報道しまし
た。ボーイング社が今週中にも公表する可能性もあったので、確か
な情報が出てからと待っていたのですが、なかなか出てこないので
今日取り上げる事にします。

それでは、比較的詳しく書かれていたFinancial Timesの記事を抄
訳してみます。


ボーイング787の引渡しは2年遅れになりそうだ。

By Hal Weitzman in Chicago and Kevin Done in London

ボーイング社の787一号機の引き渡しは当初のスケジュールと
比べると少なく共2年遅れになりそうだ。それによって、ボーイ
ング社は数十億ドルの遅延違約金を要する事になる他、787プ
ログラムに短期的な損失を生じさせる事になる。

ボーイング社は、787プログラムを様々な理由で過去三回延期
させている。その理由は、設計変更であったり、部品の不足であ
ったり、下請け会社の不完全な仕事であったりした。787プロ
グラムは現時点で、当初スケジュール比14ヶ月の遅れとなって
いる。しかし、顧客やアナリストは、一号機の引渡しは、2年遅
れになる2010年第二四半期になると予想している。

ボーイング社は早ければ来週(12/8週)にも四回目になる製造の遅
延を発表する見込みである。ボーイング社はスケジュールの見直
し中であり、用意ができた段階で公表するとしている。

ボーイング社は、民間機部門の全てで、二ヶ月に及ぶ機械工のス
トライキの影響で、各々少なく共8週間の遅れがでる旨表明して
いる。

しかしながら、787プログラムは、ストライキ以外の原因でも
遅れを生じ続けている。一番最近の問題は、先月発覚したもので
ボーイング社のシアトルの組み立て工場で、導入方法の指示を誤
解した機械工が数万に及ファスナーを間違った方法で機体に導入
したというものだった。

15機の787を発注しているバージン・アトランティック社は、ボ
ーイング社から新しい引渡し予定日をまだ知らされていないと語っ
ている。「大体2年程度遅れると知らされているだけだ。当初は、
2011年の3月か4月引渡しと言う事だったが、今では2013年になる
かに知れないと思っている。しかし、ボーイング社は、引渡し日時
を知らせてこない。多くの航空会社は、明快な回答を緊急求めてい
る。そして、それは引渡しをどれだけ早いタイミングでできるかと
言う問題だけでなく、彼らが野心的なフル生産の計画を本当に達成
できるのかどうかという問題だ。」とこの航空会社は語った。

ボーイング社は、航空会社との契約条件を明らかにしていない。し
かし、同社は機械工のストライキに関連した遅れを補償することか
らは免除されているというものの、以前の開発の遅れについて補償
を求める航空会社からの要求に直面している。ボーイング787の
価格の切り下げを求められるかもしれないし、787の生産が軌道
に乗るまでの間、代替機として767の提供を提案せざるを得なく
なるかもしれない。
いずれにせよ、計画が遅延すればするほど、潜在的なペナルティも
大きくなっていくに違いない。

(Financial Times 2008/12/06)

2008年12月10日水曜日

中国は尖閣諸島上陸作戦で日本に完勝できる!




※画像は海上保安庁サイトから転載

中華系メディア「尖閣諸島上陸作戦で日本に完勝できる」

香港のテレビ局、鳳凰電視台はこのほど、「中国人民解放軍が魚釣島(尖閣諸
島の中国語名)に進攻すれば、日本に完全勝利できる」などとする記事をウェ
ブサイトに掲載した。

台湾メディアの記事を引用した。解放軍の海軍陸戦隊と陸軍機械化師団が共同
作戦を実施すれば、日本の自衛隊よりはるかに強力な戦闘力を発揮し、尖閣諸
島を「回収」できるという。

台湾軍関係者によると、中国解放軍は浙江省の島しょ部に台湾、東シナ海、南
シナ海の島への上陸作戦などにも対応できるよう、大規模な訓練基地を築き、
訓練を続けている。

同基地での訓練により、中国解放軍はすでに台湾島北部への上陸作戦能力、尖
閣諸島への「快速な」上陸作戦の能力を得たという。

なお、8日朝には中国の海洋調査船が尖閣諸島付近の日本領海内を航行してい
るのを、日本の海上保安本部(沖縄)の巡視船が発見。領海外への速やかな退
去を求めたが、中国船は午後になっても退去しなかった。

(サーチナ 2008/12/8)



簡単に結論だけを書きますと、中国が尖閣諸島への上陸作戦を決意
し、実施すれば、戦わずして、勝利できるでしょう。
自衛隊の戦力が、記事にあるような中台連合軍の戦力と比べてどう
のこうのと言う分析も必要ありません。

日本の立場は、尖閣諸島に関する領土問題は存在せず、日本側が実
効支配を行っているというものです。中国が奇襲の形で上陸すれば、
実効支配は、中国側に移ってしまいます。そうなった時には、領土
紛争がある事を日本側は認めざるを得なくなります。しかし、一度、
紛争が起きてしまうと日本は武力を行使する事はできません。

憲法第九条が効いてきます。

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希
求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保
持しない。国の交戦権は、これを認めない。


つまり、領土紛争は国際紛争であり、日本は国際紛争の解決手段と
しての武力の行使を放棄しているのです。

武力を使用しようとすれば、尖閣諸島への中国の侵攻は、本土上陸
と同じであるとして防衛出動命令を出す必要があります。しかし、
中国が尖閣諸島以外に侵攻する意図はなく、一方的休戦を宣言して
しまえば、日本国内の親中派勢力、野党のみならず、与党内でも、
防衛出動命令の発動に反対する声が強く出てくる事は確実です。
懸賞論文に応募した空幕長の第二次大戦についての認識が政府見解
と異なるからと、即首にした腰抜け政府が、内外の反対を押し切っ
て防衛出動を出せると考えるなど、お笑いぐさでしかありません。

その一例が、竹島です。終戦後、韓国が実効支配した後は、日本は
入島した漁民さえ排除できず、今に至っても問題解決ができていま
せん。尖閣諸島も一度占拠されると、これと同様の事態に至ると考
えるのが適切と思われます。

さて、一度、中国が尖閣諸島を実効支配してしまうと、その後の回
復は難しくなる事は、指摘した通りですが、中国は尖閣諸島を奇襲
的に確保できるでしょうか?

現状は、海上保安庁が尖閣諸島への上陸阻止行動を行っていますが、
海上自衛隊がそれに連動して動いていると報道された事はありませ
ん。
勿論、中台側の動きについて、事前に知りえた場合は、別ですが、
そうでない場合は、戦闘艦に支援された上陸用舟艇が中隊規模の兵
力を上陸させるケースを考えると、それが中台いずれのものであっ
ても、それを阻止する事は、海上保安庁の巡視船艇にはできないと
考えます。

海上保安庁は、所詮警察組織です。その大型巡視船ですら、搭載兵
器は35mmや40mmの機関銃でしかなく、相手側が海軍艦艇であれば、
対抗できない事は自明であるからです。しかも、地図を見ていただ
ければ判りますが、尖閣諸島の位置は、沖縄からより、中国本土や
台湾の方が近く、奇襲的な侵攻は行い易いと言えます。
また、最初は、少数の艦艇で上陸部隊を揚陸し、その後、戦闘艦艇
がバックアップするという形を取られると、事前準備の検知がより
難しくなるので、余計に上陸阻止態勢を取りにくくなります。

中台両国ともに、こういった事情は良く判っていると思います。で
は彼らがそれをしないのはどういう理由でしょうか。
簡単に言えば、尖閣諸島を占拠する事は簡単でも、その後の日本と
の関係を考えると、不利益だからやらないと言えます。
将来、日本との関係による利益よりも、尖閣諸島を領有する事の、
直接、間接の利益の方が大きいと中台が判断する様な事態になれば、
ためらいなく、尖閣諸島占拠は実行されると考えるべきだと思いま
す。勿論、尖閣諸島を占拠しても、日本からのリアクションが大き
いものではないと予想できた場合も同様です。

それだけに、日本は尖閣諸島のみならず自国領域の確保に強い関心
を持っているという意思を継続的に示す必要があります。その為に
は、中台による我が国領空領海の侵犯に対しては、断固とした外交
的抗議を行う事、また海上保安庁の警備行動やそれと連動した自衛
隊の領域警戒行動を実際に示す事が重要であると考えます。


2008年12月9日火曜日




※写真は、公開されたKSLV1ロケット。朝鮮日報サイトより転載

初の韓国産宇宙ロケット「KSLV2」の開発保留へ
-ロシアが技術移転を拒否、来年の予算執行が中断

小型衛星打ち上げロケットKSLV1の発射後すぐに始まる予定となっていた、初
の韓国産宇宙ロケットKSLV2開発事業が、当初予定していたロシアのロケット
技術導入が不可能になったことにより、全面的に保留された。

これに伴い、研究に少なくとも1年以上の空白が生じることが予想され、韓国
産宇宙ロケットを利用した月探査衛星の打ち上げなど、政府が提示した宇宙開
発計画についても修正が避けられなくなった。

本紙が確認した結果、初の韓国産宇宙ロケットKSLV2開発事業は、今年初めの
企画財政部の予備妥当性調査で「事業の妥当性は認定されるが、技術の確保手
段が不足している」と判定され、再調査が決定した。これにより、来年の予算
執行が全面的に中断する。

韓国科学財団のチャン・ヨングン博士は、「KSLV2の開発は、ロシアから1段目
のロケットに関する技術移転が可能な状況を前提としたものだ。ロシアが技術
保護協定(TSA)を持ち出して技術移転を拒否したことで、全面修正が避けら
れなくなった」と語った。

これに対し専門家らは、「韓国の宇宙開発計画は緻密(ちみつ)な事前調査も
なく目標ばかりに固執するが、後になって日程延期を繰り返すことで事業費が
雪だるまのように膨れ上がっている」と批判している。

(朝鮮日報/朝鮮日報日本語版 2008/12/8)

韓国は国産という概念が日本より広く、韓国内で製造したものは、
須(すべか)らく韓国国産と表現するので、韓国の新聞社の日本語サ
イトを読んでいると、思わず、それ国産じゃないだろうとツッコミ
を入れたくなる事が多々あります。

この記事も、その一例で、タイトルからして、何でロシアがロケッ
トエンジンの技術移転を拒否すると、韓国国産ロケットが開発保留
になるのと疑問を感じますが、実際には韓国国内製造と読み替えれ
ば納得がし易いと思われます。(勿論、韓国国産と表現する事で、
国民のプライドを満足させている面もあると思います。)

さて、普段は韓国国産技術と理解されているものでも、実は、日本
語でいう国産技術とは異なるものである事が判る事があります。
それは、何らかのトラブルが起こった時です。今回の問題もその一
例と言えます。

今回問題となっているKSLV2ロケットですが、来年第二四半期に科
学衛星の打ち上げが予定されているKSLV1ロケットを一部改良した
もので、KSLV1ロケットと同様、ロシアのアンガラロケットに使わ
れている液体燃料(ケロシン-液酸)エンジンを使う事になっていま
した。ところが自国のロケット技術の流出を懸念するロシアが韓国
が希望する技術移転を拒否した事からKSLV2ロケットの開発が頓挫
する事になったというものです。

韓国は、2008年4月に女性宇宙飛行士をツーリストとして国際宇宙
ステーションにロシアのロケットを使って打ち上げた際、最初の飛
行士候補者(男性)が、飛行士訓練中にアクセス可能であったロシア
の各種資料を韓国に持ち帰ろうとしたとして交替させられる事件を
起こしています。また、KSLVロケットの開発でも、地上試験用に導
入したエンジンをリバースエンジニアリング手法で解析し、同じも
のを作り上げようとしていると報じていた新聞もあったので、宇宙
技術、軍事技術の漏洩で中国に煮え湯を飲まされ神経質になってい
るロシアが、韓国を警戒するのも頷けなくもありません。

韓国では、当初、KSLV1ロケットを第一段に国産開発の液体燃料(ケ
ロシン-液酸)エンジンを、第二段にやはり国産開発の固体燃料ロ
ケットを使用したKSRロケットを発展させる事で衛星打上げを計画
していましたが、実用衛星を打ち上げるには、ロケットの規模が違
いすぎる事から、第一段をロシアからの技術導入に変更する決定を
行っていました。この決定そのものは、日本が実用衛星打ち上げ用
に米国のロケット技術を導入した事と同じ様な現実的な決定であっ
たと思います。

しかしながら、今回、ロシアが技術移転を拒否した事で、韓国のロ
ケット開発は頓挫する事になりました。対策としては、ロシアから
第一段をKSLV1ロケット同様に輸入する方法や、ウクライナ等、ロ
シアと同程度のロケット技術を保有する国から、液体燃料ロケット
技術を技術導入する事が考えられます。但し、輸入に頼れば、ロケ
ット構成部品の8割以上をロシアに頼る事になります。また、別の
国からの技術導入と言う事になると、既に、KSLV1ロケット(ペイロ
ードは地球低軌道に100kg)の韓国国内開発の上段部分は、アンガラ
ロケットとの結合を前提として開発されている事もあり、記事にあ
る様な一年程度のセットバックで済むとは考えにくく、また、上手
く技術導入が行えた場合も、一気にKSLV2ロケットのレベル(ペイロ
ードは地球低軌道に1500kg)に到達できるのか疑問なしとしません。
いずれの方法にしても韓国の宇宙開発は大きな転機を迎えたと言え
そうです。


2008年12月8日月曜日

ネット世論に対するマスコミの恐れと傲慢

春秋(12/6)

アルバニアの女がベルギー人の重症麻薬中毒患者と偽装結婚してベルギー国籍
を得る。男にもう用はない。女は次にベルギー国籍を欲しがるロシア人の男と
偽装結婚して……。近く公開される映画「ロルナの祈り」が、ヤミの国籍ビジ
ネスの実態を描いている。

▼日本でも似たような悪事が跋扈(ばっこ)する。きのう成立した改正国籍法
をめぐり、そんな危惧が国会審議の土壇場で噴出した。外国人女性の子を日本
人のニセの父親が自分の子と認めれば、子に日本国籍が与えられてしまわない
か。ウソの認知によって国籍を売買する犯罪が横行する可能性は、もちろん絵
空事ではない。

▼驚いたのは先月下旬の1週間、インターネットのブログ(日記風の簡易型ホ
ームページ)に記された話題の断然トップが「国籍法」だったということだ。
背景は判然としないが、大半は改正反対論や慎重論だった。国会の動きを見る
と、ネット上を行き来する大量の情報も圧力団体になりうる時代になったらし
い。

▼改正法にはウソの届け出に対する罰則が盛り込まれた。不正に対処するに厳
しくあって当たり前である。ただ、本来日本国籍を取れるはずだった子供を救
うための法改正だ。コインの表裏のような話だが、「悪用される恐れ」ばかり
が強調されるのでは、角を矯めて牛を殺すことにもなる。

(日経新聞 2008/12/6)

12/5に国籍法が改正されましたが、その翌日、日経新聞の名物コラ
ムである春秋に、日経新聞としては珍しく、国籍法に関するコラム
が掲載されました。
日経新聞は子会社の日経BP社を使って、日本企業の中国進出ブーム
を無から有を生み出す手法で作り上げた過去がありますが、それは、
それとして横に置いたとしても、見過ごせない、論理的におかしな
文章に仕上がっています。

まず、第一段で、ベルギーでの国籍ビジネスの実態を描く映画を示
し、第二段では、今回の改正国籍法を巡る議論で、同様の国籍を売
買する不正の横行を懸念します。処が、第三段では、先週のインタ
ーネットのブログの話題のトップが国籍法だった事を示し、同時に、
それが意図的に形成されたものである事と、ネット世論の政治的影
響度の高さを圧力団体という言葉で懸念しています。
そして第四段では、不正対処は当然としつつ「悪用される恐れ」ば
かりが強調されるのでは、改正の意図が生かされない恐れがあると
結んでいます。

ここで、問題であると私が感じるのは、マスコミのネット世論に対
する恐れとそれでも、自分(マスコミ)の意見が正しいという傲慢で
す。

春秋子が書きたかった事は、国籍売買ビジネスの懸念を示す事では
なく、ネット世論が実際の法案成立に対して与えた影響に対する懸
念であり、且つ、そのネット世論が特定の背景の元に意図的に捻じ
曲げられて形成されたと言いたい様です。

しかしながら、私の見る限り、春秋子の懸念は杞憂である様に思わ
れます。ネット世論では、法律的な議論も踏まえて行われており、
最高裁判決についても、多数意見のみならず、少数意見についても
解説されており、また、海外での同様の法改正と、その結果として
国籍売買ビジネスが横行し、DNA鑑定が導入された事も簡単な判る
様になっています。インターネットは、その意味公正なアリーナと
も言えます。国籍法改正賛成派は、充分な反論ができず論破された
と言うべきです。

それは、このコラムでも同様です。論理的には、第一段と第二段は
つながりますが、それに対する回答や説明もないまま「改正の意図
が生かされない恐れがある」では、素直に納得できる人は少ないと
思われます。

今まではマスコミが良いといえば良いのだという「バカボンのパパ」
的傲慢が許されたのかも知れませんが、ポスト・インターネットの
世界では、マスコミにも相応の説明責任が求められている様に思わ
れます。